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4月23日(4)VS小鳥遊神奈子/最後の攻防の巻

 きっと天使の力を宿した小鳥遊も俺と同じようにこの攻防が最後である事を本能的に悟っているのだろう。

 小鳥遊は巨大な身体でバックステップを繰り出すと、俺が瞬きしている間に、尻尾を4つに分裂させる。

 分裂させた尾を砂浜に叩きつける事で、彼女は高さ10メートル幅数百メートル級もの巨大な砂の津波を巻き起こした。


「うおおおおおおお!!!!」


 叫び声を上げる。

 そうする事で自分を奮い立たせた俺は、視界一杯に広がる砂の津波の1番薄い所に身体を突っ込ませる。

 そして、そのまま、両手で顔を庇いながら、砂の津波の中を突き進んだ。

 もしもこの攻撃が砂浜以外で繰り出されていたら、俺はこんな特攻を仕掛けなかっただろう。

 他の地面は砂浜以上に石や岩などが混ざっていただろうから。

 現に砂浜の波を突き進む度に、砂に混じって、固い漂着物や石などが俺の身体に激突する。

 俺は身体に激突するそれらを歯を食い縛って耐えると、砂の波を掻い潜る事に成功した。

 小鳥遊まであと十数歩。

 彼女は地面に叩きつけていた4本の尾を俺目掛けて振るう。

 俺は彼女を正気に戻すためだけに、左手で右腕に纏わりついた籠手を引き千切る。

 彼女は唯一の武器を外した俺を見た途端、俺の思考が理解できずに困惑しているのか、一瞬だけ身体を硬直させた。


 俺が予想した通りだ。


 彼女も俺と同じ人間。

 たとえ天使の力に呑まれたとしても、心まで化け物になっていない。

 だから、俺が無防備になったら、一瞬だけ正気に戻ってしまう。

 小鳥遊が驚愕している隙に俺は彼女との間合いを縮める。

 十全に尻尾を振るえない距離まで接近したが、あと一歩の所で彼女は跳び上がってしまった。

 中空に避難した小鳥遊は、4本の尾を更に分裂させると、俺の周囲の空間を切り裂こうとした。

 篠突く雨の如く、乱雑に振われた乱撃。

 彼女の筋肉や骨の動きを見ながら、彼女の過去の攻撃パターンを参考にしながら、彼女の人間性に理解を示しながら、的確に正確に無駄のない動きで彼女の攻撃を避け続ける。

 コンマ1秒以下の攻防。

 頭上に降り注ぐ嵐雨のような攻撃を情報と人間の領域を出ていない身体能力で何とか避け切る事に成功する。


 肌……いや、衣服にさえ切り傷はつかなかった。

 小鳥遊が手加減したからだ。

 もし本気だったら、余波だけで俺の皮膚は裂けていただろう。

 骨は折れていただろう。

 俺が無傷なのは彼女は人の心を捨てていなかったからだ。

 ただ、それだけの理由で俺は生き長らえる。

 小鳥遊は自分の攻撃を右の籠手を使う事なく完全に避け切った俺を見た途端、大きく目を見開く。

 そして、動揺したまま、口から光線を吐き出した。

 再び籠手を身につけ、迫り来る光線を右の籠手を用いて受け流す。

 そのまま、砂を上げながら砂浜の上に着地した彼女との距離を詰めると、トドメの一撃を放つ──と見せかけて、拳を引っ込める。


「小鳥遊──」


 俺のフェイントにまんまと引っかかった天使の核は、小鳥遊の身体の中を動き回り、俺の攻撃を避けようと必死になって足掻き始めた。


「──ちょっとだけピリッとするぞ、我慢してくれ」


 天使の核の動きを先読みし、今度こそ天使の核目掛けて、右の拳を叩き込む。

 小鳥遊の身体の中にある天使の核に少量の白雷を流し込んだ瞬間、彼女のものではない野太い男みたいな断末魔が響き渡った。


 激しい閃光と共に突風が吹き荒れる。


 呆気なく小鳥遊の身体から出た突風に吹き飛ばされる俺の身体。

 抗う術もなく、俺の身体は背中から浅瀬にダイブしてしまう。

 もっと遠くに吹き飛ばされていたら、溺死していたかもしれない。

 海水に濡れた上半身を起き上がらせた俺は、爆ぜた小鳥遊の方を見る。

 天使の力で巨大化していた彼女は、元の大きさのオオカミ姿──彼女の人狼時の姿を見た事ないため断言はできないが──に戻っていた。

 濡れた身体のまま、俺は気を失った小鳥遊の下へ歩み寄る。

 そして、ちょっと大きめの銀色のオオカミと化した彼女に声を掛けた。


 小鳥遊の身体は傷だらけだった。

 身体の至る所に青痣ができており、銀色の毛は血や泥が付着している。

 俺がここまで辿り着く間、彼女が傷つきまくった事を否応なしに理解させられた。

 もっと早く気づく事ができたら。

 もっと早く彼女の下に辿り着く事ができたら。

 彼女はこんな風に傷つく事もなかったし、天使の力に縋る事もなかった。

 俺が最善を尽くせなかったが故に、彼女は傷つき疲弊し、追い詰められてしまった。

 ……さっさと"絶対善"をどうにかしない限り、彼女の傷は増えていく一方だろう。


「神宮っ!!」


 海岸地区にあった雑木林の中から四季咲と美鈴、狼男が出てきた。

 俺は"い"の1番に駆け寄って来た四季咲に声を掛ける。


「四季咲。応急処置の道具を持って来ているか?」


「ああ、もしもの時に備えてな。今すぐ彼女の手当てをする」


「ああ、よろしく頼む」


 四季咲に礼を告げた後、やっとの事でやって来た美鈴に質問を投げかける。


「美鈴、"絶対善"はどこにいるか特定できるか?」


「"絶対善"かどうかまでは知らないけど、天使じゃない大きな魔力を持った何者かは、あっちにいると思うよ。……数十分前の出来事だから、絶対にいるとは断言できないけど」


 美鈴は喜多港方向を指差す。


「ありがとう、その情報だけで十分だ。狼男、こいつらを頼んだ」


「ジングウ、走って行くつもりか?」


「重傷を負った小鳥遊をこのまま放置する訳にはいかない。お前らは啓太郎の車に乗って、人狼達のいる民宿に戻っててくれ。後は俺が何とかする」


 小鳥遊の方を見る。

 彼女は意識を取り戻したのか、俺の方に視線を向けていた。


「小鳥遊、よく頑張ったな」


 俺は小鳥遊の目を見て、こう言った。


「後は俺に任せてくれ。俺みたいなお子ちゃまに任せるのは不安だろうけど……お前の事も小鳥遊弟の事も、人狼達も俺がなんとかしてみせるから」


 小鳥遊は潤んだ瞳を俺に向ける。

 彼女の瞳に映る俺は子どもみたいな笑みを浮かべていた。

 相応とは呼ばないくらい幼く笑う自分から目を背ける。


「だから、ちょっとだけ待っててくれ。俺が"絶対善"を倒すから」


 小鳥遊の返事を聞く事なく、喜多港に向かって走り出す。

 これ以上、小鳥遊が無理をしないように、逸れた小鳥遊弟が何かしらの事件に巻き込まれる前に、この騒動を終わらせる。

 たとえ喜多港にいなかったとしても、必ず見つけ出してやる。

 そう決意した俺は、砂浜の上を全速力で駆け始めた。



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 そして、新しくブクマしてくれた方や新しく評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。


 本日、一果蜂火さんに本作品の感想を頂きました。

 一果蜂火さん、本作品に感想を書いて頂き、本当にありがとうございます。

 厚く厚くお礼を申し上げます。

 

 また、皆様のお陰で本作品の累計PV数が6万超えただけでなく、ブクマ130件(4月4日12時時点)突破しました。

 感謝の気持ちで一杯です。

 本当に本当にありがとうございます。

 頂いた感想やブクマ・評価ポイントは、今後の執筆の糧にさせて貰います。

 これからも頑張りますのでよろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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