4月22日(22) VS天使ミカエル/聞き覚えしかない甲高い声の巻
「あ、海の方から消えた筈の魔力が再び……!!今度はさっきのよりもデカくてヤバいかも……!!」
「啓太郎!車を停めろ!狙いは多分俺だ!!あいつ、何故か知らないけど、俺に憎悪を向けていやがる……!!」
「高速道路で車が停められる訳ないだろ!?降りるまで我慢しろ!!」
「トイレみたいな言い方すんなよ!!こっちが幾ら我慢しても、あっちは止まってくれねぇんんだの!!」
もう1度黒い海の方を見る。
海面から銀色の光が漏れ出ていた。
光源である銀色の光球はゆっくりと浮上したかと思いきや、地獄の釜から出るかのような面持ちで海の中から出ようとする。
緊張感が高まると同時に、銀色の眼光は俺の姿を捉えた。
敵意を感じ取った瞬間、銀色の光球から光線が放たれる。
「うおっ!?」
光球から放たれた光線を避けるため、啓太郎はハンドルを右に大きく切った。
夜空を一瞬で駆け抜けた光線は瞬く間に俺らが本来進むべきだった道を破壊していく。
避けたのを安堵するのも束の間。
再び光球から光線が放たれる。
啓太郎はアクセルを思いっきり踏み込むと、次々に飛んで来る光線を巧みなハンドル捌きで何とか回避していった。
「啓太郎!このままじゃやられっぱなしだ!!減速しろ!俺が何とかするから!!」
ダメ元で右の籠手が出るように念ずる。
普段は俺が幾ら念じても出てこない籠手だが、今回はすんなりと出てきてくれた。
白雷が車内に奔ると同時に白銀の籠手は俺の右腕に纏わり付く。
どうやら、この籠手は本当に俺が必要とした時にしか現れないらしい。
「……これが君の奥の手か」
神造兵器『アイギス」を見た途端、狼男は感慨深いような声色を発しながら俺の籠手をまじまじと眺める。
「分かったっ!急ブレーキするから、しっかり捕まっていてくれ!!」
啓太郎はブレーキペダルを思いっきり踏む。
車内に強い衝撃が走ると同時に光線が俺ら目掛けて放たれた。
車が止まり切っていないにも関わらず、俺は助手席の扉を開くと、車から飛び降りる。
そして、飛んで来た巨大な魔弾を右の籠手で打ち消した。
打ち消したというより、魔弾を白雷に変換したという表現の方が正確だろう。
白雷に変換された魔弾を見送った俺は、アスファルトの上を勢い良く転がる。
啓太郎が減速してくれたのと、着地したと同時に何とか受け身を取ったため、そこまで怪我は負わなかった。
が、それでも完全に勢いを殺した訳じゃなく、少しだけ身体に痛みが走った。
慌てて立ち上がり、俺の方へ飛んで来た光線を右の籠手で受け止める。
ガイア神が放った光線同様、右の籠手で簡単に打ち消せれる代物じゃなかった。
右腕で受け止めた光線の魔力が、次々に白雷に変換される。
が、幾ら籠手の力で光線を白雷に変換しても、終わりはなかった。
ちょっとずつ光線に押された俺の身体は、ちょっとだけ後退してしまう。
このままでは背後にいる美鈴達が危険だと認識した俺は、運転席に座る啓太郎に指示を飛ばした。
「今すぐここから離れろ!じゃないと、上手く闘え……」
振り返る。
車はとうの昔にこの場から去っていたようで影1つ見当たらなかった。
行き場のない怒りを抱えた──いや、怒りを持つ事自体間違っているのだが。でも、何か一言くらい声掛けて行って欲しい──俺は民間人に危害が及ばないように、右の籠手で受け止めるのを止めると、背後に光線を受け流す。
そして、籠手の力──魔力にのみ作用する電磁力──の力で受け流した光線を文字通り手元に引き寄せようと試みた。
右の籠手の力が発動した途端、光線は、軌道を変えると、再び俺の方へ迫り来る。
俺は右の籠手の力で集めた光線を容易く受け流した。
「よ、……しっ!」
何とか光線を安全な所に受け流す事ができた俺は、安堵の溜息を漏らす。
その瞬間、上空から強烈な憎悪を感じ取る。
反射的に俺は右手を空に掲げた。
──白銀の魔弾が右の籠手に直撃する。
魔弾が瞬時に白雷に変換した瞬間、一息吐く暇なく、白銀の尾が俺の頭目掛けて振り下ろされた。
「──っ!?」
あの尾を受け止めたら右腕が折れてしまう。
状況を瞬時に把握した俺は連続バク転をする事で何とか攻撃を回避する。
俺が後退した瞬間、白銀の尾はアスファルトの大地を粉々に砕いた。
地面は大きく揺れ、アスファルトの破片が当たり一面に飛び散ると共に土煙が生じる。
体勢を整えた俺は土煙の中にいる銀色に光る"何か"を睨みつける。
(疑うまでもない。……あれは、天使だ)
ガイア神から生み出された生体兵器。
人類の理解を超越した存在が、目と鼻の先にいる。
俺は短く息を吸い込むと、右の拳を握り締め、いつでも喧嘩できるように身構えた。
銀色に光る何者かは、太い尾を無造作に振るうと、立ち込めていた煙を薙ぎ払い、その姿を俺に見せる。
「巨大な……オオカミ……?」
俺の眼前に現れたのは、全長10メートル級の羽の生えた巨大オオカミだった。
毛は全て銀色。
爪は大樹さえもいとも容易く切り裂ける程鋭利で、脚の筋肉も容易く金剛石を蹴り砕けそうな程立派だった。
天使の要素は背中に生えた羽根だけ。
もし俺が過去に天使と遭遇していなかったら、目の前にいるオオカミを天使として認定していなかっただろう。
だが、天使と喧嘩した事がある今の俺なら分かる。
目の前にいるのは天使そのものだと。
(こんなのが、ここで暴れられたら……ヤバいくらいに犠牲者が出るぞ……!?)
冷や汗を垂れ流しながら、どうやって天使を海に誘導しようかと考える。
その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
"どうして"
聞き覚えのある甲高い声が当たり一面に響き渡る。
その言葉を聞いた途端、俺は思わず目を大きく見開いてしまった。
聞き覚えしかない声。
顔を合わせる度に俺に喧嘩を売ってきた彼女の声。
小鳥遊弟のオオカミ姿、そして、先程俺に襲いかかってきた小鳥遊父と同じ銀色の毛並み。
否応なしに理解させられる。
目の前の天使の正体が彼女である事を。
「……お前の相手している場合じゃねぇんだよ、"一匹狼"……!!」
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