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4月22日(20) 「煽れる時に煽る。それがネチケットだ」の巻

 閑話休題。

 狼男を新たに加えて、俺は民宿の外に停めてあった車の下へ走る。

 そして、俺は啓太郎を運転席に座らせ、美鈴達が後部座席に乗った事を確認後、助手席に座る。


「運転席に座らせた後で言うのもあれだけど、お前、足怪我してんのに運転できるの?」


「ああ、足の方は昨日で完治したから」


「なら、なんで俺におぶらせた!?」


「少しでも楽したかったからに決まっているだろう、馬鹿なのか君は。ああ、そういや、馬鹿だったな」


「喧嘩売ってるなら買うぞ」


「それよりも、だ。僕はどこに向かえば良いんだ?」


 後部座席に座っている美鈴と四季咲──啓太郎達が話している間、美鈴は小鳥遊弟を追うための魔術を教えていた──の方を見る。 

 啓太郎の質問に答えたのは美鈴だった。


「あっち方面。小鳥遊君はそこに向かっている」


 四季咲が魔力を注ぎ込んでいる魔法陣を眺めながら、美鈴は目的地を指示する。


「分かった、西神方面だな。しっかり掴まっていろよ」


 そう言って、啓太郎はアクセルを思いっきり踏む──事なく、法定速度を保ったまま、西神方面へ車を動かし始める。


「なあ、全然スピード出ていないんだけど」


「そりゃあ、僕は腐っても警官だからね。法律は守らなきゃいけないだろ?」


「なら、何でしっかり掴まっていろとか言ったんだよ。めちゃくちゃスピード出すって思ったじゃねぇか」


「その場のノリだ」


 右の拳を握り締める。


「お兄ちゃん!今、殴るのだけは止めて!」


「今啓太郎さんを殴ったら確実に事故るぞ!」

 

 後部座席に座っていた美鈴と四季咲に止められた俺は、何とか殴りたい衝動を抑える事に成功する。


「お、司。──"逃げる"のか?」


「テメェ!今、殴られないからって調子に乗ってんじゃねぇよ!!」


「煽れる時に煽る、それがネチケットだ。覚えとけ」


「お前みたいなクソリプ製造機がネチケット語るんじゃねぇよ!!」


「君みたいな自称正義マンが正論っぽい極論をぶつける所為で、ネット空間が殺伐とした空気になるんだぞ。いいか、司。ネット空間で幾ら自分の正論を突きつけても意味がない。人の数だけ正論があるからね。たとえ自分が正論だと思っていても、相手にとっては正論じゃない時もある。そんな時、相手に自分の正論を正しいものだと認めさせようとしても無駄だ。何故なら、相手も君と同様に自分の正論を認めさせようと企んでいるからね。自分の事を絶対正義と思っている奴等が、自分の意見を相手に押し付けたとしても、時間と労力が消費するだけで何の成果を生み出せない。結局、自分が正しいと思っているから、たとえ自分の正論を強調するソースを出せたとしても、相手は聞き届けてくれないだろう。逆もまた然り、君も自分の事を絶対正義と信じているから、相手が自分の正論を覆すソースを出したとしても、見ない振りをしてしまうだろう。理屈っぽく話せるのは最初の内だけ。レスバ……いや、ネット上の口論が長引くにつれ、相手の人格を貶しめるレスやレッテル貼りという側から見たら醜いとしか言いようのない罵り合いに発展し、最終的には最後にレスつけたもん勝ち・ブロックされたもん勝ちの不毛過ぎる泥試合に興じる事になるだろう」


「何故、今、それを語った!?ていうか、めちゃくちゃ具体的なんだけど!?お前、もしかしてネットで口喧嘩した事あんのか!?」


「いいか?司、人の数だけ正論がある。中には誰から見てもおかしい正論を掲げる者もいるだろう。しかし、その人にとっては正論だ。どれだけ君が正しかったとしても、どれだけ客観的に正しさを証明したとしても、相手は聞く耳を持たない。なら、さっさと煽るだけ煽って、逃げた方が時間も労力も浪費しなくて済む上、めちゃくちゃスッキリする。だから、司。煽り逃げはネチケットと言っても過言じゃないんだ」


「途中まで良い感じな事を言ってたのに結論クソ過ぎるだろ!」


「まあ、僕みたいな煽りカスはまだマシな方さ。ネットにはとんでもない魔物が沢山いるからね。違う思想を持つだけで低脳扱いするスライムとか平気にデマばら撒くゾンビとか」


「スライムだろうがゾンビだろうが人間に害を為す事には変わりないからな!!お前もその魔物の中の1体である事には変わりねぇからな!!」


「褒めるなよ、照れるな」


「おい、美鈴!四季咲!今のうちにこのクソリプモンスター討伐しておいた方が世のため人のためになると思うぞ!こいつが暗黒進化する前に!!」 


「え!?嘘!?」


 俺と啓太郎が馬鹿みたいな会話をしていると、突如、美鈴──四季咲曰く、魔力感知の魔術で出た結果は、ちょっと教えられた程度では分からない程複雑らしく、魔術に長けた美鈴にしか分からないらしい──が驚いたような声を上げた。


 「レディ、一体、何が起きたんだ?」


 一早くこの場にシリアスな空気を提供してくれたのは狼男だった。


「めちゃくちゃデカい魔力が2つ、都市高速付近で衝突しているっぽい!その所為で小鳥遊君の魔力が追い難くなっている……!!」


 その話を聞いた瞬間、"絶対善"を名乗る青年の声と今まで遭遇した天使達の姿が脳裏に過った。

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