4月22日(17) 「負ける気はしねぇよ」の巻
プリンを食べ終わった頃、風呂から上がったばかりの四季咲が、俺の部屋にやって来た。
彼女は美鈴に風呂に入ってくるように告げると、俺の隣に座り込む。
空気を読んだ美鈴は、肯定の言葉を口に出すと、そのまま風呂場目掛けて走り始めた。
美鈴が退室したのを確認した四季咲は、俺の目をじっと見つめる。
「君は以前、私に"なんでも1人で抱えるな"と言ったな」
四季咲は気まずそうに頬を掻きながら──自分の事を棚に上げている事を自覚しながら、俺に話しかける。
「あの時の言葉をそのまま返させて貰うぞ。"なんでも1人で抱えるな。神宮、君は他人を大切に思い過ぎるあまり、自分を蔑ろにしている。そんな事やっても誰も喜ばない。少なくとも私は君が落ち込む姿なんか見たくない」
本当にあの時の言葉がそのまま返って来た。
美鈴がくれたプリンにより、少しだけメンタル強度が上がった俺は、四季咲に懺悔の言葉を告げる。
「……自分を蔑ろにしている訳じゃねぇよ。ただ俺の慢心の所為で余計な犠牲を増やしてしまった事を悔やんでいるだけで。もし俺が調子に乗らなければ、余計な寄り道をせずに真っ直ぐ人狼達の下に行っておけば、人狼達はあんな怪我を負わずに済んだ。狼男の腕は食い千切られずに済んだ」
懺悔しているにも関わらず、自分の悪い所を具体的に話せていなかった。
四季咲に詰られたくないと無意識のうちに思ったのだろう。
俺は自衛のために自分の罪をはっきり彼女に教える事ができなかった。
「だが、最悪の事態は免れた」
四季咲は真っ直ぐ俺の目を見据える。その目は力強く、自分の失態を具体的に話せていない俺にとって目を背けたくなる程眩いものだった。
「確かに今、君が感じているように、君にも悪い所は幾らかあるのだろう。しかし、君がいなければ、彼等は魔導士達に捕縛されていただろうし、天使の力の一部を宿した人狼を止める事はできなかっただろう。君がいたから最悪の事態を免れたのだ。たとえ君が最善を尽くしていないとしても、君を詰る者はいない。何故なら、人狼達も腕を食い千切られたレイリーさんも私も魔導士達を止める事も暴走した人狼を止める力を持っていないのだからな。幾ら力のない私達が最善を尽くしたとしても、圧倒的な力の差を持つ者を止める事はできない。……君は君にしかできない事を成し遂げたのだ。たとえ、それが最善の形ではなくても」
四季咲は優しく諭すような口調で俺の行為を正当化してくれた。
彼女の優しさが心に染みる。
が、幾ら彼女が正当化したとしても、俺が最善を尽くしていない事実は変わらない。
俺の慢心の所為で狼男や人狼達は傷ついたし、四季咲に尻拭いさせてしまった。
「神宮、まだ絶対善が残っている」
彼女は落ち込む俺のデコにデコピンを放つ。
「"絶対善"とやらを止めない限り、今以上に人狼達は傷ついてしまうんだろ?ならば、君が今やる事はここで反省する事ではない筈だ。最善を尽くせずに後悔するのは後からでも幾らでもできる。だから、神宮、今は前だけを向いてくれ。今、君がやろうとしている事は、きっと君にしかできない事なのだから」
「……四季咲、お前も優しい人間だよな」
「君程ではないと思うのだが」
「俺は優しい人間じゃねぇよ。ただの……子どもだ」
美鈴と四季咲のお陰で俺は自分のやるべき事をちゃんと理解する事ができた。
そうだ、今は腐っている場合ではない。
最善を尽くすのなら、ここで腐っている暇はないのだ。
反省会なら後で死ぬ程やれば良い。
先ずは"絶対善"を倒さなければ。
「よっし、やるべき事もちゃんと分かったし、とりあえず、夜の街にでも繰り出すか!おっぱいデカいキャバ嬢にパフパフさせて貰……」
「アミーゴ!!」
四季咲の鋭い拳が鳩尾に入りかける。寸前の所で躱した俺は、冷や汗を垂れ流しながら、抗議の声を上げる。
「ふざけた俺が悪いのは重々承知しているが、今のはツッコミのレベルを超えていたのでは!?」
「これくらいしないと君に制裁を下す事はできそうにないだろ」
「てか、美鈴といい、なんで"アミーゴ"って叫ぶんだよ。流行っているのか?」
「いや、さっき会長が神宮に制裁を下す時は"アミーゴ"と叫びながら殴れと……」
「そういや、お前、バイトリーダーの事を会長って呼んでいたよな?……もしかして、あいつがお前を聖十字女子学園生徒会会長に任命したのか?」
「ああ、その通りだ。彼女が人の上に立つ資格がない私を会長にしてくれたのだ」
「お前、バイトリーダーの事を相当美化しているようだけど、あいつ、結構いい加減な奴だぞ。お前を会長に任命したのも、多分、お前が何でも言う事を聞く良い娘だからみたいな理由だと思うぞ」
バイトリーダーがお嬢様学校に通っていた事実に震えながら、俺は四季咲と軽い雑談を交わす。
「……と、こんな事をしている場合じゃなかった」
俺はポケットに入っていたスマホ──先程ローブを着た魔導士から剥ぎ取ったもの──を取り出すと、四季咲に最終確認する。
「四季咲、今から"絶対善"と喧嘩しに行って、本当に良いのか?」
「ああ、一応、人狼の人達にはもう話をつけている。細かい事はレイリーさんとテリヤキ君がどうにかしてくれるだろう。いつでも大丈夫だ。……だが、神宮。勝算はあるのか?」
「……世界一の魔術師がどれだけ強いか分からない以上、必ず勝てるとは断言できない」
今まで誤魔化していた本音を包み隠す事なく、魔導士が持っていたスマホを弄りながら、四季咲に告げる。
「が、あっちが世界一の魔術師なら、こっちは世界一の喧嘩師だ。負ける気はしねぇよ」
覚悟を決めた俺は電話帳に登録されている"絶対善"に電話を掛ける。
"絶対善"は俺の電話を待っていたかのように、ワンコールで出てくれた。
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次の更新は14時頃を予定しております。
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