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4月22日(15) VS銀色オオカミ&天使の巻

「おい、銀色オオカミ」


 自分の声がドスの効いたものに変貌している事を否応なしに自覚させられる。


「お前の相手は俺だ」


 俺が拳を握り締めると共に奴の視界に俺の姿が映り込む。

 ようやく銀色オオカミに敵認定して貰った俺は、地面を蹴り上げると、奴との間合いを縮め始めた。

 四本足の獣は俺の接近を視認した途端、狼狽る事なく、牙を俺に向ける。

 俺は躊躇う事なく、奴の顎目掛けて右の拳を叩き込んだ。

 俺の拳をモロに喰らった獣は、窓際の方へと吹き飛ばされると、何事もなかったかのように起き上がる。


(──やはり、狼男同様、肉体はかなり頑丈みたいだな)


 息を大きく吐き出すと同時に、再び奴との距離を詰め始める。

 銀色オオカミは接近してくる俺目掛けて、魔力を纏った尾の一撃を繰り広げた。

 絶大なる破壊力を秘めた一撃を紙一重で避ける。

 そして、ガラ空きだった奴の身体目掛けて、タックルを仕掛けた。

 そのまま、勢いに乗ったまま、俺は銀色オオカミの身体を窓の外へ押し出すと、奴をアスファルトの地面に叩きつけようとする。

 が、俺の思惑は読まれており、奴の銀色の体毛が俺の右腕に巻きついてしまった。

 振り解こうとした瞬間、俺の身体は奴の身体と共に窓の外に放り出されてしまう。


「お兄ちゃん!!」


「神宮!」


 背後から美鈴達の声が聞こえて来た。

 多分、狼男と一緒にここまで来たのだろう。


「四季咲!!そこにいる人達の処置を頼む!!」


 そう言って、俺は銀色オオカミと共に落下し始める。


「グオオオオオオオオ!!!!」


 奴は牙を剥き出しにすると、俺の首筋に噛みつこうとした。

 反射的に左腕で奴の眼球付近に張り手を浴びせた俺は、奴が怯んでいる隙に右腕に巻きついた銀色の毛を思いっきり引っ張ろうとする。

 が、幾ら力一杯引っ張っても引き千切る事はできなかった。

 引き千切れないのは毛が頑丈だったからではない。

 引っ張る度に毛が伸びたからだ。


「なっ……!?」


 テープのように引っ張れば、引っ張る程、伸びていく毛を眺めながら、俺は驚きの声を発する。

 銀色オオカミは重力に引っ張られ続ける身体を強引に動かすと、俺を予備校跡の向かい側にあったビルに叩きつけようとした。

 ハンマー投げの要領で投げ飛ばされた俺は、隣のビルに張ってあった窓ガラスに叩きつけられてしまう。

 ビルの床に着地した俺は飛び散った窓ガラスを左手で──手を切らないように気をつけながら──キャッチすると、右腕に巻きついた毛をガラスで切り裂いた。

 周囲を見渡す。

 どうやらこのビルも予備校跡同様廃墟だったようで、調度品1つない殺風景な部屋のには大量の埃が舞っていた。

 ここなら思いっきり喧嘩できると判断した俺は、後を追って来た銀色オオカミと睨み合う。

 奴は唸り声を上げると、目にも止まらない速さで俺との距離を瞬く間に縮めた。

 四足歩行する相手と喧嘩し慣れていない俺は、奴の動きを完璧に見切る事はできなかった。

 が、本能に身を委ねるがまま攻撃を仕掛ける奴の動きは、単調だったため非常に先読みやすく、余裕を持って避ける事ができた。

 上半身を背後に逸らしながら、俺の喉仏に噛みつこうとする奴の牙を避ける。

 そして、オーバーヘッドキックのように飛んで来た銀色オオカミを蹴り上げると、奴をビルの壁に叩きつける。


「……やっぱ、ピンピンしているよな」


 何事もなかったかのように立ち上がる奴を眺めながら、俺は背筋に冷たいものが流れる事を知覚する。

 奴を気絶させようにも俺の拳じゃ力不足。

 たとえ的確に急所を突いたとしても、奴を気絶させる事はできないだろう。

 加えて、奴は満身創痍な状態。

 天使の力の一部を宿しているにも関わらず、奴の傷口から血がとめどなく零れ落ちていた。

 これ以上長引けば、これ以上殴打すれば、奴は死んでしまうだろう。

 今の俺では奴を殺す事はできても、無力化(きぜつ)させる事はできそうになかった。

 自分の無力さを痛感していると、唐突に奴の口が大きく開く。

 "何をするつもりだ"と思った瞬間、奴の口から銀色の光線が発射された。

 俺の背後が窓──人狼や美鈴達がいる予備校跡である事を瞬時に察知する。

 避ける事はできない。

 もし避けたら、あの中にいる人達に危害が及ぶ。

 一瞬で状況を察知した俺は、ダメ元で右の拳を前に突き出した。

 殺風景な室内に白雷が奔ると同時に轟音が響き渡る。

 奴の口から吐き出された銀色の光線は、瞬時に白雷に変換された。


 ──右腕にのしかかるのは白銀の籠手。

 ──籠手から生じるのは白い雷。

 否応なしに気づかされてしまう。

 奴の光線を白雷に変換したのは、全ての魔を払い除ける神造兵器『アイギス』である事を。


「この籠手……結構、意地の悪い奴だな」


 ガイア神の時も魔女の時も、そして、今回も"打つ手がなくなったと悟った時"にこの籠手は現れた。

 つまり、この籠手は俺が縋り付くまでずっと待ち続けていたのだ。


「グオオオオオオオオ!!!!」


 決定打を難なく打ち消されたオオカミは、その場で悔しそうに咆哮を上げる。


「……悪いな、銀色オオカミ」


 ガイア神を倒した時と魔女の中にいた天使を倒した時の技術を応用して、俺は籠手の力で奴の身体を引き寄せると、奴の体内──天使の力の核があると思われる場所──目掛けて、少量の白雷を流し込む。


「グアっ……!?」


「あんたじゃ俺には勝てねぇよ」


 銀色オオカミは短い断末魔を発すると、瞬く暇もなく、意識を失った。

 天使の力により膨張していた奴の身体は萎縮を始める。

 元に戻ったであろうオオカミの姿──その姿は小鳥遊弟のオオカミ姿とよく似ていた──を見た俺は、規則正しく寝息を立てる彼を見て、安堵の溜息を漏らした。

 ……そして、忌々しいと思いながら、右の籠手を見つめる。

 結局、右の籠手がなければ、銀色オオカミを無力化する事はできなかった。

 自分の無力さに軽く絶望してしまう。

 もしも俺がさっさと敗北宣言をしていたら、油断せずにすぐ籠手に縋っていたら、狼男は腕を食い千切られずに済んだだろう。

 俺の慢心がこの状況を招いた。

 その事実が俺の心を蝕む。


「……本当、俺って無力だな」


 役目を終えたと言わんばかり灰になった右の籠手を眺めながら、俺は後悔を口に出した。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方にお礼の言葉を申し上げます。

 次の更新は10時頃を予定しております。

 よろしくお願いいたします。

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