4月22日(13) VS魔導士/対策の巻
地面を思いっきり蹴り上げ、スーツを着た男との距離を縮める。
瞬間、四方八方から氷柱が飛んできた。
一瞬で飛んで来る氷柱の軌道を見抜いた俺は、特に苦労する事なく、傷つく事なく、攻撃を紙一重で避け切る。
そして、いつも通り、肉薄した男の顔面目掛けて右の拳を叩き込んだ。
「……"絶対善"相手だと、このいつも通りが命取りになるんだろうな」
スーツを着た外国人が、白目を剥いて地面に伏せるのを眺めながら、俺は深い溜息を吐き出す。
(触れずに倒すって、……すごくハードル高いよな。……さて、どうしようか)
気絶した外国人を部屋の隅に運びながら、俺は"絶対善"対策を頭の中で模索する。
すると、俺の前にスーツを着た外国人女性が上の階から現れた。
彼女は英語で"お前が彼をやったのか?"と尋ねる。
俺は首を縦に振ると、右の拳を握り締め、いつでも走り出せるよう身構えた。
「'全力で行かせて貰います'」
彼女は宣言通り、スーツの下から魔法陣が描かれた紙を取り出すと、紙を宙に目掛けて放り投げた。
紙に描かれた魔法陣の中からゲームで出てくるスライムのようなものが飛び出る。
試しに俺は地面に落ちていた瓦礫を蹴り上げた。
俺が蹴った瓦礫は彼女の顔面目掛けて飛翔する。
しかし、瓦礫は彼女に直撃する事なく、スライムのように動く液体に叩き落とされてしまった。
……天牌山で魔導士達と喧嘩した時、何度も見た魔法。
魔導士である彼等は火や水、雷や風の塊で自分の身を守りつつ、魔弾と呼ばれる魔力の塊を飛ばしていた。
魔法や魔術に詳しい美鈴曰く、魔法や魔術で自分の身を守りつつ、魔弾で攻めるのは魔術師・魔導士にとって基本的な戦術らしい。
魔導士である彼女は水の盾で自分の身を守りながら、水の槍を俺目掛けて放つ。
十数本の水の槍を俺は紙一重で躱す。
しかし、水の槍は地面に突き刺さる事なく、あり得ない動きで軌道を変えると、再び俺目掛けて飛翔し始めた。
もし魔法や魔術を知らない頃に──神様や天使と闘う前の俺にあの追尾型魔弾を放たれたら、間違いなく重傷を負っていただろう。
が、今の俺──魔法使い達と闘い慣れた俺には脅威でも何でもなかった。
攻撃が俺に直撃するまで止まらないのなら、再び避ければ済む事。
何十何百何千回、魔弾が俺の事を追尾したとしても、その度に避ければ良いだけの話。
背後から迫り来る水の槍を難なく避ける。
女の魔導士は舌打ちすると、追尾弾を消すや否や、今度は音の速さで水の魔弾を撃ち出した。
音速の速さで射出された水の魔弾を肉眼で見る事は叶わず。
が、彼女が魔弾を撃ち出す際の視線と腕の向きに筋肉の動き、そして、彼女の息遣いのお陰で俺は難なく魔弾を避け切ってしまう。
今度は両腕を俺に向かって突き出した。
彼女の雰囲気により、魔弾を連続で撃ち出すつもりである事を予知する。
俺が地面を蹴り上げると同時に、音速よりも少し劣る速さで水の魔弾が次々に撃ち出され始めた。
廃ビルの床を抉る膨大な数の水の魔弾。
俺は壁に向かって走ると、飛んできた瓦礫を手に取ると、そのまま勢いに身を委ねるがまま、壁走りを行った。
照準がこちらに向けられる。
水の連続魔弾がこちらに飛んで来るよりも先に、俺は彼女を取り囲む水の盾の隙間目掛けて、手に持った瓦礫を投擲する。
彼女は水の盾の隙間を掻い潜ろうとする瓦礫を視認するや否や、魔弾を撃つのを止め、首を少しだけ傾ける事で飛んできた瓦礫を躱した。
その隙に俺は彼女の水の盾の内側に入り込もうと試みる。
俺の接近に気づいた彼女は、水の盾を使って俺を捕縛しようとした。
壁から地面に着地した俺はポケットに入れていたビー玉を彼女の顔面目掛けて投擲する。
彼女は水の盾を器用に操り、飛んで来た瓦礫を何とか受け止める事に成功した。
この間──彼女が水の魔弾を機関銃のように撃ち出してから、俺の投擲した瓦礫を紙一重で避け、俺の投げたビー玉を水の盾で弾くまでの間──僅か5秒。
水の盾の内側に入る事に成功した俺は、右の拳を握り締める。
そして、彼女が魔術を撃ち出すよりも先に俺は彼女の顎に右の拳を叩き込んだ。
「……やっぱ、触れずに倒すのは無理だよな」
気絶した女魔導士を眺めながら、溜息を吐き出す。
今月に入って魔法使い達と喧嘩したお陰で、もう並大抵の魔法使い相手なら無傷かつ余裕で勝つ事ができるようになってしまった。
が、未だに魔法使い相手だと余裕は感じられない。
魔法使い達は直撃すれば大怪我間違いなしの攻撃をバンバン放ってくるので、一瞬たりとも気を抜けないのだ。
故に手心を加える事ができない。
そんな情けをかけていたら、こっちがやられてしまう。
「攻撃手段は拳と脚のみ。……そんな相手にどうやって勝てば良いんだろうか」
ない頭を振り絞って、突破口を模索する。
が、幾ら考えても答えは出なかった。
再び溜息を吐き出しながら、気絶した女魔導士を部屋の隅に寄せる。
(こうなったら、触らないで済む方法を模索するんじゃなくて、触っても良い状況を作り出す方法を探し出せば良いのでは……?)
そんな事を考えながら、上の階を目指す。4階、そして、5階にも魔導士達はいた。
そいつらにも"絶対善"を想定したやり方で喧嘩してみる。
が、どう足掻いても触れずに倒す事はできそうになかった。
「うーん、どうしたものか」
あれだけ大きな口を叩いた後で"絶対善"を倒せませんでした、なんて言ったら惨め過ぎる。
かと言って、"絶対善"にボコボコにされるのはもっと惨めだ。
足りない頭を振り絞りながら、俺は最上階へ移動する。
すると、6階から断末魔が聞こえて来た。
慌てて断末魔が聞こえてきた方に向かう。
「おい、大丈夫かっ!?」
6階の大広間に辿り着く。
そこで俺が目にしたのは、血だらけのオオカミ十数匹と返り血を浴びた魔導士5人の姿だった。
いつも読んで頂き、厚くお礼を申し上げます。
また、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方にも厚くお礼を申し上げます。
皆様がブクマしてくれたり、評価ポイントを送ってくださったお陰で、アクション部門の月刊ランキング25位、週刊ランキング20位を獲る事ができました。
まだまだ1位には程遠いですが、これからも皆様に楽しい物語を提供しつつ、1位を獲る事を目標に頑張っていきたいと思います。
この場を借りて、3月31日の更新について告知致します。
3月31日の本編の更新は8時・10時・12時・14時・16時・18時・20時・22時に予定しております。
また、ブクマ100件記念用の短編「価値あるものに花束を3月31日編」は、3月31日10時・11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時に更新する予定です。
新連載に関しては、まだ現時点では用意が終わっていませんので、明日告知致します。
これからも皆様に楽しい物語を提供できるように頑張りますので、応援よろしくお願い致します。




