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4月1日日(12) え?それ、長くなるパターンじゃないの?の巻

 キマイラ津奈木との戦闘を終えた俺達は、高架橋下にある廃墟と化した集合住宅にて身を隠していた。


「………で、お前は俺達が喧嘩している間、一体何をしていたんだ?」


 窓の外から見える東雲市の警察官──多分、さっきの喧嘩の騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう──を眺めながら、腐臭を漂わせる鎌娘──どういう経緯か彼女はゴミ箱の中に頭を突っ込んでいたらしい──に質問する。


「一般人が寄り付かないように簡易的な人払いをしていたのよ」


「へえ……お前、一般人が巻き添えにならないようにしていたのか」


 鎌娘の事を血も涙もない自己中女だと思っていた俺は、素直に感心する。


「まあ、それもあるけど、1番の理由は魔法・魔術の存在を隠匿するためよ。一般人に魔法や魔術がバレたら、第3次世界大戦が起きる確率高くなるからね。これでも私達は気を遣って、魔法を行使しているって訳よ」


「何で第3次世界大戦が起きるんだよ。唐突過ぎるだろ」


「はあ?知らないの?第1次も第2次も一般人に魔法及び魔術の存在がバレたから起きたって事」


 衝撃的な事実に思わず驚愕してしまう。確か俺の記憶が正しければ、第1次世界大戦はオーストリアの皇太子暗殺事件、第2次世界大戦は戦後史上最も心理状態を研究されたチョビ髭親父の暴走だったような気がする。


「まあ、正確に言うと、起きたというより悪化したって話だけどね。どの世界大戦もあれだけの被害を及ぼしたのは、大多数の人もしくは時の権力者に魔法の存在が知られたからなのよ。だから、私達魔法使い・魔術師・魔導士は、私達の存在を一般人に知られる訳にはいかない。世界平和のために、私達は魔法や魔術の存在を隠匿しなきゃいけないのよ」


「何で大多数の人もしくは時の権力者に魔法の存在を知られたら、世界大戦が起きるんだ?話が飛躍し過ぎているような気がするんだが……」


「はあ?あんた、バカ?1+1が2になるのと同じで、そういうルールが働いているのよ。暗黙の了解というか何というか」


 鎌娘は目を泳がせながら、それっぽい事を言って、この場を切り抜けようとする。

 多分、彼女も魔法と世界大戦の因果関係を理解していないだろう。

 これ以上、追及しても無駄な上、美鈴の件とは無関係なので、強引に話を切り変える。


「……でも、お前、俺とバイトリーダーに魔法の存在、隠さなかったじゃねぇか」


「あの時も一応、隠匿のための魔術をかけていたわよ。ほら、あんたら以外の人は寝ていたじゃない」


 そういや、あれだけの騒ぎだったにも関わらず、厨房の人達は出て来なかった事を思い出す。

 あの時、出て来なかったのは寝ていたからなのかと納得してしまう。


「ん?なら、何で俺やバイトリーダーは眠らなかったんだ?俺らだって一般人だぞ?」


「私がやった隠匿のための魔術──昏睡魔術はね、魔法や魔術の存在を知っている人には効果があまり出ないのよ。耐性ができているから。あんたらは神器の存在を知っていたから効かなかったんじゃないの?」


 鎌娘の言い分に少しだけ引っかかってしまう。

 確かに俺は美鈴の超速回復をこの目で見ていたから魔法という存在を曖昧ながら認知していた。

 けど、バイトリーダーは違う。彼女は美鈴が起こした奇跡を目の当たりにしていない。

 だとしたら、彼女は俺の話を文字通り鵜呑みに信じたのか?

 いや、もしかしたら大分前から魔法や魔術といった異能と関わりがあったのだろうか?

 まあ、宗教オタクな上、オカルトマニアだから信じ込んでいてもおかしくないか。


「ところで、何でこいつまで保護した訳?さっさと警察に突き出しとかないとまた暴れ出すわよ?」


「美鈴の保護者を教えてもらうためだよ。それに、こいつが言っていた計画とやらも聞き出さなきゃいけないし」


「その計画って『神堕とし』の事でしょ?それくらいならこいつに教えてもらわなくても私分かるわよ」


 今、なんて言った?

 さっき聞いた時は知らねえって言ったじゃねぇか。


「は?あんたアホなの?私が知らないって言ったのは、何でこいつらが『神堕とし』をやるかっていう理由だけ。優秀な魔法使いであるエリ様はこれくらい言われなくても分かるんだから」


「御託は良いからさっさと教えろ。警察に突き出すぞ」


「なんかあんた、私の扱い酷くない!?ちょっと敬いなさいよ!!」


 初対面は俺を殺そうとした挙句、同行中も何回も俺を見殺しにしようとした奴をどうやって敬えば良いのだろう。


(まあ、回復魔法とやらの恩があるから、ちっとは敬うか……)


 あれがなかったら右腕も折れっぱなしだったし。

 そんな事を思いながら、俺はほんの少しだけ下手に出る。


「鎌娘様、この俺にその計画とやらを教えてくれないでしょうか?貴方だけが頼りなんです。いや、本当マジで」


 怯えながらキマイラ津奈木を見る美鈴に目線を移しながら頼み込む。


「だ、か、ら!!鎌娘じゃなくてエリ様と呼べって言っているでしょうがああああ!!!!」


 逆上した鎌娘は緑の風を俺に放つ。

 俺は瞬時に右の籠手を身に着け、鎌娘の攻撃を防ぐと、彼女の顔面にアイアンクローを決め込んだ。


「ちょ……何それ……?魔導具?魔法?え?もしかして、あんた、ガチで魔法使いになっちゃったの?」


 呆気に取られる鎌娘の身体に白色の電撃を軽く流し込んだ。


「あばばばばば!!!」


 制裁の電流はあっという間に鎌娘の全身に行き渡る。

 が、数秒経つと俺の意思に反して、雷は彼女の身体の中に行き渡らなくなってしまった。


「な、何すんのよっ!私を殺す気!?」


 鎌娘は先程まで電流を流されていたのにピンピンしていた。

 そして、性懲りも無く再び魔法を使おうとする。

 が、彼女の腕から魔法が繰り出される事はなかった。


「へ?何で魔力また枯渇しているの?ちょっとだけ回復していたのに?」


「どうやらその雷は相手の魔力を吸収する事で威力が増すみたいですねぇ」


「ひぃ!」


 突然目覚めたキマイラ津奈木の声により、美鈴は恐怖のあまり顔を痙攣らせながら後退する。


「………つまり、魔法使い相手に特化した魔法って事か」


 この力を俺に与えたであろう美鈴がどのような英雄像を望んでいたのか分かる魔法だった。

 怯える美鈴を安心させるため、俺は彼と彼女の間に割り込むような位置に移動する。


「今の状態では襲いたくても襲えませんよ。もう魔力も体力もありませんからねえ」


「………お前が知っている情報を全部教えろ。さっき計画って言ったよな?お前ら金郷教は一体何を企んでいるんだ?」


「だから、『神堕とし』しようとしているって言っているじゃない」


 横から茶々を入れてくる鎌娘。

 あいつの本名は“おまえ”だったっけ?

 話を円滑に進めるため、彼女にキツメの一言を浴びせる。


「(殺傷力高めの魔法ぶっ放す)お前には聞いてない」


「うがあああああ!!!!」


 魔法が使えない鎌娘は躊躇う事なく、俺の頬を殴ろうとする。

 俺は彼女の拳を避けると、瞬時に寝技をかけた。


「うぎゃあああああ!!!!」


「で、その『神堕とし』はいつ行われるんだ?」


「……もしかして、貴方、私の話をその体勢のまま聞く気ですか……?」


「そうじゃないと、こいつ暴れ出すだろ。必要だったら、今すぐにでもこいつの意識を落とすが」


「……いや、いいです。そのまま聞いてください」


 キマイラ津奈木にドン引きされてしまったので、寝技の威力を少しだけ緩める。

 いつでも鎌娘の意識を刈り取れるように身構えたまま、俺は彼の話に耳を傾けた。


「先ずは金郷教の成り立ちについてお話しましょう」


「……え、それ、めちゃくちゃ長くなるパターンじゃない……って、ぎゃああああ!!力入れるな、ぎぶぎぶ!」


 余計な水を差す鎌娘を強引に黙らせる。


「そんなに時間はかかりませんよ。何せ他の宗教と違い、金郷教は歴史が浅いのですから」


 そして、キマイラ津奈木は語り出す。

 金郷教の歴史、そして、自分達の目的を。

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