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ショートストーリー集*3万PV達成記念

 本編とは関係ない試作品です。

 


(1)鯛焼きくん、尾から食うか?頭から食うか?


「ねえ、お兄ちゃん」


 ある春の日のおやつ時。

 自称妹である美鈴は鯛焼きを食べながら、こんな事を聞き始めた。


「鯛焼きって、頭から食べれば良いの?それとも尻尾から食べれば良いの?」


「魚食う時と同じで良いんだよ」


「私、魚食べる時は積極的に(はらわた)抉るんだけど」


「表現が猟奇的過ぎる」


「でも、こんな可愛い顔しているのに腸から食らいつくやり方は取りたくないんだよねぇ。現実の魚ならアホみたいな面晒しているから、違和感なく(はらわた)食らいつけるんだけど」


「お前、魚に恨みでもあんのか?」


「恨みがあるのは私だけじゃないと思うよ。毎日毎日、魚を大量に殺してはその死骸をお店に並べ各家庭に提供し。死骸を多種多様な方法で無残な姿にしたと思いきや、その死骸を肉がなくなるまで貪り尽くす。とてもじゃないけど、同じ生命にやる仕打ちじゃないと思うよ。何か深い恨みがあると言っても過言じゃないと思う。例えば、お昼の私みたいに魚の骨が歯茎に刺さったとか」


「多分、過言だと思うぞ」


「でも、魚を人間に置き換えてみたらさ、人類って魚に酷い事していると思うよ。普通に街を歩いていたら、自分達よりも優れた知能を持つ生命体に理由もなく捕食されると考えると。かなり理不尽かつ残酷過ぎない?」


「それは、……まあ、確かに」


「けど、まあ、何も考えなしに口をパクパクさせるアホ達には相応しい末路だよね。そんなのに私の口内を傷つけられたかと思うと一生の不覚かも」


「お前、歯茎に骨刺さっただけで根に持ち過ぎじゃない?」


 美鈴の義理の姉──バイトリーダーの悪い所が彼女に遺伝してしまった事を把握する。

 あいつ、一体、美鈴に何を推して込んでいるのだろうか。


「だけど、鯛焼きだけは恨めないんだよねぇ。可愛い顔しているし……あと、骨ないし」


「骨ない所が100パーセントだろ、それ」


「だから、私、この鯛焼きを元いた場所に返すよ。グッバイ、カスタード鯛焼き。もう2度と人間に捕まらないでね」


 そう言って、彼女は鯛焼き屋さんに鯛焼きを帰そうと歩き始めた。


「美鈴、それ、ただの返品」






(2) 鯛焼きくん、頭から食うか?尾から食うか?


「でも、よくよく考えてみたらさ、鯛焼きって人間の手によって生まれたものどから、どこまで足掻いても人間の手から逃れられないよね」


「美鈴、さっさと食べろよ。折角の鯛焼きが冷めちゃうぞ」


「ああ、思い出した。そういや、頭から食べれば良いのか、尾から食べれば良いのか悩んでいたんだった」


「もう、どっちでもいいだろ。食べられれば」


「お兄ちゃん、食べられるんだったら、頭から食べられて一瞬で意識を喪失する方が嬉しい?それとも意識が残ったまま足からじわりじわり齧られる方が嬉しい?」


「なんで今日は一々猟奇的っぽい発言するんだよ」


「…………昨日、お姉ちゃんと一緒にゾンビものの映画見ちゃったから」


「あいつ、本当ろくな事やらねぇな」


 多感な時期の子どもにスプラッタ映画を見せないで欲しい。

 教育に悪いから。


「やっぱ、私的には(はらわた)から食べられるのが1番嫌かな。自分の内臓見ちゃったら、ショック死するかも」


「食べられる事自体が嫌だわ」


「あ、でも、咀嚼されるんだったら、丸呑みされるのが1番いいかも。痛み感じないし」


「丸呑みされたらされたらで、じわりじわり胃液に溶かされるだろうが。そっちの方が嫌過ぎる」


「じゃあ、お兄ちゃんは頭から派?」


「食べられないという選択肢はないのか」


「この鯛焼きにそのような選択肢が与えられるのなら」


「ていうか、それ、モノホンの魚と違うから。魚の形を象ったお菓子だから。元々生きていないんだから、適当に食べてもいいんじゃね?」


「生き物じゃなかったら、生きていないというの?」


「生きているから、生き物なんだよ」


「お兄ちゃん、たとえ生まれた時から心臓がなくても、知性がなくても、この世に生まれ落ちた時点で全ての物は生きているんだよ。だから、私もお兄ちゃんも魚も鯛焼きも同じ生き物なんだよ」


「だから、鯛焼きは生き物じゃなくて食べ物なんだって」


「お兄ちゃん、この世にある物は全て口に入った時点で食べ物になっちゃうんだよ」


「美鈴、食べたらいけないものは食べ物になり得ないんだぞ」


「いけないものであって、食べられない訳じゃないよね」


 そう言いながら、美鈴は器用に鯛焼きの中の餡子(ないぞう)を吸い始める。

 ……改めて日本語って難しいなって思いました。







(3)りんご・りんご・りーん♪


 ある春の日の事。

 俺──神宮司はバイトリーダーの寮の食堂にて包丁を扱う美鈴を見守っていた。


「うーん、上手く斬る事ができないかも」


 ズタボロになった林檎を見つめながら、美鈴は重苦しい溜息を吐き出す。


「力任せに斬ろうとしているからだぞ。猫の手で林檎を押さえながら切らないと」


「え、でも、テレビに出てくるお侍さんはこんな風に斬っているじゃん」


 そう言って、美鈴は林檎に袈裟斬りを浴びせる。

 林檎は果汁をブシャブシャ出しながら、見るも無惨な姿になってしまう。


「ちょ!美鈴、危ない!その切り方、かなり危ないから!!」


「キエエエエエ!!!!」


「キエエエエエじゃねぇ!包丁離せって言ってんだ!!」


 慌てて俺は美鈴から包丁を取り上げる。

 彼女は可愛らしく頬を膨らませると、抗議の意を示した。


「お兄ちゃん、私の成長の場を奪い取らないでよ。ここで包丁の使い方を覚えないと、私、一生料理できない系の女の子になるんだよ?いいの?それで?」


「キエエエエエって言っている間は、幾ら包丁を握ろうが、上達する事はないぞ」


 小中の家庭科で平々凡々な成績を修めた俺は、美鈴に猫の手の大事さを説こうとする。


「美鈴、こうやって猫の手で押さえながら切る方が良いんだよ」

 

「じゃあ、お兄ちゃん。この林檎、猫の手で2つに割ってみて!!」


 美鈴、新品の林檎を俺に向けて投げつける。


 俺、投げつけられた林檎を反射的に猫パンチで割ってしまう。

 結果、林檎、粉々に。

 果汁、辺り一面に飛び散る。

 林檎本体、散乱してしまう。


「やべ……これ、間違いなく寮長に怒られるパターンだわ」


 斬殺された林檎と殴殺された林檎、そして、辺り一面に散らばる果汁を見ながら呟く。


「寮長さんに怒られたら、どうなるの?」


「そりゃあ、……寮長に山でしばかれ、川で洗濯させられるな」


「寮長さーん!!お兄ちゃんが食べ物粗末にしたー!!!!」


「7割くらいはお前の所為だからな!この惨状!!」



(4)TKGは笑わない


「先ず卵かけご飯を作れるようになろうか」


 林檎を粗末にした罪で寮長に制裁された俺と美鈴は、頭にできたタンコブを撫でながら、卵とご飯と向かい合う。


「卵かけご飯って、どうやって作るの?」


「割った卵をご飯の上に乗せる」


「だいたいしょうち。お兄ちゃん、パス!」


 そう言って、美鈴は俺に卵を投げつける。

 俺は飛んできた卵を手刀で叩き割ると、それをご飯の上に乗せる。


「こんな感じだ、やれるな」


「お兄ちゃん、猫の手は?」


「猫の手は食べ物を切る時にやるんだよ」


「でも、お兄ちゃん、さっき卵を手刀で切ってたじゃん」


「…………」


 反論し辛い事を突かれてしまう。


「……お兄ちゃん、あー、ゆー、れでぃー?」


 美鈴、次弾を装填する。

 俺は右の拳を猫の手に変えると、腰の重心を落とす。


「とう!」


 美鈴、卵を投げる。


「せいや!」


 俺、飛んできた卵に猫パンチを喰らわせる。

 卵、粉砕。

 黄身と白身、床の上に散乱する。


「ヤベエ……これ、また寮長に怒られ……」


「お兄ちゃん!?何で卵を殴ってるの!?食べ物粗末にしたらいけないって、さっき寮長さんに怒られたばっかじゃん!私、あんだけ止めたのに!!私、あんだけ止めたのに!!」


「自分だけ逃げられると思うなよ!お前も道連れにしてやらぁ!!」


 卵は不慮の事故によって落ちた事にして閑話休題。

 再び卵かけご飯作りに没頭する。


「とりあえず、卵を殴って割る必要はないんだよ。こうやって、軽く罅を入れて、パカっとやればいいんだから」



「だいたいしょうち、キエエエエエ!!!!」


 美鈴、卵をテーブルに叩きつける。

 テーブルの上には卵の怪死体が爆誕してしまった。


「お前、さっきの俺のやり方、見てた?」


「いや、私はお兄ちゃんと違って力ないから、ちょっと強めにしようと思って……た、卵にトドメを刺そうとした訳じゃないから……」


「いや、キエエエエエは卵にトドメを刺す奴の台詞だから。ちょっと強めのレベルを遥かに超えているから」


 テーブルの上に散乱した卵をボウルの中に入れながら、俺は力加減のやり方を教える。


「コツンとテーブルに叩きつけるくらいでいいんだよ」


「コッツン!!」


 そう言って、彼女は新しい卵を勢い良く叩きつける。

 結果、無残な姿になる卵。

 俺はそれをボウルの中に入れると、混ざった殻を箸で1つ1つつまみ上げる。


「うーん、力加減、めちゃくちゃ難しいかも……」


「もう力加減云々の話じゃねぇよ。お前の人間性の発露だ、これは」


 彼女がテーブルに叩きつけた卵をボウルの中に入れた俺は、それで卵焼きを作ろうとする。


「やるからには手を抜きたくないと思って」


「頼むから力を抜く事くらいは覚えてくれ」


「うーん、どう力を抜いたら良いのか分からないなぁ……ねぇ、お兄ちゃん。何かコツないの?今のままじゃ卵を持つだけで握り潰してしまうというか」


「お手玉する感覚で卵を持てば良いんだよ。ほら、お手玉って余計な力入っていたらできないじゃん?それと同じだよ。ほら、リラックスリラックス」


「こんな感じ?」


 そう言って、彼女は残った卵全て使って、お手玉をし始める。


「あ」


 が、数秒も経たない内に彼女は卵を全てテーブルの上に落としてしまった。


「……」


「……」


 テーブルにマーブル状に広がった卵と美鈴を交互に見る。

 その時だった。

 背後から咳払いの音がしたのは。

 恐る恐る振り返る。

 そこには、般若のお面みたいな顔をした寮長が立っていた。


「お兄ちゃん!?何で卵でお手玉したの!?食べ物粗末にしたらいけないって、さっき寮長さんに怒られたばっかじゃん!私、あんだけ止めたのに!!私、あんだけ止めたのに……って、あいたぁ!」


「違います、寮長!お手玉したのは俺じゃなくて美鈴です!!俺は何もしていな……あいてっ!」


 有無を言わせる事なく、寮長は俺らの頭を叩く。

 そして、怒りながら、こう叫んだ。


「食べ物を粗末にするなああああ!!!!」


 ……はい、ごもっともで。


 ※この後、床に落ちた卵以外は卵焼きにして美味しく頂きました。

 










 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 今回のPV達成記念短編は生まれて初めてショートストーリー集を書きました。

 多くの利点や課題点を発見できたので、とても良い経験になりました。

 次の更新は明日3月26日土曜日12時頃に更新予定です。

 よろしくお願い致します。

 

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