4月22日(8) 「……バイトリーダー、まさかそのリモコンって……」の巻
「嘘っ!?お兄ちゃんが瞬殺された!?」
「なっ……!?会長!?何でここに!?」
「ま、魔法使いの姉ちゃん!?何で魔法使いの姉ちゃんなのか!?」
「……なるほど、君が呼んだのは彼女だったのか」
「俺、こいつ呼んでないんだけど!?こんな変態かつ暴力的な女を好き好んで呼ぶ訳が……って、ぎゃああああ!!!」
変態かつ暴力的な女呼ばわりされたバイトリーダーは口から楽しそうな笑い声を漏らしながら、俺に寝技をかけ続ける。
「ちょ、お姉ちゃん!お兄ちゃんの顔、どんどん青くなっているから許してあげて!!」
「ちっちっち、美鈴ちゃん。司くぅんはこんな事で死んだりしないから大丈夫だよ。ねえ、司くぅん」
「あばばばば」
「お兄ちゃんが出したような事のない声出しているんだけど!?ねえ、お姉ちゃん、それ、本当に大丈夫なのっ!?」
意識が徐々に消え失せる頃、ようやく俺はバイトリーダーの魔の手から解放された。
バイトリーダーは俺をソファーの上に放り投げると、そのまま、出入り口付近に立っている何者かに声を掛ける。
「ほら、入って来なよ。まあ、その腰に着けているの外して欲しくないんなら、今すぐここから逃げてもいいんだけど」
バイトリーダーは部屋の前に立っている何者かにいつもと違う口調と声色で呼びかける。
声を掛けられた何者かは、死んだような魚の目をしながら、部屋の中に入って来た。
「……失礼する」
部屋の中に入って来たのはテリヤキ君だった。
美鈴と小鳥遊弟、そして、狼男レイリーは鉄の褌を履いたテリヤキ君の顔を見るや否や驚愕する。
「なっ……!?何で行方を眩ましていた副団長がここに……!?まさか君がここに呼んだのか……!?」
「それよりも何故、彼は鉄のオムツを履いているんだ……?」
「ジャパニーズ貞操帯だよ。楓ちゃん、そんな事も知らないくらい世間知らずだったっけ?」
顳顬を押さえながら疑問を呈する四季咲にバイトリーダーは当たり前であるかのように変態知識を彼女に教える。
おい、あんたの常識を彼女に押し付けるな。
「会長、流石の私でも鉄褌が世間にとって非常識の塊である事くらい知識になくても類推できます」
「ちっ、司くぅんや美鈴ちゃんなら世間知らずって言っとけば、騙されてくれるのに」
「今衝撃的な言葉がお姉ちゃんの口から漏れ出たんだけど!?」
「てへぺろ」
「誤魔化し方がお兄ちゃんと同じ!」
閑話休題。
混乱した現場を収めるため、バイトリーダーが説明を始める。
その前に俺は質問を投げかけた。
「……で、サディスト透子はどうしたんだよ?俺、あいつにテリヤキ君を連れて来るように頼んだんだが」
「サディスト透子は忙しそうだったから、私が代わりに引き受けたんだよ。ちょうど司くぅんに知らせたい事があったし」
「その"くぅん"っての止めろ、気持ち悪い。で、知らせたい事って……」
「そんなの後で良いよ、今教えようが後で教えようが変わらないし。それよりもお姉さん的には、司くぅんが企んでいる事を知りたいかな。まあ、副団長に何をやらせようとしているのか、大体予想できるけどね」
バイトリーダーは何処からかマイストローを取り出すと、俺が飲んでいたコーラを飲み始める。
「……俺にやらせたい事?貴様、一体何を企んでいる?」
鉄オムツを着用しているテリヤキ君は、俺を睨みつける。
「取引だ。なあ、テリヤキ君」
「私はテリヤキという名前ではない。我が名は……」
「人狼の人権を獲得するために一肌脱いでくれないか?」
俺の言葉を聞くや否やテリヤキ君は嘲笑するかのように鼻を鳴らす。
「ふん。そんな世迷言を吐くために、私を呼び出し……あひぃん♡」
突然、テリヤキ君は気色の悪い声を吐き出した。
「はいはい、あまり関係ない事を言わないようにね。じゃないと、ビリビリ流すぞ☆」
バイトリーダーは手に持ったリモコンを操作しながら、テリヤキ君を煽る。
「……バイトリーダー、まさかそのリモコンって……」
バイトリーダーは美鈴と小鳥遊弟、そして、四季咲を見ると、"彼女達の教育に悪いから黙ってろ"と言わんばかりの表情で俺に黙るようジェスチャーする。
「……ジングウツカサ、君は一体何を考えているんだ?」
「思ったんだよ。俺ってただの高校生じゃん?」
俺が自分の事をただの高校生と言った瞬間、バイトリーダー以外の奴等は、衝撃を受けたような表情を浮かべる。
「うんうん、続けて」
「俺は権力者でもなければ、人狼でも魔導士でもない。当事者じゃないのに、俺みたいな勝手に首を突っ込んでいる子どもが、そんな無関係かつ権威も権力もない奴が、人狼の人権がどうのこうの言っても説得力ない訳じゃん?だったら、俺よりも『magica』に所属している奴に頼んだ方が良いというか」
語彙力もがない上、知能も足りないため、自分の考えている事を彼らに上手く説明できない。
それでも、伝えようと頑張るが、自分でも何を言いたいのか分からないくらい、グダグダだった。
「つまり、『人狼と魔導士が手を取り合って、魔族を悪と決めつけている"絶対善"を倒した』……というストーリーを展開した方が良いと言いたいのか?」
四季咲は俺の言いたい事をざっくりまとめてくれる。
俺の言いたい事だったので、それに全力で乗っかる事にした。
「ああ、大体その理解で合っている」
「じゃあ、お兄ちゃんは"絶対善"を倒すつもりはないの?」
「いや、"絶対善"は俺が倒す。そして、テリヤキ君と人狼達が手を取り合って倒した事にする。そしたら、"絶対善"を俺が倒したとしても、人狼と人狼に協力してくれた魔導士達が協力して倒したってみんなで言い張ったら、"絶対善"が語る真実を封殺できるだろう?要は口裏を合わせて欲しいって事だ。……あまり気乗りする提案じゃないから、他に良い案があるんだったら教えてくれ。そっちの方を優先するから」
「なるほど。君の言いたい事がようやく分かってきた。つまり、君は『magica』の魔導士をである副団長を魔族側の英雄に仕立て上げる事で、人狼及び魔族達を守ろうとしているんだな」
狼男レイリーは俺の言いたい事を簡潔にまとめてくれる。
「大体そういう事だ。テリヤキ君が魔族側の英雄になってくれれば、万々歳って思ったんだよ。こいつは当事者な上、俺よりも立場ある人間だと思うし」
「へえ、なるほど。つまり、司くぅんはただの思いつきで彼を呼んだって訳だ」
バイトリーダーはニヤニヤしながら、リモコンのスイッチを押す。
すると、テリヤキ君の口からまたもや気持ち悪い声が出始めた。
「でも、そんな思いつき程度の考えじゃ彼を動かす事なんてできないと思うよ。君が想定している通りに事が運ぶとはないと思うし。魔族の英雄になって欲しいっていう要求は、君にメリットがあるだけで、テリヤキ君には何もメリットがないって事を把握しているのかな?」
「なら、力尽くで……」
「暴力でどうにかできないと思ったから、君はここにいるんじゃないのかな?」
「うっぐ!」
バイトリーダーは嫌らしい顔をしながら、痛い所を的確に突いてくる。
「でも、よくよく考えてみると、仮に"絶対善"を倒したとしても、その後の方が面倒なんだよねぇ。人権を獲得するための抗議運動をしなきゃならないし、『magica』側の代表と熾烈な交渉しなきゃならないし、魔族側の言い分と魔導士側の意見を取りまとめなきゃいけないし、魔族に人権を与えた際のメリットを魔導士側に説明しなくちゃならないし」
「うっぐ!うっぐ!うっぐ!」
汚いオットセイみたいな呻き声しか上げられなくなった俺は、バイトリーダーの正論に捻じ伏せられる。
「確かに司くぅんが察している通り、魔族への差別や人権問題といったものは、一朝一夕で解決できない程、根深いものだよ。もしテリヤキ君 (笑)が快く引き受けたとしても、テリヤキ君 (爆笑)が生きている間に解決できる可能性は限りなく低いと言っても過言じゃない。あと、司くぅんは世界情勢とか興味ないから知らないと思うけど、今世界を2つに分けている冷戦だって、元々は民族同士の差別合戦が原因で起きたものなんだよ。身体能力及び身体的特徴が殆ど変わらない人間同士でさえ、差別し合っているのに、一体どうやって魔族への差別をなくそうと考えているのかな、司くぅんは」
「うっぐ、うっぐ!」
「さて、考えて貰おうか。テリヤキ君……いや、『magica』の魔導士である副団長にもメリットがある提案を。それを提供しない限り、司君の要求は通らないと思うよ」
「うっぐ……!!」
「まあ、私に良い考えがあ……」
「ジングウと言ったな」
バイトリーダーの台詞を遮る形で、テリヤキ君は紅潮した顔のまま、真剣な眼差しで俺を見つめる。
そして、彼はこう言った。
「お前の条件次第でその要求──魔族側の英雄になるという世迷言を呑んでやろう」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しく評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。
PV数やブクマ、そして、評価ポイントは自分にとって執筆の糧になるので、これからもドシドシ送ってくれると嬉しいです。
また、明日の告知ですが、明日は12時と13時に本編を、そして、3万PV達成記念の短編を14時に投稿致します。
いつもの短編と違って、ショートストーリーなので薄口だと思いますが、よろしくお願い致します。




