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4月22日(6) 井の中を超えているの巻

 狼男は穢れなき真っ直ぐな瞳をしたまま、こう言った。


「魔導士達に魔族の人権を認めさせる。それが私の狙いであり目的だ」


 ブラックコーヒーを飲みながら、彼は自分の過去をサラッと口に出す。


「私は人狼と人間のハーフでね。幼い頃、半分受け継いだ狼の血の所為で迫害を受けていた」


 美鈴も四季咲も小鳥遊弟も気まずそうに彼から目を逸らす。


「魔族の中でも犯罪を犯す者は人間同様、極一部だ。なのに、魔導士は自分達に利益を及ぼさない魔族を悪だと見做している。だから、私は魔族を狩るための専門家になった。本当の悪を裁くために。本当の悪を世界に見せつけるために」


「……"絶対善"とやらを倒せば、魔族イコール悪という考えは払拭できるのか?」


「いや、できないだろう。だが、この状況に一石を投じる事ができる。今現在、魔族狩りを主導しているのは"絶対善"だ。もし絶対善が善悪を問わず、魔族を狩っていると知れ渡ったら、魔族に対する風当たりは少しだけ変えられるかもしれない」


「かもしれないって事は、俺が"絶対善"を倒しても状況は変わらないかもしれないって訳だ」


「ああ、今のままだったらな。しかし、魔族を積極的に狩っている"絶対善"を止める事ができる"ヒーロー"が現れたら話は変わる」


 ようやく彼の意図を理解できた。俺よりも頭の回転が早い美鈴と四季咲は、唐突に焦ったような表情を浮かべる。


「あ、……貴方はお兄ちゃんをヒーローに仕立て上げるつもりなの!?そんな事をしたら、お兄ちゃんはただの高校生じゃいられなくなるよ!!」


「ああ、そうだ。ジングウツカサを英雄に仕立て上げる事で、"絶対善"から善性を剥ぎ取る。そして、彼という神十大魔導士に匹敵する力を持つ英雄を魔族側に擁立する事で、『magica』の魔導士に魔族の人権を認めさせる。それが私が彼に依頼した目的だ」


 美鈴と四季咲、そして、小鳥遊弟は俺の顔を見る。

 俺はストローを咥えながら、コップの底にある溶けた氷を延々と吸い続けた。


「ジングウツカサ、私の依頼を引き受けてくれないか?──魔族の未来のために」


「ん、面倒いから断る」


 喫茶店は静寂に包まれた。

 狼男も美鈴も四季咲も小鳥遊弟は暫く黙った後、同じタイミングで「は?」と言った。

 コップの底に鎮座する溶けた氷をストローで回しながら、俺は自分の意見を述べる。


「俺はヒーローっていう器じゃねぇよ。ただ好き勝手走っているだけだ。だから、あんたのヒーローになって欲しいっていう依頼は受けられない。俺みたいな自己中心的かつ身勝手で頭の足りないお子様が、ヒーローになっちまったら、どっかで歪みが生じちまう」


 先程、狼男との喧嘩を楽しんでいた自分を呪いながら、俺は未だ暴力の感触が残り続ける自身の右手を睨みつける。


「魔族の……いや、人狼の未来はどうなってもいい。君はそう言うんだな」


「そこまでは言ってねぇよ。ただ俺の腕っ節強いからという理由でヒーローに仕立て上げようってのは、短絡的な考えだって事を言いたいだけで。所詮、俺は路地裏の喧嘩屋(いのなかのかわず)だ。世界には俺よりも強い奴がいるだろう。俺より優しい奴がいるだろう。そいつらをヒーローに仕立て上げた方が遥かに効率的だと思う。だから、俺はあんたの考えには賛同できない。俺は俺のやり方で小鳥遊一家達を救い上げてみせる。だから、あんたはあんたのやり方であいつらを救い上げてくれ」


 交渉は決裂だと言わんばかりに、俺は席から立ち上がろうとする。


「遅かれ早かれ、君は英雄になってしまうだろう」


 彼は俺の行動を言葉で静止させる。

 反射的に俺は彼の話に耳を傾けてしまった。


「君の強さは路地裏(いのなか)のレベルを遥かに超えている。私は世界中の魔族や魔法使い達と闘って来たが、その中で1番君が強かった。憧憬に値する程にな。君は近い将来、世界に羽ばたいてしまうだろう。もしかしたら、私が仕立て上げなくても人類史に残る英雄になるかもしれない」


「随分、俺を過大評価してくれるんだな」


「客観的かつ正当な評価だ。君は世界を知らないから、自分という人間を過小評価し過ぎている」


 狼男の過剰過ぎる褒め方に俺は辟易してしまう。

 褒められるのは好きだが、ここまで褒め殺しにされてしまうと、嬉しいよりも気まずさが優ってしまう。


「……何度も言うようだけど、俺は英雄の器じゃねぇよ。だから、あんたの依頼は受けられない。この話はこれで終わりだ」


 席から立ち上がった俺は、喫茶店の壁に掛けられている広告を見てしまう。

 メニューには"新発売照り焼き卵サンド"のイラストが描かれていた。

 それを見た瞬間、俺はあるアイディアを思いつく。


「そういやさ、あんた、依頼されたら動く専門家(スペシャリスト)なんだろ?」


「ああ、そうだが」


「もし俺が依頼したいって言ったら、快く引き受けてくれるか?」


「……何を依頼するつもりだ?」


「この騒動が終わった後の人狼達の身の安全だ。彼等を元の日常に戻してくれるんなら、『magica』の中でそれなりに偉い奴と会わせてやってやる」




 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、そして、評価ポイントを送ってくださった方、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様のお陰でブクマ100件突破しただけでなく、文芸アクション部門の日刊ランキング14位を獲る事ができました。

 本当にありがとうございます。

 今度は完結までに文芸アクション部門の日刊ランキング1位を獲る事・1日のPVが1万超える事を目標にしていきたいと思います。

 図々しい目標であると自覚していますが、この目標をモチベーションにする事で、これからも皆さんに楽しい物語を提供できるよう頑張っていきたいと思います。 


 次の更新は明日の12時頃を予定しております。

 これからも完結まで毎日更新していきますので、よろしくお願い致します。

 

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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