4月22日(3) VS狼人
正体不明の男──スーツを着た金髪緑瞳の男性。体型は筋肉質。眼光は鋭く、パッと見ただけで強敵であるのを否応なしに理解させられる──が振り下ろした戦斧を紙一重で避ける。
一瞬で奴の懐に入った俺は、右の拳を奴の腹に振るう──と見せかけて、ローキックを放つ。
奴は一瞬で俺のフェイントを看破すると、後ろに下がりながら、俺のローキックを躱しながら、戦斧を横薙ぎに振るう。
俺は横薙ぎの一撃をバク宙しながら避けると、一足飛びで奴の懐に飛び込んだ。
「──っ!」
男は一瞬の判断で戦斧を手放すと、俺の顔面目掛けて拳を振るう。
奴の拳を左手で受け流しながら、俺は奴の腹部目掛けて、渾身の一撃を放った。
俺の拳が直撃する寸前の所で男はバックステップする。
しかし、奴は俺の拳を完全に避け切る事はできなかった。
少しの手応えが俺の拳に伝わる。
男は即座に地面を蹴り上げると、俺に向かって蹴りを放った。
左腕で男の飛び蹴りを受け止める。
そして、瞬時に男の両足を右手で掴むと、そのまま、彼の身体を背後にあった元肉屋のシャッター目掛けて投げ飛ばした。
鈍い鉄の音が元商店街という人気のない空間に響き渡る。
シャッターに叩きつけられた男は、何事もなかったかのように態勢を整えると、短く息を吐き出した。
「……あんた、『magica』の人間か?」
「質問が許されるの勝者だけだ、"名無しの叛逆者"。それとも勝つ見込みがないから、私に質問を投げかけているのか?」
「んだと、テメェ!!」
奴の隙を作り出すためだけに、俺は奴の挑発に乗った振りをする。
俺は奴との距離を縮めようと全速力で駆け出した。
側から見たら、挑発に乗って逆上したようにしか見えないだろう。
奴はそれを待っていたかのように右手首から血を噴き出すと、自らの血を剣の形に変形させる。
そして、無防備に突っ込んで来る俺に袈裟斬りを浴びせようとした。
全速力で走っていた俺は、剣が直撃する寸前の所でバックステップする。
剣は俺の目と鼻の先を通過した。
再び俺は地面を蹴り上げると、クロスステップで奴を抜き去る。
そして、踏み込んだ右足を軸足に半回転するる事で奴の背後を取った。
渾身の掌底打ちを奴の胴体目掛けて放つ。
「ぐおっ……!!」
俺の渾身の一撃が奴の身体を貫く。掌底の衝撃が内臓に達した途端、奴は口から唾液を吐き出した。
(まだ足りない……!!)
奴はまだ意識を保っている。
並大抵の相手なら気絶している一撃を喰らわした。
それでも健在な奴に恐れをなした俺は慌てて跳び上がると、そのまま奴の左肩目掛けて、踵落としを放つ。
「なっ……!?」
直撃したにも関わらず、かなりの手応えを感じたにも関わらず、奴の左肩の骨を砕く事は叶わなかった。
警戒していたにも関わらず、敵の実力を見誤っていた。
それに気づいた俺は、踵落としをした足とは別の足で奴の背中に浅いキックを喰らわせると、バク宙をしながら奴と距離を取る。
「やはり、君は強い。もし私が人間だったら、最初の一撃でやられていただろうよ」
奴は口に付着した唾液を袖で拭いながら、不敵な笑みを浮かべる。
「……見誤っていたよ。あんた、人間じゃねぇんだな」
「見誤ったのはこちらの方だ。まさか、逆上した振りだったとは。やはり君は今まで私が闘ってきた誰よりも──いや、"私よりも強い"」
奴は堂々とした様子で敗北宣言とも取れる発言を口から漏らした。
その発言により、奴が決して油断をしない敵である事を悟ってしまう。
「本気で行かせて貰おう。だから、君も見せてみろ。──ガイア神を倒した実力とやらを」
「「なっ……!?」」
俺と美鈴の声が重なる。
今月頭、俺は金郷教が呼び出したガイア神を倒した。
が、その事実はその場にいた者しか者──美鈴、啓太郎、雫さん、キマイラ津奈木、鎌娘──しか知らない。
『magica』に提出した公的な記録では、ガイア神はキマイラ津奈木が倒した事になっている筈だ。
なのに、何故、目の前にいる彼はあの時の真実を知っている?
「考えている暇はないぞ」
男の皮膚が白い毛に覆われる。
人間だった手も口も肉食獣のものに変貌してしまう。彼の鼻がマズルになった瞬間、男は"半狼半人"と化してしまった。
「じ、人狼……!?何故、『magica』の魔導士が人狼に……!?」
「君の質問に答えよう。私は人狼ではない。人狼とはヒトの形を獲得したオオカミの総称だ。私は"狼男"。オオカミの形を獲得した人間。人狼と同じ魔族だ」
男は尋常ではない脚力により、十数メートルあった俺との距離を文字通り比喩でもなんでもなく、一瞬で詰める。
俺は狼男と化した男の連撃──直撃すれば、間違いなく内臓が破裂してしまう猛攻を紙一重の所で避けながら、後退し続ける。
そして、電柱に背中をぶつけると、俊敏な動きで地面に伏せた。
狼男のハイキックが電柱を発泡スチロールのように砕く。
俺は即座に立ち上がると、折れた電柱を使って、商店街に立ち並ぶ木造家屋の屋根に跳び乗った。
狼男は勢いをつける事なく、軽々とした様子で屋根に跳び乗る。
狼男の異常な身体能力を眼に焼き付けた俺は、屋根の上を走り始めた。
奴は俺に倣って、屋根の上を並走する。
そして、またもや一瞬で間合いを詰めると、キックとジャブを組み合わせた猛攻を仕掛けて来た。
俺はその嵐のような猛攻を両腕と両足を使って受け流す。
「私の動きは完全に見切られているな」
狼男は回し蹴りを放ちながら、俺の戦力を冷静に分析する。
「敵の動作を瞬時に見切る目、変幻自在な闘い方、そして、自然体と言っても過言ではない佇まい。多少、武術を齧っている私だからこそ分かる。君の闘い方はまさしく武闘家にとって理想的な立ち振る舞いだ。接近戦という点なら、君に敵う人間はいないだろう。無敵と言っても過言ではない。──だが」
狼男の両手首から噴出した血が大剣と化す。
奴は人間態の時と比べ物にならない程の速さで剣を振り下ろした。
俺はギリギリの所で剣撃を躱す。
その所為で右肩の部分のジャージに少しだけ切れ目が入ってしまった。
「その闘い方が通じるのは人間だけだ。人外である私には届かない」
「──それは、どうかな」
俺は手を地面につき、利き足を前にかけた姿勢──俗にいうクラウチングスタートの態勢を取ると、狼男の視線を真っ直ぐ見据える。
「あんたの理屈が正しければ、俺のやり方が通じるのは人間だけだろ?なら、あんたにも届く筈だ」
「……狼男である私が人間であると?」
「人間じゃなかったら、あんたは一体何だよ。宇宙人か?」
「オオカミモドキの人間モドキだ」
「モドモドして、ややこしいな。素直に人間名乗った方が良いんじゃないか?」
「…………奥の手を使うが良い。じゃないと、取り返しのつかない事になるぞ」
「悪いな、あんたが見たがっている力を見せられそうにない。代わりに今の俺が出せる本気を思う存分見せてやるよ」
狼男は血で造った大剣を上段に構える。一目見ただけで分かる。奴はあの大剣を振り下ろすつもりだ。
「──位置について」
先程、奴に俺の足運びを見せている。
恐らく、色々考えた結果、奴は大剣を振り下ろす構えを取ったのだろう。
「よーい──」
俺は腰を少しだけ上げる。
狼男の肺の辺りが少しだけ沈んだのを見た瞬間、
「どんっ!!」
──俺は思いっきり地面を蹴り上げた。
いつも読んでくれている方、最新話まで追ってくれた方、過去にブクマしてくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイント送ってくれた方にお礼の言葉を申し上げます。
PV数とブクマ、そして、評価ポイントが増える度に、自分はタンスの角に薬指をぶつけても動じないくらいに嬉しい気持ちになります。
本当にありがとうございます。
次の更新は明日12時頃に予定しております。
また、3万PV達成記念短編は3月26日金曜日くらいに投稿を予定しております。
詳細が決まり次第、最新話の後書き・活動報告・Twitter(Yomogi89892)、Twitter(norito8989)で告知致します。
これからも完結よろしくお願い致します。




