4月22日(2)手加減できる相手じゃないの巻
「あ、四季咲さん、おは……」
四季咲を見た途端、美鈴は硬直してしまう。
美鈴が面白い顔をしていたので、俺も四季咲の方を見る。
そこには、神話の怪物メデューサを連想させるような酷い寝癖をつけた四季咲が立っていた。
「なっ……!?」
いつもの凛とした彼女のイメージとは掛け離れた寝癖に思わず驚きの声を漏らしてしまう。
「髪が蛇になる魔法でもかけられたのか、お前……!?」
「いつもこうだ、気にするな」
四季咲は眠そうに目を擦りながら、バスルームに移動する。
「……なあ、美鈴。本当に四季咲の力は必要なのか?あんな髪しているんだぞ?」
「うん。今の私は魔術扱えるような身体構造していないし。魔力探知するには四季咲さんの力が必要不可欠だよ。……あと、髪関係なくない?」
「……そうか」
小鳥遊一家と魔導士達の行方を探るには四季咲も連れて行くしか術がない。
しかし、もしもの時が起きた際、四季咲や美鈴、小鳥遊弟を守り切れないかもしれない。
この場に啓太郎や雫さんがいたら、そんな心配しなくて良かっただろうが、今回彼等の力を借りられない以上、俺1人で何とかするしかない。
(あー、こういう時、頼りになる人を増やしたい)
そんな他力本願的な事を考えていると、小鳥遊弟もベッドルームから出て来た。
「……おはよ」
まだ眠そうな小鳥遊弟に俺と美鈴は朝の挨拶を告げる。
その後、俺達は身支度を整えると、ホテルで朝飯を食べながら、四季咲と小鳥遊弟に今後の予定を話した。
四季咲と小鳥遊弟は俺の意見に賛成してくれたので、とりあえず、俺達はバスで篠島(新神から7ヶ所の停留所経て着く事ができる)へ向かう。
「なあ、四季咲。お前、学校サボって良かったのか?」
「その言葉、そっくりそのまま返させて貰うよ」
「俺は良いんだよ。後で寮長にボコられた後、授業休んだ分の補習から逃げれば良いだけだし」
「大丈夫な要素が1つもないんだが!」
「俺に関してはいつもの事だ。高1の時も似たような事して、1ヶ月近く学校休んだし。一応、大人達からの理解は得ているつもりだ」
「……それ、理解されているというより諦められているだけじゃねぇのか?」
「シャーラップ、小鳥遊弟。全力で目を背けている真実を俺に押し付けるな」
「真実という事は薄々気づいているんだ!!??」
そんなこんなで俺らは"篠島3丁目"というバス停で降車すると、そのまま篠島元商店街へ向かう。
「ねぇ、何で篠島"元"商店街なの?」
歩きながら美鈴は質問を呈する。
「父の話によると、今現在、篠島商店街で商売しているお店がないらしい」
四季咲は即座に美鈴の疑問に答える。
「なるほど、商店街として機能していないから、元商店街なのか。なっとく」
「ここ篠島は防災上危険な市街地──木造住宅密集地域として指定されているらしく、もし地震など起きたら、かなりの被害が出るようだ。そのため、この辺りに住んでいる人は今現在、非常に少ないらしい」
「え、少ないのか?じゃあ、そこらにある家は空き家って事なのか?」
四季咲からの情報を聞いて、驚いてしまった俺はつい口を挟んでしまう。
「ああ、そうらしいぞ。篠島の8割近くは空き家だそうだ」
「ええ……勿体ねぇ。ここ、新神に近いのに。この辺りにマンション建てたら、是が非でも住みたい人、殺到するだろ」
「何でもここら辺は、所有者不明の土地が多いらしい。加えて、土地を引き継いだ際に生じるデメリットの所為で、ここらの土地を引き継がない人も結構多発しているそうだ」
「へぇ、大人の事情って奴か」
周囲を警戒しながら、俺達は人気のない路地を歩く。
篠島元商店街に入った瞬間、俺は誰かの視線を感じ取った。
しかし、一瞬で視線は煙のように消え失せてしまう。
視線の主が只者じゃない事を瞬時に理解した俺は、美鈴に疑問を投げかけながら、視線の主を模索する。
「なあ、美鈴。ここら辺、人払いの結界とやらは張られているのか?」
「四季咲さんが反応していないから、多分、今は張られていないと思うよ。それがどうかしたの?」
「小鳥遊弟。俺ら以外の匂いを感じ取れるか?」
「感じ取れるも何もあちこちからプンプン匂うよ」
「1番ここから近い匂いは?」
「あの八百屋の看板が飾っている所。たぶん、大人の男がシャッターの向こう側にいるけど、……それがどうしたの?」
小鳥遊弟のお陰で視線の主らしき人物を特定できた俺は、元八百屋と思われる店──出入口はシャッターで閉じられている──を睨みつける。
その瞬間、尋常じゃない殺意と敵意が込められた闘気が、元八百屋だった家屋から発せられた。
ヤバイ、手加減できる相手じゃない。
最初から本気でやらないと、こっちが殺られてしまう──!!
「──っ!!お前ら、ここから逃げろ……!」
元八百屋目掛けて走り出す。
その瞬間、元八百屋の出入り口を塞いでいたシャッターが、文字通り"吹き飛んだ"。
飛んできたシャッターを紙一重で躱しながら、俺は元八百屋だった建物の中にいる"強敵"との距離を確実に詰める。
「──ああ、その動きを見れば、否応なしに理解させられる」
元八百屋の中にいた何者かは、身の丈に迫る程、巨大かつ真っ赤な戦斧を片手で持ち上げると、俺の瞳を真っ直ぐ見据える。
「君は、私が出会った中で1番強き者だと」
奴は俺との距離を一足飛びで埋めると、戦斧を俺目掛けて振り下ろした。
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明日の更新は12時頃に予定しております。
これからも何卒よろしくお願い致します。




