?月?日(4) ■■■■の巻
「ごめんなさいっす!!もう2度とあんたの夢に入りませええええええんんんんん!!!!」
情けない断末魔を上げながら、四季咲の姿を借りた魔導士は俺の夢の中から出て行ってしまう。
敵意と悪意が完全に消え失せた瞬間、今まで真っ黒だった空間は色を取り戻した。
これでようやく夢の中から解放されると思った俺は背伸びをする。
が、幾ら待っても目覚める事はなかった。
「……ん?あれ?まだ夢を見ているのか……?」
勝利をもぎ取ったにも関わらず、俺は何故かゲーセンの中にいた。
まだ魔導士の攻撃を受けているかもしれないと身構えた俺は、周囲を隈なく警戒する。
すると、プリクラ台の中から学校指定様のジャージを着た俺とメイド服を着た四季咲が出てきた。
反射的に俺はゲーム機体の裏に隠れてしまう。
「おお……!これが噂のプリクラというものか……!」
目をキラキラさせながら四季咲は、夢の中にいる俺と撮った写真を見続ける。
「ていうか、本当にメイド服着たままで良かったのかよ。一生、このプリクラが残るかもしれないんだぞ。子どもや孫に見られたらどうするつもりだ」
「ああ、別にいいぞ。生まれて初めて誰かとゲーセンに行けたからな。むしろメイド服を着せられたというインパクトがあるお陰で、死ぬまで覚えていられそうだ」
そう言って、四季咲は大事そうにプリクラの写真を抱き寄せる。
「メイド服を見る度に思い出すだろうな、今日この日の事は」
「……嫌な思い出し方だな」
四季咲の隣にいる俺は気まずそうに人差し指で頬を掻く。
その顔は罪悪感と気まずさで満ち溢れていた。
……え?俺って客観的に見たらあんな顔していたの?
全然ポーカーフェイスじゃないじゃん。
感情が全部顔に出てしまっている。
「だから、君もいつか思い出して欲しい。今日、この日の事を。メイド服を見る度に」
四季咲は半分嬉しそうな様子で半分悲しそうな様子で隣にいる俺から目を逸らす。
彼女の抱えている感情は一目見ただけでは看破できなかった。
何故、彼女はあんな事を言ったのだろう?
過去の俺と同じタイミングで首を傾げながら考える。
「……なあ、神宮。なぜ、君は私の誘いに乗ったのだ?」
UFOキャッチャーをしながら過去の俺は、隣に立っている四季咲の質問に答える。
「友達と遊ぶのに理由なんて必要あるのかよ?」
過去の俺はUFOキャッチャーに熱中しながら、淡々と自分の意見を四季咲に押し付ける。
「お前は俺と遊びたいから遊びに誘ったんじゃないのか?」
図星だったのか、四季咲は照れ臭そうに自分の頬を人差し指で掻いた。
「ま、まあ、……その、通りだ」
「俺はこれからもお前を遊びに誘うつもりだぞ。プリクラ撮った思い出なんか忘れてしまうくらいにな」
夢の中の俺が言った台詞はかなりキザなものだった。
恥ずかしくなった俺はその場で蹲ってしまう。
え?俺、あんなキザな台詞吐いたの?
少女漫画でさえも言わないぞ、あんなベタベタな台詞。
「まあ、なんだ。これからも一生ものの思い出作っていこうぜ……みたいな事を言いたいというか……予定さえ合えば、どっか遊びに行こうぜ的な……あ、今度、俺の友達を紹介するよ。大丈夫、委員長達みたいなヤバい系の友達は紹介しないから」
「ヤバい系の友達がいるのか、君は!!??」
しどもろどもろになりながら、恥ずかしそうに頭を掻く過去の俺を見て、ようやく目の前にいる自分とここにいる自分が別物である事を悟った。
──言った覚えがないのだ。
あのキザな台詞も。
恥ずかしがって、しどろもどろになって吐いた台詞も。
いや、よくよく思い出せば、俺は四季咲と一緒にゲーセンに行った事もない。
──全部、夢なのだ。
4月16日に四季咲と一緒にお出かけに行った事も。
四季咲から遊びに誘われた事も。
全て現実ではない。
4月16日── チャップリンデーとかボーイズビーアンビシャスデーとか、誰かにとって特別な日であるが、俺にとってはただの平日でしかないある春の日の放課後。
俺はその日、桑原学園生徒会会長に頼まれて、吹奏楽の荷物の搬送を手伝っていた。
四季咲は4月14日に退院してからずっと聖十字生徒会の会長として魔女騒動の後始末に追われていた。
つまり、何が言いたいかと言うと、俺と四季咲は2人で遊びに行った事はない訳で。
この記憶は事実無根の夢である訳で。
俺が四季咲を連れてゲーセンに行った事も、エアーホッケーした事も、モグラ叩きゲームをした事も、四季咲がメイド服を着た事も、2人でプリクラを撮った事も現実ではないのだ。
だから、目の前で嬉しそうにプリクラの写真を見続ける四季咲の姿に引っかかりを覚えてしまう。
罪悪感に似た何かを抱いてしまう。
何故か複雑な気持ちに陥ってしまう。
胸の中に湧いた気持ちを打ち消すために、俺は寝返りを打った。
その瞬間、俺は夢から醒めてしまう。
高そうな布団を覆った俺は重い瞼を開く。
すると、同じ布団に覆われている四季咲と目が合った。
四季咲は横になったまま、人形のように固まったまま、俺の目をじっと見つめている。
彼女の頬は少しだけ赤くなっているように見えた。
「……しきざき……?」
隣で寝ている彼女に声を掛ける。
彼女は瞬き以外、何もアクションを取らなかった。
彼女の息遣いが俺の鼓膜を優しく揺さぶる。
何も考えずに俺は彼女の頬に手を添えると、寝ぼけながら、こう言った。
「今度、一緒にゲーセンに行こう……プリクラ、……一緒に撮ろ……」
最後まで言い切る事なく、俺の瞼は再び閉じてしまう。
再び夢の世界に誘われてしまう。
意識が闇に溶け込む直前、四季咲の声が聞こえてきた。
その声を聞いた瞬間、さっきまで抱えていた複雑な気持ちは跡形もなくなくなってしまった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。
皆様の応援のお陰で、累計PV4万超えただけでなく、日刊ランキングアクション[文芸]部門11位を獲る事ができました。
この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
ようやく2万PV達成記念短編を投稿する事ができました。
先週以内に投稿すると言っておきながら、今日投稿する事になったのを深くお詫び致します。
また、3万PV達成記念短編も近日投稿する予定なので、詳しい事は後日最新話の後書き・活動報告・Twitter(@Yomogi89892)・(@norito8989)にて告知致します。
これからも毎日更新していきますので、応援よろしくお願い致します。




