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?月?日(?) ■■■の巻

 四季咲の身体に背負い投げを浴びせようとする。

 俺が彼女の身体を投げ飛ばそうとした瞬間、彼女の身体もゲーセンも煙のように消えてしまった。


「──っ!?何が起きて……!?」


 突然、真っ暗闇に放り込まれた俺は周囲を見渡す。

 その瞬間、地面から土蛇が唐突に現れた。

 何の前触れもなく襲い掛かって来た土蛇を難なく避ける。

 すると、今度は頭上から光線が降り落ちた。

 光線を間一髪の所で避けた瞬間、俺の胴体に強烈な一撃が叩き込まれる。

 吹き飛ばされた俺の視界に映り込んだのは、大きな猫の姿と化した魔女の姿だった。

 地面の上を数回跳ねた俺は、慌てて態勢を整える。

 そして、目の前にいる敵の顔──キマイラ津奈木・その身にガイア神を宿した美鈴・巨大猫と化した魔女──を確認した。


「──っ!?」


 倒した筈の強敵が目の前にいる事実に驚愕する。

 それと同時に自分が今の今まで()を見ていた事に気づいた。


「どうやら気づかれたみたいっすね」


 背後から四季咲の声が聞こえて来る。

 が、その喋り方はいつもの彼女とは違うものだった。

 

「お前、『magica』の魔導士か?」


「げ、一発で看破とか、あんた、本当ただもんじゃないっすね。ここはもう少し困惑するのが常ってもんじゃないっすか?」


「魔法の力で夢の中に入り込んだ……って所か?本当、魔法ってなんでもアリなんだな」


「本当はアタシの夢の中に引き摺り込む予定だったっすけどねぇー、何故かあんただけは引き摺り込めなくて。だから、逆にあんたの夢の中に入ったっす」


 拙い日本語で話しながら、四季咲の姿を借りた何者かは指を鳴らす。

 その瞬間、闇夜から雫さんや鎌娘、布留川に委員長など、俺が知っている人達が大量に出てきた。


「まあ、私の夢の中に引き摺り込めなかったこは残念でしたが、それでもアタシが有利なのは変わらないっす。たとえどんなに高名な魔法使いや魔術師、魔導士であっても夢の中なら無力な子羊になるっすからね」


「なるほど。俺を弱体化させるために、自分の夢の中(ここ)に誘い込んだって訳か」


 右の拳を握り締めながら、目の前の敵を睨みつける。


「そんなに睨みつけたって無駄っすよ。ここは夢の中。アタシのフィールドっす。ここに来た時点であんたの負けっすよ」


 四季咲の姿を借りた何者かは、不敵な笑みを溢すと、美鈴の身体に憑依したガイア神と魔女を手元に呼び寄せる。


「そいつらは俺の記憶を基に作り出した人形…….っていう解釈であっているか?」


「まあ、そんなもんっす。けど、人形だからって馬鹿にしてたら痛い目に遭うっすよ。だって、これはあんたのトラウマを基に作り出したものっすから。つまり、あんたの苦手意識が強ければ強い程、強くなる仕様っす」


「……下手したら本物以上に強いって事か」


「そういう事っす。そして、更に──っ!」


 四季咲の姿を借りた何者かが、虚空から剣を引き摺り出す。

 その剣には見覚えがあった。

 金郷教騒動の時に変な女騎士が持っていた山を薙ぎ払う何とかの剣だ。

 確かガイア神も同じものを持って、桑原神社周辺を薙ぎ払ったような気がする。


「へえ、エクスカリバーですか」


「なるほど。俺の中にある"最強の武器イメージ"を基に作り出したのか」


 大体、彼女の魔法の力が理解できた。

 つまり、俺の記憶を基に武器や人形を創造しているのだ。

 俺の記憶が具体的であればある程、俺の思い入れが強ければ強い程、作り出した武器や人形の精度や破壊力が上昇するのだろう。

 

「クックック、あんたの記憶や思い、それらが全てあんたという人間に牙を剥く。それがあたしの魔法──『夢見る女に現はいらぬ(オニロ・ディストピア)』。自慢じゃないですが、このギガ級に相当する魔法のお陰で、あたしは『magica』第3師団のナンバースリーに上り詰める事ができたっす!」


「だから、そのギガ級とかいう専門用語知らねぇんだよ」


 四季咲の姿を借りた魔導士の身体から敵意と殺意を感じ取る。

 それに釣られる形で俺は自分の拳を握り締めた。


「いいっすか?ここで致命傷を何回受けようが死ぬ事はないっす。ですが、逆に言っちまえば、……」


「死にたくても死ねない。そう言いたいんだろう?」


「ええ──たとえ精神が崩壊しようが、私がこの魔法を解かない限り、この悪夢は延々と続くって訳っす!!」


 そう言って、魔導士はガイア神や魔女に命令を飛ばす。

 その瞬間、ガイア神の身体から夥しい量の光線が、魔女の身体から数多の竜が発射される。

 俺はそれを避ける──事なく、それを喰らった。

 予想通り、痛みは全く感じなかった。


「なっ……!?何で無傷っすか!!??」


 魔導士は驚きながらも、ガイア神と魔女に攻撃するように命じる。

 が、幾ら人形に攻撃させても、俺は苦痛を味わう事はなかった。


「ど、どうやって私の魔法を無効化したっすか!!??」


「その攻撃さ、俺の記憶とかを基に作ったんだろ?」


 欠伸しながら俺は魔導士の下に歩み寄る。


「悪いけど、俺、そいつらから攻撃受けた覚えがねぇんだ」


 多分、何回か受けたと思うけど、あまり記憶に残らなかったのか、よく覚えていなかった。


「な、なら、……あんたの周りにいる友人や家族達の記憶に殴るように命じるっす!!流石に親しい人を殴れないっしょ!!」



「おらあっ!!」


 周囲にいた雫さんや布留川、それにお父さんお母さんを1人残らず殴り飛ばす。

 本人じゃなかったので、本気で殴る事ができた。

 数分程度で全員殴り飛ばせた。


「なっ……!?何で躊躇いもなく、家族や友人を殴れるっすか!?あんたに優しさってものはないっすか!?」


「そりゃあ、本人じゃないからな。余裕で殴り飛ばせる」


 面倒臭くなったので、四季咲の姿を借りた魔導士の顔面目掛けて、ドロップキックをぶちかまそうとする。


「くっ……!幼女アンドショタバリア!!」


 四季咲の姿を借りた魔導士は、虚空から美鈴と小鳥遊弟の姿を引っ張り出す。


「こ、これなら、普通に攻撃できないっしょ!小さい子どもに暴力を振るうなんて言語道断!!流石にPTAが黙っちゃ……」


 俺は美鈴と小鳥遊弟ごと、四季咲(偽物)の顔面を蹴り飛ばした。


「ありえない!本当にありえないっす!!幼女とショタ、それに自分の彼女を蹴り飛ばすとか、あんた、人間の心あるっすか!?」


 四季咲の姿を借りた魔導士は、鼻血塗れの顔面を押さえながら、俺に抗議をし始める。


「美鈴と小鳥遊弟を盾にした挙句、四季咲に化けたお前にだけは言われたくない」


「ぐっ……!こうなりゃ、エクスカリバー!!」


 そう言って、魔導士は剣を振り回す。

 が、剣から出たビームは俺に擦り傷1つ負わせる事はできなかった。


「だから、何で無傷っすか!!??」


「喰らった覚えがないから」


「じゃあ、何でこいつらトラウマになってんですか!!」


 剣とガイア神&魔女を指差しながら地団駄を踏む四季咲の偽物。

 多分、ガイア神や魔女がトラウマになっているのは、"下手したら多くの人が犠牲になっていた"という事実を無意識のうちに自覚しているからだろう。

 もしガイア神や魔女が人気の多い場所で暴れていたら、間違いなく多くの人に被害が及んでいただろう。

 あれだけの被害に押し留める事ができたのは単純に運が良かったからだ。

 それを少なからず自覚しているから、心の奥底でガイア神や魔女がトラウマとして残り続けているんだと思う。

 けど、こいつらに対して、死の恐怖とかそう言ったものは感じない訳で。

 周囲の被害が及ばないこの夢の中なら、恐る必要が1つもない訳で。

 

「ここが夢の中だからだよ」


 右の拳を握り締めながら、俺は魔導士の下に歩み寄る。


「所詮、夢は夢だ。現実なんかじゃない。ここで幾ら被害が出たとしても、延々と悪夢を見せられたとしても、ここの結果が現実に反映される事はない。俺がここを夢の中だと知った時点で、あんたはどうしようもなく詰んでいたんだよ」


「は?あんた何言って……」


「つまり、何が言いたいかというとだな……」


 ここが夢であると自覚している──明晰夢である事を自覚した俺は、指を鳴らすと、魔導士の持っていた剣を跡形もなく消し去る。


「なっ……!?夢の主導権を奪われたァ !?」


 もう1度指を鳴らす。

 渇いた指の音が鳴り響いた瞬間、今まで俺を取り囲んでいたガイア神や魔女達は、煙のように消えてしまった。


「──あんたじゃ俺には勝てねぇよ」


 拳を力強く握り締めた俺は駆け出す。

 俺の拳が四季咲の姿を借りた魔導士の頬に突き刺さった瞬間、甲高い悲鳴が何もない空間に響き渡った。


 本日最後の更新は22時頃に予定しております。


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