4月16?日(2) ■■の巻
エアーホッケーの賭け勝負は、11対1で俺の完勝だった。
試合が終わったにも関わらず、四季咲は涙目でプルプル震えると、何か言いたげな目で俺をじっと見つめる。
気まずくなった俺は目を逸らしながら、人差し指で頬を掻いた。
「……ごめん、四季咲。俺、女装だけはしたくなかったんだ」
「……もう1回だ。今さっきのはまだコツが掴めていなかったから負けただけだ。次はちゃんと勝つ」
「……賭けはなしで?」
「いや、賭けはアリだ。君が負けたらさっきの試合はなかった事に。私が負けたら君の言う事を何でも2つだけ叶えてやる」
「……じゃあ、予め勝った時に叶えて貰う願いを言わせて貰うぞ」
俺はプリクラコーナーにあるメイド服とプリクラ機体を指差すと、彼女の戦意を挫くための願いを口に出す。
「さっき勝った分の願いは"一緒にプリクラを撮る"。次の試合で勝った時に叶えて貰う願いは、"メイド服を着た状態でプリクラを撮る"。もし次の試合をしなかったら、一緒にプリクラ撮るだけで済む……」
「御託はいい。さっさとやるぞ」
頬を膨らませた四季咲は、100円玉をエアーホッケーの機体に投入する。
どうやら彼女は勝負事になると、負けず嫌いを発揮してしまうらしい。
彼女の事を年齢よりも大人びていると思っていた俺は、彼女の子どもっぽい所を見て、少しだけ親近感のようなものを感じてしまう。
「神宮、次は負けないからな」
ムスッとした様子で戦闘態勢に入る四季咲。
俺は短く溜息を吐き出すと、所定の位置に移動する。
「はいはい、お手柔らかに」
そう言って、俺は──彼女に1点を獲らせる事なく、33対0という大差で圧勝した。
「ズルしたぁ!!今、ぜっっったい、ズルしたぁ!!!!」
駄々を捏ねる四季咲に情けを与える事なく、俺は彼女をプリクラコーナーに連行する。
「人聞きの悪い事を言うな、四季咲。俺は正々堂々、メイド服を着せようとするお前を捻り潰しただけだ」
「絶対、初心者の私には知り得ない方法で点数をもぎ取っただろ!?なんか上級者にしか知り得ない打ち方のコツとかあって、それで私をボコボコにしたんだろう!?じゃなきゃ、こんな大差つかない!!もう1回だ!今度こそ、君に勝て……」
「何回やっても同じだよ。お前が負けたのは技術以前の問題だし」
「ぎ、技術以前の問題……!?」
「お前、正解しか選ばないから読みやすいんだよ」
「なっ……!?それは一体、どういう意味なんだ……!?正解を選ぶのは間違っていないだろう!?」
「いや、正解しか選ばないってのは、ちょっと語弊があるな。飛んで来たら嫌な所に必ず飛んでくるから、読みやすいって事を言いたいんだよ、俺は」
頭を掻きながら足りない語彙力でなんとか彼女に説明しようと試みる。
「つまり、……私が効率良く勝とうとすればする程、私の行動が読み易くなる……という事を言いたいのか?」
「ああ、そんな感じだ」
その状況に応じての正解しか選ばない。
故に彼女の動きは誰よりも何よりも読み易いのだ、最適解であるが故に。
(賭け勝負とか関係なしで、和気藹々とやりたかったんだよなぁ)
悔しそうに地団駄を踏む四季咲を眺めながら苦笑いを浮かべる。
「な、なら!他の勝負だ!!」
そう言って、彼女はエアーホッケーの機体から目を逸らすと、ワニを叩くゲームを指差す。
「あれなら君とでもイーブンに闘えるだろう!」
「ごめん、四季咲。身体動かす系は勝つ自信しかない」
「奇遇だな、神宮。──私も勝つ自信しない」
数分後、四季咲はワニを叩くゲーム機体の前で涙目になっていた。
「…………ズル、しただろ?」
「していない」
女装したくない一心で四季咲にボロ勝ちしてしまった俺は、人差し指で頬を掻くと、目の前の現実から目を逸らす。
「……こんなに完敗したのは魔女の時を含めて人生で2度目だ。まさか……ここまで手も足もでないなんて……」
「俺も予想外だよ、お前がここまでムキになるとは思わなかった」
俺よりも精神的に大人だと思っていたが、どうやらそうでもないみたいだ。
悔しそうに瞳を潤ませる彼女を見て、俺は苦笑いしてしまう。
「んじゃあ、次はイーブンで闘えるやつを……」
これ以上、四季咲の機嫌を損ねたくない俺は完全運ゲーのメダルスロットで勝負しようとする。
「いや、神宮。あれをやろう」
そう言って、彼女が指差したのはパンチングマシーン。
「お前、正気か?」
「ふっ、みくびるなよ、神宮。──こう見えて私はパンチ力に自信がある」
どうやら勝つ事に拘り過ぎて、冷静な判断ができていないらしい。
ていうか、どういう思考回路を辿ったら腕っ節だけが取り柄の俺にこの勝負を持ち込むんだろう。
「却下だ、却下。そしたら、あっちの方がいい」
太鼓リズムゲームを指差しながら溜息を吐き出す。
「あれならイーブンに闘えると思うぞ」
「では、神宮が負けたら女装。私が負けたら何でも言う事を3つ叶えてやろう」
結果、僅差で俺の勝利。
「ズルしたぁ!!いま、ぜったい、ズルしたぁ!!」
「いやいや、今のはいい勝負だっただろ!!??」
「前半は私の方がミス少なかったのに、サビになった瞬間、フルコンボとか絶対おかしい!!ていうか、おかしいだろ!!なんか裏技的なもので勝ったに違いない!!!!」
「してねぇよ!純粋な実力だ!!」
「くっ……!そんなにあのヒラヒラ服を着せて、私を辱めたいのか……!!」
「誤解だ!ていうか、最初にメイド服云々言い出したのお前だろうが!!」
「あんな服を着せた所で私の尊厳を傷つける事はできないぞ!!」
「ちょっと前の女騎士みたいな事を言ってんじゃねぇぞ!!」
閑話休題、罰ゲーム執行。
「どうだ?神宮、似合うか?」
安っぽいメイド服に着替えた四季咲は、自信満々な様子で更衣室の中から出て来る。
辱め云々言っていた割には、恥ずかしがる事なく堂々としていた。
むしろメイド服を着て喜んでいるようで、肩にかかった自身の金髪を得意げに手で払う。
「うん、普通にエッ………」
危うくタブーワードであるエロ要素が口から飛び出そうになる。
危ない、危ない。
今日は四季咲に不快な思いをさせないよう、エロワードを言わないように徹しているのだ。
ここで言ったら全部無駄になってしまう。
お口にチャックした後、俺は改めて彼女のメイド服姿を上品な言葉で褒めようとする。
「いとをかしでございますよ、我が姫君」
「感想が古文風なのが気になるが……あ、ありがとう。……褒めて、くれて」
俺と四季咲の間にラブコメ的空気が漂う。
その空気を敏感に察知した俺は、"もしかして、こいつ俺に気があるんじゃ……?と思ってしまった。
(いやいや、落ち着け、俺。四季咲が俺に惚れているなんて自惚れだ。よく思い出せ。四季咲が俺に惚れる機会なんてあったか?)
四季咲と出会ってからの思い出を回想する。
魔女騒動で知り合い、お見舞いに数回行き、本日お出かけ。
……幾ら思い返しても惚れる機会なんてどこにも見当たらなかった。
リアルの女の子は、漫画やアニメみたいに1回2回助けられた程度で惚れる程チョロくない。
その事をよくよく知っている俺は自惚れるなよと自分自身に釘を刺す。
(けど、こいつ、温室育ちのお嬢様だからワンチャンチョロい可能性あるんだよなぁ)
初めて同年代の異性とお喋りしただけで惚れたみたいな事、なきにしもあらず。
色々悩むのも面倒になった俺は、目の前で照れているメイド服姿の四季咲に直球ど真ん中ストレートを投げ込む。
「なあ、四季咲。お前、俺の事好きなのか?」
四季咲は俺の質問を聞いた途端、"何言ってんだ、こいつ"みたいな顔をしながら首を傾げる。
「好きか嫌いかと問われれば、好きな方だが……何故、そんな質問をしたんだ?」
照れ隠しとか一切なく、素の反応で返された。
ここで俺はようやく彼女に異性として見られていない事に気づいてしまう。
「いや、いい。なんでもない。忘れてくれ、いや、忘れてくださいお願いします」
恥ずかしくなった俺は、顔を隠しながらその場に座り込んだ。
やばい、今のは完全に黒歴史だ。
恥ずかし過ぎて、まともに四季咲の顔を見る事ができそうにない。
「ど、……どうした?神宮……?急に訳の分からない事を聞いたかと思いきや、急に座り込んで……何か悪いものでも食べたのか?」
「……頼む、ちょっとの間、ほっといてくれ」
四季咲は心配そうな表情を浮かべながら俺に手を差し伸べる。
──その瞬間、俺は彼女から敵意と悪意を感じ取った。
評価ポイント送ってくださった方、新規にブクマしてくれた方に感謝の言葉を述べさせて貰います。
久しぶりに評価ポイントが大量に増えたお陰で、思わず小躍りしてしまうくらい嬉しい思いに浸る事ができました。
本当にありがとうございます。
そして、皆さんがいつも読んでくれているお陰で、累計PV数が4万超えました。
順調にPV数が伸びているのは皆さんがこの作品をここまで読んでくれたお陰です。
厚く厚くお礼を申し上げます。
PV3万達成記念短編もPV4万達成記念PVも鋭意執筆中なため、もう少しだけお待ちください。
これからも完結まで何卒よろしくお願い致します。
次の更新は21時頃に予定しております。




