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4月16?日(1) ■の巻 *2万PV突破記念

 2万PV突破記念短編。

 4月16日。チャップリンデーとかボーイズビーアンビシャスデーとか、誰かにとって特別な日であるが、俺にとってはただの平日でしかないある春の日の放課後。


 俺──神宮司は、桑原駅改札口前で魔女騒動で知り合った女の子──四季咲楓を待っていた。

 駅前にある時計台を見る。

 時刻は16時45分過ぎを指していた。

 

(約束の時間まであと15分くらいだな)


 欠伸をしながら一昨日の事を思い出す。 

 一昨日の放課後、四季咲は頬を赤く染めながら、俺にこう言った。

 "退院したら、君と一緒にお出かけをしたい"と。

 だから、俺はこう言った。

 "じゃあ、デートするか"と。

 以上、回想終わり。

 俺は今日、四季咲とデートというのは名ばかりのただのお出かけに行く事になった訳である。


「ま、待たせたな、神宮」


 寮長からパクった饅頭を食べながら待っていると、プラチナブロンドの髪をお嬢様結びした少女が俺の視界に飛び込んだ。

 枝毛が一切ない上品な髪。

 宝石を想起させるような美しい瞳に芸能人が嫉妬しそうなくらい小さな顔。

 顔のパーツは理想的な位置に配置されており、高そうな私服に身を包んだ身体は出る所は出ていて、引き締まるべき所は引き締まっていた。

 エキストラとして映画に出たら主演女優を喰ってしまいそうくらい整った容姿をした女の子は、緊張した面持ちで俺の下に恐る恐るといった感じで近寄ると、自信なさそうに自らの肩にかかった金髪を手で払った。


「よ、四季咲」


 駅前にいる人達の視線を感じながら、俺は食べていた饅頭を飲み干す。

 異性とのお出かけに免疫がない四季咲は、めちゃくちゃ緊張していた。

 声も震えているし、動きもロボットみたいにぎこちない。

 とりあえず、四季咲の緊張を解そうと彼女の容姿を誉めようとして──止める。

 

(そういや、容姿とか学力とかは親から譲ったものであって自分のものではないって言ってたよな)


 もしここで綺麗だなとか服似合っているなとか言ったら、彼女の顔は曇るだろう。

 即座に無難な話題に切り替える。


「早かったな、まだ15分くらいあるぞ」


「き、君の方こそ私より早くここに着いているじゃないか」


「…………10分前行動は大切だからな」


 女性との待ち合わせで苦い思い出しかない俺は──去年、バイトリーダーとの待ち合わせに何回も遅れた結果、めちゃくちゃしばかれた──、思わず思い溜息を吐き出してしまう。


「と、ところで、神宮。今日はどこに行くつもりなんだ……?」


「駅前でブラブラするつもりだ。都会には負けるが、桑原駅周辺ならゲーセンもカラオケもあるし。で、19時過ぎたら解散しようか」


「う、……うむ」


 彼女は緊張半分不機嫌さ半分といった感じで、俺の提案を躊躇なく呑む。

 以前、バイトリーダーの私服を褒めなかった所為で痛い目に遭った俺は、四季咲が不機嫌そうにしている理由をある程度察する。


「そ、……その服、似合っているな。芸能人みたいで良いと思う」


 乏しい語彙力で四季咲の服を褒める。

 どこが良いのかは言語化できなかった。

 だって、女子の美的センスがわからないから。

 健全な男子高校生であるため、俺は女性の服装なんてエロいかどうかでしか判断できないのだ。


「そ、そうか、ありがとう」


 四季咲の身体から不機嫌さはなくなる。

 どうやら、彼女の機嫌が少しだけ悪くなったのは、俺の予想通り、服装を褒めなかった事によって引き起こされたものだった。

 ……うーん、女心って、やっぱ難しい。

  

 ぎこちない雰囲気のまま、俺は四季咲の緊張を少しでも解すために、ゲームセンターの中に入る。

 駅前のゲームセンターは俺ら以外の客はいなかった。

 にも関わらず、ゲーセンの中は電子音で満ち溢れていて、かなり煩かった。

 カチカチ光る機体をぼんやり眺めながら、隣で借りてきた猫みたいに固まっている四季咲に声をかける。


「何かやりたいゲームあるか?」


「い、いや、特には……というより、こんな場所、初めて入ったから何があるのか分からなくて……」


「大体承知。なら、1つずつ見て回るか」


 四季咲を連れて、俺はゲーセン内一周の旅を始める。


「神宮?これは?」


「エアーホッケー。プラスチックの円盤を相手のゴールに入れるゲームだ」


「なるほど、サッカーみたいなものか」


「興味あるなら1回やってみるか?」


 四季咲が小さく頷いたので、エアーホッケーをする事にする。


「この白いキノコみたいなので、円盤を打ち返せばいいのか」


 少し嬉しそうな様子で白いキノコみたいな器具──スマッシャーという名の器具──を扱う四季咲。

 100円玉を投入した俺は、出てきた円盤を楽しそうに素振りする彼女の方に投げ渡す。


「じゃ、先攻どうぞ」


「では、お言葉に甘えて──っ!」


 意気揚々にスマッシャーを振るった四季咲は、白い円盤をゴール目掛けて打ち出す。

 彼女が打った円盤は、逸れることなく、真っ直ぐ俺の自陣に入り込もうとする。

 俺は彼女が優しく打ち返せるように、飛んできた円盤を優しく打ち返した。

 

「なるほど、大体の要領は掴めた」


 四季咲は俺が返した円盤を強めに打ち返す。

 俺は難なくそれを捌くと、今度は右サイドに向けて打ち返した。


「なっ!?跳ね返るのか!?」


 ジグザグに飛んできた円盤をスマッシャーで受け止めた四季咲は、サイドに向けて打ち込む。

 跳ね返ったそれを彼女が打ち返しやすいように返した俺は、楽しそうに笑みを溢す彼女に話しかけた。


「こういう感じで遊ぶゲームだ。この穴の中に円盤を入れたら1点。で、沢山点数取れた方の勝ちだ」



「完全に把握した。──では、全力で勝ちにいかせてもらう」


 四季咲は楽しそうに何度も頷くと、サイドに向かって円盤を打つ。

 強めに返ってきたそれを一歩も動く事なく、俺はスマッシャーで跳ね返した。

 四季咲が打ち返しそうに位置を狙って。


「ふんっ!」


 お嬢様に相応しくない掛け声で打ち返す四季咲。

 その姿はフリスビーで遊ぶゴールデンレトリバーの姿を想起させた。


(美鈴も四季咲も犬っぽいんだよなあ……美鈴はなんかチワワっぽいし)


 そんな事を考えながら、四季咲が打ち返した円盤を延々と打ち返す。

 打ち返す度、彼女の腕はメキメキ上がっていった。

 が、どれだけ彼女が腕を上げようとも、その状況内で最適な行動を取りがちな点を改めない限り、俺に勝つ事はできない。

 目を瞑っていても、どこに飛んでくるのか分かってしまうのだ。

 模範解答しか出さないから。

 ここで圧勝しても空気を悪くするだけだと判断した俺は、打ち返しそびれる演技をする。

 

「やった!」


 四季咲は年頃の女の子みたいにガッツポーズをすると、本当に嬉しそうな顔をする。


「イマノハ反応デキナカッタナー」


 感情の篭っていない棒読みな台詞が俺の口から飛び出した。

 "やっぱ嘘吐くのって難しい"と思いながら四季咲の方を見る。

 さっきまで緊張し過ぎて自信なさげだった彼女は、自信を取り戻したのか、自信満々な態度を取っていた。


「神宮。このまま勝負しても面白くないから、賭けをしようじゃないか」


 たった1点もぎ取っただけで、四季咲は分かりやすく調子に乗っていた。

 意外な彼女の一面を垣間見た俺は、苦笑いを浮かべながら彼女に質問を投げかける。


「……賭け?」


「そうだ。聞いた話によると、親しい間柄で遊ぶ際、賭け勝負をするのが普通なのだろう?」


「まあ、間違ってはないが……」


 よく布留川達や啓太郎達と賭け勝負しているのを思い出しながら、四季咲の言葉を肯定する。


「このエアーホッケーとやらを120パーセント楽しむため、私達も賭けをしよう。負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く……というのはどうだ?」


「お前がやるって言うなら、別にいいけど……予め聞いておく。お前は一体、俺に勝ったら何を要求するつもりだ?」


「あそこにある服を着て貰う」


 四季咲は俺の背後──プリクラコーナーにあるメイド服や女性用チャイナ服などを指差す。

 

「……お前、俺を女装させたいのか?」


「そうでもしないと緊張感出ないだろう?」


 四季咲は不敵な笑みを浮かべると、腰を落とし、いつでもエアーホッケーができるように身構える。

 女装したくない俺は、短く息を吸い込むと、手に持っていた円盤を放り投げ──宙に浮いた状態の円盤の側面を右手で思いっきり叩いた。

 物凄い勢いで発射された白の円盤は、彼女が持っていたスマッシャーの上を通り抜けると、彼女側が守るべき穴の中を潜り抜ける。


「──悪いな、四季咲」


 持っていたスマッシャーを弄びながら、目を丸くした四季咲に勝利宣言を浴びせた。


「俺、身体を動かす遊びで負けた事ねぇから」



 今回の更新もお付き合い頂きありがとうございます。

 そして、この場を借りて、いつも読んでくれている方、過去にブクマしてくれた方、新しくブクマしてくれた方にお礼を述べさせて貰います。

 本当にありがとうございます。

 

 次の更新は本日19時頃に予定しております。

 

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