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4月21日(15) 「俺の志が折れそうになった話」の巻

 慣れた手つきで俺は"RAINE"と呼ばれるチャットアプリを開き、自分のアカウントでログインする。

 そして、東雲市を拠点に活動しているヤンキーグループのリーダー──友達という程、仲良くはない。月に1回か2回、喧嘩売られる程度の仲。あと、寮長に惚れている──と連絡を取る。

 彼等は最初だけ俺に反発したが、寮長のお宝写真をあげると言ったら快く協力を引き受けてくれた。

 彼等に金髪緑瞳のアルファ民族と"一匹狼"を探してくれと頼んだ後、俺は委員長と伊紙丸達が送ってくれたチャットに目を通す。


 委員長と伊紙丸のチャットを見ていると、彼等は、あの後、小鳥遊一家の行方を友達や親戚の伝手で探してくれたらしく、"一匹狼"の目撃情報を掻き集めてくれていた。

 彼等が集めた情報──四季咲が目撃された住所をメモしながら、俺は大体の居場所を推測する。

 今、自分にやれる事をやり切ったので、少しだけ仮眠を取ることにした。

 高そうなソファーの上に寝転がった俺は目蓋を閉じる。

 次に目が覚めたのは午前1時前。

 四季咲がベッドルームから出て来た時だった。


「神宮、そんな所で寝たら風邪引くぞ」


 俺は目を閉じたまま、寝た振りをする。


「全く……仕方のない奴だな」


 四季咲寝た振りをしている俺の方に近づいて来る。

 毛布を掛けてくれるのだろう。

 彼女のご厚意に甘える事にする。そんな甘っちょろい事を考えていると、俺はソファーから引きずり下ろされた。


「よいしょっと」


 四季咲は俺の両脇の下から手を入れると、俺の臀部を床から上げるようにして引っ張り始める。

 俺は寝た振りを即座に止めると、静止の声を出してしまった。


「待て待て待て待て!!」


「あ、神宮、起きていたのか」


「"起きていたのか"じゃねぇよ!お前、自分が何をしているのか分かっているのか!?」


「ん?君をベッドに寝かせようとしているだけだが」


「俺はお前に気を遣って、ここで寝てんだよ!!」


「ん?別に気を遣わなくていいぞ?」


「二次性徴を迎えた未成年の男女が、一緒の部屋で寝泊りするのは問題行為だっての!!」


 小中高女子校にしか通っていない温室培養のお嬢様は、俺が言っている事が理解できないのか、汚れなき瞳のまま可愛らしく首を傾げる。


「お前、俺に襲われるって思わない訳!?」


「君が理由もなく、人を襲う人間だと思わないのだが」


「昼間の俺はな!夜の俺はそうじゃねぇかもしれねぇだろ!!」


「ん?昼も夜も君は君のままだと思うんだが」


 話が全く噛み合わない。ふと、ある疑問が俺の脳裏に過ぎる。


「……お前、襲うという単語の意味、本当に分かって言っているのか?」


「ああ、乱暴にされるという意味だろ?」


「分かっているのか分かっていないのか曖昧な答え、どうもありがとう」


「君は何を言いたいのだ?」


「一夜の間違いを犯す可能性を考慮しろと言ってんだよ、温室育ちのお嬢様」


「いちや、……のまちがい?」


「俺がお前を性的に襲うかもしれないって事だよ!!」


「……ん?」


「性欲に流された俺が、お前と子作りに値する淫らな行為をするかもしれないって事だよ!!」


 そこまで言って、ようやく四季咲は俺の言いたい事を理解してくれた。

 彼女は頬を真っ赤に染め上げると、気まずそうに俺から視線を逸らす。


「わ、私はシンヨウしているぞ。君がそのようなニンゲンではない事を」


「おーい、こっち見て話せ。本当に信用しているのなら、俺の目を見て話せー」


 ぎこちない笑みを浮かべながら、彼女は油の切れたロボットみたいなぎこちない動作で、俺の方を見る。


「いいか、四季咲。女子校育ちのお前にはあまりピンと来ないと思うが、男はみんなオオカミだ。常日頃、ニャンニャンしたいと思っている」


「にゃ、……ニャンニャン?」


「ほら、夜中、偶に不気味な雌猫の鳴き声が聴こえて来るだろ、例のアレだ」


「は、はぁ……言っている意味がよく分からないが」


「俺だってそうだ。俺も両手で掴んでも溢れそうなくらい大きなおっぱいの持ち主とニャンニャンしたいと常日頃思っている」


 1度も触った事のないバケツプリンみたいなおっぱいを想像しながら、俺は両指をガチャガチャ動かす。


「けど、偶に思うんだ。"あれ?俺、ずっと富士山登りたいと思っていたけど、別に平野を駆け抜けるだけでも十分満足できるんじゃね?"って」


「……つまり、どういう意味だ?」


「"おっぱいならどんな大きさでも愛せるんじゃないか?"っていう意味」


「一体、私は何を聞かされているんだ!?」


「俺の志が折れそうになった話」


「カッコよく言って、誤魔化すんじゃない!!」


「まあ、そういう訳で、今、お前の目の前にいるセクハラ野郎は、無防備な女がいたら衝動的に手を出すかもしれない最低野郎だって事だ」


 俺はソファーの上に寝そべりながら、欠伸を浮かべる。


「分かったなら、さっさとベッドルームに鍵をかけて寝ろ。オオカミになるかもしれない俺はここで寝るか……」


 四季咲はソファーの上に寝そべる俺の両足をがっしり掴むと、そのまま俺を引きずり始める。


「ほら、我儘言ってないで、ベッドルームに行くぞ」


「再び話を振り出しに戻しやがった!?」


「大丈夫だ、安心しろ。もし君が私に手を出した際、弁護士を通して多額の金を君に請求してやるから」


「安心する要素が1つもねぇ!!」


「私は"信頼"しているぞ。君は軽いセクハラはするが、私が嫌がる事を本気でやる人間ではない事を。まあ、君の事だ。たとえ手を出したとしても、責任を取ってくれるだろう。そう考えると、間違いが起きても何も問題はない」


「四季咲、その信頼、ちょっと重い気がするんだが……ちょ、待っ……俺の話を聞いて……ぎゃああああ!!!!」


 抵抗する暇を与えられる事なく、俺はベッドの上に連れ込まれてしまう。


「ちょ、待っ……四季咲さん、そんな力尽くでベッドの上に寝かしつけ……すぅ……」


 高級ベッドの気持ち良さに勝てる筈もなく、俺はベッドの上に寝そべった途端、めちゃくちゃ熟睡してしまった。


 いつも読んでくれてありがとございます。

 次の更新は本日18時に投稿します。

 本編ではなく、2万PV達成記念短編でありますが、よろしくお願い致します。

 

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