4月21日(13)高級ホテルと魔法陣の巻
四季咲が借りたホテルは、俺らがさっき訪ねた二重の意味で高いホテルだった。
「な、……なんか、めちゃくちゃキラキラしている……!!」
四季咲が借りたホテルの一室に入った途端、美鈴は今まで聞いた事のないような驚きの声を発した。
「窓がめちゃくちゃデカい!!天井もめちゃくちゃ高い!!家具もなんかピカピカしているし、壁紙が真っ白!!うわ!お伽話のお姫様が寝るみたいなベッドが隣の部屋に置いてある!!ねえ、お兄ちゃん!!これ見て!!テレビでよく見るお金持ちのお家に置いてそうな高そうな壺!!これだけで何円するのかな!?」
「美鈴、とりあえず落ち着け。一旦、落ち着くために枕投げでもしようか」
「それで部屋の家具を壊したらどうするの!?お兄ちゃんこそ一旦落ち着いた方が良いと思うよ!!」
「分かった、とりあえず天井のシミの数を数え……って、天井にシミがねぇ!!」
俺の隣にいる小鳥遊弟は、桁違いの高級感に呑まれて放心状態だった。
四季咲は気まずそうに俺らの方を見続ける。
あまり金持ちである自分を鼻にかけたくないのだろう。
以前、彼女は自分が裕福なのは親のお陰で、自分の功績ではないと言っていたのを思い出す。
「い、一応、お風呂もついているぞ。美鈴ちゃん、入って来たらどうだ?」
「ありがとうございます!でも、お風呂に入る前にやらなきゃいけない事をやらなくちゃ……四季咲さん、ペンと紙持っている?」
「ああ、一応、持っているが……」
そう言って、四季咲は通学鞄の中からルーズリーフとシャープペンシルを取り出すと、それを美鈴に手渡す。
「美鈴、何をするつもりだ?」
「魔力を探知するための魔法陣を書いているんだよ。四季咲さんなら魔術を扱えそうだから」
「魔術……って、キマイラ津奈木さんが言っていた"魔法を再現した技術"の事か?」
戸惑いながら四季咲は美鈴に質問を投げかける。
「うん、そうだよ。魔法陣という構築式か詠唱という名の発動キーを音声入力する事で使える魔法モドキ。それを四季咲さんに使って貰おうと思って」
「何故、私なんだ……?神宮や小鳥遊君ではダメなのか?」
「お兄ちゃんには魔術を扱うだけの魔力を感じられない。小鳥遊君は人狼だから、身体の構造的に魔術を扱う事は、普通の人間と比べるとハードルが高過ぎる。元々、魔術ってのは魔法を扱えない子羊が、魔法使いと同等の力を得るために生み出した技術だし。小鳥遊君みたいに最初から特別な人間が扱うには不適切な技術なんだよ、魔術ってのは」
「つまり、先天的な才能の持ち主である魔法使いが、後天的に魔術を獲得するのは難しい事だと」
「うん。だから、魔法と魔術を扱える特別な人は、"魔導士"として崇められている」
美鈴の話が本当なら、俺に襲いかかって来た『magica』の魔導士の方々は、かなり凄い人達なんだろう。
あまり喧嘩は強くなかったが。
もしかしたら、戦闘向きの人達じゃなかったのかもしれない。
「美鈴は魔術を使えないのか?」
「うん、神器になってしまった影響でね。魔力を練り上げる事は、小鳥遊君同様、身体の構造上、難しいんだよ」
そうこう話している内に、美鈴はものの数分程度で幾何学的な模様をルーズリーフに描き切ってしまった。
そして、ルーズリーフをもう1枚取り出した美鈴は、魔法陣を書いた紙とは別の紙に数式のようなものを書き出す。
「四季咲さん、6桁の暗算できる?」
美鈴はとんでもない事を言い出した。
6桁の暗算?
俺は2桁の掛け算だってできないぞ。
「まあ、一応9桁まではできるが……」
四季咲はとんでもない事を言い出した。
え?6桁の暗算って余裕でできるものなの?
「この数式を覚えられる?」
「先ず数式の英文字について教えて貰いたい。このαは一体何を表しているんだ?」
「それはイデア数値を意味する英文字だよ」
「イデア数値?」
「簡単に説明すると、イデア数値というのは……」
「小鳥遊弟、一緒に風呂に入るか」
「うん」
彼女達の高度な会話についていけない俺達は、一緒に風呂に入る事にする。
風呂はかなりデカかった。
流石に泳げる程、広いという訳じゃないが、足を伸ばしてもお釣りが来るくらい広かった。
シャンプーもいつも寮で使っているものよりも上質なものだった。
「……このシャンプー毎日使っていたら、俺、上品な人間になれるような気がする」
「なれないよ。だって、お姉ちゃん、これと同じやつ、毎日使っているから」
「え?マジで?これ使ってて、毎日のように俺に喧嘩売って来てんのか、あいつ?」
「え!?僕の姉ちゃん、毎日のように喧嘩売っているの!?兄ちゃんに!?」
「そりゃあ、もう顔を合わせる度に。なんか自分より強いオスがいるのが気に食わないとか何とかで」
「あー、姉ちゃん、人狼の"オスにしか群れのトップに立つ事ができないという風潮"に一石を投じたいって、子どもの頃からずっと言ってたからなあ」
「なら、なんで人狼じゃない俺に喧嘩売ってるんだよ。俺の事が好きなのか?」
「まあ、それはないと僕は思うけどね。姉ちゃん、生涯恋愛なんかしないって公言しているし。多分、兄ちゃんに負けて悔しいからリベンジしているだけだと思うよ」
「まあ、そうだよな。あいつから好き好きオーラ感じた事ねぇし」
「どういうオーラなの、それ」
「こう、……好き好きドッキュン!みたいな感じ」
手でハートマークを作りながら、身体をクネクネさせる。
「そんな男に媚びたようなジェスチャー、姉ちゃんじゃなくても、誰もやらないと思う」
"エロ動画ではよく見るぞ"という言葉を呑み込む。
どうせ彼も思春期になれば自動的にエロスの波動を受け取れるようになるだろう。
その時が来るまで小鳥遊弟には健全でいて欲しい。
その一心で俺はエロワードを胸底に押し留める。
風呂から上がった俺達──俺は元々着ていたジャージ、小鳥遊弟にはバスローブを着せた──に待ち受けていたのは、光り輝く魔法陣を前にした美鈴と四季咲の姿だった。
「ダメだ、何度やっても魔法・魔術を使った痕跡を感知できない」
美鈴は首を横に振る。
「私の計算が間違っている所為か?」
「いや、計算が間違っていたら、魔術を起動する事なんてできないよ。多分、この周辺で現在、魔法及び魔術が使われていないから、或いは探知を防ぐ魔術を行使している所為で感知できないんだと思う」
「範囲を広げる事はできるか?」
「できないよ。この魔術は半径3キロが探知限界の魔法陣だし」
「なら、もっと過去に遡って痕跡を感知するやり方は?」
「それも無理だよ。24時間以上前に遡るとなると、もっと高度かつ専門的な魔法陣と構築式が必要になる。基礎の魔術しか知識がない私には描けない代物だよ」
「なら、別の魔術で手がかりを掴む事はできるか?」
「私の知っている基礎魔術じゃできないかも……」
どうやら魔術で手がかりを掴むやり方は失敗したようだ。
「お前ら、気分転換も兼ねて風呂入って来たらどうだ?」
「それもそうだな……美鈴ちゃん、一緒に入っても良いか?」
「うん、四季咲さんさえ良ければ。じゃ、お兄ちゃん、風呂いただきまーす」
「おう、風呂を食うんじゃねぇぞ」
そう言って、彼女達は風呂場に直行する。
「さて、美鈴と四季咲も頑張っていたし、俺達も少し頑張るか」
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、変わらずブクマしてくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。
皆さんのお陰でそろそろブクマ90件超えそうです。
着実にブクマ100件突破しそうで毎日ウキウキしてます。
また、PVもそろそろ4万PV突破しそうです。
まだ2万PV突破以降の記念短編を用意できていないので恐縮ですが、PV伸びる度に皆さんに感謝しています。
本当に本当にありがとうございます。
明日の更新は本編を12時に更新します。
そして、2万突破記念短編を明日の13時・17時・20時に更新致します。
まだ7割程度しかできていないため、もしかしたら20時以降にも更新するかもしれません。
更新時間の詳細は明日12時に更新する本編の後書き・活動報告・宣伝用のtwitter(@Yomogi89892)・雑談用の(@norito8989)で告知致します。
よろしくお願い致します。




