4月21日(12)「人狼じゃなくて、俺がオオカミになってしまうぞ、ガチで」の巻
「それよりも寿司食おうぜ寿司。寿司なんて年に1回食えるかどうかの代物だぞ。今、沢山食わなきゃ人生の半分は損すると言っても過言ではない」
場の空気を変えるため、強引に話題を切り換える。
「え!?そうなの!?寿司ってそんなに高価な食べ物なの!?」
真っ先に俺の話に食いついたのは美鈴だった。
「ああ、寿司焼肉ステーキは盆とか正月とかでしか食べれない高価な食べ物なのだ」
俺の話を聞いた途端、四季咲は気まずそうに目を逸らす。
「おい、そこのお嬢様。"寿司くらいいつでも食べられるのに"みたいな事を今思っただろ?」
「……す、すまない、ちょっとだけ思ってしまった」
「え!?四季咲さんって毎日お寿司食べているの!?」
「ま、まあ、食べようと思えば……」
「じゃあ、たこ焼きも鯛焼きもお兄ちゃんが言う焼肉ってやつもいつでも食べられるの!?」
「あ、ああ、両親が多額のお小遣いを私に与えているからな。ただ、私は食に興味がないため、あまり食べ物にお金を費やす事はない」
「え!?じゃあ、四季咲さんは何にお金を費やしているの!?」
「殆どは美容系や資格系だな」
「資格系?四季咲、お前なんか資格持っているのか?」
「ああ。幾つかな。最近取った資格だと、特殊小型船舶免許が挙げられるな」
「特殊小型……?んだ、そりゃ」
「水上バイクを運転するための免許だ。ほら、バラエティ番組でよく芸人が水上で乗っているだろ?アレだ」
「あー、アレか。……なんで四季咲は水上バイクの免許を取ろうと思ったんだ?」
「……春休み、やる事がなかったからだ」
四季咲は遠い目をしながら、えんがわを口の中に入れる。
「やる事なかったって、……蜘蛛女達と遊んだりしなかったのか?」
俺と美鈴はほぼ同じタイミングで、お茶を口に含む。
「い、…….1度だけ遊んだぞ。東雲市に行く予定だったが、駅構内で倒れていた警官を介抱する事になってな。結局、東雲市に行けなかった」
「「ぶふぅ!!」」
俺と美鈴は口からお茶を吹き出してしまう。
「ど、どうした!?」
四季咲と今の今まで沈黙していた小鳥遊弟は、俺らの奇行を見た途端、心配したような表情を浮かべる。
「だ、大丈夫だ、変な所に詰まっただけだから。話を続けてくれ」
どうやら、4月1日、金郷教の追手から逃れようとしていた俺達の前に現れ、知らぬ間に気絶した寮長の弟──桑原駅前の交番に勤務している警官。あの日、何故気絶したのかは永遠に闇の中──を四季咲達が回収していたらしい。
もしあの時、寮長の弟を見捨てていなかったら、彼女達は電車爆破事故……いや、金郷教騒動に巻き込まれていただろう。
あの時、寮長の弟を見捨てて本当に良かったと心の底から思う。
(そういや、今思い返すと、ボロボロになった鎌娘を見て、寮長の弟を召喚したのは蜘蛛女達だったような……)
「そういや、あの日、私達が乗ろうとした東雲市行きの電車は謎の爆発事故を起こしたそうだ。もし駅構内に警官が倒れてなかったら、私達があの警官を見捨てて東雲市に向かっていたら、間違いなく私達はあの電車事故に巻き込まれていただろう。そう考えると、あの警官は私達にとって命の恩人かもしれないな」
しみじみとした声色で4月1日の事を振り返る四季咲。
小鳥遊弟は俺らが茶を吹き出した理由を理解したようで──そういや、さっき電車爆破は2度目って言ったような気がする──、俺と美鈴を白い目で見始めた。
「た、小鳥遊弟は春休み、何してた!?」
四季咲に気づかれる前に小鳥遊弟に雑談を振る。
「家族と一緒に夢の国に行った」
「お前の姉ちゃんも夢の国に行ったのか?」
不機嫌そうに某ネズミキャラと写真を撮る"一匹狼"の姿が、頭を過ぎる。
「うん、というか姉ちゃんが行きたいって駄々を捏ねた結果、夢の国に行く事になった」
俺が抱いていた彼女のイメージ像がガタガタ崩れ落ちてしまう。
よし、今度喧嘩売られたら某ネズミキャラのぬいぐるみをあげて、機嫌を良くしよう。
「ねえねえ、夢の国ってあれだよね!?千葉にあるのに東京という文字がついている例の遊園地の事だよね!?ねぇねぇ、本当に大っきいお城あるの!?」
遊園地に行きたがっている美鈴は、いくらを食べるのを一時中断するくらい興奮していた。
「いや、僕が言ったのはランドじゃなくてシーの方だから」
「じゃあさ、じゃあさ、……」
美鈴は食べるのを中断しながら、小鳥遊弟から夢の国情報を根掘り葉掘り聞き出そうとする。
完全に2人の世界に入ってしまったので、俺はネギトロを食べながら、四季咲に話を振った。
「なあ、四季咲。お前は何で東雲市に来たんだ?」
「ん、ああ、ちょっと両親と近況報告を交わすためにな。そういや、私の父が君に会いたいと言っていたぞ」
「お前、一体自分の父に何を話したんだよ」
俺達はお腹いっぱいになるまで、いや、お腹いっぱいになってからも、どうでも良い事を話し続けた。
「そういや、神宮。君はこれからどうするつもりだ?」
22時前後、回転寿司屋から出た俺達は聞き込み調査を再開しようとした矢先、四季咲から質問をされてしまう。
「夜0時過ぎまで聞き込み調査した後、ネカフェに行くつもりだが……」
「宿は取らないのか?」
「金がないから、ネカフェに行くつもりだ」
「いいのか?ネカフェは意外とセキュリティ甘いと効くが……」
「バカヤロウ、最近のネカフェは昔と違って、鍵がついている所があるんだぞ。余計な心配はしなくて良いから、お前はさっさと寮に帰れ」
「いや、今日は寮に戻らない。元々、両親と共にこの辺りのホテルに泊まる予定だったからな。……両親は急用により東京の方に戻ってしまったが」
四季咲は少しだけ悲しそうな表情を浮かべると、まるで名案を思いついたかのような声色で、俺らにある提案をしてきた。
「もし良ければ、私のホテルに来ないか?4人部屋を取ったから、ホテルの人に事情を話せば、恐らく君達も泊まれると思う」
四季咲の貞操観念皆無の発言を聞いた俺は、思わず絶句してしまう。
こいつ、俺の事をどう思っているんだ?
美鈴や小鳥遊弟はともかく、俺は年頃の男の子だぞ。
毎日おっぱいの事しか考えていない男の子と一晩共に過ごしたら、ウフフな事が起きてしまうぞ、マジで。
人狼じゃなくて、俺がオオカミになってしまうぞ、ガチで。
四季咲の貞操を守るため、俺は彼女の申し出を丁重に断ろうとする。
すると、彼女の貧相──と、までは言わないが、あまり大きくないおっぱいが視界に飛び込んできた。
ナニはピクリとも動かなかった。
あ、これなら彼女と一晩過ごしても過ちを犯す事はない。
そう判断した俺は、彼女に手を差し伸べる。
「四季咲。その案、ありがたく乗らせてもらうぜ」
「今、私の胸を見て決めなかったか?」
こうして、俺らは四季咲が借りているホテルの一室で一晩過ごす事になった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくださった方、変わらずブクマしてくれている方に厚くお礼を申し上げます。
ここ最近公募用の準備や新連載の準備だけでなく実生活の方でもバタバタしているため、中々物語が進展しなくて申し訳ありません。
本当は一気に複数話投稿して山場まで持っていきたいのですが、再来週まで本編の複数話投稿できそうにないです。
また、金曜日に更新する予定の番外編の短編は複数話投稿する予定ですが、まだ完成していません。
金曜日までに完成させますので、詳細は明日の更新までお待ちください。
これからも完結&ブクマ100目指して、一話毎の話の質を高めていきますので応援よろしくお願い致します。




