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4月21日(11) 巻き込みたくないお嬢様と回転寿司と人権の巻の巻

 

 

 フロントの人に精神科に行く事をお勧めされてしまった。



「そりゃそうだよ!魔法の存在を知らない一般人にあんな事を聞いたら、あんな反応されてもおかしくないよ!!」


「バカだ!とんでもないバカがここにいる!!」


 新神で二重の意味で高いホテル前まで戻ってきた俺は、傷心状態に陥っていた。先程、俺に精神科に行くよう勧めた人──本当に心配そうな顔をしていた──の顔を思い出しながらガチで凹んでいた。

 いや、人って馬鹿にされるよりもガチで頭の心配された時の方が傷つくんだね、勉強になった。

 やべ、泣きそう。


「ごめん、美鈴、小鳥遊弟。ちょっとそこの病院行って来るわ。心の怪我を癒して貰う」


「あそこは泌尿器科だ!!」


 人の目を憚る事なく、ギャーギャー騒いでいると、背後から急に聞いた覚えのある声が聞こえて来た。


「じ、……神宮、何でここに……?」


 振り返る。

 そこには美鈴と同じく、容姿だけで金が稼げそうな聖十字女子学園の制服を着たお嬢様が立っていた。


「「「誰……?」」」


「神宮は昨日会っただろう!四季咲だ!!四季咲楓だっ!!」


 四季咲という名前を聞いて、ようやく彼女の名前と容姿が一致する。

 いや、まだ彼女の外見は未だに慣れていない。

 最初会った時のチビデブの姿が強烈過ぎて、つい本来の彼女の姿をうっかり忘れてしまうのだ。


「で、何でお前がここにいるんだ?」


「それはこっちの台詞だ。何故、学校を休んだ筈の君がここにいるんだ?お陰で今日の学校は……うん、大変、だったぞ」


 四季咲が遠い目をしながら明後日の方向を見つめる。

 それだけの仕草でどれだけ大変だったのかを把握してしまった。

 布留川では桑原学園の狂人達を止められなかったのだろう。

 南無、布留川。


「すまんな、ちょっと野暮用が入って。俺の代理を立てたけど、そいつじゃ力不足だったか?」


「……ああ、私の唯一と言っても過言ではない友──"歩く性衝動"の手によって布留川さんも君が委員長と呼ぶ女の人も葬られてしまった」


「どんだけ強いんだよ、"歩く性衝動"」


 委員長はともかく、布留川は俺でもちょっと苦戦するくらい腕っ節強いのに。


「あ、そうそう、四季咲。この人達の顔をどっかで見た事あるか?」


 折角なので小鳥遊一家の家族写真を彼女に見せる。


「確かこの私達と同年代っぽい女性は、君とコンビニに行った時に会った人だろう?あの時、会ったのが最初で最後だ。……君はこの人達を探しているのか?」


「ああ、ちょっとな」


「で、この人達は現在進行形で危機的状況に陥っていると」


 小鳥遊に本当の事を言うかどうか迷ってしまう。

 ただでさえ、美鈴と小鳥遊弟を守るので手一杯だ。

 四季咲が足手まといと言う訳ではないが、このまま彼女も連れて動き回ったら、最悪な事態に陥った時、3人とも守れない可能性が──



「うお!凄い!!ご飯の上に乗った魚が次々に流れて来る!!」


「お前、回転寿司知らねぇのかよ。あ、トロ!美鈴さん、それ取って!!」


「え!?トロってなに!?トロトロしてるこれ!?」


「それ、山芋!トロはそっちの赤いやつ!!」


「おいおい、お前らちょっとは遠慮しろよな」


「さり気なく大トロを貪っている兄ちゃんに言われたくねぇよ。それ、一貫ものだろ」


「まあまあ、遠慮する事なく食べてくれ。私の奢りだ」



 回転寿司の魅力には勝てなかった。


 魔女騒動の時のお礼という名目で、四季咲は俺達に回転寿司を奢ってくれた。


「凄いよ、お兄ちゃん!!見て見て!!ご飯の上に卵が乗っている!!」


「卵寿司で興奮できるの、日本でお前だけだと思うぞ。あ、四季咲、このプリンアイス注文していいか?」


「食べてもいいが、腹壊さないようにな」


「バッカ、アイスでお腹壊すかよ」


「って、寿司食べている場合じゃないだろう!!」


 小鳥遊弟は他の客に迷惑がかからないように机を軽く叩くと、俺らの注目を集める。


「僕の家族が行方不明になっているんだよ!?こんな所でのんびり寿司食べている場合じゃない!!」


 四季咲に情報が渡ってしまう。

 俺は"あちゃー"と思いながら、サーモンを口の中に放り込んだ。


「なるほど。啓太郎さんの予想通りか。神宮、君は人狼の人達を助けるために『magica』という組織に……いや、世界一の魔術師に喧嘩を売っているのだな」


 断片的な情報にも関わらず、彼女は一発で真実に辿り着きやがった。


「ど、……どんだけ察しが良いんだよ、お前」


「私というより啓太郎さんだな、この察しの良さは。今日の放課後、啓太郎さんに行方を眩ましている君の行方を聞きに行った時に啓太郎さんから聞いたのだ。人狼の子どもを連れた正体不明の少年が、『magica』の魔導士とやらを次々に撃破している事を。そして、こんな馬鹿な事をやるのは君くらいしかいない事を。まあ、裏が取れていなかったから、啓太郎さんの想像の域を出ていなかったのだがな。……君とここで会うまでは」


 サーモンを口に入れながら、俺は四季咲から目を逸らす。


「啓太郎さんや津奈木さんに言わなくていいのか?」


「いや、あいつらにも立場がある。今回はあいつらの力を借りる訳にはいかない」


「そうか。で、勝算はあるのか?」


「俺、喧嘩で負けた事は数える程しかねぇよ」


「その世界一の魔術師とやらを倒せれば、人狼の人達は救われるのか?」


「さあ?"絶対善"を倒した所で第2、第3の刺客が現れるかもしれない」


「魔術師である津奈木さんは言っていた。魔法使い達にとって人狼──魔族は生まれながらにして"悪"だと。魔族イコール悪という魔法使い達の偏見を崩さない限り、人狼達は狙われる事になると」


「でも、人狼の人達が人権を獲得したら狙われなくなる」


 美鈴は卵寿司を頬張りながら、俺らの話に割り込む。


「『magica』の魔導士の人に聞いた話によると、マーメイド族やミノタウルス族は、魔族であるにも関わらず、魔法使い達にとってメリットがあるからという理由で人権を与えられた。だから、人狼達が何かしらのメリットを『magica』の人達に提示できれば、2度と狙われなくなるかもしれない」


「なるほど、人狼達は人権がないから狙われているのか……その視点は私にはなかった」


「そういや、テリヤキ君は人狼を害獣に喩えていたな」


「てりやき……?」


「俺に喧嘩を売ってきた『magica』の魔導士だ。今は夜の飼育員に飼われている」


「何があったら飼育員に飼われる状況に陥るんだ?……まあ、その話は置いといて。失礼だと自覚しているが、害獣の喩えで人狼達が置かれている状況をなんとなく理解する事ができた。恐らく、『magica』の魔導士達は、人狼──魔族側が人間の生息域に出現する事で被害が顕在化するのを恐れているのだろう」


 四季咲は難しい表情を浮かべながら、イカ寿司を上品な仕草で口に運ぶ。


「じゃあ、人狼さん達は無害だって事をアピールすれば良いって事?」


「いや、無害をアピールする程度で止まるなら、このような強行策に出ていなかっただろう。人狼を1匹捕縛するだけで金も人材も時間もかかる。つまり、それらを浪費してでも人狼を捕まえなきゃいけない理由があるのだと思う」


「その理由ってのは何だ?」


 マグロの赤身を頬張りながら、俺は自分の存在をアピールする。


「今の時点では分からない。だが、理由が分からなくても強行策なら止められる」


「どうやって?」


「さっき、美鈴さんが言っていた通りだ。人狼が人権を獲得できたら、『magica』の魔導士達は人狼達を無闇矢鱈に捕縛できなくなる。私はあまり人権云々について詳しくないため、断言はできないが、もし人狼が人権を獲得した場合、1948年に国際連合総会で採択された"世界人権宣言"が適用できるようになるかもしれない」


「……それが適用されたら、どうなるんだ?」


 四季咲の話についていけなくなった俺は、首を傾げる。


「魔導士達が人狼達を専断的逮捕・拘禁・追放できなくなる……かもしれない」


「かもしれないってなんだよ」


「"世界人権宣言"は法的拘束力を持たないと考えられている。日本みたいに現在進行形で行われている冷戦とは一切関係ない国では、"世界人権宣言"は慣習国際法としての地位を獲得しているのだが、主要な先進国は、世界人権宣言の内容を基礎とした条約の起草を半世紀近く行っていない。そのため、"人狼達が人権を獲得できたら、『magica』から追われなくなる"なんて事は、人権についての情報も知識も不足している私の口から迂闊に断言する事はできない」


「じゃあ、人狼達が人権を獲得したとしても状況は変わらないかもしれないって事か」


「いや、そうとも限らない。一部の魔族と呼ばれる者は人権を獲得している。この事実が本当なら、『magica』という組織は、もしかしたら"世界人権宣言"を慣習国際法として扱っているのかもしれない」


 おい、難しい言葉ばかり使いやがって。

 結局何が言いたいんだよ。と、思いながらプリンアイス2杯目を食べる。


「つまり、人狼さん達が人権を獲得できたら、法律ガードで魔導士達を退ける事ができるしれないって事だよね。だいたいしょうち」


「ああ、その通りだ」


 美鈴が四季咲の説明を簡単に要約してくれた。

 それにより俺は今までの話の概要をなんとか掴む事に成功する。


「じゃあ、僕らはその人権ってのをどうやったら獲得する事ができるの?」


 小鳥遊弟の質問を聞いた途端、四季咲も美鈴も言葉を詰まらせてしまった。

 恐らく具体的な方法までは考えていなかったのだろう。

 彼女達は悩みながら、回って来た寿司を機械的に淡々と口に入れ始める。


「……今の情報量で結論を下すのは、ちょっと迂闊過ぎるだろ。一旦、保留だ」


 3杯目のプリンアイスを食べながら、俺はそれっぽい事を言って誤魔化した。


この場を借りて、新しくブックマークしてくれた方にお礼を申し上げます。

 また、過去にブックマークしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、いつも読んでくれている方、最新話まで追っかけてくれた方に感謝の言葉を述べさせてもらいます。

 本当にありがとうございます。

 これからも皆様に楽しんで頂けるよう頑張りますので引き続きよろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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