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4月21日(10) 小鳥遊の行方/決め台詞の巻

 正午過ぎに目覚めた俺は、美鈴達が起きるまでの間、匿名掲示板やSNSを使って、人狼の目撃情報を探そうとする。

 しかし、幾らネットサーフィンをしても、人狼の"じ"の文字さえ見つからなかった。


「聴き込み調査以外、方法はないか」


 "絶対善"と呼ばれる魔法使いは、俺同様、人狼である小鳥遊一家を探している筈だ。

 つまり、小鳥遊一家の行方を探っていれば、いつか遭遇する事になる。

 幸い、俺は小鳥遊一家の家族写真を持っているため、"絶対善"よりもアドバンテージはある筈だ。

 水に浸かって濡れてしまった写真をポケットから取り出した俺は、写真に映る"一匹狼"と睨めっこし始める。


「……なあ、"一匹狼"。お前は一体どこにいるんだ?」


 もし俺が彼女と仲良くしていれば、大体の居場所を推測できただろう。

 しかし、俺と彼女は知り合い以上友達未満。

 肉親である小鳥遊弟でさえ、居場所の検討がつかないのに、俺が推測できる筈が………。


「いや、待て。そういや、あいつ、桑原町の隣町のコンビニで働いていたな」


 ネットで彼女のバイト先であるコンビニの電話番号を調べた俺は、ネカフェの電話を借りて、彼女のバイト先に電話する。

 電話に出たのは店長だった。

 どうやら店長も彼女と連絡が取れていないらしい。彼女が家族諸共何かしらの事件に巻き込まれていて、今バイト先に出れる状況ではない事を店長に知らせる。

 店長は俺の話を信じてくれた。

 そして、店長は彼女の行きつけの店──新神にある個人経営のペットショップを俺に教えてくれた。

 情報を提供してくれた店長に感謝の言葉を述べた俺は、彼女行きつけのペットショップに電話を掛ける。

 ペットショップの店員も良い人だった。

 "一匹狼"が行方不明になっていると言うと、快く俺に情報を提供してくれた。

 が、捜索の手掛かりにはなり得ない情報だった。

 話している途中、"なんで俺の話を信じてくれるんですか"と尋ねる。

 ペットショップの店長は、"君の名前は小鳥遊さんからよく聞いていた"と言った。

 "あいつは何を言ってたんですか"と尋ねた。 

 店長は"小鳥遊さんは君の事をヒーローだと呼んでいた"と言った。

 どうやら俺が思っている以上に、俺は彼女に評価されているらしい。

 少しだけ照れ臭くなる。

 店長は最後にこう言った。

 "小鳥遊さんを見つけてやってくれ。彼女は不器用だから、多分、誰にも助けを求める事ができないんだと思う"と。


「不器用、か……」


 その言葉を聞いた途端、"一匹狼"に親近感のようなものを抱いてしまう。

 俺も不器用な人間だ。

 しなくて良い回り道を積極的に選んでしまうし、空回りもしてしまう。

 頭が悪いから、よく他の人に迷惑をかけてしまう。

 暴力じゃ何も解決しないと知りながら、暴力を使って問題を有耶無耶にしようとする。 

 最低で最悪な人間だ。

 とてもじゃないが、立派な大人とは言い難い。

 ペットショップの店長に礼を言いながら、受話器を置く。

 また振り出しに戻ってしまった。

 鍵付きのワイドルームに戻ると、パソコンを弄っていた小鳥遊弟と目が合った。


「エロサイトでも開こうとしているのか?」


「お前は僕を何だと思っているんだ」


「いずれ人に言えぬ性癖を抱きし者」


 パソコンの画面を見る。

 小鳥遊弟は履歴を見ていた。


「……お前、何で僕達のために頑張っているんだよ」


 小鳥遊弟は俺とパソコンの画面を交互に見ながら、答え難い質問をして来た。

 咄嗟に思いついた答えを口に出す。


「……立派な大人になるため、かな?」


 俺は小鳥遊弟の隣に座りながら、自分の口から出た答えをゆっくり咀嚼する。


「立派な、大人になる、……ため?」


「よく分からないんだけど、……ここでお前らを見捨ててしまったら、俺は立派な大人になれない、……そんな気がする。だから、俺は今ここにいる、……んだと思う」


「……僕も、なれるかな」


 小鳥遊弟は電子の海をぼんやり眺めながら、ぼんやりした声色で呟く。


「……お父さん達みたいな立派な大人に」


「なれるさ、走り続けていたら。いつか」


 またもや意図しない言葉が口から漏れ出た。

 多分、これが俺の本音なのだろう。

 口から漏れ出た本音を心の中で吟味しながら、俺と小鳥遊弟は美鈴が起きるでの間、映画を見る事にした。

 映画の内容は至って単純。

 子どもだった少年が1人前の大人になるまでの物語だった。

 馬鹿で間抜けだった主人公は、物語終盤では立派な大人になっていた。

 その姿を見た俺はフィクションであるにも関わらず、主人公に対して気後れみたいな感情を抱いてしまう。


「僕さ、お父さんの代わりにお母さんとお姉ちゃんを守ろうとしたんだ」


 映画を見ながら、小鳥遊弟は独り言のように呟く。


「けど、僕はお母さんやお姉ちゃんに言われるがまま、逃げてしまった。お母さんもお姉ちゃんも僕の手で守りたかったのに」


 俺は何も言わなかった。

 彼の本当に言いたい事を何となく察していたから。


「……僕が立派な大人だったら、お母さんやお姉ちゃんを守る事ができたかな?」


「……立派な大人になれなくても、守る事はできると思うぞ。ちょっとの勇気と愛さえあれば」


「兄ちゃんは、闘う度に勇気を振り絞っているのか?」


「誰かの人生が懸かっている時は特にな。俺が負けたら、俺が守ろうとしている人達の人生、狂ってしまうかもしれないし」


 美鈴の時と四季咲の時を思い出しながら呟く。

 いつもギリギリだ。

 偶々運が良かったから、偶々周りにフォローしてくれる大人がいたから、俺は彼女達達を何とか守る事ができた。

 何とか自分の思いも他人の思いも大事にする事ができた。


「……兄ちゃんはさ、逃げたらいけない時、どうやって勇気を振り絞っているんだ?」


「昔、バイトリーダー……いや、美鈴の姉ちゃんに貰った決め台詞をカッコつけながら吐くようにしているよ。絶対に逃げたらいけない時、絶対に負けたらいけない時、俺は自分を奮い立たせるためだけに決め台詞を吐き捨ててるようにしてるんだ」


「その決め台詞ってどんなの?」


「それは──」


 いつもの決め台詞を言おうとした瞬間、今の今まで寝ていた美鈴が起き上がる。


「この話はまた今度な」


 小鳥遊弟との会話を一方的に切り終えた俺は、ここから出る準備を始める。

 美鈴が起きた後、ネカフェから出た俺達は周囲で聴き込み調査を行った。

 小鳥遊一家の家族写真を片手に彼等の行方を探す。

 予想していた通り、3時間以上聴き込み調査したにも関わらず、収穫はゼロだった。

 聞き込み調査している際、小鳥遊弟が姉の匂いを何回か嗅ぎ取ったが、途中で匂いが途切れて特定できず。

 何の手掛かりも得られなかったので、当初の予定通り、俺は美鈴と小鳥遊弟を連れて、九州で1番栄えている東雲市の中で1番人がいる新神に移動する。


 夕方、新神に到着した俺達は再び聴き込み調査をした。

 しかし、3時間以上聴き込み調査をしても成果はなかった。

 聞き込み調査の合間、美鈴の言う"人払いの魔術"を行使できそうな場所を捜索していたが、迷子の少年と遭遇してしまったため、少年の保護者探しをする。

 迷子の親探しに時間をかけ過ぎたため、手掛かりは何も掴めなかった。

 俺はアプローチを変える事にした。

 "バカと偉い人は高い所が好き"という考えの下、顔も本名も知らない"絶対善"を探す。

 美鈴と小鳥遊弟は"いや、大人しく写真がある小鳥遊一家を探そうよ"と正論をぶつけた。


 普通に無視した。


 そして、新神で2重の意味で1番高いホテルに到着した俺は、ホテルのフロントに立っているに質問を投げかける。


「世界一の魔術師"絶対善"はここにいますか」


 その言葉を言った瞬間、フロントに立っていた人はこう言った。


「黄色い救急車呼びましょうか?」

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方にお礼を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 皆様のお陰でこの作品がアクション部門月刊ランキング35位(3月15日10時現在)、週刊ランキング30位獲る事ができました。

 厚くお礼を申し上げます。


 2万PV達成記念短編は金曜日に投稿予定です。

 また、3万PV達成記念短編は月曜日に投稿を予定しております。

 2万PV達成記念短編はこれまで通り本編の補完になるお話ですが、3万PV達成記念短編はちょっと趣向を変えたものをお届けするつもりです。

 具体的な事が決まり次第、最新話の後書き・Twitter(@Yomogi89892)・活動報告で告知します。

 今後も引き続きよろしくお願い致します。






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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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