4月21日(7) 土還エンドの巻
捕まっていた人狼20人の中に小鳥遊弟の家族はいなかった。
「よっし、これでオッケー」
人狼一族を解放した俺は──小鳥遊弟が知り合いの人狼と心温まる再会を果たしている間に──倉庫の中にあったスコップを使って、跳ね飛ばしたテリヤキ君(仮)を頭から下の部分を土の中に埋めた。
「……お兄ちゃん、何やってるの……?」
美鈴はドン引きしながら、頭以外地面に埋まったテリヤキ君と俺を交互に見つめる。
「ちょっと平和的にお話しようと思って」
「どう見ても平和的にお話しする絵面じゃないと思うけど!?」
テリヤキ君はトラックに跳ねられ、顔面に俺の一撃を受けた割には、ピンピンしていた。
流石、魔法使い。
「おい、お前!こんな事をして、ただで済む……って、顔に土をかけるな、無礼者!!」
「美鈴、土を泥に変えたいから水を持って来てくれ」
「泥なら良いという訳じゃない!!今すぐこれを……って、顔に土かけるな!」
金髪青瞳のテリヤキ君は、首から下の部分が土に埋まっている癖に偉そうだった。
腹が立ったので、俺はスコップを彼の目前の地面に突き刺す。
「敗者如きが偉そうな口叩いてんじゃねぇぞ。俺はいつでもお前をチェンチェンできるんだからな」
「チェンチェンとは何だ!?」
「そこに美鈴がいるんだぞ?言える訳ねぇだろうが」
「子どもに言えない事をやる気なのか、君はっ!?」
「チェンチェンはお前次第だな。さあ、吐け。どうやったらお前らの人狼捕獲は止まる?全員、ぶん殴れば止まるのか?」
「はっ!たとえ私達がやられようが、人狼捕獲作戦は止まらない!人狼は存在するだけで悪なのだからな!いいか、若僧!人狼とは核兵器のようなものだ!いつ発射されるか分からない!!お前もいつ核兵器が落ちるか分からない脅威に晒されながら、生きたくないだろ!?分かったなら、さっさと俺を土の中から引っ張り出せ!!」
「そうか、来世は核と人狼がない異世界で生まれるといいな」
テリヤキ君の脳天目掛けて、スコップを振り下ろそうとする。
「待て待て待て!!お前に良心の呵責というものはないのか!?人1人殺めて、本当に良いと思ってんのか!?」
「お前らに良心の呵責云々言われたくねぇよ」
「黙れ、若造!人間ではない存在がいるだけでどれだけの人が恐怖すると思っている!?それを知らずに人狼を悪ではないとなんて言わせないぞ!!」
「じゃあ、人狼が何をしたって言うんだよ」
「…………」
「よし、埋めるぞ。来世は俺みたいな人間がいない世界で生まれるといいな」
「待て待て待てっ!!」
必死な形相を浮かべながら、テリヤキ君は俺に制止を呼びかける。
「……俺はさ、あまり頭良い方の人間じゃねぇから頭の良い人間の考え方なんてよく分からないけど、お前らはおかしいと思わないのか?人狼として生まれただけで悪という烙印を押される事を。だってさ、俺達は親も環境も人種も才能も生まれる前に決める事ができないんだぜ。人狼達だってそうだ。何で偶々人狼として生まれただけで、あいつらは悪認定されなきゃならないんだ?」
「…………」
「よし、答える気ないなら埋めるか」
「待て待て待てっ!!土が口に入るから、一旦止めろ!!」
テリヤキ君の顔面に土をかけながら、俺は彼を物理的にも精神的にも追い詰める。
「し、仕方ないだろ!!上がそう命じたのだから!!」
「よし、埋めるか」
「だから、手を止めろって!ちゃんと話すから!!」
土をかけるのを止め、彼の話に耳を傾ける。
「……魔族を捕縛するのにはちゃんと理由がある。彼等は私達人間にはない能力を持っている一方、知能が乏しいのだ」
「ふむふむ」
「だから、いつ感情的になって人を襲うか分からない。だから、人を襲う前に私達の隊の長"絶対善"は私達に人狼を捕縛しろと──」
「残念だったな、テリヤキ君。感情的になりやすく人を襲う危険生物は、お前の目の前にいる。さ、大人しく土に還ろうか」
「何を言っても土還エンドじゃないか!?」
「てか、あんたらの言っている意味がよく分からねぇ。つまり、あれか?犯罪者予備軍を犯罪犯す前に捕まえようとしているのか?」
「つまり、そういう事だ」
「その権限はお前らにあるのか?」
「人狼は人間ではないからな。害獣駆除と同じだ。お前ら小羊だって人里に降りて来た熊や猪を駆除したり捕獲したりしているだろ?それと同じだ。何もしていなくても人里にいるだけで危険なんだよ、魔族という存在は」
「あいつらは熊や猪と違って、言葉が通じるのに?」
「獣が言葉を交わした所で人と心から交わる事なんてできない」
「そうか。話が通じないなら埋めるしかねぇな」
「待て待て待て待て!!お前、人の話を聞いていないだろ!?」
「寮長曰く、俺は人というより獣に近い生き物らしいからな。その主張だと人であるお前と獣である俺が言葉を交わした所で無意味みたいだし」
「ちょ、タンマ!口に……口に土が入っているから!土の味が口内に広がっているから!!」
テリヤキ君の声に構う事なく、俺はスコップで彼を埋めようとする。
さっきまで感じていた罪悪感──弱い者イジメしている感はなくなっていた。
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