4月21日(5) 梅苺ヨーグルトソーダ小豆入りの巻
小鳥遊弟の嗅覚で居場所を特定した魔法使い達を闇討ちしまくった結果、たった3時間で俺は『magica』の魔導士とやらを108人、倒してしまった。
……うん、倒してしまった以外に言う事はない。
強いて言葉を重ねるなら、山の中を歩いていたスーツを着たアルファ民族──ヨーロッパ 圏に多く見られる金髪青瞳の外国人──の背後をぶん殴り、意識を刈り取る。
それを繰り返して──適度に休憩を挟みながら──いたら、いつの間にか全員倒してしまっていた。
それだけの話だ。
途中、何回か魔法の力により俺達の居場所が特定されてしまい、魔法の発射を許してしまったが、特に怪我を負う事なく、俺達はこの難局を難なく乗り切ってしまった。
「……いや、雑魚過ぎるだろ」
気絶したスキンヘッドの魔法使いの尻を蹴りながら、手応えのない彼等に文句を吐く。
「いや、お前が強過ぎるだけだと思うぞ。相手に殆ど魔法を使わせる事なく、素手だけで勝利を収めるなんて芸道、父ちゃん達でも無理だっての……」
一部始終を見ていた小鳥遊弟は、若干引き気味に俺を見つめる。
「何で素手だけで勝てるんだよ……訳が分からねぇよ、お前、本当に人間かよ……いや、人間でもその強さに説明がつかねぇよ」
「いや、説明だけはつくよ」
ずっと小鳥遊弟に乗っていた美鈴は、冷静な口調で自分の分析結果を口に出す。
「お兄ちゃんはインプットとアウトプットが人より秀で過ぎているだけで、身体能力は人間の領域を出ていないよ。視覚・聴覚・嗅覚・触覚による感知能力で相手の出方を瞬時に察知し、得た情報を下に無駄のない動きで動いているだけ。だから、お兄ちゃんは強いんだよ。相手の動きを見切った上で、最小限かつ最適な行動を取れるから」
美鈴が何か頭の良い事を言いながら、俺の強さを解説し出した。
あまり頭が良くない俺は彼女の言っている意味を何となく理解できず、首を傾げてしまう。
「つまり、こいつは攻撃を予知できるから強いって事なのか?」
俺同様、よくわかっていない小鳥遊弟は美鈴に質問を投げかける。
「うん、大体その理解で合っている」
どうやら俺は攻撃を予知するから強いらしい。
攻撃を予知した事なんてないので、あまり美鈴の解説にピンと来ていないが。
まあ、褒められている事だけは何となく分かった。
(褒められるのって、いつ振りだろうか)
確か最後に褒められたのは小学校低学年の夏休み。
家の近くの山でヘラクレスオオカブト獲った時以来だ。
あの時の俺はまさに人生の絶頂期だった。
獲ったヘラクレスオオカブトを見せつけるだけで、友達全員を平伏させる事ができた。
まさに水戸黄門の肛門状態。
水戸黄門見た事ないからよく分からないけど、多分、黄門おじさんも肛門を見せつける度にイキっていたのだろう。
ヘラクレス片手にイキっていたあの時の俺と同じように。
俺は小鳥遊弟の肩に右手を乗せると、得意げになりながら左手の親指で自分を指差す。
「──弟子入りなら、いつでも歓迎しているぜ」
「おい、こいつ、分かりやすく調子に乗っているぞ」
「しまった、お姉ちゃんからお兄ちゃんを褒めるような言葉を決して言ったらいけないって言われているんだった」
「美鈴、バイトリーダーの言う事なんて聞かなくていいぞ。もっと俺を褒めろ。もっと俺を崇めろ。もっと俺を賛美しろ」
「やべえ!ちょっと褒めただけで、こいつ、めちゃくちゃ面倒臭い奴に成り果てやがった!!」
閑話休題。
俺達は『magica』の魔導士達が捕獲した人狼達を助けに行こうとする。
ある魔導士から聞き出した情報によると、捕縛された人狼は山の麓にある空き倉庫の中にいるらしい。
『捕まえた人狼達は第三支部副部長"テリザベール・リリアンディーノ"様が監視している!!お前らが幾ら束になっても、絶対善様はおろか、副部長様にも勝てな……うげぇ!!』
どうやら"絶対善"はここにいないみたいだ。
今、人狼達を監視しているのは絶対善の次に強い魔導士らしく、不意打ちでしか魔導士達を倒せない俺達じゃ逆立ちしたって勝てない相手みたいだ、倒した魔法使い曰く。
「次はNo.2が相手だけど……そいつも不意打ちするつもりなのか?」
空き倉庫に向かう途中、小鳥遊弟は心配そうな声で俺に疑問を呈する。
「いや。多分、不意を打つ事はできないだろう。あいつらは仲間の魔力を察知できてるみたいだったしな。多分、No.2とやらは仲間がやられた事を察知している筈だ。警戒しているだろうから、今度は正面突破するしかねぇな」
欠伸を浮かべながら小鳥遊弟の質問に答える。
「なら、何でそんなに余裕そうなんだよ?結構、ヤバイ状況なんじゃないのか?」
「もしNo.2とやらが本当に強かったら、とっくの昔にやられているよ俺達は」
「お兄ちゃん、それ、どういうこと?」
「相手が油断しているって事だ。或いはかなりの小心者か。流石に神様より強い事はないだろうから、まあ、なんとかなるだろう」
流石にガイア神──今月頭に俺と喧嘩した神様。
その時は美鈴に乗り憑っていた──より強いとなると、籠手の力に頼らなければいけなくなる。
籠手の力を自由自在に引き出せない俺にとって、籠手の力に頼る事は博打を意味する。
「お兄ちゃんの強さ基準って、神様より強いかどうかなんだ……」
「そりゃあ、そうだろ。流石に災害級相手だと素手で太刀打ちできないからな」
そうこう話している内に、いつの間にか俺達は下山してしまっていた。
眠気が抑え切れず、俺は再び欠伸をしてしまう。先程の単純な不意打ちにより、俺の眠気はピークに達してしまったようだ。
再び湧き上がってきた欠伸を噛み殺しながら歩いていると、俺らの視界に自動販売機の太々しい姿が飛び込んで来た。
眠気に耐え切れなくなった俺は、ジャージのポケットから財布を取り出すと、迷う事なく、苦過ぎて飲めないブラックコーヒーではなく、微糖のコーヒーを購入した。
「美鈴、小鳥遊弟、何か飲みたいものあるか?」
「あ、じゃあ、僕はコーラで」
「私はこの梅苺ヨーグルトソーダ小豆入りってやつで!!」
「おい、美鈴。何でお前は見えている地雷を真っ先に踏みに行くんだ?」
「まだ飲んだ事ないやつを飲みたくて」
「お前の食に対するハングリー精神は何なんだよ」
購入したコーラと不味そうな梅なんとかジュースを彼等に手渡す。
美鈴は俺に礼を告げた途端、美味しそうに不味そうなジュースを一気に飲み干した。
「どうだった?」
「乾パンよりも美味しかったよ」
「いつも思うんだけど、お前のハードル、地面に埋まってないか?」
満足げな表情を浮かべる美鈴を眺めながら、俺は微糖コーヒーを口に含む。
苦味が瞬時に舌を埋め尽くした。
「お兄ちゃん、コーヒー嫌いなの?苦虫噛み潰したような顔をしているけど」
「べ、別に子ども舌じゃないし!俺、余裕で苦いもの食べれるし!」
「いや、微糖飲んでいる時点で説得力ねぇよ」
「なら、説得力上乗せしてやんよ!!」
まだ微糖コーヒー飲み切っていないにも関わらず、俺は新しい缶コーヒーを購入してしまう。
そして、自動販売機の下の口から出てきたブラックコーヒーを取り出すと、一気に飲み干そうと試みた。
「ぶふぅ!!」
「うわ、きったね!」
ブラックコーヒーの苦味に耐え切れず、俺は口から黒い液体を噴出してしまう。
「げほ……ごほ……、こ、これはわざとだ!今のは変な所にアレがこうなってそうなっただけだからギリギリセーフだ!!」
「いや、吹き出した時点でアウトだろ」
小鳥遊弟の無慈悲なジャッジが俺の胸を容赦なく締め付ける。
「あ、それ不味いなら貰うよ」
そう言って、美鈴は俺からブラックコーヒーを強奪する。
「うん、乾パンよりも美味しいよ」
「味がついていたら何でも良いのか、お前は。……うえ、苦っ」
微糖コーヒーを飲みながら、思わずコーヒーと本音を口から溢してしまう。
「なあ、美鈴。ちょっとその梅なんとかを飲ませてくれよ。口直ししたい」
「いいよ。もう残り少ないけど」
美鈴から貰った梅なんとかジュースで苦味を拭おうと試みる。
桃色のドロっとした液体が口の中に入った途端、酸味と甘味のダブルパンチ、炭酸シュワシュワ地雷爆弾暴発、小豆ガトリングガンの雨嵐が一気に俺の口内を埋め尽くした。
「うげ!げほっ!うえっ!!」
プチ戦場と化した俺の口から嗚咽が漏れる。
ブラックコーヒーよりも飲める代物ではなかった。
「げほっ!げほっ!うえっ……!」
「だ、大丈夫?」
四つん這いの態勢になって咽せる俺に美鈴は優しい声を掛けると、俺の背中を優しく撫でる。
「ど、どんだけヤバいんだよ。その梅苺ヨーグルトソーダ小豆入り。毒でも入ってるのか?」
小鳥遊弟は引き気味に俺と梅なんとかジュースを交互に見る。
「の、……飲むか?」
「人に毒物を勧めるな」
「ちゃんとした飲み物なんだけど!!」
閑話休題、眠気もいい感じに取れた所で俺達は再び空き倉庫に向かって歩き始めた。
──"絶対善"の次に強い魔導士と喧嘩するために。
新しくブックマークしてくれた方、そして、変わらずブックマークしてくれている方にお礼を申し上げます。
そして、いつも読んでくれている方、ここまで読破してくれた方にも厚くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
あと少しでPV3万突破するにも関わらず、2万PV突破記念の短編はできあがっていません。
自分が想定しているよりもPVの伸びが良過ぎて驚きと喜びに満ち溢れています。
みなさんが最新話まで読んでくれているお陰です。
厚くお礼を申し上げます。
来週までには2万PV突破記念の短編を投稿できるように頑張ります。
そして、3万PV突破記念の短編も近い内に投稿します。
これからもよろしくお願い致します。




