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4月20日(13) 絶対善との初接触の巻

 男は口からクナイを吐き出した。

 俺は首を少し横に傾ける事で物凄い速さで飛んで来たクナイを難なく躱す。


「………………は?」


 完全に虚を突いたつもりだったのだろう。

 男は呆けた目で俺を眺めると、不思議そうに首を捻った。

 俺はすかさず彼の頬に全力の往復ビンタをお見舞いする。


「ばぶっ!!ばぶっ!!ばぶっ!!」


「おらぁ!赤ちゃんみたいな声出してないで、とっとと情報吐けやコラァ !」


 もう2度と攻撃できないように徹底的に彼の反抗心を根本から叩き折る。

 しかし、彼の心を折るよりも先に彼の意識を刈り取ってしまった。


「寝るな、コラァ !!」


 容赦なく俺は気絶した男の眉間に頭突きを喰らわす。

 

「ちょ、お兄ちゃん!それ以上、やったらその人死んじゃう!死んじゃうから!!」


「大丈夫だ、美鈴!死なないように手加減しているから!!ここで『magica』の魔道士に大怪我負わせちまったら、大変な事になるからな!!過剰防衛にならないよう努力はしている!!」


「その人、今にも死にそうな顔をしているけど!!??本当に手加減できているの!!??」


 美鈴の言う通り、男は白目を剥いたまま、ピクリとも動かなくなった。


「あ、やべ」


「今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきたけど!?ねえ、その人、本当に大丈夫なの!?ねぇ!?」


 美鈴の発言を全部無視した俺は、そのまま彼を近くにあったゴミ捨て場に放り投げる。

 そして、虫の息状態に陥った彼から全力で目を逸らした。


「クソ……!『magica』の魔導士は一体どこにいるんだ……!?」


「さっきまでの出来事、全部なかった事にした!?」


 俺が必死に現実から目を背けていると、チャイナ服を着た男の方から着信音が聞こえてきた。

 俺はすぐさま彼の懐からスマホを取り出すと、彼の代わりに電話に出る。


「もしもし」


『'俺だ、"絶対善"だ'』


 電話を掛けてきたのは、"絶対善"を名乗る男からだった。

 電話の主がイギリス訛りの英語で話していたので、俺も英語──いつか金髪爆乳美女とニャンニャンするためにエロ動画を見て覚えた──で返す。


「'……何の用だ?'」


『'何の用もクソもないだろ。"鉄蛇"、仕事だ。ここから十数キロ離れた先にある"天牌山"って所で人狼が目撃された。見つけ次第、生け捕りにしろ。報酬は……そうだな、1体3万ドルでどうだ?'」


「'……人狼を生け捕りにして、どうする気だ?'」


『'そんなの雇われの魔術師には関係ない話だろ'』


「'なんでお前は人狼を生け捕りにしようとしているんだ?小鳥遊一家はお天道様に顔向けできないような悪い事をしでかしたのか?'」


『'はあ?お前、何を言って──お前、"鉄蛇"じゃねえな?'』


 "絶対善"を名乗る何者かは、ようやく俺がチャイナ男じゃない事に気づく。

 俺の拙い英語により俺が日本人である事を悟ったのか、彼は英語で話すのを止めると、突然、日本語で話し始める。


『お前、一体何者だ?」


 日本語で返ってきたので、俺も日本語で返す事にする。


「質問しているのはこっちの方だ。答えろ、魔法使い。何故、お前達は小鳥遊一家を狙う?」


 "絶対善"を名乗る男は口を開かない。

 きっと受話器の向こう側で俺の事を品定めしているのだろう。

 この男に慢心がない事を瞬時に理解させられる。

 もしこの男を敵に回したら、非常に厄介な敵として俺の前に立ちはだかるだろう。

 油断していたら、間違いなく足元を掬われる。

 電話越しであるにも関わらず、警戒心を露わにしていると、唐突になんの前触れもなく、"絶対善"を名乗る彼は口を開いた。


『人狼だからだ。たとえ、そいつらがいまはなんの罪を犯していなくても、人狼として生まれてきた以上、悪以外の何者でもない。──魔族として生まれてきた事、人ではない事、それがそいつらの犯した罪だ」


 人狼──いや、魔族に深い憎しみを抱いているのだろうか。

 電話越しでも彼の魔族に対する恨みが伝わって来る。


「そっか、小鳥遊一家は罪を犯していないんだな。なら、話は簡単だ」


「ちょっと待って、お兄ちゃん。早まるのは良くないと思うよ。ちょっと一旦深呼吸してみようよ。そんなあからさまに敵対しなくても、小鳥遊君の家族を助ける方法は幾らでもあると思──」


 俺の事を静止するように呼びかける美鈴を無視しながら、俺は"絶対善"を名乗る男にこう言った。


「天牌山で待ってろ。お前もお前の仲間も全部まとめて打ちのめしてやるから」


『ほう……よほど魔法に自信があるとみた。だが、たとえどんな魔法を持っていたとしても、たかが素人が魔導のプロである俺達に勝てる訳がな……」


「魔導のプロがなんだ。そっちが魔法のエキスパートなら、こっちは喧嘩のプロだ。絶対善、あんたじゃ俺には──」


 唐突にスマホの電源が切れてしまう。スマホを屍状態になった男に投げつけると、俺は事の顛末を簡単に美鈴と小鳥遊弟に告げる。


「って事で俺は今から"絶対善"をボコしに行くから、お前らはここで待っ──」


「「このバカあああああ!!!!」」


 美鈴と小鳥遊弟はゴミ捨て場にあった穴の空いたフライパンと壊れた炊飯器を投げつける。

 殺意も悪意も込められていなかったので、俺は彼等の攻撃を完全に避け切る事はできなかった。


「がぽぉ!!」


 俺の頭に鈍器が直撃する。

 俺は情けない呻き声を上げると、地面に背中をつけてしまった。


「なんでお兄ちゃん躊躇いもなく茨の道を突き進んでしまうの!?幾らお兄ちゃんが腕っ節強くても、流石に世界中の魔法使い達を相手にするなんて無理だよ!!」


 美鈴は大袈裟に頭を抱えながら、俺の行為を嘆く。


「大丈夫だって。なんとかなるから」


「なんとかならないよ!!お兄ちゃんがやった事は核兵器十数発持っている世界連合軍に喧嘩売ったようなもんだよ!?もしも世界中の魔法使いがここに押し寄せて来たら、ここら一帯更地になってもおかしくないんだよ!?」


 核兵器十数発分というワードで俺は今更ながら事の重大さをようやく把握する。


「全世界の魔法を使える軍人さんを敵に回したようなもんだよ!?お兄ちゃん、そこら辺、ちゃんと把握しているの!?」

「世界中の軍人!?それって、かなりヤベエじゃねえか!!」


「そうだよ!だから、ヤバイって言ったじゃん!!」


「馬鹿だ!こいつ馬鹿だ!!ちょっと考えたら分かる事さえ分からない馬鹿だ!!しかもよりにもよって世界一の魔術師に喧嘩売ってるし!!なんでお前の兄ちゃんは話を聞かずにグイグイ進んでしまうんだ!?馬鹿じゃねぇの!?」


「お前が俺を信用できないからって言ったからだよ!!今ある少なき情報だけで動いた結果、こうなったんだよ!!……だが、安心しろ!まだあいつらに俺の顔はバレていない!だから、ここから幾らでもリカバリーが効……」


 自分がしでかした事に衝撃を受けている所為で、一瞬だけ反応が遅れてしまった。

 背後から視線を感じ取る。

 慌てて振り返った俺は空を仰ぐ。

 すると、見知らぬ水晶が妖しい光を放ちながら宙に浮いていた。

 俺は慌ててゴミ捨て場に置いてある炊飯器を手に取ると、炊飯器を中空に浮かぶ水晶目掛けて投げつけた。

 俺の投げた炊飯器が宙に浮かぶ水晶を真っ二つに割る。

 割れた水晶の破片は炊飯器と共に地面に落下した。


「くそ……!!やらかした!!」


「「リカバリーの道が潰えた!?」」


 魔法に関して知識のない俺でも理解できる。

 あの水晶は俺の顔を確認するためのカメラ付きドローンみたいなものだ。

 恐らく絶対善を名乗る男はあの水晶を通じて、俺の──いや、俺達の姿を見ていたのだろう。

 きっと、あの沈黙の時間、奴はこの水晶を俺らがいるであろう場所まで飛ばす準備をしていたのだろう。

 先手を打たれた。

 俺の顔を見られた。

 小鳥遊弟の居場所を知られた。

 そして、何より無関係である美鈴を巻き込んでしまった。

 決して油断していた訳ではない。

 ただ絶対善を名乗る奴が俺よりも優秀過ぎただけだ。

 ただそれだけの理由で俺は一瞬で不利な状況──美鈴と小鳥遊弟を守りながら行動しなければならない状況──に立たされてしまった。


「……お、お兄ちゃん、これ、"遠見の水晶"だよ。この水晶、遠くにいる人の顔を見る事に長けている魔術だから、多分、"絶対善"という人にお兄ちゃんの……いや、私達の顔見られたと思うよ……」


 美鈴は青い顔をしながら、俺に周知の事実を具体的に告げる。


「これで逃げも隠れもできなくなった訳だな……!」


 水晶の破片が落ちた場所まで歩み寄った俺は、忌々しく呟きながら、ガラスの破片を靴で粉々に踏み砕いた。




 いつも読んでくれている方、最新話まで追っかけてくれた方、本当にありがとうございます。

 そして、本日、急遽告知なく、1日2話投稿してしまって申し訳ありません。

 今後はこのような事がないように気をつけます。

 次の更新は明日の12時頃に投稿します。

 よろしくお願いいたします。

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