4月20日(12)VSチャイナ服を着た魔導士の巻
「お前……人狼一族の者だな?」
美鈴と小鳥遊弟の会話に割り込む形で聴き慣れない声が住宅街に響き渡る。
声を発したであろう何者かは、俺から見て真っ正面にある交差点の真ん中に突っ立っていた。
「速攻で遭遇しちゃったよ!!」
小鳥遊弟は絶望感満載の突っ込みの声を上げる。
俺は短く息を吸い込むと、交差点の真ん中に位置する何者かと向かい合う。
「貴様か。"ガラスの皇女"とやらが言う"人狼一族を庇う一般人"は」
まだ小鳥遊弟が目覚めて、そんなに時間が経っていないにも関わらず、何故か俺の情報はあちら側に漏れていた。
恐らく美鈴に小鳥遊弟を回収するよう指示した奴の仕業だろう。
まさか俺が殴るよりも先に『magica』の魔導士と敵対する事になるなんて思いもしなかった。
交差点の真ん中に立つ長袖のチャイナ服を着た男性は真っ直ぐな視線を俺らに向けながら、俺に忠告を告げる。
「大人しくその少年を渡せ。私達と敵対したくなければな」
「お前らは人狼一族とやらをどうするつもりだ?」
「魔族は人類の敵だ。必要な手順を踏み次第、殺処分する」
「だってさ、美鈴!これはもう殴る以外に止められねぇよな!!」
「嬉しそうな声上げながらシャドーボクシングしてる場合じゃないと思うよ!?」
「お前はもう少し『magica』の魔導士を敵に回す事に危機感を覚えろ!!」
背後にいる子ども2人にガチめに怒られる。
すると、前方にいる魔導士の気配がガラリと変わった。
「美鈴、小鳥遊弟。今すぐここから離れろ」
俺は臨戦態勢になった魔導士を視認するや否やアスファルトの地面を蹴り上げる。
俺と魔導士の距離は約40メートル。一直線に走れば、4秒くらいで詰められる距離だ。
「なるほど。報告通り、私達に敵対するつもりか」
チャイナ服を着た男性は、一瞬で袖の下から8本の鞭──先端には槍状の鉄塊がついている──を取り出すと、それを俺目掛けて振り始めた。
「なら、少し痛い目に遭わせてやろうか」
意思を持っているかのように宙を泳ぐ鞭の先端が、俺の身体に触れようとする。
俺は両足で思いっきりブレーキを踏み込むと、不規則に迫り来る1本の鞭の先端を避けるため胴体を軽く右に捻った。
槍状の鉄塊が着ていたジャージの右脇腹部分を抉る。
ジャージは少しだけ破けてしまったが、身体には傷1つつかなかった。
瞬きしている内に残り7つとなった鉄塊が迫り来る。
俺は四方八方から次々に迫り来る攻撃を紙一重で回避していく。
7つの鉄塊は俺のジャージをズタズタに引き裂いた。
が、身体には擦り傷1つ負わなかった。
完全に避け切った事を把握した俺は、再び地面を蹴り上げる──振りをする。
そして、地面にファーストキスを捧げる勢いで地面に倒れ込んだ。
背後から迫り来る8つの鉄塊が、俺の頭上を通り過ぎる。
「「なっ……!?」」
小鳥遊弟と男性の驚く声が住宅街に響き渡る。
両手で身体を支える事で地面とのキスを避ける事に成功した俺は、連続前転しながら起き上がると、チャイナ服を着た男性との距離を詰める。
俺が男の目の鼻の先まで辿り着いた瞬間、彼は袖の下から出ていた鞭を外すと、瞬く間に鉄のナイフを"生み出した"。
何処からともなく現れた奴のナイフに思わず驚いてしまう。
"魔法の力でナイフを精製した"と気づいた頃には、奴はナイフを順手に持ち替えていた。
俺は後方に跳びながら、回し蹴りを奴のナイフの腹目掛けて放つ。
奴の握っていたナイフは俺の蹴りによって弾かれると、宙を舞い始めた。
ナイフを手放してしまった男は再び魔法の力で武器精製しようとする。
奴が魔法を使うよりも早く、俺は地面を蹴ると、奴の腹に掌底を放った。
俺の放った掌底の衝撃は、奴の腹に仕込まれていた鉄板を貫くと、奴の内臓を傷つける。
「なっ……がぁ、!」
内臓に衝撃を貰った男は苦しそうな声を漏らした。
俺は男性の胸倉と左腕を掴むと、彼に背負い投げを浴びせる。
彼は受け身を取る事なく、アスファルトの上に思いっきり背中をぶつけた。
「が、はあ……!」
『magica』の魔導士らしき男は苦悶に満ちた表情を浮かべると、浅い呼吸をし始めた。
「おい、気絶するなよ。何のために手加減したと思っているんだ?」
俺は地面に伏せている男の胸倉を掴むと、今にも意識を失いそうな彼の頬を軽く叩く。
「小鳥遊一家の居場所を教えろ。じゃなきゃ、もっと痛い目に遭わせる」
「だ、誰が教えるも……ばふっ!」
教える気がなさそうだったので、男の右頬にビンタをお見舞いする。
「吐け、お前は誰の命令で動いているんだ?」
男は反抗的な目を俺に向ける。
魔法を使われたら厄介なので、先にビンタを打ちかました。
彼の情けない断末魔が住宅街に木霊する。
「わ、分かった、吐いてやるから……だから、ちょっと、叩くのを止めてく……れよなっ!」
男の口からナイフが飛び出した。
俺は首を少し横に傾ける事で物凄い速さで飛んで来たクナイを難なく躱す。
「………………は?」
完全に虚を突いたつもりだったのだろう。
男は呆けた目で俺を眺めると、不思議そうに首を捻った。
俺はすかさず彼の頬に全力の往復ビンタをお見舞いする。
「ばぶっ!!ばぶっ!!ばぶっ!!」
「おらぁ!赤ちゃんみたいな声出してないで、とっとと情報吐けやコラァ !」
もう2度と攻撃できないように徹底的に彼の反抗心を根本から叩き折る。
しかし、彼の心を折るよりも先に彼の意識を刈り取ってしまった。
「寝るな、コラァ !!」
新しくブックマークしてくれた方、過去にブックマークしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、いつも読んでくれている方、最新話まで追っかけてくれた方に感謝の言葉を述べさせてもらいます。
本当にありがとうございます。
この場を借りてお伝えしたい事がもう一つあります。
本日の更新は21時頃にも予定しております。
急な告知で申し訳ありません。
夜の投稿分もよろしくお願いいたします。




