4月20日(10) 焼きそばを食べていると……の巻
何で俺の周りには頭おかしい奴しかいないんだろうと思いながら、俺はバイトリーダーとの通話を一方的に切ってしまう。
「あ、"絶対善"について聞くの忘れていた」
作り終えた焼きそばを皿3枚に盛り付けながら、俺は聞き忘れていた単語を思い出した。
まあ、"絶対善"が小鳥遊一家を狙うなら、その"絶対善"を殴り倒せば良いだけだ。
多分、"絶対善"は人狼が危険だから〜みたいなありきたりな言い分で、人狼である小鳥遊一家を襲ったんだろう。
まだリビングで寝ているオオカミ少年が小鳥遊弟であるか分からないし、人狼が本当に危険な存在なのかどうかさえ分かっていない。
けど、まあ、片っ端から殴れば、どうにかなるだろう、多分。、
「おーい、美鈴。飯できたぞー」
焼きそば3皿をリビングに持ち運ぶ。今の今まで小鳥遊弟(仮)の様子を見ていた美鈴は、焼きそばの匂いを嗅ぎ取ると、満面の笑顔を浮かべた。
「それって、お兄ちゃんが山口に行った時に食べていたものだよね。私、その焼きそばっての1回食べてみたかったんだ」
「味に関してはあまり期待すんなよ。俺、料理なんて数えるくらいにしかやった事ねぇから」
ちゃぶ台の上に焼きそばが乗った皿を並べる。
小鳥遊弟(多分)用に用意した焼きそばにラップをかけながら、期待に満ち溢れた視線を焼きそばに送る美鈴をぼんやり眺める。
(小鳥遊弟(仮)から情報を聞き次第、美鈴を寮長辺りに預けよう。バイトリーダーも自分の尻拭いで暫く帰って来れなさそうだし)
「お兄ちゃん?ボーッとしているけど、まだ焼きそば食べちゃダメなの?」
ウキウキ気分で箸を握り締めた美鈴は俺の顔を期待混じりにじっと見つめる。
「ああ、悪りぃ。とりあえず、食べるか」
"いただきます"と俺と美鈴の声が綺麗に揃う。
そして、美味しくも不味くもない焼きそばを啜り始めた。
「うん、乾パンよりも美味しいよ!」
美鈴は満面な笑みを浮かべて、俺の料理を評価する。
彼女があまり食生活がよろしくなかったと思われる金郷教から解放されて早2週間。
まだ彼女の舌は俺が考えているよりも肥えていないようだった。
「今度はもっと美味しいものを食べさせられるよう頑張るからな。すき焼きとか生姜焼きとか」
「お兄ちゃん、焼く料理好きだね」
「1番好きな食べ物が焼肉だからな」
「お兄ちゃんはどんな肉が好きなの?」
「俺は豚より牛かな。特に定番とも言われる"カルビ"が1番好きだ」
「かる……び?」
「肉の部位の名前だよ。……って言っても、ピンと来ねえか。美鈴。今度、一緒に焼肉食いに行こうぜ。奢ってやるから」
「え?いいの?焼肉って高いんじゃ……」
「松坂牛みたいな高級品は流石に無理だけど、食べ放題2人分くらいの金なら高校生の財力でも余裕で出せる。……と、言っても今月はもうお小遣い尽きているから奢る余裕がないんだけど」
大して美味しくない焼きそばを食べながら話していると、小鳥遊弟(仮)の前脚が微かに動くのを目撃した。
俺の視線に気づいた美鈴リビングで寝ていたオオカミ少年の方に視線を向ける。
「お、お兄ちゃん!あの子、起きちゃうかもよ!」
「状況が飲み込めず、反射的に襲いかかってくるかもしれない。美鈴、俺の背後に隠れてろ」
「う、……うん!」
俺は食べていた焼きそばの皿をちゃぶ台の上に置くと、美鈴と小鳥遊弟(仮)の間に入るような位置に移動する。
「……うっ」
ニホンオオカミのような容姿をした少年は重そうに目蓋を開ける。
そして、俺と美鈴を視界に入れた途端、寝ぼけているにも関わらず、怯えたような表情を浮かべた。
「だ、……誰だ、お前達は……!?」
小鳥遊弟と思われる人間オオカミは俺達に強い警戒心を示す。
人の言葉を喋るオオカミを見て、テンパった俺は反射的に深く考える事なく、言葉を放ってしまった。
「当ててみな、天国にご招待してやるぜ」
「ひっ!」
「お兄ちゃん!それ、ただの脅しにしか聞こえないよ!!」
美鈴は俺の身体軽くを揺さぶりながら、少年に優しく接するよう促す。
「大体承知。おい、少年。お前の事情は大体把握している。だから、お前の知っている情報を根刮ぎ吐け。さっさと吐かねえと、お前の父ちゃんも母ちゃんも姉ちゃんも、ただじゃ済まねえぞ」
「ひぃ!」
「アミーゴ!!」
美鈴は変な言葉を叫びながら、俺の背中を軽く殴った。
「お兄ちゃん!もっと言葉を選んでよ!側から見ても、当事者目線で見ても、脅しているようにしか見えないから!」
どうやら第3者からは脅しているように見えるらしい。
とりあえず、俺は話を円滑に進めるために、今すぐにでも美鈴がアミーゴと叫んだ理由に突っ込みたい気持ちを抑えながら、少年の警戒心を解くために最大限の努力を払う事にした。
「お前は小鳥遊神奈子の弟で合ってるよな?」
「そ、そうだけど、………お、お前は一体……」
「俺か?俺は……」
一匹狼である小鳥遊と友達でも何でもない俺は、小鳥遊弟の質問にどう答えたら良いのか分からず、頭を抱え込んでしまう。
色々考えても、良い答えは出なかったので、とりあえず、事実だけを述べる事にした。
「お前の姉ちゃんを打ちのめした男だ」
「アミーゴ!!!!」
またもや美鈴に殴られてしまった。
事実を言っただけなのに。
「何で警戒心解かなきゃいけない時に、一々警戒されるような言い回しをするの!?」
「いや、でも、事実な訳だし……」
「その事実の所為で、あの子、この上なく怯えているじゃん!!」
「大丈夫だ、こういう時は"怖くない、怖くない"と言いながら、指の1本2本噛ませてやれば警戒心解けるから」
「たとえ指1本噛ませたとしても、お兄ちゃんがこの子のお姉ちゃんを打ちのめした事実は変わらないよ!?」
小鳥遊弟(恐らく)の方を見る。
彼は怯えた目をしながら、人間の姿に戻る──否、人間の姿になると、部屋の隅まで退避していた。
「おいおい、そんなに怯えるなって。取って食う訳じゃないんだから」
「お前は姉ちゃんを打ちのめしたんだろ!?警戒して当たり前だろうが!!」
「大丈夫だ、小鳥遊弟。お前の姉ちゃんを打ちのめしたのは半年前の事だから」
「それのどこに安心する要素が!?」
「この半年間、ピンピンしてただろ?まあ、今ピンピンしているかどうか知らないけど」
「うわーん!!」
小鳥遊弟の心の地雷を的確に踏んでしまう。
もう収拾がつかなくなったので、俺は美鈴に制裁の一撃を与えるようお願いした。
「……美鈴、1発、頼む」
俺は美鈴が殴りやすい位置まで身を屈める。
彼女は少しだけ躊躇うと、最終的には俺の意図を汲み取って、拳を握り締めてくれた。
「アミーゴ!!」
こうして、俺と美鈴は小鳥遊弟と遭遇した。
……第一印象が悪かったのは、言うまでもない。
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