4月20日(6) 「店員さん、釣りはいらないぜ」の巻
小鳥遊家が住んでいるマンションから徒歩5分の所にあるコンビニに辿り着いた俺は、コンビニの出入り口付近に設置されている公衆電話の下へ駆け寄る。
そして、魔法の存在について知っているお巡りさん──黄泉川雫の携帯に電話を掛けた。
交番勤務の彼女なら何か知っているかもしれない。
そう期待しながら、呼び出し音を聞き続ける。
(寮長にスマホを取り上げられていなかったら、わざわざ公衆電話を使う事なんてなかったのに)
短い溜息を吐き出しながら、俺は雫さんが電話に出るのを静かに待つ。
が。
『おかけになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所に──』
「……やっぱ、仕事中か」
俺の予想通り、雫さんには繋がらなかった。
ここ最近、彼女は仕事が忙しいようで、暫く会えていない。
仕方ないので、魔法の存在に知っている大学生──バイトリーダーに電話を掛ける。
彼女が小鳥遊家の人と面識があるとは思えない。
しかし、彼女は新聞や地方ニュースなどをマメに見ているので、もしかしたら、小鳥遊家について─新聞か地方ニュースなどを通して──知っているかもしれない。
10円玉を投入口に入れ、バイトリーダーの家に電話を掛ける。
(もしかしたら、大学に行って出られないかもな……)
次は誰に電話を掛けようか悩んでいると、呼び出し音が唐突に鳴り止む。
が、電話に出たのはバイトリーダーではなかった。
『も、……もしもし?」
電話に出たのは美鈴──今月頭に知り合った女の子。色々あって、元金郷信者であるバイトリーダーと一緒に生活している──だった。
「その声……美鈴か?俺だ、司だ。バイトリー……」
『お、お兄ちゃん、ちょうど良かった!大変、大変なの!!』
俺が名乗りを上げた途端、美鈴は動揺した声色で俺に助けを求め始める。
『さっき、いきなり知らない人から電話掛かって来て!で、その人が言った場所に言ったら、血だらけで倒れている男の子がいて!慌てて連れて帰ったけど、家には応急箱がなくて!でも、救急車呼んだらいけないって……』
「美鈴、一旦落ち着け。一回、深呼吸しろ。大体の事は分かった。すぐに包帯と消毒液買って、お前の家まで行く。だから、その間お前は今から指示する応急処置を行ってくれ。先ず土や砂で汚れている場合は、水で洗い流せ。流水が終わったら、清潔なタオルで男の子の傷口を押さえてろ。出血量が多い時は両手で圧迫して………」
応急処置のやり方を簡潔に美鈴に教える。
具体的な状況は分からないが、どうやら彼女の前に傷だらけの男の子がいるようだ。
加えて、彼女は何者かに脅迫されているようで救急車を呼べない状況に陥っている。
断片的な情報を聞いただけでも緊急事態である事が分かった。
「30分以内に駆けつける。だから、それまで今教えた事をやっていてくれ。大丈夫だ、すぐに行くから」
美鈴に応急処置のやり方を教えた俺は受話器を置くと、少ないお小遣いを握り締め、コンビニの中に入る。
(一刻でも早く美鈴の所に行って、例の男の子をどうにかした後、小鳥遊一家の行方を探らなければ……!)
今までにないくらいガチシリアスモードに突入した俺は、入り口付近に置いてある小さな買い物籠を手に取る。
今の俺はおふざけしている余裕がないくらい焦っていた。
小鳥遊一家の行方と美鈴が現在進行形で巻き込まれている事件の事で俺の頭の中は一杯だったのだから。
早足で店の中を駆け回った俺は医薬品のコーナーを探し続ける。
だが、いつも利用しているコンビニと商品の配列が違ったため、中々見つける事ができなかった。
雑誌コーナーを通り過ぎようとするその時、俺の視界にあるものが飛び込んで来る。
「……なっ!?」
視界に飛び込んできたのは──俺がずっと欲しがっていた金髪爆乳外国人を模したダッチワイフ付きのエロ本だった。
「……な、なんでこんな所に……!?あんだけ探してもなかったのに……!?」
半月間、ずっと探し続けたエロ本を目にした俺は思わず立ち止まってしまう。
小鳥遊一家の件や美鈴の件が頭から抜け落ちるくらい、俺はずっと欲しかったエロ本が目の前にある事実に衝撃を受けてしまった。
俺は反射的にエロ本を買い物籠の中に入れると、スキップしながら、レジに向かう。
もう自分が何でシリアスモードに突入していたのか完璧に忘れてしまった。
しかし、棚に置かれた医療薬を見た事で、俺は自分の置かれている状況を忘れている事に気づいてしまった。
「いかんいかん、今の俺は超絶シリアスモード。たとえエロ本を手に入れたとしても、自分のやるべき事を忘れちゃいけない」
エロ本が入った籠に包帯と消毒液を入れながら、俺は現在置かれている状況を再認識する。
<放送禁止用語>パーティは小鳥遊一家と美鈴の件が終わった後にやろう。
大丈夫、エロ本は逃げないんだから。
消毒液と包帯、そして、ウキウキ気分のまま俺は消毒液と包帯、そして、エロ本が入った籠をレジまで持って行く。
店員は気分の浮き沈み激しい俺を見て、めちゃくちゃドン引きしていた。
そんな店員に気を遣う事なく、俺は財布の中に入っていた全財産を出す。
そして、カッコつけながら、こう言った。
「店員さん、釣りはいらねえぜ」
「お客さん、普通に足りてねぇっす」
エロ本の値段をよく見る。
エロ本の値段は税込み価格3980円だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
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