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4月20日(3) 桑原学園に集う変人達の巻

 バスから降りて来た聖十字女子学園の生徒は不思議そうに柴犬の着ぐるみを着た俺を眺める。

 鳥女は着ぐるみを気に入っているのか、黄色い声を出していた。


「……何で君は着ぐるみを着ているんだ?」


 隣に立っていた四季咲は俺に質問を投げかける。

 

「この学園の愛と平和を守るためだ」


「……相変わらず、君という人間が何を考えているのかわからない」


 四季咲は苦笑いを浮かべると、お嬢様達に俺と会長の事を紹介し始めた。


「こちらが今日からお世話になる桑原学園生徒会長流宮さんと……えーと……」


 四季咲は俺をどう紹介していいのか、分からず困り顔を浮かべる。

 会長から正体を隠すように命じられた俺は全力でマスコットキャラクターを演じる事にした。


「今日からあんたらのボディーガードをやらせてもらうこの学園のマスコットキャラクター、『柴咲源三郎』だ。困った事があったら、すぐに俺に言え。3秒で相手をミンチにしてやる」


 ダンディな声を意識しながら、簡単な自己紹介をする。

 お嬢様達は会長と共に紹介された謎のマスコットに不信感を抱いたのか、眉間に皺を寄せていた。


「随分、キャラ立ちに必死だのう、あのゆるキャラ」


 馬女は呆れながら、着ぐるみを着た俺を詰る。


「シャラーップ、馬女。古風な口調で無理にキャラ立てているお前にだけは言われたくねぇ」


「正体を隠す気があるのか、君は?」


 四季咲の指摘により、聖十字女子学園生徒会役員達──アホそうな鳥女は目をキラキラさせて俺を見ている──が怪訝そうな目で俺を見つめ始めた事に気づく。


「これ以上、ボロが出たら不味いので、貴方はもう何も喋らないで下さい」


 とうとう発言権さえ奪われてしまった。

 会長は俺から発言の権利を奪うと、丁寧に頭を下げて、お嬢様達に自己紹介し始める。


「おはようございます。私が桑原学園生徒会長の流宮です。今回は桑原学園にお越し頂き誠にありがとうございます。……え、……と」


 挨拶を考えていなかったのか、会長は言葉を詰まらせる。

 俺は困っている彼女のために仕方なく助け舟を出す事にした。


「会長はこう言っている。"この学園は弱肉強食。弱者は虐げられ、強者だけが生き残れる過酷な環境だと。お前らみたいな純粋培養された雌豚は、この学園の生徒にとって、逃げ惑う獲物でさえない。加工済みの餌だ。生き残りたければ、人間である事を捨て、大人しく私達生徒会に頭を下げろ。そしたら、助けてやる雌豚共"と」


「いや、そんな事言ってもいませんし、思ってもいません!!」


「いいか!雌豚共!貴様らが何故この学園の教室を借りようと思ったのかは知らんが、お前らが選んだのは猛獣達の檻だ!!貴様らが今までいた温室とはかけ離れている空間がここだ!!だから、貴様らが持っている常識や倫理観は今すぐ捨てろ!!そして、今すぐ豊胸トレーニングを行え!!貧乳はステータスという格言があるが、やはり人として生まれて来たからには頂点を獲得するべきだ!!かくいう俺も男としての頂点を獲得するためにポコチンで50キロの鉄アレイを持ち上げようと日々努力……」


 後頭部に会長のドロップキックが突き刺さる。

 敵意も悪意もなかったので、彼女の攻撃を避ける事はできなかった。


「悪は滅びました。皆さん、今、柴咲くんが言った事は綺麗さっぱり忘れて、普段と変わらない日常を送ってください。そして、困った事があったら、遠慮なく私達桑原学園生徒会に言ってください。どんな手段を使ってでも貴方達をこの学園に潜む猛獣達から守り抜きますから」


 "あ、猛獣の部分は本当だったんだ"という軽い絶望がお嬢様達の身体から漏れ出るのを知覚する。

 そして、蜘蛛女達は小声で"もし中身があいつならあんな攻撃普通に避ける事ができるから多分違う……"みたいな事を呟いていた。


「だ、……大丈夫か?じ……柴咲くん」


 四季咲は心配そうに俯せの状態になって倒れる俺に声を掛ける。

 すると、遠くから得体の知れない威圧感を感じ取った。

 魔法使いや神様とは違う種類の威圧感。

 頭くるくるパアの奴らが頭おかしい事をやる時に発するオーラだ。

 校舎の方を見る。

 すると、桑原学園危険リストに載っている委員長──3大欲求に忠実な幼女体型──・伊紙丸──関西弁を喋るチビ──・菴堂──顎髭グラサン──・土井中──オカッパ筋肉モリモリマッチョメン──が横並びになりながら、こっちに迫り来ていた。


「じ……柴咲くん!危険度B級の問題児が4体接近しています……!!」


「大体承知!会長、なるべくこいつらの五感を奪ってくれ……!」


 会長に指示を飛ばした俺はすぐさまこっちに向かって来るクラスメイト達の元へ駆け寄る。

 彼等はいつにも増して険しい顔つきだった。


「……お前ら、何しに来たんだよ?」


 横並びに歩く彼等は真面目そうな表情で、ここに来た理由を次々に告げる。


「お嬢様達をぶっ潰して、私の世界ランクを上げるためよ」


「委員長、その発言そのものがあんたの世界ランクを著しく下げている」


「ワイはお嬢様達にセクハラして、罵倒されたいだけや」


「伊紙丸、当校ではそのようなオプションついておりません」


「お嬢様と<放送禁止用語>してえ」


「菴堂、そのプレイは流石に常軌を逸している」 


「僕はお嬢様に<放送禁止用語>して<放送禁止用語<放送禁止用語><放送禁止用語><放送禁止用語><放送禁止用語>………」


「土井中、お前に至っては何言っているのか分からねぇよ」


 唯一俺の友人の中で常識を持っている布留川──190センチオーバーの大男──を目で探す。

 彼は4階の教室から俺らを見下ろしていた。

 どうやら俺とお嬢様を助ける気はさらさらないらしい。

 彼はいつもの如く仏頂面を晒しながら、俺に手を振り続けていた。


「お嬢様達、見てください。あれが我が校に潜む肉食獣達です。彼等を見たら、真っ先に逃げてください。じゃないと、碌な目に遭いません」


 会長は俺のクラスメイト達を使って、この学園の脅威をお嬢様達に教え込む。


(やっぱ、俺1人で対処するしかねぇのか)

正直、この着ぐるみを着た状態で委員長達を

 

 相手するにはキツ過ぎる。

 とてもじゃないが、ぬいぐるみを着た状態では無傷で切り抜けられそうにない。

 自分が招いた事態とはいえ、面倒な事には変わりない。

 深い溜息を吐き出していると、俺らの前に副会長と書記が現れた。

 白目を剥いて気絶した副会長は棒状の何かを口に突っ込んでいた。

 そんな得体の知れないものを口に咥える副会長を引きずる書記の姿は狂気以外の何者でもなかった。


「……書記、お前、何やってんだ?」


「副会長をパパにしようとして、失敗しました。<放送禁止用語>を模したものを咥えさせときゃ自動的にパパ堕ちすると思っていましたけど、やっぱそう簡単に堕ちませんね、この堅物」


 書記は興味なさそうに副会長を放り投げると、標的をお嬢様達に絞る。


「……あの子達、上手い事調教すれば、僕のパパになってくれそうですねぇ」 


「ん?パパ?」


 書記の言っている事が理解できず、首を傾げる。


「この<放送禁止用語>をあいつらの<放送禁止用語>に突っ込めば、男性ホルモンどくどく分泌されそうですねぇ。そのためには、先ず女である事を捨てさせ、あいつらに生々しい筋肉をつけさせないと僕が求めているパパになってくれそうにない」


「おいおい、書記。何でお嬢様をパパにしようとしているんだ?普通、パパじゃなくてママだろ」


 何かとんでもない発言が聞こえてきそうなので、俺の下に近寄ってきた四季咲の耳を塞ぐ。


「わかってませんね、神宮さん。あんな女々しい雌豚を射精しか脳のない雄猿に変えるのが楽しいじゃないですか。女性としての生殖機能を自分の意思で捨てさせる事で、決して得る事ができない男性としての生殖機能を得ようとする姿こそ女性としてあるべき姿なんだと僕は思います。生まれた時から雄だった奴らよりも貪欲に雄としての生殖機能を求め、偽物の男性器を腰にぶら下げるんですよ?そういう女性こそ真の美人と言えるんじゃないでしょうか?」


「……つまり、お前がいうパパって何だ?」


「偽物の雄であるが故に誰よりも何よりも父性を獲得する存在、それが俺のパパになり得る人です」


「俺の知っているパパの概念と全力でかけ離れている」


 腕の中で硬直する四季咲を横目で見ながら、書記の狂気を静かに受け止める。

 リストに載っていなかったが、多分、こいつは校内でも片手で数えるくらいしかいないS級問題児並にヤバイ。

 だって、B級の委員長達がマシに見えるくらいヤバイんだもん。


「会長、何であんたはこいつを書記として任命したんですか?」


 お嬢様達にこの学園の恐ろしさを力説する会長に質問を投げかける。


「そんなの私が知りたいくらいです。ほら、この学園の生徒会役員の選出法って立候補制じゃないですか。対立候補が複数いたら選挙になりますが、いない場合、自動的に任命されるシステムなので……」


「この学園、色んな所がガバガバ過ぎない?」


 新設校故のガバガバさなのか、それとも、頭のおかしい前理事長の影響なのか分からない。

 だが、この学園の寿命もそう長くない事は確かだ。

 書記の生々し過ぎる呪文が終わったので、四季咲の両耳から手を離す。

 彼女は顔を青ざめていた。


「……四季咲?もしかして、聞こえてたのか?」


「いや、君のお陰で聞こえなかった。しかし、私は読唇術を会得していてな。……彼の唇をつい読んでしまって……」


「俺が耳を塞いだ意味なかった!!」


 四季咲が読唇術をマスターしていると想定していなかったので、詰めが甘過ぎた。

 てか、読唇術を会得している高校生なんて普通いねえよ。


「すまない、神宮。以前、女性の乳房大好きな大好きな君の事を散々変態と罵ったが、どうやら君は彼等と比べると、かなりまともな方らしい。彼等と比較すると、君のセクハラはジャブみたいなものだったんだな」


 どうやら四季咲は優秀過ぎるあまり、書記の精神汚染攻撃をもろに受けたようだ。

 彼女の価値観は異次元の性癖に触れた事でものの見事に狂わされてしまう。


「四季咲、お前の価値観は正常だ!!だから、惑わされるな!!セクハラに大も小もねえんだぞ!!」


「君が変態だったら、彼等は一体何者なんだ!?」


「人類に仇を為す系の狂人」


 背後を振り返り、お嬢様達の方を見る。

 彼女達は会長の指示により、耳を塞いでいた。

 どうやら、四季咲のように読唇術に長けている者はいないらしい。

 被害が最小限に済んで、ちょっとだけ安堵する。

 しかし、彼等の進撃が止まっている訳じゃない。

 委員長達は横並びのまま、ゆっくりとこちらに向かって来た。


「……四季咲、離れてろ。こいつらは魔女や天使よりも遥かに厄介だ」


「なっ……!?そんなに彼等は強いのか……!?」


「ああ、柴咲くんを着たままの俺では、あいつらに勝つ事は難しい」


「脱げば良いだけの話では!?」


 四季咲の正論(ツッコミ)を無視して、俺は危険人物達の下へ駆け寄る。


「神宮、そこを退いて。じゃないと、そいつら殺せない」


「委員長。メンヘラっぽく言ってるけど、今のあんた、メンヘラよりも厄介だからな」


「ツカサン、君がお嬢様と仲良くなりたいだけのワイらの前に立ちはだかるんなら、容赦はせんで」


「性欲満たしたいだけだろ、お前は」


「神宮、独り占めにする気か?」


「菴堂、生憎、数十人相手に出来る程の精力を俺は持ち合わせていねえんだ」


「<放送禁止用語><放送禁止用語><放送禁止用語>」


「とうとう放送禁止用語しか言わなくなったな、土井中」


 同じクラスメイトである彼等を横目に、書記の方を見る。

 彼は懐から脱毛剤と育毛剤を取り出していた。


「先ずこの脱毛剤を頭にかけた後、この育毛剤を顎と脇、そして、股間に……」


 書記は恐ろしい事を呟きながら、純真な目で俺の背後にいるお嬢様を一望する。


「……私達はとんでもない所の教室を借りたのでは……?」


 四季咲が今更気づいても遅い事に気づいてしまう。

 彼女達──聖十字女子学園生徒達に負い目がある俺は溜息を吐きながら、着ぐるみ越しに危険人物と向かい合った。そして、深い溜息を吐き出した。


「……お前らが何をしたいのか理解できねえよ」


「「「「「着ぐるみを着たお前にだけは言われたくない」」」」」


「正論で殴るの止めろ」


 彼等が言葉如きで止まらない事を理解している俺は右の拳を握り締める。


「いいぜ、お前らが何言っても止まらないんだったら、俺が力尽くで止めてやる……!!」


 "暴力は根本的な事は解決できねぇが、色んな事を有耶無耶にできる"という格言を信じている俺は、柴犬の着ぐるみを着たまま、狂人達の群れに特攻を仕掛ける。


「いくぜ、狂人共……!俺の闘いはこれからだ!!」


 その日、お嬢様達は見た。

 特殊な価値観を持った高校生と柴犬の着ぐるみを着た男の血で血を争う闘争を。

 彼女達がそれを見て、どう思ったのかは知らない。



 いつも読んでくれて本当にありがとうございます。

 本日の更新はこれで終了です。

 中々本筋に入れなくて申し訳ありません。

 喧嘩をしていない司を書くのが楽し過ぎて、つい導入の部分を書き過ぎてしまいました。

 繰り返しになりますが、明日の更新は12時・15時・18時・21時を予定しております。

 明日の更新分は本筋を進めますので、よろしくお願い致します。

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