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4月20日(1) 桑原学園生徒会の巻


「……この学校の命運は貴方にかかっています」


 4月20日月曜日の朝。

 学校に登校するや否や生徒会室に呼び出された俺は会長から頼み事をされた。


「なあ、会長。俺はこの学校の命運、何回背負えば良いんだよ」


 ジャージに身を包んだ──先々週に巻き込まれた事件により制服は燃え尽きてしまったため、今はジャージ登校している──俺は溜息を吐き出しながら、会長に文句を言う。


「無論、死ぬまでです」


「俺、この学校と共に心中つもりないんだけど」


 俺が通っている桑原学園は今年で創立3年目を迎える若手の高校である。

 桃と栗が実るかどうかの歴史しかない癖に不祥事は両の手使っても数え切れないくらい起こしている。

 特に1番問題になったのは前理事長が起こした人体実験騒動──ヤクザと繋がっていた前理事長が麻薬と生徒を使って、新たな人類(ちょうのうりょくしゃ)を造り出そうとした残虐極まりない事件──だ。

 この騒動が表沙汰になった所為で桑原学園は廃校寸前に陥った。

 その所為で俺は前理事長と繋がっていたヤクザを潰すために動き回っていたのだが、今となっては過去の話。


 そう、俺は事ある毎にこの学園の命運を背負わされているのだ。

 ただの高校生には荷が重過ぎるので、そろそろギブアップ宣言を申し出たい。

 今の俺は今月頭に起きた魔法絡みの騒動の尻拭いに追われているのだから、余計な事件を背負いたくないのだ。


「おいおい、神宮さん。姐さんがここまで頭下げているんだ。言う事を聞くのが筋ってもんじゃねえのか?」


 女の子にしか見えない少年──書記が俺に詰め寄る。


「俺は反対だな。そもそも、こいつは生徒会メンバーじゃねえだろ。人体実験騒動とか麻薬騒動とか知らねえが、喧嘩が強いだけの不良にこの案件を任せるのは間違っている。第一、会長、あんたはこの男に頼り過ぎだ。もう少し俺らを頼ってもいいんだぜ?」


 黙っていたら男前の副会長が俺を睨みつける。


「でも、お前、口だけの雑魚じゃねえか」


「あん?喧嘩売ってんのか、ヤンキー風情が」


「…………!!」


 喋る事が苦手な会計はあたふたしながら、一触即発状態に陥った俺と副会長を交互に見る。


「落ち着いてください。ここで貴方達が争っても事態は何も解決しません」


「それもそうだな。で、あんたら生徒会は俺に何を押し付けようとしてんだ?」


 背もたれに体重を預けながら、俺は深い溜息を吐き出す。

 わざわざ俺に頼み込むのだ。

 きっと面倒事なのだろう。

 人の生死や人生が左右される事案なら、緊張感を持って取り組むが、学校の命運如きでやる気を出せる程、俺は聖人なんかじゃない。

 まあ、これが俺の不祥事の所為で起きたものだったら、話は別──


「今日から聖十字女子学園の生徒達がこの学校の一部教室を借りますので、貴方には彼女達の護衛をして貰いたい」 


「大体承知。俺は聖十字女子学園のお嬢様達をこの命に代えてでも守り切ろう」


 俺の所為で起きた厄介事だった。

 話は大体2週間前に遡る。

 ざっくりに説明すると、俺は間接的にであるが、聖十字女子学園──この辺で有名なお嬢様学校の校舎を破壊した。

 そして、俺は校舎を破壊した魔女をぶっ倒すためだけに、俺は自分の邪魔をして来たお嬢様達を精神的にも肉体的にも痛めつけた。

 まあ、何が言いたいかと言うと、俺はお嬢様達を散々痛めつけた挙句、彼女達が通う校舎を破壊した訳で。

 意図的でないにしろ、俺がしでかした事には変わりない。

 一応、先週の時点でお嬢様1000人に謝罪しに行ったが、それでも謝罪は足りていない。

 だから、俺は尻拭いしなければいけないのだ。

 命に代えてでも。



「で、誰がお嬢様達を狙っているんだ?」


「この学校の生徒達全員です。今、この学校には頭おかしい人しか存在しないのは貴方も知っているでしょう?」


 会長の指摘に首を縦に振る。

 今、この学校は前理事長が起こした騒動により、まともな常識を持った者は全員転校してしまっている。

 残ったのは経済的或いは他の事情により転校が難しい者と頭が悪い者、そして、頭がおかし過ぎて何処の高校も受け入れてくれない者達しかいないのだ。


「そんな狂気に犯された学校に彼女達のようなお嬢様を野放しにする訳にはいけないのです。もし彼女達がこの学園の生徒に襲われて、政界・経済界の重鎮である親を動かしでもしたら、この学園、今度こそ廃校になってしまうかもしれません」


「何でこの学校はお嬢様達を受け入れたんだよ!?ハイリスクローリターンじゃねえか!!」


「仕方ないでしょう!あっちが希望したのですから!!」


「お嬢様達も頭狂っていたのか!!」


 会長と俺は頭を抱えて、項垂れる。

 何故、お嬢様達はこの学校の教室を借りたのだろうか。


「つまり、ちょうど空き教室があり、かつ学園のイメージアップをアップしたいという浅はかな考えでお嬢様達にオッケーを出したのか?この学園の経営陣は?」


「そういう事でしょうね」


「現場を知らねえから、そんな馬鹿な事をやれるんだよ。もしこの学園の生徒達を知っていたら、こんな変態達の巣窟に純粋なお嬢様達を突っ込まねえよ」


 現場と経営陣、そして、依頼主とのすれ違いを理解した俺らは深い溜息を吐き出す。


「もう過ぎた事だ。落ち込んでいる暇があったら、お嬢様達の安全を守る事を考えるべきだ」


 副会長はそう言いながら、俺に書類を手渡す。


「これはなんだ?」


「要注意人物をリストアップしたものだ。お前の顔見知りしか載っていないが、一応、目を通しておけ」


「顔見知りが載っているリストに何の価値があるんだ?」


 リストをパラパラ捲る。

 そこには委員長、伊紙丸、同じクラスメイトの菴堂、土井中、1つ上である子々野先輩とその子分、そして、副会長の顔が載っていた。

 他にも様々な変態が載っていたが、どれもこれも俺の友達だった。


「……何で委員長達が載っているんだよ」


「……貴方の身の回りにいる人達は特殊な思想を持ち過ぎて危険なのです。お嬢様に悪影響を与えかねないので」


 俺の周囲の人間を思い出す。

 先ずは委員長。

 彼女は3大欲求に忠実過ぎる人間だ。

 普段は委員長としてクラスをまとめる役割を担っているが、自分よりモテそうな奴を見かけると、つい暴力を行使してしまう困った女の子。

 次に伊紙丸。

 彼は視界に入れた人の性癖を見抜く『隠された扉』という眼を持つ変態だ。

 彼の所為で取り返しのつかない系の変態は日々増加している。

 菴堂、一昔前の不良みたいな容貌をしている変態。

 気の弱そうな女の子に調教されるのが夢らしい。

 土井中、見た目はガリ勉野郎だが、伊紙丸の所為で頭の中を性欲で支配されてしまった可哀想な変態だ。

 パッと思い浮かべるだけでヤバイ奴しかいなかった。

 多分、あいつらとお嬢様達が会ったら、彼等の特殊な思想により歪んでしまうだろう。


「いいか?お前はこいつらから人畜無害の象徴であるお嬢様を全力で守れ。暴力を振るっても構わん。てか、こいつらの骨を折れ。じゃなきゃ、こいつらは止まらねえ」


「おい、副会長。このリストに載っている奴ら、殆ど俺の友達なんだけど?お前、俺にこいつらの骨を折れって言ってんのか?」


「ああ、こいつらは言葉で言って止まる奴らじゃねえからな。言葉で言ってダメなら、暴力で止めるしかねえだろ」


「大体承知」


 リストに載っていたので、躊躇う事なく副会長の腕の関節を外す。

 生徒会室に乾いた音が鳴り響いた。


「あんぎゃああああああ!!!!てめえ!何で俺の腕折ってんだあああああ!!!!」


「いや、リストに載っている奴の骨折れって言ったから……」


 大袈裟に痛がる副会長にリストを見せる。

 彼はリストに載った自分の顔を見るや否や目を大きく見開いた。


「何で俺がそこに載ってんだよ!!??さっき見た時、載ってなかっただろうが!!」


「あ、副会長が載ってなかったんで、僕が載せときました」


「何でだああああ!!??」


「何でって、そりゃあ、副会長がどうしようもなく変態だからに決まってるじゃないですか。え?あんた、もしかして、自分はまともだと思ってたんですか?」


「まともだわ!!だから、副会長になったんだろ!?」


「僕みたいな社会不適合者が書記になっている時点でその論法は使えませんよ、はい論破」


「ざけんなっ!お前みてえな形振り構わず噛みつく狂犬と一緒にされてたまるかっ!!」


「僕だって、自分より強い奴には噛みつきませんよ。あんたが雑魚中の雑魚だから噛み付いているんです、この負け犬が」


「表に出ろ!今日こそ礼儀ってものを教えてやる!」


「はいはい、その前に脱臼治そうか」


 俺は副会長の外した関節を嵌め直す。

 彼は短い悲鳴を上げると、そのまま書記を連れて外に飛び出した。

 数秒後、副会長の悲鳴が外から聞こえて来る。

 多分、書記に礼儀というものを教え込まれているのだろう。

 会長は深い溜息を吐き出すと、俺の目を見て話し始める。 


「……という訳で、貴方だけが頼りなんです」


「大体承知。で、お嬢様達はいつまで教室を借りる予定なんだ?」


「校舎を建て直すのに1年かかると聞いています。が、夏頃には仮設校舎ができるらしいので、それまで彼女達を守ってください」


「……もしかして、朝から晩まで?」


「いいえ、そこまで頼みません。聖十字女子学園の生徒達は寮からここまで貸切バスで通学するそうです。ですから、彼女達がバスに降りて乗るまでの間、彼女達を守って頂けれたらと……」


「大体承知、あいつらがバスから降りて乗るまでの時間だな。それなら可能だ」


 そう言って、俺は生徒会室から出る。

 会長は俺の聞き分けの良さに驚いたのか、こんな質問を投げかけた。


「随分、快く引き受けてくれますね。何か理由でもあるんですか?」


 お嬢様達を物理的にも精神的にも追い込んだ挙句、彼女達が通う校舎を関節的にぶっ壊した事を話したくない俺は全力で会長から目を背ける。


「ち、……地域の人々の平和と安全を守るのは俺の仕事だからな」


 しどろもどもろになりながら、それっぽい事を宣う俺に不信感を抱いた会長はジト目で俺を睨む。 


「……もしかして、貴方、……いや、ないとは思いますが、念のために一応聞いておきます。もう既にお嬢様達を殴ったりとか、……していませんよね……?」


 嘘を吐くのが苦手な俺は会長からの追及から逃れるべく、全速力で生徒会室から飛び出した。


「あ!逃げた!」



 新しく評価してくれた方、新しくブックマークしてくれた方、ありがとうございます。

 そして、過去にブックマーク・評価してくれた方、いつも読んでくれている方、厚くお礼を申し上げます。

 みなさんがいつも読んでくれているお陰で2万PVまであと僅かになりました。

 本当にありがとうございます。

 次の更新は15時頃を予定しております。

 また、明日の更新は12時・15時・18時・21時を予定しております。

 これからもよろしくお願い致します。

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