4月17日(4) VS人工パイパイと天然ぱおんを持つ暗殺拳の使い手の巻
クラスのみんながどっか行った所為で、英語の時間もその次のホームルームの時間も自習だった。
放課後、特にやる事がなかった俺はおっぱい露出狂女がいると噂されている河川敷に行こうとする。
「布留川、お前はおっぱい見に行かなくてもいいのか?」
「俺は部活があるからな。来週の土日練習試合組んでいるし」
シャドーボクシングをしながら、俺の質問に答える布留川。
「それにもしかしたら、委員長達が露出狂を捕まえているかもしれないぞ」
「それもそうだな。んじゃ、特にやる事ねえから蜘蛛女達のお見舞いにでも行こ……」
俺が欠伸をしようと蹴伸びした瞬間、教室に酷く動揺した生徒会長とツインテール娘が入室して来る。
「た、大変です!!貴方のクラスメイトが変質者に……!!」
「えー、あいつら、あんだけ張り切ってたのに返り討ちに遭ってんのかよ」
面倒臭そうに頬を掻きながら、俺は思いっきり溜息を吐き出す。
「なに面倒臭そうにしているんですか!?級友のピンチなんですよ!?」
「委員長がいるし、多分、大丈夫だろ。あいつ、結構タフだし」
「幾ら美子ちゃんでも犯罪者相手だとキツイと思います!!神宮さん、早く助けに行ってください!!」
委員長の友達であるツインテール娘は俺に頭を下げる勢いで頼み込む。
「ヘイヘイ、分かりましたよ。で、委員長達はどこにいるんだ?」
面倒臭そうに溜息を吐き出しながら、俺はいつでも飛び降りれるように教室の窓に足をかける。
「学校近くの河川敷です!急いで向かってください!」
「大体承知。屋根伝いで向かうから近隣住民の苦情処理を頼みます」
「できるだけ穏便な形で向かってください!貴方がパルクールする度に学校に苦情が……って、ああ!!」
会長に無茶振りした俺は窓から飛び降りると、河原目掛けて走り出す。
屋根伝いで移動した結果、数分もかからない内に現場に到達した。
そこで目をしたのは激戦の果てに力尽きた馬鹿達の屍。
みんなアホ面晒して倒れていた。
「ツカサン、来てくれたんか!」
無駄に傷を負った伊紙丸が右腕を押さえながら、俺の下に走り寄る。
「気をつけえ!あの変質者、ただもんじゃあらへん!何かの殺人拳の使い手らしくてな!流石のツカサンも苦戦すると思うで!」
「おい、当たり前のように話を進めるな。何で俺は殺人拳の使い手と喧嘩しなきゃいけねえんだよ」
溜息しか出てこない。
巻き込まれただけの被害者ならともかく、何で自分から事件に首を突っ込んだ馬鹿達の尻拭いを俺がしなきゃいけねえんだよ。
殆ど自業自得だろうが。
倒れているクラスメイト達の傷をチラ見する。
外傷らしきものは殆どなかった。
恐らく彼等と相対した変質者は最小限の力で彼等を気絶させたのだろう。
もし俺が彼等を気絶させるなら、彼等に青痰ができるくらいの力で殴っている。
そう考えると、彼等を気絶させた変質者は俺よりも力加減は上手いと言う訳だ。
(ちょっとやる気出てきたな)
こないだの魔女騒動で自身の力不足を痛感した俺は少しだけやる気を抱く。
俺はあの時、自分の実力で魔女や蜂女達1000人を倒した訳じゃない。
啓太郎やその他諸々の助けがあって、何とか切り抜ける事ができた。
もしもあの時、俺の力配分が上手かったら、もしもあの時、俺が最小限の力で蜂女達を気絶させられたら、1000人相手でも何とか勝てたかもしれない。
そのヒントをクラスメイトらを圧倒した変質者が持っているかもしれないのだ。
「ツカサン、あそこや!今、委員長が露出狂と対戦しとる!」
川の方を指差す伊紙丸。
彼の指差した方向を見ると、委員長と身長190センチくらいの全裸の女が拳を交わしていた。
露出狂という名の変質者はかなり良いガタイをしており、遠目でも筋肉隆々な事が分かる。
おっぱいがでかいという噂だったが、確かにでかいことにはでかいが、モリモリの胸筋も相まってあまりエロさを感じない。
おっぱい見たさに来ただけに、やる気が少しダウンした。
まあ、筋肉でもでっかいおっぱいと黒乳首見れたから良いか。
「おーい、委員長ー。代ろうかー?」
川の中で変質者と拳を交わす委員長に声を掛ける。
彼女は鼻から血を流しながら、変質者と距離を取っていた。
「委員長、大丈夫か!?」
「神宮、ヤバイ……!こいつ、とんでもないものを持っている……!!」
「なっ……!?凶器か暗器か!?」
慌てて委員長の元に向かって走り寄る。
委員長はわなわなと変質者の股間を指差した。変質者のモノを見る。
彼女(?)は俺のよりもデカい男の勲章を持っていた。
「昔、バイトリーダーが言ってたな。男と女の要素を併せ持つ奴がいるって。お前、両性具有っていう奴なのか?」
変質者の男性器を見て、興奮している委員長に早く陸に上がって来いとハンドサインで指示する。
俺はというと生おっぱいを見た興奮よりも初めて両性具有を見た衝撃により少しばかり動揺していた。
(本当にいるんだな、両性具有って)
変な感心をしていると、奴は高らかに笑い始める。
「ほっほ!いいえ、このおっぱいはね、後からつけたモノ。この男性器は自前よ!!」
「なるほど、人工的に両性になったって訳か」
タイで性適合手術をやった知り合い数人を思い出す。
生まれた時の性別と心の性別が一致していない彼女達は、身体と心の性別を一致させるために治療したらしい。
多分、彼女(?)もそういう類いなのだろう。
「どうしておっぱいなんかつけたんだ?自分で揉みたくなったとかか?」
「ほっほ!男の勲章だけ見せつけても大半の男の人は興奮しないでしょ?だから、私はおっぱいをつけたのよ!!私の身体で男の人も女の人も興奮できるようにね!!」
呆れた理由だった。
「……二兎追う者一兎も追えずって言葉知っているか?確かにおっぱいは魅力的だし、あんたの男性器は立派だ。けど、ステーキとアイスクリームを組み合わせた所で美味しくならないだろ?」
鼻血を垂れ流した委員長が陸に上がった事を確認した俺は、全裸の変態を捕まえるためだけに右の拳を握り締める。
委員長は陸に上がるや否や、俺を焚きつけた。
「神宮、さっさとあいつを倒しなさい!!人類の夢と幻想を守るために!!」
「人類の夢と幻想とやらはともかく、露出狂を野放しにする理由はねえな。正義の味方って訳じゃないが、善良な一般市民としてお前を見過ごす訳にはいかない」
「ん?……善良?」
「おい、委員長。そこに疑問を抱くな」
「ほっほ!貴方の佇まい、その雰囲気!ただのパンピーじゃないわね!歴戦の戦士か、それともただの命知らずの大馬鹿者か……どちらにしろ傭兵時代の血が騒ぐわ!」
奴の濃ゆいキャラクター性で俺の影がどんどん薄くなっていく。
ヤバイ、さっさと倒さないと俺が地味キャラの方に分類されてしまう。
「ええ!あんたの言う通り、そこにいるのは果てしない馬鹿よ!!」
「チンポコ見て興奮している委員長にだけは言われたくない」
側から見た委員長は馬鹿以外の何者にも見えない。
「いけー!ツカサン!ワイらの敵を討ってくれ!!」
いつの間にか復活した級友達が遠くから俺に声援を送る。
彼等の声援を受ける度に俺のやる気は激減してしまった。
「ほっほ!たかが高校生に戦場帰りの暗殺拳の使い手である私を倒す事なんてできないわ!5秒で昇天させてあげる!」
「……やれるならやってみろよ、変質者。あんたじゃ、俺には勝てねえよ」
「その遠吠え、嫌いじゃないわ……!!」
変質者は陸から上がると、独特な構えをしながら俺との距離を詰める。
かくして、俺と全裸の両性具有者との喧嘩が始まった。
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