4月17日(3) 「このクラス、馬鹿しかいないのか……!」の巻
昼休みの教室。
いつも通り布留川と委員長と購買のパンを齧りながら、くだらない事を話していると、トイレに行っていた伊紙丸が教室に帰って来るや否や、こんな事を言い出した。
「ツカサン、大変や!!Gカップ女子大生が近くの銭湯を利用しているらしいで!!」
「大体承知、伊紙丸!今すぐ覗きに行くぞ!!」
「おう!!」
「行くな!!」
委員長は躊躇う事なく、俺の頭を叩く。
「今から5時間目始まるでしょうが!んな馬鹿な事してるから留年しかけんのよ、お前は!!」
「委員長、突っ込む所はそこじゃねえだろ」
布留川は焼きそばパンを食べながら、冷静にツッコむ。
「は!そうだった!!神宮!覗きは犯罪よ!!絶対にやったらいけない事なのよ!」
「大体承知。俺も覗きは流石にやべえなって思ってたんだ。──だから、正々堂々女湯に入くよ」
「なら、問題ないわ」
「いや、何も良くねえよ。問題しかねえよ」
「にしても、不思議だよなあ。何で温泉や銭湯とかは男湯と女湯で分かれてんだ?」
席に座り直した俺は購買で買って来たメロンパンを頬張りながら、思った事をそのまま呟く。
「んなの、お前みたいな変態がいるからだろうが」
布留川は面白味のない事を言いながら、ホットドッグを貪る。
「フルヤン、ワイらを見くびるな。女の子に直接手を出す度胸がない故に覗きするんやで、ワイらは」
「そうだ、そうだ。俺はレリゴーおっぱいを見たいだけで別に疾しい事をしたい訳じゃないんだよ。俺はただ視姦がしたいだけだ」
「視姦も十分疾しい事だぞ」
「え!?そうなの……!?」
布留川の発言に困惑する委員長。
メロンパンを食べ終わった俺はまだお腹が減っていたので、委員長が食べていたアンパンを奪い取ろうと試みる。
その時だった。
教室に隣のクラス所属のツインテール娘──委員長の中学時代の友達であり、伊紙丸の幼馴染みでもある──が入って来たのは。
「じ、神宮さん!大変です!事件が起きました!!」
委員長にバレないよう、こっそり彼女のアンパンを奪い取りながら、俺はツインテール娘の話に耳を傾ける。
「って、さり気なく私の飯に手出してんじゃないわよ!!」
机の上に置かれた食べかけのアンパンに触れた途端、委員長は俺の頭に頭突きを喰らわせようとした。
「で、事件がどうしたんだ?」
委員長の頭突きを紙一重で躱した俺はツインテール娘に質問を投げかける。
彼女は小動物を想起させるような動作で手を振り上げると、事件の概要についてざっくり俺らに教え始めた。
「はい、本当に大変なんです!!近くの河川敷で露出狂が出ているそうです!!」
「分かったわ!さあ、神宮!速攻で河川敷に行くわよ!」
「えー、俺は良いよ。どうせ男だろ?男の身体見ても何も面白くないし」
妙に乗り気な委員長を眺めながら溜息を吐き出す。
男の逸物なんて見たところでテンションが上がらない。
どうせなら爆乳の露出狂とそう遭遇したい。
「女の人です!おっぱいボインボインの!!」
「近隣の住民の安全を守るのが俺の役目だ!委員長、今すぐにでもおっぱい見に行くぞ!!」
「ええ!今すぐ行くわよ!!」
「待て、委員長。近隣の住民の安全を守るのは警察の役目だ。そして、神宮。お前はただおっぱいが見たいだけだろ」
布留川の冷静なツッコミが飛んで来たので、すかさず抗議の声を上げる。
「でも、露出狂を見逃す訳にはいかないだろ!!誰も傷付かず合法的にボインボインのおっぱいが見れる機会だからな!!」
「正義感ではなく性戯感に駆られてんな、お前」
「もしも露出狂の乳首が真っ黒だったらどうすんのよ!?全人類の女子の乳首が真っ黒だと思われるじゃない!!」
「委員長、お前は何の心配をしているんだ?」
「フルヤン!ワイ、ちょっとトイレ行きたいんやが、今行ってもいいか!?」
「俺に一々お伺い立ててんじゃねえよ」
いつものようにギャーギャー騒いでいると、昼休みはいつの間にか終わってしまう。
やる気なさそうに俺らの担任──英語を担当している黒縁の眼鏡を掛けた先生が教室に入って来た。
「お前ら席に着けー、5時間目始まるぞー」
「先生、それどころじゃないんです!おっぱい星人が出たんです!!」
「神宮、誰が自己紹介しろって言った?」
「先生は全人類の女子の乳首が真っ黒だと思われても良いんですか!?」
「先生はピンクよりも黒い方が好きだから別に良いぞ」
「先生、トイレ!」
「伊紙丸、先生はトイレじゃないぞ」
「神宮、真っ暗乳首の露出狂が出たって本当か?」
「うん、園田、授業始めたいからこれ以上話広げないでくれないか」
「委員長、あたいらも手を貸すよ。まだ初心なショタに全人類の女子の乳首が真っ黒と思われても困るからねえ」
「男の子の幻想を守るのも女子の役目っていうか。まあ、あーしらが束になれば露出狂くらい余裕っしょ」
「おーい、安東、綿鍋。今から授業始めるからノリノリにならないでくれー」
「「俺らも手を貸すぜ!」」
「伊東、羽生田、大人しく席に着いてくれー、頼むから」
「みんなが行くってなら仕方ねえな」
「まあ、お前らに貸しがあるしな」
「全く、あんたらはいつも急なんだから」
「僕も微力ながら力を貸すよ。何せ女性の乳首が見れるんだから」
次々に立ち上がるクラスメイト達。
友達思いの彼らに感極まった俺は、思った事をそのまま口に出す。
「このクラス、馬鹿しかいないのか……!」
「神宮、この馬鹿集団を扇動したのはお前だからなー」
先生は諦めたのか教科書を閉じると、教卓の上で俯せの状態になる。
クラスメイト達の熱気に気圧された俺は布留川同様、自分の席に着いた。
委員長達は俺と布留川、そして、先生の冷ややかな目を見ようともせず、その無駄に高いカリスマ性を発揮する。
「みんな!聞いて!古来より私達人類は乳首を隠すためだけに衣服を着るようになったのよ!!」
過言でしかない委員長の演説をクラスメイト達は頷きながら聞く。
「男も女も乳首の色を隠す事で人権を守って来た!だから、乳首を見せびらかすという行為は人権を売り払う行為と同じ事なのよ!!そんなの人間じゃない!!ただの獣よ!!」
「「「「そうだ!そうだ!」」」」
「だったら、プールの時はどうなんだ?男共は乳首フルオープンしてるじゃねえか」
布留川の冷静なツッコミは軽く流される。
「露出狂は箱の中の猫に毒ガスをばら撒いたのと同じ行為をしでかしたのよ!!そう、シュレディンガーの猫ならぬシュレディンガーの乳首をやってのけたのよ!だから、私達は守らなきゃいけないのよ!人間として、人権保有者として、そして、正義のために!!」
「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」
クラス内に級友達の雄叫びが生じる。
担任はヘッドホンとアイマスクをつけて、外からの刺激をシャットダウンしていた。
「さあ!いくわよ、野郎共!シュレティンガーの乳首を血祭りに上げに!!」
「「「「うおおおおおお!!!!」」」」
某日曜夕方に出てくる陽気な若妻がエンディングで家族をホイッスルで扇動するのと同じように、委員長はクラスメイト達を連れて教室の外に出て行ってしまう。
残ったのは俺と布留川と眠りこけている先生のみ。
もう学級崩壊と言っても過言じゃなかった。
インフルエンザ大流行した時みたいな教室を見渡した俺は頭を抱えながら、こう言った。
「え?俺、こんな奴らと1年共にすんの?」
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