絹漉小百合は狂っている
今回も視点が変わって小百合視点となります。
「あ~楽しかった」
やっぱり星宮君と関わっていると退屈しない。それにあの冷めた眼……堪らない。あの人を人とも思わない冷たい目で見られるだけで私の身体は自然と火照り、疼いてしまう。
元々私はマゾというわけではなく、むしろサディストの気の方が強い。でも星宮君相手だと猛烈にイジメられたくなる。何なら踏んづけたり、唾を吐きだされてみたい。
こんな思考星宮君知ったらドン引きするかな? いや、でもそれはそれでありかも。むしろその方がいい。明日わざと星宮君を怒らせるような事言ってしてもらおうかな?
「あ、あの絹旗さん‼」
あ、でもそんなことしたら星宮君に嫌われてしまうかもしれない。それはダメだ。私は星宮君から雑に扱われるのは好きだけど嫌われるのは好きではない。むしろ絶対にダメだ。
本で見たけど一度嫌われてしまうとその人に好きになってもらう事は、とても難しいらしい。そうなってしまったら星宮君と結婚するという私の夢が崩れ去ってしまうではないか。それは何としてでも避けねばならない。だからこそ今は我慢だ。が・ま・ん。
「絹旗さん‼ 僕の話聞いていますか‼」
「あ……え……君だれ?」
「村主ですよ‼ 村主薫‼」
「すぐり……すぐり……すぐり……ああ、君はあれか。私の婚約者の村主薫君か」
「やっと思い出してくれましたか……」
あまりの興味のなさに完全に失念していた。それどころか今、一緒にいる事さえ忘れてしまっていた。
「それで村主君は私に何の用かな?」
「呼び出したのは貴方でしょうに……」
「私? あれ? そうだっけ?」
「もう忘れてる……はぁ……貴方の中で僕の評価は一体どうなっているんですか……」
「う~ん。ボウフラレベルかな」
「それはいくらなんでも酷くないですか!? 貴方仮にも私の婚約者でしょう!?」
「にゃはは。それはそうだけどね」
私の家は実のところかなりのお金持ちなわけで、政略結婚などありふれている。その為私は毛ほどの興味もないこの男と許嫁の関係にあるわけだ。
「大体私を選んだのは貴方でしょう?」
彼のいう事は何も間違ってはいない。彼を婚約者に選んだのは紛れもなく私だ。でもそれは別に彼の事が気にいって選んだとかそういうわけではなく、彼が私と同じ志を持っている人間だと見抜いてのことだ。
「それはお互い様でしょう。それでそっちはどう? うまくやっているの?」
「おかげさまで。どうにかうまくやっていますよ。これもすべて絹漉さんのおかげですよ」
実のとこと村主は私以外の女性と今、お付き合いをしている。しかも相手は彼の家の使用人で、幼馴染の少女らしく、私はそんあ二人がうまくいくよう様々なアドバイスをしたというわけだ。
このような事彼の父親にバレればひとたまりもないだろう。最悪の場合村主は家を追い出され、放逐される
でも彼にとってはその様な事粗末なことらしく、元々成人したら家を出ていくつもりだったらしい。
そうなると私との縁談は当然御釈迦。晴れて私はフリーの身となる。そうなればもうすべてこっちのもの。私は星宮君と結婚してハッピーエンド。
そういった意味で私達は婚約者でありながら共犯者でもあるのだ。
「それで絹漉さんの意中の相手はどのような方なんですか?」
「これよ」
私は隠し撮りした星宮君秘蔵写真コレクションの中から一枚を抜き出し、村主に差し出す。本当は
この一枚ですらこいつに見せるのは惜しいのだが……背に腹は代えられない。
「この方……ふむ。髪の毛で顔を隠していますが中々カッコいい方ですね」
「でしょう?」
「まあ僕には及びませんが」
「おい。お前何調子乗ってんだ? 潰すぞ?」
「ご、ごめんなさい……」
「分かればいいんだよ。わかれば」
おっといけない。いけない。村主の野郎があまりにクソみたいな事言ったからつい口調が乱れてしまったわ。女の子なんだからもっとお淑やかにいかないとね。おほほほほ。
「そ、それで絹漉さんに何か作戦はあるのですか?」
「それはあなたが考えるんでしょう?」
「デスヨネ……」
女を落とすテクニックならわかるが生憎男を落とすテクニックは、持ち合わせていない。だって私自身恋をするの初めての事だし……
「い、今鳥肌が……」
「いいからさっさと言え。じゃないとお前の彼女。私が寝取るぞ?」
「そ、それだけは勘弁してくださいよ……」
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