家族に優しく、他人に厳しく
本日二話目の投稿。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃん。お帰り~」
家に帰ると僕の妹の咲葉は既に帰宅していた。咲葉は既に制服から着替え、私服姿。
どこに出かけるわけでもないのに、咲葉の装いは気合一杯、フリフリのスカートをはいている。
咲葉はいつも僕より早く帰宅してはこうして出迎えてくれる。
それはわざとなのか将又偶然なのか……まあそんな事気にしても仕方がない事だが。
「……ん」
「今日の学校はどうだった?」
「うるさかった。疲れた。面倒くさかった」
「ははは。相変わらず辛辣だね~」
「あそこは魔宮だ。どうしてあのような所にいかねばならないのだ」
「それは将来の為でしょう? それともお兄ちゃんは中卒で働くつもりだったのかな?」
我が妹ながら口が回ることで。まあ家族だから別段不快に思う事は無い。もしこのセリフをあのクソ女二人が口にしようものならば、その時は絶対に顔面をぶん殴っている自信がある。
「それでお兄ちゃんはこれからどうするの?」
「……寝る」
「ええ……また寝るの? どうせ学校でもずっと寝てたんでしょう?」
「そうだけど?」
「うわぁ~い。この人全く悪びれてない~」
「実際悪いことではないからな」
「いやいや。学校は勉強する場何だから勉強しようよ‼」
「勉強なら家で十分している。それに学校の範囲は既に予習済みだ」
「凄いは凄いんだけど……どうしてお兄ちゃんが言うとこうもがっかりするのか……」
「うるさい。用事がないなら僕はもう寝るぞ」
「ああ‼ 待って‼ 待って‼」
「なんだ……全く」
「お兄ちゃんさ。最近私と遊んでくれないじゃん? だから今日は久しぶりに遊んでくれないかな……って」
そう言えば最近咲葉と遊ぶ機会がめっきり減った気がする。一体いつからだっただろう……確か……ああ、そうだ。学校であの目障りな奴らがからみだしてからだ。
まさかあいつの影響がこんなところにまで出てくるなんて。ああ、もう。思いだすけでイライラしてくる。
「やっぱり迷惑……だった?」
咲葉が怯えている……これもすべてあいつのせいだ。
「いや。そんな事は無いよ。そうだね。うん。今日は命一杯遊ぼうか」
「本当!? 咲葉超嬉しい‼」
咲葉は僕と遊べるのが余程嬉しいのか兎の様に可愛らしく、ぴょんぴょんと飛び回っている。その様は見ていてとても可愛らしものなのだが一つ懸念することがある。
「咲葉。スカート吐いてるんだからそう跳ねるな。パンツ見えてるぞ」
「へ……!? 嘘!?」
「嘘だ」
「もう‼ お兄ちゃん‼ そういう嘘止めてよね‼」
「悪い。悪い。でも咲葉ももう少し注意しろよ? 今は家だからいいけど外でそんな事したら不特定多数の人間に咲葉の下着が丸見えになってしまうんだからな」
「お兄ちゃん……その言い方なんか気持ち悪い」
「僕は事実を言っただけだ。そこに邪な気持ちは一切ない」
「ちょっとはそういう気持ちになってくれてもいいのに……」
「何か言ったか?」
「ううん‼ なんでもない‼」
僕はまたこうして嘘を塗り重ねる。僕は本当は咲葉の気持ちに気付いている。
彼女は……咲葉は僕の事を一人の男の人として見ている。一体全体何がきっかけでそうなったのかはわからない。咲葉は昔から僕によく懐いていた。でもそれはあくまで兄と慕ってくれているのだと思っていた。
その気持ちが違うのだと気づいたのは僕が高校生にあがってからすぐ彼女の部屋にある手記を偶然覗き見してしまってからだ。
そこには僕への気持ちを綴ったものが何十、何百とページをまたいで書かれていた。それを初めてみた当初は鉄の心と自負する僕の心も動揺を隠し切れなかった。
普通に考えて兄妹で恋愛なんて真似絶対にできない。まして結婚なんてすることはできないのだから。その事を意識して一時期僕は咲葉から距離を取ったりもした。でもダメだった。
咲葉は僕が離れても、離れてもずっとついてきた。僕が拒絶しても咲葉は決して僕のそばから離れなかった。その時僕は人の好意とはこうも強いものだと思い知らされた。
咲葉の思いはその辺の物とは違う。彼女は本当に僕の事を思ってくれている。それを僕は思い知らされてしまった……だから僕は彼女の事を拒むのをやめた。
勿論気持ちに応えるつもりはない。そんなの世間が許さないし、何より父さんや母さんを悲しませてしまう事になる。何より一番悲しむのは妹である咲葉だろう。
仮に僕が咲葉の気持ちを受け入れ付き合ったとして、はじめのうちは幸せかもしれない。
でもそんなの仮初の幸せだ。いずれ世間という名の魔物が妹の事を傷つける。
お前は壊れている、気持ちが悪い、異常だ。そんな冷たい言葉が僕たちの事を襲う事になる。
そして知ることになる。人間の醜さ、浅ましさ、強欲さを。僕はそれを既に知っている。知ってしまっている。
でも妹はまだ知らない。知らないからこうして今日も笑顔で笑っていられる。僕としてはそんな妹の……咲葉の笑顔を奪いたくはない。僕みたいに捻くれた、どうしようもない碌でないしなって欲しくはない。
だから僕は彼女の気持ちには気づかぬふりをして、今日も愚鈍な兄を演じる。それが僕に咲葉にできる精一杯の抵抗であり、優しさだと僕は信じている。
でも叶うのならばいつか咲葉の気持ちが、思いが変わるのだと信じたい。
「お兄ちゃん。どうかした?」
「いや。なんでもないよ」
「ん~?」
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