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今宵、君は踊り僕は詠う  作者: 空蒼久悠
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第七話


 我々にとって『世界』とは主らの言う『Story in the dream 』の物語の世界じゃった。

 その世界が我らの全てで、その他の世界があるなど考えたこともなかった。

 主らがこの世界が絶対だと思っているようにじゃ。

 主らにとっての物語の住人である我々にとって、主らの描いた物語が全てで絶対であった。

 主らの世界の住人……主の曾祖父が紡いだ世界が我らにとっては絶対であった。

 我らは我らの世界でただ生きていた。

 それが誰かの手によって創られた世界であるとも知らずに。

 ただ、毎日本当は決められていたその物語を自分達の手で選んだ道だと信じてずっとずっとじゃ。

 この世界に現れた時に思ったよ。


「あぁ、我らはなんとちっぽけな存在なのじゃ」とな。


 そうは思わぬか? 我らが全て自らの手で造りあげてきたと思っていたものは、実際は全て他の誰かによって創られたものであった。

 我らは生き方を生まれた時から決められ、その役割も生まれたときから決められておる。

 生まれた時から、生まれた時からじゃ。全て自分ではない。他人の手によって決められているのじゃ。実に滑稽な話じゃろう。

 我らはただ、決められた毎日を繰り返してきた。

 あやつに生み出されてから今までずっと、同じことを繰り返していると気付かずに。ずっとずっと。

 主らは考えたことはないじゃろう。

 もし、この世界が偽りであったなら。

 もしこの世界が誰かの手によって創られたのであったら。

 時折神によって創られたなどと言われることもあるようじゃが、その神もいわゆる人の格好をしておる。

 そう。実際問題誰も考えんのじゃ。

 自らが生きる世界が他の世界の誰かによって創られたものであると。

 決められた物語の上を歩いているのじゃと。

 決められた物語の線の上を歩くことを運命だといいながら。

 心の中でこれっぽっちも考えはしないのじゃ。

 なに、別に責めているわけではない。

 自分達が物語を創り創造主となる。それは良いことじゃと我は思うよ。

 知らないということがただ知らないというだけで何もかも罪なわけではじゃいのじゃ。

 当然知りえぬこともある。全てを知っているからといってそれが完全な正とはならぬのじゃ。



――けれど、あんたは知ってしまった?



 あぁ。世界には、知らなくてはならないこと。知らなくても良いこと。知らないでいるべきこと。三つの事柄に分けられる。

 大抵の事が、そうじゃな。恐らく知らないでいるべきことに含まれるじゃろう。

 何事も知ってしまうから辛くなる。

 何も知らないでいるほうが幸せなこともあるのじゃ。

 我の場合は……そうじゃな。

 知らぬほうがよかったと思う気持ちと、知って良かったという気持ち半々じゃろうか。



――それで、どうしてアンタは知ってしまったんだ?



 声が、聞こえたんじゃよ。

 ある日。それが主らにとっていつなのかはわからん。

 我らにとっての時間は主らにとっての時間とは重なっておらぬからな。

 まぁ、そのある日じゃ。

 突然に物語から一人の人物が消えたのじゃ。

 その人物と言うのが今回主に取り戻して欲しい奴なのじゃが、そやつの話は後に回すぞ。

 ともかく、そやつが物語から消えたことにより、我らの繰り返す世界に変化が現れたのじゃ。

 最初は我にもわからなかった。

 いや、忘れていたと言ったほうが正しいか。

 そやつが物語から消えたことにより、奴はもとからあの世界にいないことにされていた。いや、されておる。それは今なお続いておる状況じゃからな。

 それから何度あやつが消えた物語を繰り返したのかはわからない。

 何度目かの繰り返す物語の中で、我は違和感を感じた。

 奴の抜けた穴。

 奴が消えた空白。

 ここにもう一人いなかっただろうか。

 傍に誰かがいた温もりはあるのに、その姿はない。

 そう考えてはっと気付いた。

 あやつがいないのだと。

 いつだって傍にいた。

 奴の存在は我の物語にとって必須で、なくてはならないものであった。

 奴がどこに消えたのか。

 どうして突然物語からいなくなってしまったのか。

 理由のわからない我はただ必死に考えを廻らせた。

 そんなときじゃよ。声が聞こえたのは。




『君は、強い想いを注がれた物語が意思を持つ話を知っているかい?』




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