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エレエレ寄生虫

作者: えるえる


【寄生虫】

 他の生物に寄生する動物。他の動物の体外や体内に住み着き、栄養を取り生活する動物。

 寄生された動物を宿主と呼ぶ。

 一生を同一宿主で生活する種と一時的に生活する種等、様々な種が存在する。

 出典参考:ブリタニカ国際大百科辞典、Wikipediaより

 

【ロイコクロリディウム】

 寄生虫の一種。一般に寄生虫というのは、中間宿主にこっそり隠れており、最終宿主がこれを気付かず食べることが多い。しかしロイコクロリディウムは最終宿主に食べられるよう、積極的に中間宿主を餌に似せて、宿主の行動を操ってしまう事が知られている。結果としてロイコクロリディウムは、安定した繁殖と生活史を送る事に成功し、大きな利益を得ている。

 出典参考:Wikipediaより


 ◇◇◇


「えぇ~、一般的な寄生虫といいますと、病原体、つまりネガティブなイメージが強いと思われますが、近頃の研究で新たな可能性が示唆されております。此度発見されたこの1cm程の新種の寄生虫は、とても素晴らしい成果をもたらす事が判明いたしました」


 広く高級な会議室で、ピシっとしたスーツを着こなした男性が、医者達に説明を続けていた。医者達は高級そうなブーツや時計を身に着け、興味深そうに男性の発表を傾聴していた。

 

「つまり、この寄生虫を人間に寄生させる事で、免疫システムを刺激し、人間のガンの症状に対して、劇的な効果を発揮する事が発見されております。未だ検証段階ではありますが、その効果は目覚ましく、さらに副作用も報告されていません」


 ざわざわっ、と会場の医師達がざわつき始める。ガンというのは治療の難しい病であり、画期的な治療法が発見されたとなると、素晴らしい成果である。


「症例として、寄生虫に寄生させたガン患者がおりますが、ガンは完治し、予後は非常に良好で健康に問題はみられません。これは複数の症例で確認されていますが、全てが完治しており、まさに画期的な治療方法といえるでしょう」


 男性は柔和な表情をのぞかせながら、発表を続けていくが、医者の一人が難しそうな表情を浮かべ、――少し解らない所があるのですが、と質問を投げかけた。


「素晴らしい発見だとは思いますが、体内に寄生した寄生虫はどうなるのでしょうか? 便と共に排出されるとか、薬で殺したりするのでしょうか?」


 その医者の質問を聞くなり、男性はニヤァっと笑顔を浮かべ、――問題ありません、と話を続けていく。


「この寄生虫は、人間と共生関係を築き上げます。人間の体内から排出される事はありません。この寄生虫は免疫機能を活性化させ、ガンから人間を守る代わりに、人間の中で生活を続けます。寄生虫は、人間のエネルギーを少しだけ奪いますが、特にこれといった害はありません。寄生されている間は、人間の健康状態に不都合を起こす症例は確認されていませんから、安心して利用できるでしょう」


 会議室の中から、パチパチパチと喝采が起こった。これは世紀の発見であり、ガンに苦しむ患者を助けるための素晴らしい方法になるという事が発表されたからだ。多くの権威的な医者達は驚きと称賛を含みながら、男性の発表を受け取った。


 男性は恭しく礼をし、発表を終えた。


 ◇◇◇


 男性の発表から十数年後、この画期的な治療法は進歩を続け、日本中で用いられるようになった。ガン患者達の死亡率は劇的に減少し、ガンは恐怖の病ではなくなった。

 しかもこの寄生虫は、ワクチンの様に予め人間に寄生させておくと、ガンの発生を抑えて、予防にもなる事が判明していた。

 そしていまや日本中で、誰もがこの寄生虫を利用していた。この寄生虫はまさに、ガンの特効薬のような役割を果たすようになった。


 とある男も、寄生虫を利用した一人だった。この男は、中小企業の社長であったが、長年の無理が祟ったのか、五十歳という年齢でガンにかかってしまった。

 この男は、寄生虫の治療を何となく気持ち悪いと考え、寄生虫による治療を拒否し、従来の薬物治療を行っていた。しかし懸命な闘病生活と薬物治療も虚しく、いよいよガンの全身転移が始まってしまった。医者から寄生虫による治療を強く勧められ、ついに観念した男は寄生虫によるガン治療を受ける事にした。

 

 寄生虫による治療を受けた数ヵ月後、ガンの治療は成功し、男は活力を取り戻した。痩せこけた体は蘇り、体を動かすだけで辛かった症状が嘘のように消え失せた。


 男は快調してからというもの、バリバリと働き始めていた。充実した仕事、健康な体、全てが順調に動き出していた。

 男は、彼の経営する会社の従業員達にも寄生虫治療と予防を勧め、今では彼の会社の従業員全てが寄生虫のお世話になっていた。


 ただ一つ、男にとって変わったことといえば、寄生虫でガン治療を行ってから、口癖というか、訛りのような言葉遣いになったことだけだ。しかし男は、まったく気にならなかった。男の体調は問題がないし、人間ドッグの検査結果も上々だ。


「まったく素晴らしい寄生虫だよ。俺のガンも完治させてしまうんだから。有り難い寄生虫だよなぁ。エレエレ」


 男は、自分の中で生活をしている寄生虫がとても愛おしく感じていた。この寄生虫に命を救われたのだから、この寄生虫が気持ちよく体内で暮らせるように健康状態に気を使い、寄生虫が末永く生きられるように、自分も長生きしようと考えていた。それは高き水は低きに流れるように、当たり前で当然の事のように考えた。

 

 今日も男は元気に仕事をはじめ、従業員達に仕事の指示を出す。


「あぁ、君は、あの仕様書と資料を整理して報告してくれ。エレエレ」

「判りました社長。午前中には終わらせます。エレエレ」


 そういえば従業員達も言葉遣いが訛ったような気がするが、大したことではないだろう。 

 こうやって元気に仕事ができる事は感謝すべきことだ。この寄生虫のおかげで、人々は健康な人生を送る事が出来ている。


 あぁ、素晴らしいかな。寄生虫人生。


「健康って素晴らしいぁ。エレエレエレエレ」


 ◇◇◇




















 ◇◇◇


 そして数百年後。

 

「エレエレエレエレエレエレエレエレエレ」

「エレエレエレエレエレエレエレエレエレエレエレ」


 (了)


 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最後までテンポよく、楽しさが最後の一瞬まで続く作品でした!  星新一さんのショートショートのような、短い中に設定がちゃんとあって、でも書きすぎず書かなさすぎず、絶妙な塩梅で話が繰り広げら…
[一言] エレエレエレエレ(面白かったです) エレエレエレエレエレエレエレエレエレエレ(個人的にはお気に入りシリーズと並ぶくらいに好きです) ………あれ? ……エレエレエレ
[良い点] 面白かった…けど怖かった これはジャンルホラーなのでは?と思いました [一言] 寄生虫と言うと悪いイメージが大きいですが、共生する寄生虫もいるんですよね この物語もちょっと怖いけれど共存共…
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