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野良犬は番から離れて歩きたい

お読み頂き有難う御座います。お久しぶりに更新です。

とある犬獣人の女の子、コティの一人称となります。

「其処の少年!!待て!!」


 後ろの方から走って来る高そうな馬車から大声が聞こえる。

 ……何だろう。泥棒が逃げたのかなあ?こんな昼間から物騒な話だわ……。

 この国、治安いい方だって聞いてたのになあ。


「待てと言ってるだろう其処の少年!!」


 …………あまりに大きい声。

 周りを見回しても少年なんて歩いて…………無いな。

 一応此処がメインストリートになるのかな。

 商店がパラパラ並んでいる道は、休日にはごった返している。

 でも今は閑散としたもので、道は私が歩いているのみ。

 他は…………商品を並べている材木屋のおじさん位しか居ない。


 え、おじさんが少年?と言う目で見たら、はあ?って顔してる…………。


「待てというに!!えー、犬獣人の少年!!」


 ………………え、私?あまりにびっくりして耳が、ぴくぴく動いてしまった。


 思わず立ち止まったら、横で急停止した馬車から、イライラした様子の貴族の男が降りてきた。

 その勢いが凄すぎない!?

 私はひっくり返りそうになったよ。


「何…………すんの!?」

「君は……女だったのか!!」


 何この判で押したようなテンプレ展開。

 取り敢えずこの目の前の奴、失礼過ぎて死んでほしい。


「そんな……ちょっと布の多いみすぼらしい格好だと思っていたが、女……胸が無いが女……」


 おおい、お前はアレか。

 フリル着て胸がデカくないと女の人権を認めない奴か。

 うわ本当死んでほしい。

 滅茶苦茶いい匂いするけど、本当に腹が立つ。



 私は犬だ。正しくは、犬の獣人……何の犬かは知らない。

 そして、前世の記憶を持っている。でも、所々しか覚えていない。

 つまり知識チートは無いと思う。特殊能力も、無い。

 そして……特に狼の血は入っていない、普通の犬の獣人だ。

 親は居ない。気が付いたときには、兄と一緒にゴミ置き場に放置されていた。

 と言うか未だに兄と血が繋がっているのかも不明だ。

 髪の色も顔も違うし……。

 私はのっぺりなのに褐色肌に黒と白と茶色の斑の髪と言う謎仕様だが、兄は顔立ちがくっきりした黒髪の白い肌の子供。身内自慢だが、なかなかの美形だ。

 マジで、遺伝子を疑うレベルで似ていないが、私達は兄妹だよ、多分ね。

 匂いが一緒だし。

 耳は犬耳……と言うか、人の耳じゃあない。尻尾もある。因みに兄もそう。犬に変身は出来るかは分からない。

 そんな感じ。


 私が生まれた国は孤児が多いんだよね。

 でも、獣人の血が多めに出た子供には本当に情け容赦がない。

 裏通りに子供を棄てて行くのが罷り通っている位の、容赦のなさ。

 それが、誇張でも何でもない生まれた国の、現実だった。

 取り敢えず私と兄は何時の間にか、ゴミ捨て場から孤児院に移されていた。

 運のいい事に、孤児院では特に虐待はされずに育った。

 特に可愛がられては無いけど、そんな贅沢は言えない。

 私達は元々は野良犬。そして此処は、野良の子供の集まり。

 それに、いつまでも居られる家では無く……ある程度まで育った私達は、追い出されて、働きに出ることになった。

 だけど……。


「は?獣人の癖に力仕事が出来ない?そんな贅沢を言える立場か」

「お前みたいな見た目の奴がウチの店で雇えるわけ無いだろ」


 雇って下さい、って頼みに行っただけで、差別差別差別。来る日も来る日も差別。

 差別の嵐だよ、知ってたけどな!!


 て言うか、獣人が頭脳労働出来ないって誰が決めた?

 ……まあ、私と兄ちゃんには出来ないけど。

 力仕事出来ないって何が悪い!?

 ……まあ、どうしようもないけど。足は早いんだけどな……そんな長距離走れるような体力は無いよ。

 子供だったもん。

 育つのに充分な栄養が足りてなかったんだろう。今もそんなに体力は無いよ……。走るのは好きだけど、スタミナが足りないんだよね。


 …………未だ私達は、大人と言うには幼い。

 兄と手を繋いで生きなければならない。私達はふたりきり。

 此処では生きられない。

 私達は……獣人に冷たい生まれ故郷を出た。


 そしてとある国に流れ着いたんだよね。

 生まれ故郷とは、大まかに言えば別の国らしいけど……国の一部らしい。

 ……案外まあまあ、だと思う国だった。

 商人が多いから、使い走りには私達の足は役に立った。だから、重宝された。

 兄は2、3日いないなー何処行ったのかなと思ってたら……何故か暗殺者という何処の厨二病やねん!!と突っ込み所しかない職業になっていた。


「にいちゃん!?何やってんの!?何で血塗れ!?」

「おれ、暗殺者だって」

「ええ!?嘘だろ!!」

「あい?仕事したら超お金貰えたよ」


 家の汚いテーブルにガタンゴトンと、兄は硬貨を落とした。

 ……え、本物!?

 見た事ない硬貨もいっぱいある!!


「いやマジで!?そんなもん職業として成り立つの!?なってんのアホなの!?」

「あい?」

「喧嘩強いのは知ってるけど何で!!」

「勝手に止めたらコティも危ないって」

「にいちゃああん!?何でちゃんと考えないのアホーー!!」


 アホとは言ったけど、色んな事も言ったけど…………結局兄は暗殺者を続けていた。

 ……人殺しは倫理にもとる?

 ……いや、キレイごとはいいよ。

 じゃあ私と兄の生活はどうすんの。野垂れ死ねと?

 暗殺者事務所(よく分からないからそう呼んでる)から誰かが体を張って私達を守ってもらえんの?

 居ないでしょ、そんな物好き。

 だって私達は野良犬兄妹だよ。

 確かに兄の身は心配だけど、ゴミ捨て場に居るときの方が命の危機を何度も感じたよ。

 それに仕方ないじゃん。食べてかなきゃなんないんだし。死にたくない。

 此処は普通に、普通の仕事が出来ない国だもの。

 更に他の国に出ていける程、お金も無いし。

 それに………別に殺戮狂な訳でもない。寧ろちょっとぼんやりしてるけど、自慢の兄だ……。

 多分。言うこと突拍子無いけど。

 後もうちょっとちゃんと喋って欲しい。小さい仔犬じゃあるまいに、たどたどしいんだよ……。

 そして順序立てて物事を喋って欲しい!

 私は兄ちゃんよりマシってレベルだけど!!孤児院では此処の字も習ってないし、基本学は無いんだけど、前世の知識がぼんやりあるからかなあ。


「コティ、コレッデモンにいこう?」

「何処それ」


 また突拍子もないこと言い出したよ、兄ちゃん。


「おれ、レトナのゆーこと聞かないとダメだって。負けちゃった」

「うん?何がどうなって?レトナって誰?」


 兄が何日かいないなーと思ったら、またスカウトされていたよ!!

 今度はどっかの国の辺境伯のお嬢様らしい。

 何でだ。て言うか何でお嬢様に負けたんだ、兄は。

 有り難いことに一応負け無しで地味に有名だったのに。


 今までお給料?貰ってた暗殺者事務所?はいいのだろうか。後から血の掟やぶりとか、粛清の為とかで、忍者がじゃんじゃん来ないか心配だ。

 因みに私は忍者と暗殺者の違いは判らない。どっちも詳しくない。


 で、レトナお嬢様とやらの所に兄が出掛けていって、私は色々生活するに当たって必要な物を買うため、街中に出た。

 そうしたら……馬車から、凄い勢いで人が飛び出てきて……その巨体自体に轢かれそうになって、冒頭に繋がると言うわけだ。




「離して」

「………………何かよく分からんが、離れがたい」


 ……人にも番の概念が有るのかな。

 特徴は無いけど……この人も獣人?


「なあお前、名前は?」

「え、教えたくない」

「私はアルサロ・メアンという。さあ教えてくれ」

「いやだ」


 ナンパにしては強引すぎるし、一目惚れにしては失礼だし。

 あああ近くに寄って来られちゃった、いい匂いするうううう!!

 でっかいな!!何かの獣人!?それにしては……獣人っぽくない。

 獣人の血は入ってるのかな?……って気にしちゃ駄目!!


「どう考えても……何だかこう、離れがたいのだからいい加減諦めろ!!」

「いーやー!!離れてええええ!!」




「と言う訳でだ、雇用関係なら構わんと言われてな」

「うふふ、どう言う訳なんですの……そのフリル過多な使用人のお仕着せもどきは。

 どう見ても仕事用に見えませんし、滅茶苦茶鑑賞用じゃありませんの」

「…………使い走りだ」

「使い走り!?この格好で使い走り!?」


 そうだよね、驚くよね。

 亜麻色の細かい巻き毛の令嬢は絶句している……。

 驚かれても上品で綺麗。

 因みにこの方が……兄ちゃんが負けたと言う、レトナ様だったりする……。

 このごつい貴族様の知り合いだったのよ。世間狭すぎ。

 しかも滅茶苦茶お強いらしい。……兄ちゃんが負けた位だから、相当だよね。


 …………あの後、どうしてもサロ様(と呼べと何回も言われたから呼んでる)が私を離されなかったので……、思わず


「会ったばっかりで番なんて絶対嫌!!もっとお互いを離れた位置で良く知り合ってから!!」


 と思わず言ってしまい……番だとバレてしまい……。

 ああ、馬鹿か、私……。

 それみろ!!みたいな目で見られた!!


「番だと?」

「い、嫌!!そういう番とか信じないから!!」

「何言ってるんだお前は。お前にとって私が番なら私にとってお前が番だろうが。勝手にお前の意志で解消するなんて許さん」


 うう、何か難しい事言われてる!!


「だ、だけどやだ!!大体私、お仕事探さなきゃいけないし!!」

「仕事?じゃあお前、何が出来るんだ?」

「…………つ、使い走りとか……?」


 と馬鹿正直に答えてしまった。

 …………正直、私も自分で何やってんのか全く分からない。

 じゃあ採用、と言われて馬車に乗ってしまったのが運の尽きだった……。

 しかも、サロ様ってこういうフリフリがお好きだったらしく……。

 レトナ様の仰る通り、どう見ても使用人の服に見えない、このヒラヒラフリフリな使用人服……日本ならメイドさん服を着ている訳だ。

 ……下に……ズロースみたいな長めのパンツ履いてて、フリル過多だから中は見えないし、案外走りやすいけど…………。


「だからって貴方……獣人の番として出会って、使い走りの職を与えます!?」

「番を暗殺者として雇った貴女に言われたくないのだが…………」

「だ、だって!!私だって恥ずかしいんですのよ!!まさか襲撃受けて倒した相手から、番だなんて言われてどうしろって言いますのよ!?取り敢えず雇いますでしょ!?」


 え、そうだったんだ!?

 負けたから従ってるんじゃないの!?兄ちゃんこの人の番!?

 何て面食い……いや、番は顔関係ないんだけど……。

 おっぱいは大きいし、美人だしお金持ちだし……兄ちゃん、凄い番を見つけたな……。

 でも、取り敢えず雇うってのがよく分かんない……。


「レトナ、終わったよ……あれ、コティ?服ちがうね。ひらひらしてる」

「兄ちゃん!!また血塗れになってる!!」

「「兄ちゃん!?」」


 私の科白に貴族様ふたりが驚いている。え?知らなかった?

 ……まあ、似てないもんね私達。

 私はまだら、兄は真っ黒。獣人ってのは一緒だけど。


「……コティ、お前はレトナ嬢の噛みい……飼い犬の妹だったのか」

「うふふ、お給料は出しているけど、飼っていませんし、無闇矢鱈に噛ませていませんわ」


 噛み犬って……まあ、分かるけど。

 レトナ様の睨みに言い直しただけいいけど。サロ様って一言多い人?

 ……やばい、抜けてるのちょっと可愛いとか思ってないんだから。


「おれ、カータだよ、おおきい貴族のひと」

「……アルサロ・メアンだ。サロでいい」

「わかった、サロ」

「兄ちゃん、サロ様って呼ばないと駄目」

「あい?だめなの?コティの番なのに?」


 びしっと空気が固まった音がしたぞ……!!

 何で分かるんだよ兄ちゃん!?さっきの話聞いてたの!?


「…………お義兄さん、と呼んだ方がいいか?」

「サロ様あああああ!?何血迷ってんの!?番とは言え、飛ばしすぎ!!」

「あい?おにーさん?サロ、おれはカータだよ。コティの兄ちゃんだよ」


 兄ちゃんの緩い返事にサロ様は顔をこわばらせている…………。

 ご、御免なさい。結構空気の読めない人なんだ…………。


「いやその、コティ、お前の兄は多少緩いのか?」

「ど、独特で御免なさい」

「…………うふふ、どうしましょう、サロ卿を揶揄える絶好の機会ですのに、私自身にも被弾するネタだなんて……」

「おいレトナ嬢!!碌な事考えて無いな!?」


 あれ……サロ様、結構苦労人みたい?

 ちょっと可愛いかもしれない。うん、ちょっとだけ。


「まあ、使い走りでも暗殺者でも構わんだろう。取り敢えず使い走り兼番兼公爵夫人として仕込んでやるから覚悟しろ、コティ」

「え。何それ。超嫌。」


 聞いてないんですけど。

 無理じゃない?野良犬だし、と思うんだ。


「…………フラれてるじゃありませんの、サロ卿……」

「変な言いがかりはよしてくれレトナ嬢!!」

「レトナレトナ。撫でてちゅーして。わしわしでもさわさわでもいいよ」

「ひひひひ人前はいけませんカータ!!」


 サロ様、……女心はイマイチ分かんないひとみたいだ。

 ……ゴミ捨て場の野良犬兄妹が、お貴族様な人の番だなんて……ホント、分かんないねえ。

 取り敢えず、食いっぱぐれ無さそうで……良かったかもしれないけど……。


 目の前!!

 レトナ様の膝にすり寄る兄ちゃんが問題だよ!!


「身内のラブシーンは見たくないから、兄ちゃん!!」

「うえ?」


 そんな吃驚した目をしても駄目だよ!!

 それだけは、断固嫌だから!!

使いっ走りの番をゲットしたサロ卿と暗殺者の番をゲットしたレトナ。

番なのに甘さもへったくれ無く、何か違うだろ感が強いですね。

地味にコティは転生者ですが、活用できてないタイプの転生者です。

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登場人物紹介
多くなって来たので、キャラの確認にどうぞ。
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