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群雄割拠の狩場にて

お読み頂き有難うございます。タイトルが物騒ですね。

ヒーロー登場です。

 そんな訳で、今日も跡取り息子と跡取り娘による群雄割拠が繰り広げられている……。

 家を継ぐ?寧ろウチの家継がない?

 あなたのご実家吸収するよ?

 イヤイヤうちこそ吸収してあげるよ?

 そんな和やかな会話が優雅な言葉で交わされている。


 ……御家断絶が掛かっているのだ。真剣にならざるを得ないだろう。

 親の頭が軽いと、子供達はしっかりするって本当だね……。


 で、此処は我が国主催の夜会の会場。

 私はリュイジーヌ・ユディト第一王女。

 さっきも言ったが1個目の名前はドクズ母と一緒だから滅多に呼ばれることはない。

 一度目は許す、二度目は呼ばさない。


 だが、その手の名付けが同世代にとても多い。

 愛する伴侶の名前を子供にもプレゼント、だってさ。

 知るかよ!!子供は親の分身でもイチャツキのネタでも何でも無いんだけど!!


 だから同世代は大概皆ファーストネームを名乗らないし、

 呼ばれないのが暗黙の了解となっている。

 どうしても呼びたいなら覚悟しなきゃいけない。

 反射的に良くて顔芸、悪くて拳を喰らわしてしまうからな。

 脅しじゃ無いよ。本当よ?


 ああ、私達の同世代って本当に真面目で可哀想。

 でも何か私の前が異常に空いているのだけれどどうして?

 何故私を混ぜてくれないの?

 臣下だからって気にしなくっていいのよ?

 おい、そこの。顔を背けるな。

 お前も独身だろ?同世代だよな?名前も顔も覚えてるからな?


「姫様、只今戻りました」

「……チッ、早いな」


 黒い制服が視界にちらつく。

 私は思わず舌打ちした。

 コイツは私の護衛、イリアス・フランジール・ノイエンドーヌ。

 ファーストネームは親父と一緒。コイツもファーストネームを呼んだら顔芸に陥る年代。

 何でも顔芸と共に、母親の甘ったるいキモい声が幻聴で聞こえて

 全身を掻きむしりたくなるらしい。

 あ、本人が言ったのよ。盛ってないわよ。

 因みに私も似たような現象に陥るな。

 こっちは親父の国王の声だけどな。暫くは聞いてないのに何故か聞こえる不思議。

 要らんのよそんな怪奇現象は。


 で、フランジールは長いから私は通称ジルで通している。

 職業は近衛騎士だ。

 柔らかい色の茶色の髪に、紅茶色の目の……人畜無害そうな……?敢えて言うなら顔まあまあ整ってる類。

 王族の近くに侍るから基本近衛は顔の良いのが必要なんだって。

 私も普通の貴婦人らしく顔がいいのは好ましいので、特にジルに傍に寄られることに異論はない。


 だが、この御家断絶が掛かった生きるか死ぬかの婚活会場……いや、夜会では事情が違う。

 コイツが傍に居られては、私に声を掛けようとする殿方が遠慮してしまうかもしれないじゃないか。


「いや、俺貴女の護衛なんですけど」

「お前が後ろにいると殿方が遠慮して声が掛からないのよ。

 遠慮せずに令嬢がたの誘いをうけてらっしゃい。あと700人くらい」

「招待客より多い人数言わんで下さい。大体姫、私と最初に踊ったじゃないですか」


 出席した夜会では、この国の長子である私がファーストダンスを踊ることになっている。

 其処までは何処の国でも普通だろうが……この国ではそれからが普通じゃない。


「いつも通り、曲が終わる手前から令嬢方に待ち構えられて、かっ拐われたモテ男は言うことが違うわね。この30分で何人と踊ったのかしら。5000人くらい?」

「部屋に入りきらん人数じゃないですか」

「いいのよ、私の護衛なんて忘れて存分に楽しんでらっしゃい」

「姫様をお一人にするわけにはいきません」

「本音は?」

「どこを向いても回り込まれてもみくちゃにされ、必死の思いで逃げてきた護衛に酷すぎると思います」


 繰り返すが、コイツの顔は優し気な顔だ。中身は全く優しくは無いのだがな。

 一見するとチョロそうな……物凄く強く押したらイケそうオーラが出ている。

 流石にこの人数ではジルを文字通り引きずり出して一人にした上に既成事実……ってのも無さそうだけど。

 ちょっと……前にはしゃぎ過ぎたのが居たみたいなんだよな。


 普通は……そう言うのって殿方が多いよね?

 でも我が国は令嬢の方が若干強めであるからね……。

 そんな思いつめた事になったのは誰のせいかな?

 勿論うちの両親と追従した親たちのせいだね……。


 そんな面倒ごとが嫌いな親世代は考えた。

 そういう事態を防ぐ為に……大体の夜会の会場に有った、謂わばお楽しみの場を無くした。

 見張りは多くして、灯りを沢山焚いて……死角と言う死角を無くし、物陰は無くした。

 迂闊にも故意にも迷い込めないようにバリケードも敷いた。

 起こった事に対しては対処が早いね。

 …………まあ、ちょっと……夜会にバリケードは異様かな。


 ああ、そう言えばどういう国だよって前に来てた2軒隣りの国の大使が引き攣ってたな。

 因みに少し年嵩……40代位?だが独身だった彼は、瞬く間にどこだっけ?取り敢えず伯爵家の令嬢に攫われて行ったな……。

 あの手際は見事だった……今では彼も立派な我が国民だ。

 子供も5人生まれたと聞く。めでたいね。

 …………まあ、ちょっと人攫いぽかったのは否定しない。

 個人的には上手くやったな羨ましいぜ!罷り通ってマジ良かったね!!とは思ったけど。


 しかし……噂って怖いわあ。

 何と、我が国に滅多に独身の大使は来なくなってしまったではないか。

 誰だ広めたの。

 他所の国の大使とか使者には、既婚の爺さんかおばさんしか来なくなってしまったのは誤算だわ……。

 困るわあ。まだまだ私達の戦いはこれからだと言うのに。


 まあ、ジルは他の令嬢に慇懃無礼だし、私にも結構辛辣なんだけどな……。

 だから此処まで無傷で残ってきたってのもある……。

 いや実際無傷に見えて本当はどうかは知らないけど。

 パッと見、女性不信とか深いトラウマを抱えている様子も無いので、多分大丈夫だろう。


「はぁ、こんなに熱い視線を送っているのに、どうして私に誰もダンスを申し込んでくれないの」

「湖の水鳥を食い散らかしたいと狙う、飢えた野犬みたいな目をしてましたよ」

「失礼な!!可憐に見つめてるつもりなんだけど!!」

「じゃあ熟練の猟犬」

「変わらんわ!!」


 相変わらず失礼過ぎる。

 私は重い溜め息を吐いた。


「私ってこの国の長子よね」

「そうですね」

「私が婿を取らんとこの国は滅びるじゃない」


 私こそが呪われた同世代の切欠……謂わば第一人者だからな。

 この立場を与えて下さった両親には、心からの恨みつらみを感じている。

 特にドクズ母にな。


「まあそうですね」

「こんな目立つ壇上で壁の花やってる暇は無いと言うのに!!」

「今は壁の花というより壁のガーゴイルみたいですよ姫……顔が怖い」

「分かってんのか!?この現状を!!若い野郎共は!!国を憂え!!

 私を口説けや!!出世欲は無いのか!?」

「大体適齢期のある程度の立場の奴は姫を死ぬほど知ってますからね」

「そうよ大体の奴は小さい頃は遊び相手になってたのに」


 私はぐるっと会場を見回した。


「ヒッ、荒武者姫と目があった!!」

「おい誰だ今変な渾名言った奴は!?出てこい!!」

「姫、恐れながらそう言うところです」


 チッ、それもそうだな。

 私は出来るだけ可憐な微笑みを浮かべた。そう、母に似た微笑みを……。

 似てると言われたら心底腹立つけど、私の顔は……ツラだけは可憐で清楚で有名な母に似ているからな。

 しかも微笑んだら若い頃のあのドクズ母に激似らしい。腹立つけど。

 まあいい、私の顔だ。持ってて使えるものは何でも使う。

 利用せん手立ては有るまい。


「ゴゥフフフゥ!ブハハハー!!出ていらっしゃーい、怒らないからー」

「あ、逃げた」


 ウフフ、アハハって笑ったつもりだったんだけど、ちょっと喉が渇いて変な音になったからか?

 そんな可愛い失敗を補って余りある筈の私の可憐な微笑みが炸裂したにも関わらず、

 脱兎の勢いで奴は逃げた。


「あんの野郎!!ひっ掴んで捕らえてやる!!」

「血の気が多すぎる……。俺が行きますから姫は座っててください」


 カっとなった私が駆け出そうとすると、横のジルに椅子に強引に座らされた。

 邪魔するなよ!!

 そう怒鳴ろうとしたら……今まで私と目を合わさず気配を消していた貴公子共が寄ってきた。

 即座に私は大人しく座りなおす。

 え、もう何しに来たの?

 さっきまで気配を全く感じなかったけど照れて隠れてたのね?

 じゃあしょうがないな。許してあげよう。


「姫様、お待ちを」


 おい、目を合わせろや。

 これだけ揃って何で私と目が合わない?

 照れるにしては明後日の方向きすぎだろ!!


「いや、お前は姫様のお側にいなさい。俺達が捕らえてこよう」

「皆で行けば早く済む」

「我らが姫様の為に」

「俺がやろう俺が」

「いやいや私が」


 まるで敵からの包囲網を抜けるかのように……其処らに居た適齢期の貴公子共は……軒並み出ていってしまった。

 私を含む令嬢達の視線にも負けず……とても静かに軽やかに……。

 ……おい!!

 残りはジルを除いて男性は既婚者しか残っていないんだがどういうことだ!?


「あー、あいつらも逃げましたね、確実に」

「…………あの野郎共、今度狩りでぶちのめす」

「止めましょうよ…………可哀想ですよ」


 何で可哀想なんだよ、狩りくらいで軟弱だな。

 ちょっと獲物のついでに笑いながら追い掛け回すだけじゃないか。

 まあ私は出来る王女なので、駈歩で追うけどな。


「じゃあテニスで」

「もっと可哀想ですよ」

「何でよテニスって淑女らしいけど!?

 私、小さい頃からよく誉められたのよ?」

「豪速球で、ですね」

「しゅ、淑女のか弱いボールを返せない軟弱者が多いのよ?」


 ……豪速球……。まあ、確かに小さい頃先生にも言われたけど……。

 軽やかに打ち返すのもいいんだけど、つい本気になって頭に血が上ってしまうのよね。

 横のジルにとてもため息を吐かれた。


「ラケット両手持ちで全体重を乗せて踏み込んで来る打ち方を、普通の淑女はしません。今のところ姫様だけですからね」

「…………そうかしら?」


 ……他の令嬢のテニス見物したこと無いからそれは知らなかった。

 見物してると乱入したくなるし、ヤジが煩いから見物しないでくれって言われたからな……。

 ……ちょっと悲しい。


「大体姫様が圧勝されるじゃないですか」

「大体ってなんだ」

「すみません、姫様が完勝で圧勝されるじゃないですか」

「止めろ!!負けたことだってある!!」

「ラケット折ったときは負けてますね」

「脆かっただけ!!きっと古かっただけ!!」

「勝たれた後のコート……気にされたことはありますか?」

「え、えっとお……」


 先日、庭師にテニスコート出禁になった事実が私の胸を苛んだ。

 悪気は無かったのに!!


「芝生が綺麗に無くなりますよね。植わって無かったかのように」

「………………」

「普通に軽く運動してる分には丸裸にならないんですよ、芝生は」

「ちょ、ちょっと気合いが入った……だけ?」

「気合いの入った姫様のお相手をしたいと言うはこの国には中々存在しませんからね……」

「んなことないでしょ!?この間だっていたじゃない。タービ卿とか!!」

「恐れながら、あの時はクジの公平なる結果でタービ卿は犠牲に……」

「犠牲言うな!!」


 て言うか恐れ多くも王女である私のお相手をクジで決めるとは何事だ!!

 もっと私を敬えよ!!

 して差し上げたいと思え!!

 て言うか恐れないで頼むから!!

 ちょっと一生懸命全力前進なだけなの!!


「姫様の暇潰しにお付きあいするのは、軍も庭師も大変なんです。お控えください」

「庭師は申し訳無いけと何で軍」

「見物人を流れ弾から守るためですが。姫様の放たれるボールはカタパルトみたいなもんですし」


 そうそう、攻城兵器みたいに壁に穴を……空けた事有るけどさ!!

 偶々古い壁に当たっただけに過ぎないだろ!!


「攻城兵器と一緒にすんな!!」

「では大砲が」

「威力を上げるな!!」


 ジルは本当に容赦が無いな!!本当にお前と言う奴は淑女の扱いがなっとらん!!

 あ…………そう言えば!!

 こんなに私が待ってやっていると言うのに、貴公子どもは全く戻ってこないじゃねえか!!

 会場の雰囲気があっという間に適齢期のご婦人方の殺意で溢れてしまっているじゃないか!!

 アイツ等覚えてやがれ!!

 私を含めて待ちぼうけ食らった跡取り令嬢の恨みは怖いぞ!!

 男女比は女の方が多いからな!!


「ねえ、あんたってさ」

「長男です」


 我らが呪われた世代は、異性に声を掛けられたら名前よりも先に家長との続柄が出てくるようになってる。脊髄反射で。

 勿論、ジルも例外ではない。

 ここら辺は同志としてコイツに連帯感を感じる。


「いや、弟2人いたわよね」

「妹1人もおりますけど。全員生まれる前にもう婚約者が決まってますね」

「やはりか……っ!!」


 ああ不味い、このままでは御家断絶が続いてしまう。

 やっとこのおどろおどろしい事にようやく気付いた親父のアホは……一応手は打った。

 5年ほど前にな。相当遅い。無駄に引き籠りやがって!!


 お陰でちょこちょこ子供が生まれる貴族の家も有った。現実を見た家も有ったのだ……。遅いけど。

 まだまだ需要に対して供給が無い。焼け石に水。しないよりはマシだけど。

 因みに私も妹がいる。双子だ。

 あんだけドクズ母が浮気三昧だったので、本当に親父の子供なのか疑惑が有ったが、

 両方親父にソックリだった。

 一応親父の親戚筋との浮気も疑ったが、今の所其処はシロである。運のいい奴だ……。


 まあ話を戻そう。だから私は元一人っ子。だが長子。そして跡取り……!!

 因みに妹達は母の妊娠二か月が発表された際に買い手がついた。

 婚姻の表現に売り買いはどうかと思うが……最早買い手と言うより他は無い。

 山ほど生まれてもいない妹たちへ送られる求婚の手紙の仕分けを手伝わされる日々。

 あれほど激怒したことは無い。

 憤懣やるかた無くて、ちょーーーっと部屋は壊れたけどね。


「因みに何で夜会に出て来ないの?」

「飢えた狼に掻っ攫われては一大事だと、婚約者の家が完全ガードと四六時中の警護をしており、婚約者の家に軟禁……いえ、過ごしています」

「そっちもか!!」


 ウチの妹たちもそうだよ!!

 一応王城内でだけど、継承権第一位の私より遥かに厳重警護されているよ!!

 何と、婚約者の自費でな!!

 本人達も此処はお前の家か!?って位張り付かれているし……。

 私は同性かつ家族だからまあ普通に会うけど、警護まで女性と徹底されている。


 この会場に居るのは一人っ子及び元一人っ子。

 つまり長子=跡取り。

 お婿やお嫁に行ける……次男、次女、三男、三女以下……。

 私の独身者を余すところなく覚えた記憶ではこの会場に居ない。

 おお、何故何処の家でも同じなんだろう……。

 親父とドクズ母のせいだね!!

 夜会を重ねるごとに恨みつらみが募るね!!

 反抗期?いい歳だけど、マジアイツ等宛には終わる気がしないね!!


 でもまあ婚約者を守りたい気持ちは分かるよ、同じ立場なら私もそうするもん。

 同世代の恐ろしさは身を以て知っている。

 全身全霊を掛けて、何の犠牲を払ってでも同類から守り切ってやるわ……。


「最早……奪いに行こうかな」

「止めて下さい、物理的に家が潰れます」

「失礼なんだけど!?人をまだ攻城兵器扱いするか!!」

「だって壁を物理で破壊する王女なんてそうそう居ませんよ」

「だから古かっただけだってば!!」

「はいはい…………」

「はあ、最早欲と権力に塗れててもいいから婿来ないかなあ」

「そんなのに来られてもお嫌な癖に……」

「……分かられている……」


 私は横の騎士を見つめた。

 ……コイツでいいんだけどなあ。

 幼馴染で気心も知れてるし、顔は好みだし。…………まあ、色々有るし。

 遠慮がなさ過ぎるけど、大きくなってから普通に話してくれる異性ってコイツ位だし。

 何より私の気性も好みも余すところなく知られているし。

 ……観客を警備するとか理由を付けて逃げるからテニスの相手はしてくれないけど。


「長子が絶対家を継げなんて慣例が無ければねえ……」

「全くですね」


 私達は雁字搦めに呪われている。

慇懃な近衛騎士×強気王女っていいよね!と言う萌えに溢れた上で書いたんですが、萌えは何処へ行った。

ユディト姫の渾名は荒武者姫です。

次辺り四人の幼馴染令嬢達が出て来ます。


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登場人物紹介
多くなって来たので、キャラの確認にどうぞ。
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