貴方次第でどうにでもなる
お読み頂き有難う御座います。
ジルがお近くに失踪して二月程経ちました。
「一体何時まで続くのかしら。今までなら姫様にお伝えすれば直ぐに……」
「キエラー、余計なことを言わないでくださいー!大体ー、今まで姫様に頼りすぎだったんだですからー」
「そ、そりゃウチのジジイと馬鹿愛人もご迷惑掛けてたの悪いんだけど……」
「だから我々は今まで以上に頑張らないとー……ね?ほーら、笑ってキエラー?」
「何よ。が、頑張るわよ。でも、結構キツそうだわ……」
廊下から愚痴が聞こえるわ。あれは、チュイ卿と、カサニ家の?……意外と上手くやってるみたいね。ふたりで、仲が良さそう。
……ジルが出て行って、多分、ふた月経つ。細かい日にちは忘れた、かもしれない。
泣き暮らしていたら涙も尽きて……来た。いや、嘘吐いた。夜には結構グスグス泣いてる。
流石に私も現実を見据えて……来たんだが、もう少し休んどけってなんと父上から直々のお達しが来た。
双子も難なくやれてるらしい。流石私の可愛い妹達ね。
「あの陛下に反省の心が存在していたなんて、青天の霹靂ですね」
「マジかよ。そんな殊勝そうだった?黒猫卿に言われると父上も形無しだな」
最近父上に政務を任せてるから……いや、おかしいよな。
あの人が本来やるべき事を私が肩代わりしてきた訳なんだよ。
「フランジール卿はニック殿によると、今日は鼻風邪を引いてたそうです」
「ふーん」
ふーんとしか言えねえわね。風邪なら後で薬を探させる……いや、余計なことは出来ないんだが。余所の国に、行っちゃったんだから。
「最近観察日記みたいな内容で申し訳ありません。大した事件が起こらないのはいいことですがってお伝えしてくださいと。……お人好しが過ぎますよねニック殿は」
全くだな。
変な役目を押し付けてこっちが申し訳無いってのに。
「何時高い爵位を引っ提げて凱旋される気でしょうね。一応の復興は終わらせたようですが」
「ウサちゃんの気分次第じゃねーのかしら」
ちょっと引っ掻き回してやったのが、やり過ぎたんだろうな。
そこら辺の引き際と機微が、あの凶暴なウサちゃんには通じねーって事だった。
読みが甘かった。
だからうかうかとジルを拐われる羽目に。
いや。
……いや、ジルは、私が勝手に隠して結婚式と求婚を仕組んでたのを怒ったんだけどさ。
気持ちを土足で踏みにじった、のよ。
だってあれから、本人からは何の手紙も連絡もない。
やっぱり、物凄く怒ってるんだ。
ジルを怒らせちゃった。
驚かそうなんてしなきゃ良かったんだ。わたしが、怒らせちゃったんだ。だから、国を出て行って……私を、嫌いになったら、どうしよう。
「う、ふえ……」
「ひ、姫様!?姫様!!ちょ、誰か来てください!!姫様のお気持ちが不安定に!!四騎士の誰かを呼んでください!!滅茶苦茶緊急です!!誰かあああああ!!」
ああ、黒猫卿まであたふたさせて。
でも、止まらない。どうしたってのよ。涙が、目から勝手に溢れてくる!!
「ジル、ジルはどこなの」
今までもずっと泣いてたら、来てくれたのに。
ずっと一緒だよって。お父様もお母様も好きじゃないユディトを好きだって言ってくれたのに!!
「何やってるのよエンリ!!」
「泣いてる姫様を私に何とか出来ると思うんですか!?
無理です!!飼い猫は寄り添う位しか何も出来ないんです!」
「あっ!!」
「ふええ、猫さん……」
後ろ足がくつしたの猫さんが膝に乗ってきた。いつの間に入ってきたのかなあ。
やだなあ、ふわふわしてる毛皮にポタポタ涙が垂れてきた。毛皮拠れちゃった。ごめんね。
「……姫様」
「ルーニア?」
綺麗な柿色の髪の毛はルーニア。覚えてるルーニアより背が大きくて、柔らかくて綺麗。
いい匂い、あったかい。あれ、お腹の方にもしゃもしゃと……猫さん?
「ええ、ルーニアですわ。姫様のちょ、割り込まないでエンリ!!」
「ぎにゃあ!ふにい!!」
「心が狭すぎるのよ!私は姫様の親友の座を頂いているのよ!」
「むにゃあ!!みぎゃ!」
「猫さん、ルーニアが好きなの?」
「みい」
あ、猫さんがルーニアにスリスリしてる。とってもルーニアが好きなのね。
「……もう!んもう!!」
「にゃあん。ふにい」
猫さんとルーニアのお陰で、ちょっと涙が引っ込んじゃった。
「ジルは、お出掛けなのかしら」
「ひ、姫様」
「あのね、ジルはね。わたしの髪の毛とおんなじお色の石を探してたわ。結婚の指輪にするんですって」
「みびっ!?」
あれ、猫さんの毛が逆立って……ルーニアのおめめも、真ん丸だわ。ふふ、大きいルーニアも可愛いのね。
そう、一緒に遊んでいたとき指輪のお話になったの。キラキラしたものは嫌いじゃないけど……お母さまがとてもこだわっていらしたわ。……久しぶりに会った私よりも。
「姫様の御髪と同じお色の石、ですの?」
「そう。お隣の国の水の中で捕れるんですって。もしかしてそれを取りに行ってるのかしら」
「にゃい……」
「あらあら……まさか、そっちが本命?」
「大きくなったらくれてやりますから、それまで左手の薬指は空けとくんですよって、真っ赤になって言ってたの」
「あらあら……小さい頃から不遜ですわね……」
そうかな。あれがジルだもの。何でも知ってる、わたしのジル。
動くのが嫌いなのに、わたしの為に騎士になってくれたジルが大好き。
ジルがくれるなら、どんな石の指輪でも良かったのに。こんなに長く探してるって、
「わたしがもっとしっかりしてたら良かったの」
「姫様は国一番のしっかりものですわ」
ぽんぽんと、ルーニアが背中を優しく叩いてくれる感触に、眠くなってきちゃった。
「さあ、お休みなさいませ姫様。お目覚めの時には、きっと」
「ジルは帰ってくるかしら」
ふふ、と優しい笑顔でルーニアはおでこにキスをくれた。
「あらあら、勿論。
このルーニア、姫様の御為に……。縄を掛けて吊るして持って来るよう手配しておきますとも」
「ルーニア、ルーニア。顔が滅茶苦茶恐ろしいです。幼児退行された姫様に御見せしたら引っくり返りますから。後、捕縛はいけません。何で私が宥めてるんです!?逆では!?」
ルーニアと、黒い人が喋ってるわ。
ぴったりくっついて、仲良しさんなのね。いいなあ。
私も、ジルとずっと一緒に居るって言ったのに、なあ。
それから、まもなく。ジルから手紙が来た。
「……あのお、ユディトお姫様。お会いできて光栄です。これ、ジルさんからのお手紙です。良からぬお手紙じゃないといいんですが」
「ご苦労、ニック」
流石にベッドで寝転んでる訳にもいかず、久々に昼間用ドレスに袖を通した。
……やべ、ちょっと痩せてんな。
ニックも……伝書バトにして申し訳ない話だ。
俺のユディトへ
拗れた愛は、ドロドロして粘着質に纏わり付きます。
俺は、ユディトにそんな感情を向けてほしいと思ってます。
そうなれば良いなとずーっと考えてきたんですよ。
仕事をしていても俺を探すでしょう?
俺と離れていても俺のことを考える。
俺が居ないと不安にさせたいんですよ。
酷くなんて無いですよ。
だって、ユディトはずっと俺を不安にさせてきたじゃないですか。
少なくとも、他の誰かと踊ってこいなんて軽い想いに戻らないように。
記憶を失おうが何だろうが、俺を想ってくださいね。
俺も貴女の為に、これまで通り一生を捧げていきますから。
追伸。
ソーレミタイナの飛び地の湖に来てください。
……たった、一枚の便箋。直筆の愛する人からの手紙。
だがな、手紙を捻り切りそうになって止めた私、偉くねえ!?いや、一応床に叩きつけたけど!!無事だからいいだろう!!
「……重い!!何なんだこの恨み言一杯で愛に溢れた粘着質な手紙は!!私を労われよ!?そして、追伸だけでいいだろうが!!」
「す、凄いわー。姫様がお元気にーなられてしまったわー!?」
首を洗って待っていやがれジル!!
これで私に求婚しなきゃ、首に縄巻いてでも無理矢理結婚してやるんだからな!!
外野は結構生暖かい感じです。




