御召は無害な者にあり
お読み頂き有り難う御座います。
ジル失踪からの続きですね。
ジルと昨晩共に居た疑惑の人物、オルガニック・キュリナ目線でお送り致します。
「顔を上げるの」
「嘘偽り無く答えるの」
ボクさあ。
王族の方々を畏れ多いと散々思ってたけど、激甘スイート砂糖マシマシな考えだったね。
うん、愚民だったよ死ぬ程後悔を公開中!Coming Soonっていうか現場なう!
「「発言を許すの」」
金髪双子のお姫様かわゆいけど、その威厳、怖あああ!!
て言うか、初めてお目にかかれて後ろには、表情を消した処刑人のおふたりいい!!普段しか見てなかったけどああしてると超怖あああ!!
このお部屋、白と金色の垂れ幕やら、お椅子えーと玉座?とか毛足の短い高そーな絨毯が、素敵で重厚だと思っていたよ!
こんなにこの場所、怖かったあ!?
「ふ、ふぁい。オルガニッきゅ、オルガ、ニック・キュリナ。おめ、御召によりさ、しゃんじょうしまひた」
今迄お会いした王族の皆様、オーラを隠し気味で気を遣ってくださっていたんですよねええ!!具体的にルディ様とユディトお姫様!あ、皇帝陛下も!ブライトニアはオーラ云々より普通に怖さと迫力ミックスだけどさ!
謁見室には、王女様おふたりがお席から下々を見下ろし、その背後には処刑人であるふたりの婚約者。
そして、御偉いさんの囲まれる中……ボクは膝を付きお沙汰を待っているのです。
何のお沙汰なんだろうね。全く分かんないいいい!!
このビシビシ凍り付くような雰囲気、やっぱり、処刑待ったなし!?
超怖いよおおおおお!!何この威圧感しか溢れてないお部屋!!
以前入った時とは滅茶苦茶違うんだけどおおおお!?
一体何の罪でボクは御召を受けたのおおおお!?
足腰がガックガクで立ち上がれないよおおおお!!
どおしてこの場に、ユディトお姫様がおられないのおおお!?
昨日お会いしたのにいいい!!
「早く吐くの」
「言わないと始まらないの」
カワイイお声が先を促されるけど、一体何を吐けば宜しいのおおお!?何でも吐きますよおおおお!!
「ヒッ、畏れながら申し上げます!!ななな何がで御座いましょううぅう!?何でも言いますううう!!ただただ命だけはお助けをおおお!!」
「ちょ、山賊に襲われた村人みたいになってますよ」
「ビビらせ過ぎでは……」
「て言うか、姫様方、言い方……」
何なの皆様方!!あああ怖いよお!!そんな目で見ないでええええ!いやもうどんな目でも見ないでええええ!
「?何故オルガニック・キュリナはビビってるの?」
「普通に呼び出しただけなの?」
「あ、あのジェオ様……」
「ウェル様、このやり方はちょっとどうかと」
「何か間違えたの?」
「謁見は普通なの」
ヒイイボクの死亡フラグは此処に樹立してしまうのかあ。
どうしよう、此処にブライトニアが攻め込んで来たりしたら!!
ボクの行いで戦争が巻き起こってしまったら!!
「ちょ、中止ーしましょうー。ニックちゃんのー顔色がー土気色してるわー!!」
「まぁぁ、これ自体ぃ異様だものねぇ」
「あらあら。コレが普通、なのだけどね……」
「う、うふふ。普通の謁見って難しいのね」
おおおおおう!!庶民が、何の高貴さ教育されてないド庶民めがやはりお城務めなんて、無理だったのおおおおお!?
め、女神いいい!女神なご令嬢達まで全員お揃いでえええ!!
「ニック殿、落ち着いてください。実はですね、昨日フランジール卿と飲みました?」
息も絶え絶えなボクに近寄って来たのは、黒猫卿。
ああ、その、優しい肩ポンは心に染み入るよ有難え!!
……良かった、何時もの彼だ。ふえええん!泣きたいけど泣けないい!
「ふぶえっ!ぐすっ!飲みましたけど。まさか何か有ったんですか!?」
「その際の内容は?」
「えっ」
……それ、こんな場所で言わないとダメな感じ?
野郎同士の飲みなんて、アホ話と仕事の愚痴……シモネタ特化に満ちてるのに?
目の前には双子のお姫様がいらっしゃるのにいいいい!?御歳はブライトニアとおんなじ位かもお!
やっだあ!目の前が霞んで脂汗ダラッダラしてきたよお!心臓が暴れ中で口から出そう!死にそう!
「フランジール卿がアホ程酒癖悪いのは、大体の者が知っています。オマケに更に品がなくなるのも」
「いや、まあその、お上品な方じゃ無いかなーと思いますけど」
いや、モロではないけど露骨だよね。おんなじか。
「そ、そのお姫様方にはし、刺激がお強い、いえ、ちょっと、けっこう、下世話いや、下々のお話なので!」
「成程成程、教育に悪そうな会話だったんですか」
「そりゃそうだろうな、フランジール卿だし」
「刺激なの?」
「下々なの?」
ヒイイイ!!そんな澄みきった灰色の美しい眼差しをダブルで向けないでくだちい!!
汚え大人なもんで浄化されちまいそうですううう!
「別に血腥くても構わないの」
「そもそも私達むぐっ!」
あれ、ショートボブっぽい方のお姫様の口がジョゼ卿に塞がれてる。ど、どしたの。不敬じゃないの?えとうーんと、アレッて婚約者セーフの域?ヒイイハラハラするうう!
「ハハハハハ止めましょうウェル様!!この場は大人に任せましょう!!すわ我々は控えておりましょう!!」
「ジェオ様、やっぱり無理ですよ我々も控えましょう!?」
「無理じゃないのエルジュ」
「むぐ!離すのジョゼ」
「それでは皆様!!後は頼みます!!」
「す、すみません!やっぱり僕にはこんな場所無理ですお願いします!!」
ああ、お姫様抱っこでお姫様達が退場していく……。
うん、玉座の間でも街中でも中々見れない光景だね、スゲエ光景で候。
て言うかヒョロさではボクとタメを張る、地味オッドアイ仲間のエルジュ卿、おにゃのこをお姫様抱っこ出来んだね。
何かショック、ぴえん。思わず自前の二の腕の筋肉チェックせしどもナッシング!
いや、お姫様抱っこなんざあしようとは思わないけどね!アラサーは足腰と骨を大事にしたい年頃だから!モブがそんなイキり許されないし、物理的に死ぬでよ!!
「何てぇ言うかぁ、誤魔化したわぁねぇ」
「うふふ、やっぱり姫様方に手を……」
「なかなーかー、彼らもーあーんなお顔でえげつないわー」
「まあまあ……婚約者だけど、やっぱり引くわね」
いや、女神なご令嬢がた、目の前のボクの婚約者ツインズお姫様方と御歳はおんなじ位でっせ。とも言い辛い身の上でっす!
ハハッ!胃が痛いやあ!!逃げたあい!
「番に執心なのは良いことではないですかルーニア。元気に番といちゃつけるのは世界が平和な証拠です」
「意味解らないわ近寄るな!エンリ!」
「そもそもーあの2人ー、獣人じゃないでしょー」
「そもそもこんなに集める理由はあるのか?ニック殿を囲んで威圧しただけでは」
「僕も思う。無駄だったな」
あ、サロ卿と逆縞卿だ。この国はデカイ身長の人が多いけど、2人並ぶと抜きん出てデカイねーん。
えーん、うらやまー。横にしか伸びない身の上ー!
いやふざけてる場合じゃないよ。
でも、お姫様達が退室されて、この場には上司である黒猫卿を含め同世代のお知り合いだらけ。
何とか落ち着けるよ。
フウフウ深呼吸をして、いざ謎解き!!……気合いだけは一人前さ!
「それであの、どういう事なんですか?ボク、基本ジルさんのその、シモネタを含めて、お姫様が結婚してくんないって愚痴を聞いてただけなんですが」
えっと、あのね。詳細は省くよ。
そりゃもっとえげつなく、か、体目当てにされたとかとんでもない事を聞いたけどね!!
本当に赤裸々にね!!とてもご婦人方の前では話せないよ!!三次元で勘弁してそんな羞恥プレイ!!
野郎ばっかならお話出来なくもないけど、その後誰が婉曲に纏めてご婦人方にご説明……してくれそうなの、サロ卿位しかいないなあ。流石にそれは申し訳無いよ。
だから婉曲に何とかお話しなきゃ。
「……まあー。そんな話をー?」
「あらあら、目茶苦茶誤解じゃないの」
「と言うかぁ、姫様がぁ、隠すのにぃ長けてぇいらしたのがぁ、仇ぁ?」
「笑い事じゃないわ。フランジール卿がそんな曲解をして……拗れているなんて」
え、どゆこと?
女神な令嬢方は解ってるみたいだ、けど。
他のお集まりの皆さま方は、ボク含め、はてなマークギッシリですよ。
そして、四令嬢が語られるそのお言葉を、ボクなりに噛み砕いて纏めるとですね。
ユディトお姫様は、ジルさんにサプライズプロポーズをしたかったそうなんだよ。
でも激務過ぎてさ、ふたりきりになるタイミングを見失ったんだそうだよ。
唯一ふたりきりなのはこう、夜?ユディトお姫様のお部屋だそうなんだけどさ。
そ、其処ですんのは嫌だったみたいだね。ムードが別物だからだそうだよ。
解るー!ムード超大事。アラサーになってくるとさ、勢いはダメだよ。勢い余って大惨事になりかねないもんね!!然るべき時にタイミングを逃さず!!夕暮れとか夜空とか朝焼けとか、取り敢えず素敵な晴れの日に素敵な場所でプロポーズ!憧れるね!
……いや、ボクはもう叶わぬ身だけど憧れる位良いじゃない。夢見る心は自由なんだよ。
つかボクが要らんこと言いだしたらね、余所の国を侵略中の蝙蝠ウサギのツインテールが更にどう暴走するやら解らないのさ。ハハハ!なりたくなかったそんな立場拙者!毎日が薄氷の上でダンス気分!
思考がズレたね。
まあ、サプライズプロポーズも、成功は最高難易度だとは思いますけどね。
拗れちゃったしなあ。
しかし、押しも押されぬヒラ職員であるボクが、お仕えする国家の第一王女様のこんな大事な聞いて良かったのボク。
「成程なあ」
「フランジール卿も姫様の話を聞きゃ良いのに。これだから酒癖の悪い獣人は。大概被害甚大だろ」
「おい、ココー卿、獣人のやり方に文句あんのか。今から委員会開くから来い」
「逆縞卿、今は姫様の話ですよ」
モメモメで候。
今日は通常業務は無理っぽいなあ。
うーん、夕焼けこやけで日が暮れてるよ。
少しくすんだ乳白色の石造りのお部屋に、大きな窓から綺麗なオレンジ色の光が差し込み始めてるよ。
いやあ、玉座の間は、目茶苦茶ロマンチックに設計されてるんだなあ。窓枠の飾りと言い、タペストリーといい……厳かなのに、何処かこう、ラブストーリーが繰り広げやすそうというか。
うむ、自分でも意味解らんね。
例えば、此処で跪くジルさんが居て。
あの玉座から裾の長い御衣装で降りてこられる、ユディトお姫様が居られて。
手に手を取って、どちらからともなく「結婚しましょう」的なお言葉が交わされて、キラキラムービーやスチルで流れたりしてねー!
それで、ガーデンパーティの場面に切り替わって、周りの皆さんが拍手喝采でさあ。
っていかんいかん。
乙女ゲームじゃないんだよ。そもそもコレッデモンは舞台じゃねーんですってば。それっぽい昔は有ったらしいけど暗黒時代だから!
でも、お幸せ展開にならなきゃ駄目だよ。あのおふたりは。
ボク、すれ違いラブは苦手なんだから!何か出来ないけど何かしたい!!お力になりたい!
「そう言えばニック」
「はい?」
「何だか変な籠が来てましたけど、もしかしてお迎えでは?」
黒猫卿も首を捻ってるね。
…………籠って何ぞ。
いや、待てよ。
断ってそろそろ廊下に出て、お外を眺めた。
あれ、何か裏口の塀の側に変なのが見えるよ。幻覚?
「か、籠?」
「ええ。隣の……ああ、もしかしてウサギ姫の仕業では?この前見た獣人の子供が乗っていましたよ」
獣人の子供、とは。
塔を建てて、ロープを渡し、国を跨いだ通勤を……。
色々ブッ飛びすぎて、却下したかった事実が、完成したってのおおおお!?
「まさかそんな馬鹿な早すぎる!!」
「突貫工事ですね、ソーレミタイナは」
突貫工事ですねじゃないよおおお!!
何故かボクの為に、ルーザーズ&ネテイレバを侵略して、制定中というトチ狂った状況なのに!
ボクが其処から通勤せいってどういうこったよ!!
「あ、お嬢の旦那様!」
「えっ、誰」
窓の下に見えるのは、混乱に陥る青ピンクっぽい髪の毛の男の子。
アワアワしてたら迷わずボクの元へやってきたでがすよ。
うわ、どっかでチラ見したこと有るかもおおおお!!
「私、アンドリュー・アベシです!お嬢の配下です!末長くお仕えしますね、宜しくお願いします!」
何処から突っ込んでいいの、この事態。断末魔かね君んちの家名は。
「籠が完成したんです!お迎えに参りました!」
「ひえいやあああ!!」
何でこんなに展開が早いのおおおお!!
「明日は来なくていいですよ。皇太子殿下のウサギ姫と過ごしてください」
「いえええええ!?」
そんな、こんな緊急事態なのに!?
いやそりゃ、物理的に何も出来ませんけどですけど、しかしおかしいいいい!
オマケに結構風が強くて揺れますしいいい!!
宿舎に帰りたいよおおお!!
「あれ、お嬢が居ませんね」
あああ、アンドリュー少年に連れられてきたとこ良かった、お城じゃない。
何だか向こうの方にチョコレートケーキみたいなテーマパーク擬きが見えるけどスルーしよう。そうしよう!
ふええ、ヨボヨボだよお。アラサーは環境の変化に弱いんだよぉん。
でもココドコ?
古い、貴族の館みたいな感じだね。位置的に………サッパリ解んないな。
あ、地図が額縁に入って飾ってる。
此処は、えーと。ルーザーズの北?
「オルガニック殿、お戻りで?」
「はい!?いえお戻りも何もボクは宿舎に帰りたくて候」
「ウサギ姫はもうお戻りだと思いますよ」
んん?んんんんんん?
「有り難う御座います、ジル様。私はオルガニック様の御仕度に戻りますね」
横を少年が駆け抜けていく。
ぞわっとする、この、火属性の気配は。
うん、暖炉じゃ、ないよ。
「何してんのおおおおお!?ジルさんじゃないかああ!!」
コレッデモン王国で、今一番話題を浚って大騒ぎに陥れてる本人が、何でこんなところで寛いでらっしゃるのおおおお!?
意外と近くに居ましたね。