平穏は地獄の上に立っているものなの
お読み頂き有難う御座います。平穏だったコレッデモン王国に事件勃発ですね。
ユディトの妹にして双子の金髪王女、ジェオとウェルとその婚約者、エルジュ卿とジョゼ卿の住まう館から始まります。
北に位置するコレッデモン王国には珍しく、日差しの柔らかな朝。
「ジェオルジア様、ウェルギリア様!!おふたりにお目通りを!!」
滅多に人の訪れない、王宮の南の外れに建つ小さな建物。通称『ふたつ宝の館』
何と、王宮内に特別に許されたふたりの個人資産で建てられた小さいながらも贅を尽くされた館である。
年上の婚約者達に囲われた、双子の王女の居室の扉を叩く者がいた。
「ひええ!?こんな朝早くにど、何方ですかね?まさか敵襲!?ジェオ様は、ぼ、僕が守ります!!」
「騒がしいのエルジュ。よしよししてあげるから黙るの」
「………」
「滅茶苦茶眠いし、ジョゼ重たいの。いい加減起きて何とか言うの」
寝間着の王女達にふたりの婚約者は張り付いたまま離れない。
寝癖だらけの青い髪のエルジュ・ヤンシーラは涙目でビビリ、派手な見た目の割にモコモコした寝間着の銀髪のジョゼ・ギウェンは未だ夢の中にいた。
こんな成りだが、彼らは泣く子も黙る、この国有数の処刑人達である。
何故王女の婚約者が処刑人なのか。その理由は身内しか知らないらしい。
だが、そんな事も気にならなくなる位、彼等達は国内の独身貴族を歯噛みさせ妬ませるような絆で結ばれた、国内きってのバカップルであった。
「こういう時、使用人が通いだと面倒なの」
長い金髪のジェオが、婚約者を張り付かせながら扉の方へ歩を進める。
パタンと軽い音を立てて開く扉には、凝った飾りが付けられていた。
そして開けるとまた同じ扉。
「そもそも早朝から訪ねてくるひとがお姉様しかいないの」
「でもお姉様なら普通に入ってこれるの」
それに答えるのは同じく婚約者を張り付かせながら続く、短い金髪のウェル。
似たような声で似たように喋る双子王女は、同じ拍子で顔を見合わせ、首を傾げ……ある事に同時に気が付いた。
「「あ!!」」
「どうなさいました僕のジェオ様!?」
「眠いですウェル様」
それぞれ張り付く婚約者に構わず、双子王女は慌てた。
「お姉様に何か有ったの!?」
「有り得るの!!」
「え、ええ!?まさか、あの荒武者姫いえ、姉姫様にですか!?一体どんな災害が!?あいたっ!」
姉への失言をした背後のエルジュ卿の腕を、ぱちっとジェオルジアが叩く。
「お姉様は素敵だけど普通の貴婦人なの。不調だって起こすの」
「ジョゼ、いい加減起きるの」
「うーんウェル様は私が守ります……」
ウェルギリアはジョゼ卿の鼻を摘むが、未だ夢の中。こっちはこっちで締まらない。
「どっちにしろ確認しないと気になるの」
「気になるとイライラするの」
ノッカーの音と、細い女性の声が辛うじて聞こえてくる。
誰が来たのかは未だここからでは確認出来ないのである。
一応他に使用人入り口が有り、食材や許可された使用人は其処から入って来れる。だが、時限性であり、未だ開く時間ではない。
安全面は高めだが、急な来客に困る。そんな仕様である。
「ああもう、5枚も扉を潜るの面倒なの!エルジュ、歩きにくいの!」
「偶には省きたいの!ジョゼ、いい加減自力歩行するの!」
この部屋は婚約者達によって改造されており、実に侵入し辛く、外出しにくい。
双子王女達が奪われるのを恐れた彼らによって施された仕掛けにより、婚約者達が認めた者にしか扉は開けられない。
漸く4枚目の扉の前に来た時、聞き慣れた声が聞こえた。
「あ、ルーニアの声なの」
「早く開けるの。エルジュ卿、ジョゼを持ってるの」
「うわ重たい!!起きてくださいジョゼ卿!!」
「ううーん。ウェル様……ウェル様のぬくもりが」
まとわりつく婚約者達の手を払い、トコトコと扉に近づく王女達。
この最後の扉は婚約者達が誂えさせた中でも更に特別製で、鍵を持ち、許された者しか開けることは出来ない。
「だ、大丈夫かなあ。ジョゼ卿サッサと起きてくださいよ!!僕は接近戦も遠距離戦も無理なんですからあ!!縛られてる人間しか相手に出来ませんからね!!」
「エルジュは弱っちいのを自覚できてるだけ偉いの」
「んが……眠い……。ウェル様、私のウェル様。憐れな私に目覚めの口づけをお与えください」
「今朝くらい省いたって死にはしないの」
ジェオが扉の取っ手に手を掛け、軽く魔力を流し、ウェルが腕輪の鍵を開けた。
そして、漸く外界を阻む重い扉が軽々と開く。
「やっと開いた!!いえ、早朝から申し訳ございません姫様方。緊急にて拝謁を賜りたく」
3名の女官を引き連れ深くカーテシーをしていたのは、柿色の髪の令嬢だった。
「拝謁を許すの」
「顔を上げていいの、パトルニア・ドロキア」
可愛らしい声に許されて、ゆっくりとルーニアは立ち上がる。
その顔には珍しく不安と焦燥が隠しきれてない。
仕事をしない父親に立場ごと取って変わり、城内の内向きを取り仕切る彼女にしては珍しいことである。
「今まで思わなかったけど、この開け方面倒なの」
「緊急時に困るの」
扉をギコギコ揺らして、王女達は文句を言う。
ルーニアにも同じく文句は有ったが、それより優先させる事が有った。
「ええ、私もこんなことが待っているなんて。ああ、それよりもお召し替えを」
「王宮で何か有ったの?」
「お姉様関係なの?」
「はい、そうなんですの。姫様がた、どうか先ずは王宮のお部屋迄お越しくださいますか?見て頂いた方が、お早いかと」
朝早く、囲われた王女達に外出して欲しいと願い出る事は、今までに無いことだった。
ルーニアの悲壮な様子に、余程の事かと双子は頷く。
「じゃあ出てくるの。偶には王宮の部屋で着替えるの」
「エルジュ卿、ジョゼ、お留守番してるの」
女官が鷹揚に頷く寝間着姿の王女達に外套を被せた。
そして彼女達を囲うように付き添う姿勢を見せる。
「え、えええ!?姫様がたお待ちください!!僕も行きます!起きてジョゼ卿!!」
「うぐ、ちょ、エルジュ卿!首が絞まってる!」
「その寝癖を何とかするの」
「どの道ふたりの着替えは向こうに無いの」
王女達はモタモタする婚約者達を置き去りにし、さっさと足取りも軽く王宮へ向かった。
一応王宮内にもふたりの自室がある。久々に置いてある手間の掛かるドレスに袖を通し、着付けられて女官とルーニアの先導を受けた。
久々に王宮内を歩く双子王女達に、ざわめきが起こっている。
何故姫様がたがおふたりで!?
まさか、エルジュ卿とジョゼ卿は死んだのか?等という不謹慎な本音を漏らした兵士は、上官に殴られていた。
「そんなに私達ふたりだけだと珍しいの?」
「えっ、え、ええ。あらあら、そ、そうですわね……。姫様がたがあのふたりと離れて居るのがお珍しいですわね」
寧ろ、3歳前にで婚約した双子王女が婚約者と離れて歩いているのは初めての事なので、此処まで騒がれているのだ。
敢えて考えなくとも本当に変態じみているなあの男達、とルーニアはチラッと思ったが、勿論口にしなかった。
「ジョゼと歩かないの久々なの」
「確かに、エルジュが居ないと地味に寂しいの」
「あらあら、仲良しでいらっしゃいますわね……」
「仲良くないとあんな面倒なジョゼとは一緒に暮らさないの」
「仲良くしたくなければエルジュを選ばなかったの」
「……あらあら、ハッキリされてますわね……」
そしてふたりの王女が目にしたのは……。
「「お、お姉様!!」」
「……」
生成りの天蓋付きの可愛らしい寝台に、薄い水色の長い髪が流れている。
其処には、涙を流したまま、身繕いもせずに寝台に凭れる姉の姿だった。
「「フランジールは何処へ行ったの!?」」
双子王女は姉の部屋の中を探したが、私室だろうと謁見室だろうと、何時も姉に常に張り付いている優しげな顔の近衛が居ない。
「その、喧嘩をどうやらされたようなのですの」
「「何時もの事なの」」
「それが、何時もの喧嘩では無いのです。フランジール卿は城を出て行かれたようですの」
「「何をしているのフランジールは!!」」
「詳細が分からなくて、今、昨日最後にフランジール卿に会った者を探している最中ですわ」
「喧嘩で家出するなんてどうかしてるの!」
「そもそもお姉様を怒らせて楽しんでるの!」
双子王女は寝台に乗り上げ、姉の両側に陣取って袖で溢れたままの涙を代わる代わる拭った。
それでもぽたりぽたりと、喉や寝間着の胸元に涙が吸い込まれていく。
「此処までお姉様を再起不能に追い込むとか許せないの!」
「でも、いい機会だから休ませるべきなの」
確かに、常に働き詰めの姉の顔は紙のように白い。
「ウェル、つまり私達が執政をするの?外交は習ったけど内政はどうするの?」
「ジェオ、表向きは私達が出れば良いの。内政は陛下にやらせるの。紙花の妃も死んだし、どうせ暇なの」
「オッサンはコキ使うべきなの」
「臣下を使うの」
「あらあら、頼もしいですわ姫様がた!!」
予想以上に頼もしい双子王女達に、ルーニアは感動した。
「大臣達は?宰相は代替わりしたの?地味にジョゼ卿とエルジュは其処らの事情に疎いの」
「謁見室に椅子が2つ要るの。あのふたりも侍らせるの。エルジュ卿とジョゼも王女の伴侶として箔と根性を付けるの」
「ええ、手配を致しますわ」
どうやら気前良く、ふたりの婚約者も使ってくれるようだ。
性格の違いは有れど、実はふたりとも内向的な気性の彼等は嫌がるだろうが仕方がない。
「フランジール卿はサッサと呼び戻してお姉様に貼り付けるの。2週間位同じ部屋に放り込んでくっつけりゃ、大体機嫌も治るの」
「それはウェルの感覚なの。フランジール卿は足りるの?ねちっこそうなの」
「あらあら、な、生々しいですわよ姫様がた。ジョゼ卿とエルジュ卿に虐待とかされてませんわよね!?」
「「愛されてるの」」
その時、ユディトがビクッと反応した。
「ジル」
「姫様!?」
「「お姉様!」」
「ジル、と、結婚式の、驚かしたくて、でも、怒られちゃった……」
ホロホロと、白い頬に涙が伝う。
どうやら、姉とフランジール卿は長い付き合いを経て両想いになり、今更すれ違っておいでのようであった。
「粗方こなしてると思ってたお姉様とフランジール卿がすれ違ってるの。恋愛って難しいのね、ウェル」
「長年両片想いって結構拗れるみたいなの、ジェオ。バンバン愛を告げないとダメなのよルーニア?」
「あらあら、私には関係御座いませんから」
「「素直じゃないの」」
居心地が悪く、顔を逸らす。
にこ、と悪そうに微笑む顔は親友に似ているなとルーニアは思った。
「兎に角、黒猫卿とか代替わりした若しくはする予定の大臣達を呼ぶの。陛下を引っ張り出してくるの」
「じゃあ私は捜索隊を組むの。目撃者を引っ捉えるの」
「姫様がた、本当に頼もしいですわ」
ユディトとジルに一体何が。
ちなみに、この頃は婚約者が居れば同世代から妬まれる傾向が薄まっております。




