過剰苛烈な光と闇
お読み頂き有り難う御座います。ユディトがジルの愛ある掛け合いをイラッときつつもデレる執務中です。
「目出度いよなあ。早くレトナに陞爵しねーとな」
「それ、17回目ですよユディト。いい加減耳にタコです。それとも早くも老化現象ですか?
ボケる前に一刻も早く子供作らないといけませんね。今からご休憩します?何日籠ります?」
「ボケてねーよ!!袖の中に手を突っ込むな!!」
せめて手を撫でるだけにしとけよ!!
それ位なら私だってこう、穏やかに済むのに!!て言うかああもう!
「大体親友に子供が出来て浮かれて悪いのか!!悪くねえ!!私は可愛い親友達が大好きなんだ!!」
「笑えないので仕事の話をしましょう」
急にマジな顔になるな。怖えわ。
でもまあ、此処執務室だからな!私は国家を担う出来る王女だから仕事の話をしねえとな。
何か有ったっけ、急ぎの用事……。
「そういや、前に送り出したディルマウリス伯爵の三女はどーなった?」
「ああ、光と闇の神子殿ですか?」
「その酷い渾名止めてやれ」
何のネタだよ。しかも神殿勤めだっただけで神子ってそんな立場ねーよ。普通の神官だろ。大衆小説の主人公か。
「と言われましてもね。そちらの方がご本名より通りがいいものですから。えーと、シャロット・ルー・ディルマウリス嬢でしたっけ」
「そうそう。世にも珍しい光と闇属性持ちなんだろ」
珍しいよな。
両方珍しいけど、使いどころが難しい属性だったように記憶してる。私は持ってないし詳細は知らない。研究者でも無いから大体自分の属性しか詳しくねーもんな。
「多属性持ちも珍しいですが、光と闇ですからね。
片方だけでも世にも珍しいんですけど、両方持ちは更に居ませんよね。428年前の記録にひとり居たらしいですけど」
無駄に細けえな。凡そで良いっての。
……枷が取れてからと言うものの、ジルは生き字引みたいになってんなあ。何なんだその限定的な知識の塊。
でもジルって、自分の知識を語るのが好きなんだよなあ。覚えたことを教えてくれるのって、ちょっと可愛い。
朧気にしか記憶にない昔にも有ったんだろうか。
「光と闇って他の属性で殆ど事足りるし、どーもお荷物というか不遇と言うかだよな。
物語みたいな大規模攻撃魔術も、奇跡的な回復魔術も無いしな」
「複合魔術なら有ったそうですけど、光と闇単体で役立つ魔術、あんまり有りませんしね」
「有りそうで無いよな。諺にも有ったっけ」
「『闇魔術で大規模虐殺、光魔術で蘇生修復』でしたか」
どっちも出来そうだけど絶対出来ねえってのの喩えだな。
「闇魔術なら暗闇を作るとかですが、暗くするだけなら土魔術で間に合います。
俺が気になるのは、光による劣化を防ぎ、保存出来る闇魔術とかでしょうか。まあ、魔術解いた途端崩れるそうですが」
「それは保存とは言わんな」
寧ろ普通に倉庫に長年放置したのと変わらねえじゃん。
「土魔術で色々調整しながら物を埋めた方が、便利で劣化しないみたいですよ」
聞けば聞く程闇魔術って面倒臭いな。
大体それ、見えないよう誤魔化してるだけで、普通に崩れてるんじゃねーのか。しかも闇の術中なら触れねえし見れないし使えねえって、何の意味が有るんだ。
うーん……。もしかしてそういう気分になるから研究が進まねえのかもな。
「闇の中なら術者の魔力が尽きるまで形を保てるそうなんですよ。あ、生物は腐るそうですから人間を保存するのは無理です」
「だろうな」
最早保存の意味がねーな。生物なら水属性持ちが氷作った方が余程持つ。
「光の魔術で有名なのは、目茶苦茶眩しく照らす術ですかね。
もしくは腐ったものの浄化。どっちも火魔術で足りますけど。しかも光属性だと昼間しか使えないらしいです」
「単に属性持ちが少ないから研究が進んでないのも有るだろうが、本気で不遇だな。光属性といや、ユール公爵に挑んだ命知らずな空っぽがいたけど。あれも保管だよな?」
報告書読んでて二度見したあれな。強烈だった薄赤毛の娘。
性格が何故か紙花の妃そっくりすぎたわ。何処にでもあの手合いは湧くんだな。昔にも湧いてたみたいだが、その歴史は繰り返さんで欲しいもんだ。
「スキル保管庫ですね。あれは取り込みの一種らしいですよ。ただ、吸収スキルを保有する木魔術で事足りますけどね」
「増幅出来たりしなかったのか?」
「逆に使ったら減るそうです。闇魔術で保存すると術中は壊れませんが、光魔術で保管すると使用期限が設定されるようで。使わなかったらその内に光と消えるそうです」
「本当に使いづらいな」
「昔は不便を物ともせず使ってたらしいですけど。どちらかと言うと退化属性かもですね」
昔の人間は大変だな。
と言うことは先祖返りかもしれんのだな、光と闇属性は。うーん、進化の過程はよく分からん。獣人もよく分からん。
「それで、シャロット・ディルマウリス嬢のスキルは?」
「特筆すべきことは有りません。狩人神官と呼ばれていますが、遠視と近視が酷いそうです」
「……どういうことだ」
スキルと視力と何の繋がりが有るんだよ。訳が分からん。
しかも狩人って視力が命なのでは。神殿は何を考えて就かせたんだ。騎士の家系だからか?
「つまり、昼間は酷い近視で、夜は夜目が効かないのに酷い遠視なんだそうですよ」
「……何で?」
説明されても分からん。何がどう作用するんだそれ。
「体質的に光と闇が過剰に目に入るそうです。大変ですよね」
「常に眩しいか暗いってこと!?……下手に動けんじゃねーか」
「以前にも光と闇属性持ちの神官がおられたとかで、訓練の為平らかに分かち合う神殿お勤めになられたんですよ」
ふーん。
珍しいと思ったら案外大変な理由だったんだな。
「そういや目を患ってるのに感覚で動いてる神官って報告あったな。シャロット嬢の事か」
「対外的には、光と闇属性持ちだと話は進まないし説明が面倒なので、そうなってるらしいですよ」
面倒なのでってなあ。他に有るだろうが。無茶苦茶な親だな。
ディルマウリスの長男が第二騎士団に居たっけ?そういや常にキレてる奴なのに、『当主夫妻療養届け』を出しに来た時は、珍しく笑顔で気持ち悪かったな。まあ持ってくる全員満面の笑みで結構怖い。気持ちは痛い程分かるけどな。
「でもあの神殿、神へ捧げる踊りが必須じゃなかったか?何処が動かなくていいんだよ。私も昔、踊らされそーになったぞ。やらなかったが」
何周年かの祭事の時だったか?
私と言う世界にふたりといない美しい王女が踊るってんで、国内外からエロ親父共が鈴なりに集ってウザかったから、中止したんだったな。
勿論二度とやらねえつもりだが。
「16の時の?あの踊り神官衣装良かったですよユディト。仮縫いで終わりましたけど、実に似合ってました」
「え?そ、そう?」
め、珍しいな!そんなに似合ってたかしら。コイツ、あんまり私の服装を誉めないから嬉しいかも。
あの踊り神官服、結構清楚だったからな。
「チラ見えする裾と肩を出す禁欲的な割に脱がせやすそう具合が良かったです。
今の寸法で新しくあの服作らせましょう。俺の前だけの寝間着にしてください」
この野郎殴りてえ!!
「ふざけんな!大体、何であんなジャラジャラした服を寝間着にしなきゃなんねーんだ!!寝てたら刺さるだろ!」
あーもう!!何時もの、この頃のジルだった!!期待して目茶苦茶損した!!
コイツ、この頃変に色々衣装を着せようとしてくるんだけど何なんだよ!!
私はこの国の第一王女殿下なんだぞ!!図に乗ってやがるな!!
「じゃあ、別に寝間着にしなくてもいいですけど」
「話を逸らしてどっかやるな。今はシャロット嬢の話だ。本当にそんな事情でルカリウム草原に行ったのか?マジで?」
「ご本人のご希望ですから、ルカリウム草原に旅立たれましたよ」
「そんな事情背負ってるなら打診しなかったんだが」
「だからひた隠しのまま旅立たれたんでしょうね。何でも『玉の輿』目当てだとか」
おいおい、第四騎士団団長の家だろうが。玉の輿って中々だな。
「……ディルマウリス伯爵家ってそんなに困窮してた?」
「何軒かに一軒は金食い親がおりますので、身代潰されそうな家も多いですよ。オマケにディルマウリス家は兄弟姉妹が珍しく多い。ですから余計に実り多き婚姻を望んでおられるのでしょう」
「珍しい。誰か即囲いに行かなかったのか」
寧ろよく今まで囲われなかったもんだ。山に行こうが神殿に入ろうが結婚は出来るからな。
スキルのせいとは云え、目が悪いなんて格好の餌食だろうに。
「勿論、成人済みの兄弟姉妹は第四騎士団員に囲われています。ただ、騎士団員は金が無いですよね……。逆に金が掛かる始末ですから、独身の彼女は機を見ていたと思いますよ」
まだ15か其処らだろうに、苦労してんな。まあ、親の処刑おっと養生に許可を出すのは籤引きだから手心は加えられんが。
「成程ね。この頃、身を固める奴も多くなってきたしな」
「その通り。前程売り手至上では無いんですよ」
この前までの私は相手が居なくて……いや、ジルが居たけど結ばれないと思ってたから婚活夜会をよく開いてたが、この頃それ処じゃねーんだよな。
嬉しいけど、夜会を開かん方が結婚率が上がるとか……主催者としてガックリ来るわ。いや、結婚出来て良かったんだけどさ。
「だから『黄金浸し』と『宝石の心臓』が大人気なんですよね。各家の子息令嬢が、急にエルジュ卿とジョゼ卿に脅しと賄賂を渡しそうな勢いですよ」
「アイツら小金持ちだから、賄賂は効かんだろ」
王宮の双子の部屋に住み込む家賃を払ってやがる位だしな。何気にジョゼ卿のギウェン家は爵位は低いが資産家だし、エルジュ卿の家は言わずもがな高位貴族ヤンシーラ公爵家の分家筋。
金銭には困ってない処刑人達だ。性格あんなんだけどな。
「逆に、ウェルギリア様とジェオルジア様宛に大量の贈り物が届いたそうですよ。姫様がたのお部屋の扉が一時開かなかったじゃないですか。それです」
「しょーもねーな。あの子らは余計に効かんのに」
物欲が無いとは言わんが、ああ見えて慎重だからな。
まあ、エルジュ卿とジョゼ卿がアホ程色々貢いでるから要らねえってのが本音かもしれん。我が妹達ながら魔性の素質有るわ。奴等と婚約してからのあの子らへの予算、殆んど支出無かったぞ?地味に怖えわ。
「あ、ユディトにも来てましたけど、送り返しときました。嫉妬するので」
「然り気無くそういうの止めろ!」
しかし、そんな事情とは云え、あのティム王子に食らい付けるかね?
シャロット嬢は、姿似を見る限り、目茶苦茶美人ではなかった。分厚いレンズの眼鏡が……初対面じゃ衝撃的っちゃあ衝撃的か?遠近使えんのかなあの眼鏡。
だが、報告書でもかなりの曲者のティム王子は、単なる美人には引っ掛からんだろう。一癖有りそうな、其処がいいかも知れん。成程なあ。マデルが選んだんだろうが、中々の人選だわ。
さて、どうなるかねえ?
我が国の令嬢らしく、ティム王子を狩れるか?狩人神官シャロット嬢のお手並み拝見だな。
ドゥッカーノの癖の強い第二王子の元へ令嬢を送り込んだ黒幕です。
そして、この世界で光と闇の魔術がカッコいいのは物語の中だけとなっております。不遇です。