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王子様のキスが欲しいらしい

お読み頂き有難う御座います。

今回はミーリヤの恋のお話です。

 今日は……ジルが我慢の限界を超えてベタベタしてくるから、追い出した。

 いや、分からんでも無いけどな。他国のアホなオッサンが謁見に来てこの私の美しさを讃えてジロジロ見てたから、腹立ったってのはさ。

 ……でもな!!

 普通、抱きしめてチューぐらいで終わっとけよ!!見せしめの醍醐味だろうが!!それぐらいなら私もやぶさかでは無かったのに!!


 勿論捲られた瞬間、オッサンを部屋から叩き出させたけどな!!


「ジル!!!何で後ろからとはいえ、スカートを捲る!?

 いや、謁見の間でスカート捲るか!?時が凍ってたわ!!」

「あのオッサンはこの中身を一生見れない訳ですが、俺は見れる現実を思い知らせてやったまでです」


 大臣……は親世代で大体更迭してっから、その子息か。結構列席してたからな。

 あーあバカップル!みたいな目で見られたし!!


 ……駄目だ、回廊を歩いても腹立たしさが消えねーわ。

 何なんだアイツは!!


「きゃっ、もう、カータ!駄目ですったら!!こんな所で!!」

「なんで?だめ?」


 うん?あそこでお茶会してる可愛いふたり組は……レトナとミーリヤじゃねえか。噛み犬とレトナがイッチャイッチャしてるのか。

 あの噛み犬はホントに人目を憚れねえな。誰か躾役が必要じゃねえ?レトナがやるべきなんだろうが、カータには実に甘いしなあ。


「いーぃわねぇ、レトナちぁゃんったらぁ。私もぉ甘ぁいキスが欲しいわぁ」


 噛み犬カータに顔を舐め倒されているレトナを……眺めているミーリヤが変な事を言いだした。

 ……いやアレってキスの部類か?

 ガチの捕食行為と言うか、茂みに雪崩込やしねーかハラハラする現場じゃ無くて!?

 ……まあ、荒むのは分からんでも無いが。


「……う、うふふ?どうしたのミーリヤ」

「いいぇえぇぇぇ。仲が良くてぇ、一緒のお家に住めてぇ、イチャイチャでぇ、良いなぁーーーーと思ったのぉ」

「何時もの可愛い声が物凄く低くて怖いんだが。どうしたミーリヤ」

「姫様のぉお声の方がぁ麗しいですわぁ。お早うございまぁす姫様ぁ」


 膨れっ面も可愛いが、どうしたんだ。滅茶苦茶ヤサグレてんな。


「まあ、うふふ、姫様。お、お見苦しい所をお見せしましたわ!ほら、カータ!わたくしお仕事が有るの、お先にお家へ帰っていて?」

「いいよ。雌同士のかたらい?も必要なんだよね。じょーほう交換が女の戦いをせーす?」

「その意味の解らん理屈は黒猫卿か?」

「うふふ、後で小突いておかないといけませんわね」

「あい?」

「個人的にぃ、カータちゃんのぉ御指南役はぁサロ卿にお任せしたらどぉかしらぁってぇ思っちゃうわぁ」

「うふふ、採用よミーリヤ。カータ、サロ卿とご一緒してくれるかしら」

「あい?レトナの頼みならいーよ」


 何気にアイツ結構上から目線だよな。喋り方が幼いのに紛れてるけどよ。

 しかし足早いな。もう見えねえ……と思ったら、2階に居たよ。どんな跳躍力だ。いや、壁登ったのか?

 アイツ、犬だよな?リカオンって犬……壁登れたっけ?偶にギー卿は壁走りしてやがるし……。

 ……獣人の能力は訳分かんねーな。常識に満ち溢れた王女の私にも理解できないわ。

 いかんいかん、今はミーリヤの話だな。

 しかし何が不満なんだ?ミーリヤは遠い国だがアイツと仲良しだったよな。


「え?だってミーリヤ、あの手が早いと評判の死骸うご……いや、ルディが居るじゃねーか」

「ルディちゃんと私は清い仲なんですのよぉ!!姫様ぁ!!」

「うっそ!?」


 何だと!?本気で!?えっ、あのふたりが揃いも揃って清い仲!?


「え!?だ、だって以前お付き合いが有った殿方とはかなり短い間に色々深め合ったんではなかったの!?

 それに、あのルディちゃんはショーン王子殿下でしょう?」

「噂は何だったのってくらいぃ!!ドン引きするくらいぃ!!清らかよぉぉ!!」


 ………ミーリヤの可愛い金切り声が青空に響き渡ってんな。


「清らか?」

「清らか………」


 声は重ならなかったが、嘘だろって感想はレトナと重なったな。

 キヨラカって………マジなのか。とっくに色々後付け理由と共に婚姻へ突っ走りそうな……ってこの城に勤めてる奴等は思ってたのに。


「跪いて手の甲にキスされたときはぁ、恐ろしく甘かったのにぃ!!」

「お、王子様ね………」

「すげえな、ガチでやる奴居るのね」


 作り話の中だけかと思ってたわ。存在するんだな、世界って広いわ。ただ、あのルディがねぇ。……やりそうな見た目だけどやりそうにないのに、やったのか。

 しかし、それだけ、とは。確かに清らかな関係だ。間違いねえ。

 ……羨ましいな。ジルは……してくんないだろーな!くそう!!何でスカート捲るような奴を……くそう!!思い出したら腹立ってきた!!

 レトナも滅茶苦茶羨ましそうな顔だな。……確かに、カータではしそうにねーわ。


「すぐぅお手々を出してくるぅと思ってたのよぉ!?だってぇ!結構露骨に胸をジロジロ見てきたものぉ!!」

「………うふふ、確かにお目にかかった時、私も姫様も見られてたわね。上品ながらも露骨だったわね」

「アイツ、ガキの頃から見てきたもんな……」


 分かるわ。男のチラ見は女にとってガン見とはよく言ったもんだ。

 まあ、ルディの親父……を騙ってたオッサンの前国王は更にジロジロ見て来やがったけどな。

 えーと、10年前くらいか?ルディは兎も角、あの前国王はうら若き乙女にも妙齢の令嬢にもご婦人がた全般に失礼な奴だったな。幾らウチの令嬢が美しいとはいえ、実に失礼だったし親世代が接待に侍れと言いだした時は、全力で叩き出したもんだったが。

 それ以降は静かになったから、危機意識は有ったようだな。未だ。


「まー、確かにルディはあの言動で思わせぶりであの噂だろ。いや、偏見で見てたかもしれねえわ」

「で、でもデートしたんじゃないの?うふふ、聞いたわよミーリヤ」

「デート!?あれがぁ、デートなもんですかぁ!!」


 おいおい……涙目になってんぞ。こりゃ、相手を呼び出さなきゃなんねーな。




「それで態々僕を呼んだのか?随分とユディト王女は家臣思いだな。

 ドゥッカーノ王位継承者第一位のこの僕を、そんな事で呼び出すとは。賢明と称された北の魔王殿は、外交を御存じないとみえる」


 ミーリヤの想う相手。

 それは……この目の前にいる、長身に、白皙の美貌。金髪に薄茶色の瞳のショーン・ジェラルディン・ドゥッカーノ。今日は前に会った時と違って、金の飾り刺繍入りの王子らしい衣装だ。よーくお似合いで。で、ウチに来るっつーから、飾られたみてーだな。

 ルディちゃんとして呼んだ……つもりだったが、高貴なる姫君である私のお呼び出しだからショーン王子として来たって訳か。


 見た目だけなら完璧な王子様……その実態は、かーなーりの、いい性格、底知れぬ能力持ちの死骸動かし王子。その素養は……こればかりは流石にウチも及ばない悲惨な家庭環境にも起因するんだが、レルミッド・ルカリウムのお陰で多少はいい方に修正された、らしい。

 だがそれでも、城をブチ壊しあう仲で有名なユール公爵アレッキオとヤバさだけじゃあタメを張る。

 魔力量は及ばずとも、あの本性と組み合わせりゃ充分ヤバい王子様。

 で、本日の機嫌は、下降気味。

 ……レルミッドも呼んどきゃ良かったかもしれねーが、ちょっとあの子には刺激が強そうなお話だしな。

 しかしルディと同年代なのに何なんだ、あの年相応な可愛さは。


「ちょっと約束無しに迎えにやっただけじゃねえか。大体、結構お前の国に迷惑掛けられてんだぞ」

「それなら国に賠償要求したらどうだ。何故未成年の僕個人に支払い義務が生じると?国際法に則っていないぞ」


 王子としても有能だから、ホントやり辛ぇんだよな。

 はー、コイツ、ウチに来ねえかな。ミーリヤの婿になったら仕事捗りそう。運用は面倒臭いだろーが。

 レトナに目配せしたら、しずしず箱を持ってきた。

 一応、お子様を宥める手が無いわけではない。


「レルミッドにも土産を用意したから、一緒に食べなさいよ。後魔王って呼ぶな」

「生半可な事で許されると思っているのか?僕とレルミッドとの外出を邪魔したことを」

「ルディは動物に嫌われるが!特に鳥好きなんだったよな?チュイ卿の羽触らせてやる。でかい翼のアホウドリだぞ」

「仕方がないな、今回は特別に許すぞ」


 ……そうか、王子様はお菓子でなくて動物をご所望か。

 可愛い面も有るんだがなあ。番以外を触らせねえと豪語するチュイ卿だが、今回は国の犠牲になって貰おう。大型鳥類の獣人で間に合わせられて良かった。文句言って来たらこの前の食堂の壺を落とした件を使うか。同性に猫可愛がりされるだけだ、軽微な罰だろ。


「………お前、普段は王位継承者抜けたいって言ってる割に、権力は振りかざすよな」

「義務は果たしているから多少の誇示は構わんだろう。使えるものは利用するまでだ。

 で、何用だ。ミニアが機嫌を損じたらしいと聞いたぞ」


 こういうシレッとしたところが遣りにくいんだけどよ。


「お前、現地解散デートしたんだってな。それも短時間打ち切りの」

「想い合う者達がふたりきりで歩き回れば、それでデートではないのか?時間の長短は関係あるまい」

「……言ってることは合ってるが、全力で違えだろ」


 コテ、と小首を傾げるな。可愛いな。ヤバい奴認識しかしてねーのにウッカリよろめきそうだわ。

 まあ私にはジルが居るからな……。あんなんだけど。

 ……まあアレだ。ジルは今の所破壊行動に走っても無いし……。


「うふふ、僭越ながら、ルディちゃん。買い出しとデートは違うと思いますわ」

「そうか?意見の相違だな、レトナ」

「サジュと金のガーゴイル、レッカの眼帯買いにってなあ……。それ付き合わせて現地解散はねーわ」


 効けば聞く程酷い話だよな。

 何処の世界にデートと称して他人の物買いに連れ出して、現地解散させる奴がいるんだよ。便利遣いか召使いかって話だよな。


「あのふたりは僕に忠誠を誓ったからな。楔みたいな物だがちゃんと選ぶに越したことは無かろう?

 僕はあまり服飾に詳しくない。偶々詳しい者が居れば知恵を借りたいと思ったまでだ」

「……うふふ、それでもデートと偽って呼び出すのは眉を顰めましたわ。親友として」

「ふむ、打出の令嬢の勘気を被るのは困るな。僕に何を要請したいんだ」

「やる気出たか?」

「お噂を御存じの通り、僕は胸の豊かな美人は好きだ。聞くだけ聞いてやろう。僕の耳は色々と聞こえてしまうからな」

「やりにくいガキだよな、ホントによ」


 ……一体何処にルディに告げ口するオバケが潜んでるんだかなあ。

 見えねえし追い払いも出来ねえし、本気で困るわ。今の所悪用はしねえみたいだが……そういうなのも有って、抱き込みたいんだよなあ。

 身分的には……ミーリヤに叙爵すりゃいいかな。


「………本当に、見透かされているようですわ。ミーリヤは何故……」

「失礼だな。僕はちょっと死者と話せたりする一般的な王子だぞ」

「いねーよそんなの。寧ろ一般的な王子に会ってみたいわ」

「うふふ、姫様。少々お話が逸れておりますわ」


 しまった。丸め込まれるとこだったな。


「つまり、きちんとミーリヤが望む通りのデートをしてあげてくださいませって事ですわ、ルディちゃん」

「そうか、手を出して手遅れになれと言う事ではなく?」


 爽やかに何言ってんだコイツ。

 極論が過ぎる。何も其処迄言っとらんだろ。


「……突っ走り過ぎじゃね?」

「だが、少なくとも。この城の大多数の人間は僕とミニアの仲を随分な懇意だと誤解していたそうだが」

「……噂ってそーいうもんだろ」


 ……あー、コイツの情報源断ち切れねえのがホント困る。

 情けない事にユール公爵の方もだがな!!あの国、惰弱だったくせに人材だけは半端なくいいから腹立つんだよ!!

 かと言って、夫人のアローディエンヌに何かする方が悪手だしなあ。

 手を出して丸焼けになった奴等の轍は絶対踏まん。今も周辺国がチョイチョイ手を出しては、焼かれて裂かれて滅亡の危機に陥ってんだもんなあ。懲りないよな。

 まあ、マデルとミーリヤに好印象抱いて仲良く出来てる時点で、抑えとかなきゃいかん。

 流石にユール公爵と無傷で渡り合える気はしない。私には背負うものが多いし、折角心を通わせたジルが居るからな。


「そうだな、噂ほどあてにならん事も無いな。

 案外噂と違ってユディトは純情な恋愛をしているし、レトナは可憐だし、ルーニアは喧嘩ップルをやっているし、マデルは伯父上に翻弄されているし、ミニアは小悪魔を気取った我儘だ」

「まあ、うふふ!!……やだ、ルディちゃんったら小悪魔ですわね!!」

「レトナ、最後。浮かれるのは分かるが最後」

「こほん!!そうですわ、ミーリヤに散々では御座いません?」


 言っちゃなんだが私らは褒め言葉に弱いよな。褒められてない弊害だな。


「デート。それは芝居を観たり店で無益な物を買い物したり露店で食事を取ったり、田舎で無闇にダラダラ時間を消費するものだったな」

「おい、言い方」

「先程の想い合う恋人との逢瀬の表現は何処へ行きましたの」

「いや、言葉にすると楽しくなさそうだなと思ったまでだ」

「……お前に情緒はねーのか」

「有るには有るが、今は無いな。美女に囲まれるのは僥倖だが、レルミッドとの外出を邪魔された上ミニアに対する態度への吊し上げではな」


 ……根に持ってやがんな。


「それに、主命でデートを命じられてはミニアも気が乗らんだろう」

「そぉんな事はぁ無いわぁ」


 ……あ、我慢出来なかったか。

 だよな。

 ミーリヤが乱入してきちまった。


「レトナ嬢がお出でとは言え、俺に内緒で他国の王子様と気安げに語らい私室に引きずり込むのはよく無いですよね。浮気ですか、ユディト」


 ……!?

 何でお前迄来るんだよ!?


「ほう、ユディトの私室なのか、此処は」

「いや、私的な応接室なだけだが」

「大して変わりません。ユディトの趣味で誂えた調度品の応接室なんだから私室と同様です」

「そうか。この変わりよう……地味にフランジールと話した方が面白そうかと思ってしまったな」

「ルディちゃぁん!?」


 コイツ……。


「僭越ながらルディ様、後で愚痴でも付き合いますからミーリヤ嬢にお付き合いください」

「愚痴ぃ!?フランジール卿、どぉいう意味ぃ!?」

「他意は有りません、男女は分かり合えないものですから。悪口は言いませんよ」

「……ホントかよ」

「ホントですよ。弁明は後で聞きますからね」


 ああもう、何でジル迄!!……面倒な事になったな!!


「分かった分かった。一線でも踏み超えれば満足か?と言いたい所だが、流石にミニアに其処迄は言えんな」

「言ってるけどぉ!?」

「だがミニア、酷くは無いか?何故僕達の関係を友人とは言え赤裸々に語る?そういう大事な物は秘するが花ではないのか?」

「……だ、だってぇ」

「まあいいか。デートだな。だが、この格好で外には出られんな」

「……え?」


 何だと?

 この場に居るルディ以外が全員嘘だろみたいな顔になってんぞ。


「何だその顔は。僕に色々着せたいものが有るんだろう?仕方ない、城下に降りられるような代物なら一着だけ着てやろう」

「……」


 しかもミーリヤが色々ルディに着せ替えさせたいってのもバレてるし。

 何処まで知ってんだ、コイツ。


「……ミーリヤ、色々思う所は有るでしょうけど、ルディちゃんがその気になったんだから機を逃しては駄目だと思うわ。後、私もお忍び中の王子様衣装を見たいわ」

「人を気紛れのように評するな、レトナ」


 ……レトナも好きだからな。美少年の着せ替え。少年って歳でもねーけど、このツラだし、ギリOKだろ。

 いや、私も好きだけど。ジルにするには……育ち過ぎだし着せ替えを強要してくる方だしな。


「……分かったわぁ、ルディちゃん。今日はぁ私にぃ付き合ってメロメロになって貰うわぁ」

「そうか、楽しみにしている」


 ……ミーリヤもせんでいい苦労を引き込まんでも……。

 だが、この気性が良いらしいしな。私もジルへの趣味がいいとは思えんが……。

 見に行きたいが、仕事が有る……。

 斥候でも飛ばすかな。



5人の中で一番プラトニックな関係なんですよ、本当に。

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