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黒猫は擦り寄りたい

お読み頂き有り難う御座います。

一夜明けて、ルーニアと黒猫卿を呼び出したユディトです。

「……あらあら、其処をお退きなさいエンリ。私急いでるの」

「私も呼ばれてますし、大丈夫ですよルーニア」

「何にも大丈夫じゃ無いわ、退きなさいって言ってるの聞いてる!?」


 ……あいつら回廊のど真ん中で何してんだ。

 約束してたの謁見室だから行こうと思ったら……窓の外に見覚えのあるふたりが見えた。

 黒い頭の眼鏡と柿色の頭。黒猫卿とルーニアだな。

 て言うか揃うと声デカいなふたりとも。

 結構単品だと静かに喋るのに……組み合わせると声デカい。あ、黒猫卿は興奮すると煩いけど。基本喧嘩……痴話喧嘩っぽいのしてるからなあ。


「あのおふたりも変わりませんよね」

「ジルも何をしてるんだよ」


 何なのこの背後霊は。何時生えた!?

 滅茶苦茶重たいなコイツ!!この出来るとは言え、テニス位しか心得の無いか弱い王女様な私に頭を乗せるという暴挙!!

 いや、頭どころか全体重載せて来てない!?


「誰が後ろから抱き着きながら歩いていいと許可した!?」

「前から抱き着いたらユディトが歩けないでしょう」

「1歩下がって歩きゃいいじゃないか」


 つか、前はその距離だったよな!?

 普通に下がって近衛騎士してたよな!?

 そうコイツの職業、私の身辺を守る近衛騎士!!

 ……他国には後ろでダルそうに文句言ってる奴としか思われてないかも知れんがな。

 いや、一応……今日はダルそうじゃない。久々に紅茶みたいな目に光が宿ったの見たな。

 ヤバい、ちょっと泣きそうかも。上向こう。……苦労させてたんだな。


「何を上向いてショボンとしてるんですかユディト。流石に今足が悪いんで抱えて歩くのは無理なんですが、治療の結果次第では抱えて歩きますよ。そんな希望が有ったなんて知らなかった」

「言ってねえよ!!大体抱えて歩く!?大体私の足は悪くないし、足の悪いジルに担がせるっておかしいだろ!!」

「王女の癖にベタな展開を解さないユディトですね……。お姫様抱っこと言う奴ですよ。乙女の夢らしいですよ」


 乙女の夢……まあ、分からなくもないが。まあ、憧れ……るのは憧れるが。

 現実問題さ、何にも無いのに……邪魔じゃねえのそれ。

 こう、何か特別な時でいいと思うんだよな。私ってば慎ましい王女だから。

 あんまり人前ではなあ……。……そう言えば、私ってば王女の割に人に囲まれる生活とは縁遠いな。

 いや、ドクズ母のせいでも有るんだけど、いなくなった今……もうちょっと囲まれても良さげじゃないか?近衛とか、侍従とか……。


「……そーいや、私への近衛騎士の割り当て……確か後4人居た筈だが、あんまり出て来ねえな」

「他の方々は兼任ですからね。後、普通にユディトが強いので俺だけでいいんじゃないかと団長に申し出ました」

「勝手に何してくれてんだよ!!私に何か有ったらどうするんだよ!?自惚れじゃなく国の損失だぞ!!」

「何か?何かに対応できる誰かは常にお傍に居るじゃないですか。まあ、俺は荒事では役に立ちませんでしたけど」


 ……何だその当たり前だろ何言ってんのみたいな目は。

 いや、私国の重要な人物だよな?守られて当然だよな?執務の一端を担わされてる王女なんだぞ?

 何論破してきてんだこの馬鹿は。

 くそっ、怒るに怒れない!!確かにぞろぞろ居た所で窮屈だけど!!有能な人材は他に割くべきだけど!!

 ……そういや双子の所はどーなってるんだ。父上は放っとくが、生きてるよな?

 一応確認しとくか。


「まあ、貴女に何か有れば身を以て庇いますよ」

「ジル…………ちょ、何顔摺り寄せて来てんの!?化粧が落ちる!!」

「皮膚の劣化を気にしてるんですか?同い年なんですから大して気にしませんよ」

「お前ぶっ飛ばすぞ!!」


 劣化とか女に言う科白か!!

 やっぱりコイツ、殴っといた方が良い!?甘い甘い顔で見つめて来るけど!!

 くそっ!!この人畜無害そうな顔が……殴りにくい!!


「……お話は本当だったんですねえ」

「あらあらあらあらまあまあまあまあ!!姫様!!姫様!!私嬉しいですわ姫様!!ああ、あああらあらまあまあ!!」


 ……うおおおおおお!!!

 何時の間に後ろに来たんだああああああ!!

 ルーニアすっげぇ興奮してるけど!!可愛いけど!!


「お早う御座います、ルーニア嬢、黒猫卿」

「あらあら言い過ぎです、ルーニア。可愛いですけど」

「煩いのよエンリ!!貴方、姫様とフランジール卿が両想いになられたのよ!?喜ばしいと思わないの!?眼鏡溶かすわよ!!」

「色々言いたいですが……女性は他人の恋バナがお好きですよね……」

「他人じゃ無くて姫様のよ。まあ、嫌いでは無いわね」

「個人的には、フランジール卿のもうひとつのお話の方が喜ばしい次第ですが」


 ……もうひとつのお話?

 ああ、ジルが獣人だってことか。ホント何なんだその獣人に対する情報への貪欲さは。

 ……そもそもジルの獣人の元々って本だよな。でも、本にはなれない。本になれないのに獣人でいいの?

 ……いや、本になるって何だ。訳が分からん。

 そもそもどう説明する気なんだ、コイツ。


「まあ、此処で立ち話も何ですし、謁見室で喋りません?」

「それもそうだが、何でジルが仕切るんだよ」

「お時間ですし宜しいのでは?参りましょう、手を。ルーニア」

「……エスコートは結構よ、エンリ」


 ……成程、黒猫卿とルーニアも中々に中々だな。

 だけどちょっと嬉しそうなんだよな、断る前。


「……姫様の恋バナより自分の恋愛に積極的になって頂きたいですね、ルーニア」

「私は私で適当にやるから、エンリはお好きな方々と浮名を流せば如何?何時もの様に」


 ……ビリッビリ空気が振動してる気がすんなあ。

 ……おかしいな、風属性は近くに居ない筈なんだが。仔ウサギがニック襲いにこっそり来てねえよな?


「白熱してきそうですね、ユディト。俺は先に行って茶の手配をして参ります」

「いやちょっと待てジル。何逃げようとしてるんだ!!大体この場を逃れても直ぐ後で会うだろ!!」

「ええ、状況が変化している可能性も有りますからね」

「そんな雰囲気でも無いぞ。私の勘が告げてるし」

「俺の願望がユディトの勘に負けるんですか?……負けそうですよね」


 ……分かってんなら言うなっつーの。

 あ、未だ食い下がってんな、黒猫卿。しつこいな。流石10歳か其処らから諦めてないだけある。

 思いっきり逆効果な結果しか見て無いが……。


「ルーニアは私が身を慎む方を好むんですか?」

「私の事なんて気にしないで、真面目に仕事すりゃ宜しいんじゃないの。まあ、身綺麗な方が女性ウケは宜しいでしょうけどね」

「女性ウケはどうでもいいですが、ルーニアが好ましいんなら」

「あらあらあらあら……聞いてる?私はどうでもいいって言ってるでしょ!!」


 あ、ルーニアがキレた。

 だろうな。同じ立場なら私もキレるわ。納得しかない。


「大体ねえ!!私の事を番だのなんだの大法螺ばっかり煩いのよ!!いい加減マトモな会話をしろってのよ!!」

「番は本当ですし、マトモな会話……ねえ?どういうのが宜しいんです?」

「どういうの!?聞く時点でマトモじゃないだろうがああああああ!!」

「……女心は難しいですねえ」


 いやまあ、ルーニアも黒猫卿に察しろ!!ってキレてるのもちょっと理不尽かなとは思うけど。

 まあ分からんでもない。黒猫卿も面倒くさいからなあ。


「ふむ、ルーニア」

「もういい!!もう結構!!理解し合えそうにあるか!!フランジール卿のお怪我を治すんでしたわよね!!行きましょう姫様!!」

「姫様、お時間を頂いても?」

「えー黒猫卿?何をする気なんだ……?怒りの上塗りにならない?」

「怒りって上に塗り重ねるものなんですか?誠心誠意削れるよう努力致しますので」


 ……まあ、ルーニアがキレるのが分からんでもない。

 でも此処で却下しても更に面倒な事になりそうだな。


「許す」

「良いんですかユディト」

「そもそもルーニアが先行ってるじゃないか。黒猫卿だけ締め出されかねんぞ」

「それは困りますね」


 私達が呑気に駄弁ってると、黒猫卿がもう動いてる。……早いな、珍しい。


「おお、黒猫卿の早足……小走りって初めて見るな」

「黒猫のお姿ならよく爆走されてますけどね。屋根登るのお上手ですよ。チュイ卿もですが、屋根に人が現れるとビビるので止めて欲しいんですよね。特に夜」


 ……偶に塔の天辺に人がいて気持ち悪いって言う投書が有ったが、アイツ等のせいか。

 と言うかチュイ卿は鳥目関係ねーのかな。蝙蝠じゃなくてアホウドリだよな?何で夜に飛べんの?どうでもいいが気になるな。


「だから待ちなさいルーニア」

「嫌よ!!エンリを見たり話したりすると苛々するのよ!!私は不実な人間も猫も嫌いなのよ!!犬派なの!!」


 ルーニアの返答もちょっとズレてるよな。黒猫卿相手だと。


「犬は飼えばいいと思いますし、私が猫姿の時は可愛がってくれますでしょう。私の行いが苛々するんなら改めますし、存分に叱って下さい。私は姫様の飼い猫ですが、巣は貴女としか作らない」

「エンリのいい所なんて……姫様への忠誠心と仕事っぷりだけでしょうが!!この女ったらし猫!!フラフラしまくって!!嫌いよ!!ひとりで営巣してろ!!」

「そんなにですか?……散々ですね」


 アレだけ罵られてメゲない黒猫卿って精神強いなあ……。

 あ、跪いてる。まさかスカートの中に入ろうってんじゃないだろうな。コイツ、前科が有るからな。

 ……取り敢えず入ろうとしたら、蹴ろう。横に飛ぶように。

 と思っていたら後ろから後ろからお腹を抱きしめられた。

 ……ジル?意外と力強いな。いや、元に戻ったのか。そう思うと解きづらいな。

 いやまあ、積極的なのもちょっと嬉しいでもないけど。


「ユディト、取り敢えず真剣な愛の告白に蹴りを入れようとしない方がいいですよ。幾ら二角獣が馬っぽいと言えど」

「上手く言ったみたいなドヤ顔してんだろうが止めろ」


 後ろのコイツに構ってる暇無いんだが!!

 いや、黒猫卿とルーニアとの喧々囂々はよく見るんだけど、今回はちょっと違う気がするのに!!


「ルーニア、好きです」

「……」


 ルーニアのドレスの裾を持って、キスしてる黒猫卿は……未だ嘗てなく、遜ってるな。

 うん、遜って告白してる。マトモな告白を。

 ……筈なのに、何でか偉そうなんだよな。

 ルーニアは……緋色の目を見開いてるな。よっぽど吃驚したんだろうな。


「……ルーニアが好きなんです。10歳に貴女と初めて逢ってから、ずっと貴女だけを想い想い想い続け……少々曲解して歪んでしまったかもしれませんが、貴女への愛はずっと育ち続けているんです」


 ……しつこいな。

 そして少々じゃねえよな。


「嘘よ。だって、好きだって言ったその1週間後に他の女に手を出したでしょう」


 マジかよ。屑だな。そりゃルーニアが怒ってもしょうがない。


「森でお断りされたので、慣れてる方がいいのかと曲解しました」

「本当に曲解ね!!森も他の女も嫌に決まってるでしょ!!」


 ……全くだよな。ルーニアの言う通り過ぎる。

 後ろのジルがえー森の中良いじゃないですかとか言ってるが、普通の感性持った女は森で了承はしないだろ。

 まさか変な事考えてるんじゃないだろうな。


「戯れを了解した他の雌が目障りなら、腕っぷしに自信が無いので社会的に消しましょう。貴女が心を痛めるのなら」

「……」


 遊びでって了承した相手を社会的に消すって酷い話だが、中には遊びを装った本気も居そうだしなあ。

 何にせよ黒猫卿が悪いな。

 まあ、ルーニアに実害が出たら私やマデルにミーリヤとレトナが黙っちゃいないが。


「……本気なんですよ。ルーニアに信じて貰える行動を取れなかった私を許さずとも構いません。常に憎しみをぶつけて罵って下さって結構です。愛が産まれるかもしれない、心の隙間にねじ込ませてください」


 ……中々重い告白だなあ。

 そして、結構狡い。流石黒猫卿。

 ひとの頭の上で重いなあって言うの止めろ、ジル。お前も結構重い。


「……私に信じろって言うの?」

「貴女が信じたいという時期で結構です。ただ、貴女の不満はお聞きしましたし、繰り返しません」

「……私が言った位で女遊びをやめるの?」

「遊んでません単なるしょ……いえ、まあ、貴女には同じようですね。ええ、致しません」

「……取り敢えず、立ち上がりなさい。次期宰相が私に縋ってるのはみっともないわ」

「縋っていいんです?許されても居ないのに?」


 ……上を向いた黒猫卿の顔に手を伸ばしたルーニアは……ちょっと困った顔をしていた。


「……正直、前よりはずっと……マシで、ちゃんとした告白だと認めてあげるわ」

「ルーニア!!」

「だけど……私の信頼を得られるよう足掻くつもりなら、まあ……少しだけ観察してやらなくもない」

「ええ、媚びろと言うなら媚びますし甘えます」

「言わないわよ!!精々………精々私の信頼回復に励むのね!私は何もしないし今まで通りだから!!」


 ふんって、顔を背けたルーニアの顔が赤いな。


「姫様お見苦しい振る舞い、失礼致しました。直ぐに治療とお話し合いの仕度を致しますわね」


 あ、ルーニアがちょっとニマッとしながら謁見室に入ってった。ちょっと足元が浮かれてるように見えるが。


「………フランジール卿、助言感謝します」

「あぁん?」


 助言?


「あのままでは平行線だったようで、黒猫卿へ賄賂を贈りました」

「ええ、大変目から鱗でした。もっと早く頂きたかったですが、ご自身の幸せのお裾分けですよね。有り難う御座います。もっと早く頂きたかったですが」


 ………賄賂ってなあ。

 つか、黒猫卿が若干恨みがましいのは無視か。いい性格だよ。


「それで、お気に召したなら諮問議会入りはご遠慮させて頂けますか?」

「私の一存では無理なので、昨日全員一致で貴方の参加を歓迎致します」

「……………面倒臭い………んですがねえ」


 ………断れなさそうだな。

 でもまあ、ルーニアの機嫌が良くなったからまあいいか。


「それにしても、愛する男からの愛の告白には皆さんチョロいことで。男も同じなんで、俺も愛するユディトからの愛の告白欲しいですねえ。ド派手でお願いします」

「体重を掛けてくるな!!廊下だろうが!!」


 ど、ド派手な告白!?

 ………こ、告白………。くそ、顔が熱くなってきた!!


「姫様は御幸せそうで何よりです。飼い猫としてお祝い申し上げます」

「………まあ、ルーニアに怒られないよう、要らんこと言わんよう頑張れよ」

「御意に。御心に添いますよう全力を尽くします」


 ………こう、シャキッとしてると真面目そうなんだけどなあ。

 ルーニアが………うん、苦労するよなあ。応援止めといた方が良かったのか。


「ユディト、ド派手な告白待ってますからね」

「お前も大概しつこいな、ジル!!」

はっちゃけたジルが裏から手を回したようですね。

ユディトと可愛い幼馴染み達は愛する殿方にはチョロい仕様ですが、ルーニアは若干黒猫卿オンリーにツンデレです。

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登場人物紹介
多くなって来たので、キャラの確認にどうぞ。
― 新着の感想 ―
[一言] 誹謗中傷な話題でウサちゃん登場。 やはり怖い、恋に一途な獣たちと言った所でしょうか。 ところで獣人同士が恋人ってありましたっけ? 熱愛か事故物件か、とにかく近寄りたくないですが。
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