思った以上にやりづらい
お読み頂き有難う御座います。
地味に拙作『サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない』の『過去に住まうのは死者成りて』の後の話です。
「これで聞きたいことは終りだな?ではな、ユディトにミニア」
目の前のキラキラ王子様が微笑んでやがる。
……目には優しいがな、心労が半端ない光景だ、ホント。
疲れた。
疲れた!!
いやいやフツーに未だあるっつーの!!、……と言う言葉も出てこないほど疲れきった。
この、私が!!国内では結構畏れられてるし国外でも畏れられてる私が!!ゲンナリ疲れる程あの王子!!
アイツ、マジでやりにくい!!
そりゃさ、世界には色んな国が有って、色んな王子居やがるけど……ホントやりにくい!!
顔はなあ、ホントミーリヤがデレデレするの分かる位、滅茶苦茶可愛いのにな………。見知った国の王子の中でも群を抜いて可愛いのにな………。絵に書いたような王子だわ本当!
あんのっ!!性格さえっ!!なきゃな……。
まー、レルミッドも大人しそうな顔の割にフツーの男子なのが可愛いけど、アイツ正式な王子じゃないし。……喋ってると可愛いし、癒えるよなあ。
いや寧ろ……王族とかどうでもいい。ニックでも良かったわ。ビビらねえ割に普通に喋れるし、偶に挙動不審だけど全然いい。さっきのやり辛過ぎる王子様よか全然いい!!あの王子様も喋らないで黙ってりゃ癒えるんだけどな!!
「姫様ぁ?」
「ショーン王子、思った以上にやり辛過ぎだろ」
「……癖がぁ有り過ぎでございましょぉ?」
ミーリヤに同意しようとすると、かたんと玉座の後ろの隠し扉が開いて、レトナが入ってきた。
あれ、ひとりだな。珍しい。いっつも黒髪に黒い耳の少年がべったべたくっ付いてるのに。
「レトナ、噛み犬………カータは?」
「うふふ、コティちゃんに預けて来ましたの。ミーリヤ……本っ当にあの方で良いの?」
ミーリヤに控えめながらも疑問をぶつける目がマジだなレトナ。マジで趣味が悪いと思うわ、私も。
だけど答えるミーリヤの目も真剣だしよ……。いや、おかしくね?そんなに今のやり取り、ウットリする要素有った?
寧ろげんなりする要素しか無かっただろ。
「えぇ、そおぉ。とってもぉ知れば知る程とおってもぉ好みだわぁ」
「……悪趣味だわ、ミーリヤ」
「ガチでレトナに同意する」
「酷ぉい姫様にレトナちゃぁん」
酷かねえよ。アイツ、自国民なら城から出せない位に悪趣味な能力持ってやがる。
例えば、カータの話。
国内では公然の秘密だったが、厳重に国外へ出させない情報のひとつだったのに。
あの王子……ルディはあっさりと暴露しやがった。
そもそも……死骸動かし、に関する情報が少なすぎた。
名前通り死骸を動かして、意のままに操る……そんな能力だけかと思っていたのに。
まさかのまさか、死んだ人間と話が出来る、とはな。誰が付けたんだか渾名がややこしいし、いけないな。
しかも死んだ人間がその気なら、話は聞き放題。死んだ人間に口封じは通じない。
だって死んでるからな。封じようがないし、何も怖くねえだろうし。どうやって喋ってんのかも分からねえのよね。脅そうにも賢く脅す手段が無い。
……あー、考えれば考える程マズイ。
アイツ、本当に野放しに出来ねえな。出来ればウチに組み込みたい……。
しっかし、アレ……王子だしなあ。しかも継承権第一位の、まあまあ強国の。立場的に私とおんなじ。いっそ武力で勝るから力業で攻め込んで奪うか?特に理由も無いのにか?それ自国民から大顰蹙かつ、滅茶苦茶周りの国からも顰蹙買う奴だしなあ……。
良くて内政で押さえられたとしても外交で突かれ、下手すりゃ……ドゥッカーノの友好国から攻め入られるのがオチ。其処迄して奪う価値の有るものか、どうか。
やっぱり、王位継承権持ったままミーリヤの婿に自主的に入って貰うのが一番有難いんだが、流石にそれを許すドゥッカーノじゃあ無いよな……。ダレた王も退位したことだし、ウォレム・ディマ様が其処迄無能じゃないんだよなあ……。親戚には頭を痛めてるみたいだけど、何処も変わらねえしな。
まあ、あの親戚共は結構濃いよな。私の近くに居ても嫌だ。
「姫様」
「あん?」
「うふふ、もう夜も遅いですわ。今日はおやすみになられては?」
……そういやそうか。結構時間経ったんだな。
夜更かしは美容と健康に悪い。まあ、私は寝たら全く起きないけど。
「……そー言えば、ジルは?」
「戻られてぇませんわねぇ」
アイツ何やってんだ。ああ、レルミッドとニックとキャッキャウフフとご飯会か。多分ルディも向かいやがったな、絶対そうだ。
しかし……楽でいい役ばっかしやがってマジ許せんなジル。私も気楽に混じりたい。
「アイツさあ、何をルディに求めてんだ?」
「はぐらかされてお出でですの?」
「……困ったちゃぁんですわねぇ、秘密の多いぃ殿方はぁ」
……今聞いただけでも、秘密が多い所の騒ぎじゃねーんだけどな。
一見荒唐無稽、だが信じなければ辻褄が合わない。
……他の真実を隠す為に振り回しただけで、出鱈目を言った。そんで、信じないっつー選択肢も、無きにしも非ずなんだろーが……。
……実際、死骸を操れるからな。いや、操ってるかどうかも……まだ不明。
迂闊に暴けば、フツーに敵に回る可能性も有り。それが一番困る。
ジルは……何をルディにさせる気だ?機嫌を損ねる真似、しねえだろうな。
……大人しい顔はしてるがアイツ、結構……いや、殆どの行動が訳分からない。
ジルの行動が事前に分かった覚えが無いな……。
私って、何なんだろ。
ジルに関しては、無力かもしれない。
「うふふ、姫様、大丈夫ですわよ。フランジール卿は姫様が好きですもの」
「そぉですわよぉ」
「……そうかねえ……」
目の前には私を見つめる、私の可愛い親友のミーリヤとレトナ。
今は此処には居ないけど、もうふたりの可愛い幼馴染。
妹達、面倒くさい父上。
なんやかんやとボヤキながらも助けてくれる同世代。
国民達。
あと、ジル。
それが今の私の心の支え。
ミーリヤとレトナと別れ、私は自室のベッドに寝転がった。
因みに白く塗られた骨組みのベッドに、色は薄い青と薄い赤。シーツと毛布卵色。派手なケーキのような色合いでフリルも過多な可愛らしい物。手触りもいいし、お気に入り。
今晩は寒いから羊の毛皮を足してもいいかもしれない。余計にケーキらしくなる。
歳の割に似合わないかもしれない。が、別に誰を招く訳でもないし好きにしている。
地味に私ら幼馴染5人は怖いだの恐ろしいだの言われているが、結構少女趣味が高じている者が多い。
可愛いものは癒される。大好き。
……昔はどうだったのかは、覚えていないけど。
私の世界は11歳から始まっている。
それ以前の記憶は、母親が水の底に突き落として沈めてしまった。
だから、私の心は育ち切っていないのかも、なんて地味に思うんだよな。
口が悪いのは多分……前からだよな?
じゃあ今の性格は?
記憶を無くしてからの?
それすらも誰も教えようとしなかった。
いや、誰か教えようとしたけど、知らされなかっただけかも?
……時々、ジルが私を通して誰か……小さい頃の私を探している目をするのを、ずっと分かりながらも逸らし続けている。
もしかしてジルは、幼い頃の私が好きで今その面影を私に求めているだけかも、という可能性を。
……いや、地味にガラじゃないのは分かってるよ。
だから……いや、色々柵が有るのは分かってる。
私は王女で、王位第一継承者。あっちは子爵令息で跡継ぎ。
国策としても現実的な組み合わせじゃない。
子供の頃よりずっと……覚えていない時よりもずっと、がんじがらめなのは分かっている。
恐らくだけど、きっと子供の頃にはもっと、何か無邪気なものを築いていたんだろう。
だけど、多分だけど……私はジルが好きなんだと思う。
今の私が、今のジルを。
……穏やかそうに装いながら面白がった様子の、紅茶色の瞳が脳裏に浮かぶ。
あの目が、ずっと近くに……有るんだろうか。
私達には別れが用意されているんだろうか?
んー、何だか無性にジルに会いたい。
アイツ、何で帰って来ないの?
何をやってんの?
何処へ行ってしまったの、ジル。
荒武者姫、乙女思考です。