時効現象について
時効現象について。
単相領域にある組成・温度で保った合金を、水や油で急冷すると、原子が拡散する暇がなく、高温での単相状態がそのまま持続して過飽和固溶体となる。このように、急冷することで相変化を阻止する操作を焼き入れという。焼き入れ前に高温に保って一様な固溶体にしておく操作を溶体化処理という。
過飽和状態のB原子は析出しようとする傾向を持っているので、過熱して少し温度を上げるとB原子が拡散して析出してくる。析出の進行に伴って合金の各種性質が時間的に変化する。これを時効現象という。
A金属の融点が低い場合は、特に加熱しないでも室温に放置しておくうちに時効が起こる。これを常温時効または自然時効と呼ぶ。一方で人工的に加熱して時効を起こす場合、焼き戻し時効または単に時効と呼ぶときもある。
時効による性質の変化の中で、特に硬さの増加を時効硬化という。時効硬化の中でも特に析出による硬化をさす場合は析出硬化と呼ぶ。
時効現象が進みすぎると、多数の細かく分散した析出物が凝集して粗大化するが、析出相の数は減り合金全体賭しての硬さは最高値に達した後低下する。この状態を過時効という。
原子の拡散が遅い低温で時効すると、最高値に達するのに長い時間を要する。
析出は次の三つの段階を経て進行する。
(1)結晶内で溶質原子が局所的に集合してくる。
(2)特有の結晶構造を持つ中間相に変化する。。
(3)安定析出相に変化する。
(1)の段階はGuinier-Preston集合体、またはGPゾーンと呼ばれる。
析出硬化は母相中にGPゾーンや析出物が転位の運動を妨げる障害物となって母相を強くする。
GPゾーンと中間相が共存する状態が強化に最も有効であると考えられている。
析出物と母相の関係は三通りに分類できる。
母相と析出物の結晶構造が同じで両方の結晶格子が連続している状態を整合状態といい、(1)のGPゾーンは母相と整合状態にある。
このとき原子半径が異なり格子間隔に若干の差があるため、析出物の周りにひずみが生まれる。これを整合ひずみと呼び、これによって生じた内部応力は運動転位に対する抵抗となり硬化する。
(2)の中間相では、ある部分は整合状態、他の部分は不整合状態となり、次第に不連続な部分が多くなる。
(3)では母相との境界が明瞭になり、析出物は独自の結晶構造を持つ。この段階が析出と呼ばれている段階で、このとき金属内部は結晶構造が異なる二種類の結晶が混在する状態になる。この段階から硬さは低下する。
析出相が金属間化合物であると、析出による合金の硬化や強さの増加は非常に効果的であるが、一般に硬い金属間化合物はもろい性質を持っているので、析出相が大きくなるともろい性質が強く出てきてしまう。
非整合や部分整合の析出物は非常に硬く、運動転位に対して強い障害物となり、転位はその中を通過することができない。このとき転位は析出物の間を半円形になるまで張り出し、その周りに転位ループを残して通り抜けることができる。この一連の過程をオロワン機構という。
オロワン機構が働く場合、変形が進むにつれて粒子の周りに多数の転位ループが残され、これによって生じる内部応力は後続する転位の運動に対して大きな抵抗となる。つまり、オロワン機構が働く合金では非常に強いひずみ効果が生じることになる。
析出強化は非常に大きな強度を得ることができるが、析出物は温度の上昇とともに母相中に溶け込んでいき、固溶限温度以上では完全になくなるため析出強化は消えてしまう。