スピノーダル分解
二原系置換型固溶体(α→α1+α2)の自由エネルギー・濃度曲線は左から下に凸、上に凸、下に凸、といった概形を持っている。
いま、高温で均一な固溶体を低温に急冷した場合を考える。
自由エネルギー曲線が上に凸の範囲にある組成で、2相に分離したとき(微小な濃度ゆらぎが起こったとき)、自由エネルギーは減少する。つまり、2相分離したほうが安定であるため、連続的に濃度変動が大きくなって最終的に自由エネルギー曲線の極小値の組成に達する。このような分離をスピノーダル分解という。
スピノーダル分解ではAおよびBはそれぞれの濃度勾配に逆らって拡散する。これは、拡散がモルギブスエネルギーの勾配により生じるためであり、このような拡散を負の拡散と呼ぶ。
自由エネルギー曲線が下に凸の範囲にある組成の場合、2相に分離したとき自由エネルギーは増大する。つまり2相分離は不安定で消え去ってしまう。この場合は、核生成-成長型で相分離が起こり、一方の極小値の組成の析出核がいきなり形成される。
スピノーダル分解では、溶質原子が低濃度側から高濃度側へと移動するのが特徴であり、スピノーダル分解を起こした組織は周期的に微細な濃度揺らぎを示す。この周期的な変動を変調構造という。
このように、スピノーダル分解は核生成を必要としないため、その反応は核生成,成長型に比べて非常に速やかに起こる。
スピノーダル分解が起こる組成範囲は変曲点から変曲点間の中央部である。
自由エネルギー曲線と状態図の関係について
正則溶体近似の仮定
①溶体の凝集エネルギーは再隣接原子間の結合エネルギーの総和で表される。
②再隣接原子間の結合エネルギーはその原子対の種類にのみ依存し、その周囲の原子には関与しない。
正則溶体近似のA-B二元系のギブスエネルギーの式は
Gm = xa,Ga + xb,Gb + RT(xa,ln(xa) + xb,ln(xb)) + xa,xb,Ωab
相互作用パラメータが正のとき、A,B原子は反発しあい、同種の原子同士が寄り集まるクラスタリングという現象が起こって、A,B両原子は分離するような挙動をとる。
相互作用パラメータの値が大きいとき、中央部の組成でA,B原子がランダムに混ざり合っているのはエネルギー的に高い状態になる。
相互作用パラメータの絶対値が小さく自由エネルギーに対して影響が小さいとき、溶体の自由エネルギー曲線は一般に下に凸型になった。
相互作用パラメータが正かつ自由エネルギーへの影響が大きいとき組成範囲の中央部で自由エネルギー曲線は上に凸型を示す。