金属組織 第二話
オーステナイト単相となった共析鋼を、平衡状態での共析温度以下のある温度へ急冷し、その温度に保って等温で共析変態させるプロセスを考えよう。
急冷直後にはオーステナイト相の状態を保っている、そしてその後ある潜伏期間を経てから変態が始まり、ある時間で終了する。このような等温変態プロセスを多くの温度で測定し、変態開始点と終了点を結ぶとCの形の曲線を得ることができるんだ。この曲線を、等温変態線図、またはTTT線図と呼ぶ。この曲線で最も早く変態が始まる点を鼻と呼ぶ。
鼻より高温で保持した場合パーライト組織ができる。鼻以下の温度では、完全な層状組織はできず、フェライト相と炭化物からなる二相組織をベイナイト組織と呼ぶ。
亜共析鋼の場合はC曲線の上に初析フェライト変態開始曲線が追加される。
またある温度MS以下より低い温度範囲では、冷却の途中で瞬間的に一部がマルテンサイトに変態し、MF以下の温度まで急冷すると完全にマルテンサイトに変わる。
MS温度のすぐ上のくぼんだ部分を湾と呼んでいる。
析出に対応する範囲であるC曲線と合わせるとSの形に似ている。
析出反応の範囲がCの形になるのは、727度(A1変態線)から温度が下がるにつれて過冷度が増大し、オーステナイトが不安定になり反応速度が速くなる(変態の駆動力が増加する)が、さらに温度が下がると、原子の拡散速度が低下して反応が遅くなるためである。
フェライトとセメンタイトの核生成・核成長はオーステナイトの結晶粒界で始まるので、オーステナイトの結晶粒度が大きいほど変態開始時間は遅くなり、かつ変態終了までの時間が長くなる。すなわち、オーステナイトの結晶粒度もC曲線の形に影響を与える。
Fe-0.4%C合金の、オーステナイト相からゆっくり冷却していく場合の温度変化を考えてみよう。
T1点まではオーステナイト相は単調に冷却されるが、フェライト変態は発熱を伴う変態なのでフェライト相が析出し始めると冷却が少し遅くなる。このとき自由度は1であるので、発熱は合っても温度は連続的に低下する。
727度に達して共析変態を始めると自由度は0となり、共析変態は727度一定の温度で進行する。
共析変態が終わると再び温度は低下し始める。
ゆっくり冷却していく場合を考えてきたが実際にはある程度短い時間で冷却することが多いので、高温から連続的に冷却していく場合を考える。
原子の固相中での拡散はある程度時間を要するうえに、新しい相の核生成にはいくらかの化学駆動力が必要なので、平衡変態温度からある程度過冷された温度から変態が始まる。
過冷変態では相律が成立しないので、平衡変態の場合ほどフェライト変態と共析変態の明確な区別が付かなくなる。
しかしこれらの変態が起こると発熱が生じて冷却曲線に不連続性が現れるので、過冷変態の開始点と終了点を見出すことは可能であり、種々の冷却速度で測定した開始点と終了点を結んだ曲線を連続冷却変態線図、またはCCT線図と呼ぶ。
CCT線図はTTT線図を温度の低い方向へ、また時間を遅い方向へずらした関係になる(右下に移動させる)
速く冷却しすぎると、相変態を起こすための原子の拡散が間に合わなくなり、冷却中にフェライト相やパーライトの生成が起きなくなる、そうなるともっと低い温度で拡散を必要としないマルテンサイト変態を起こすようになる。
全てのオーステナイト相がマルテンサイト変態する限界の冷却速度を臨界冷却速度と呼ぶ。重要なことは、パーライト変態開始曲線の鼻を通る冷却速度が臨界冷却速度になる。
もう一つ重要な冷却速度が、パーライト変態終了曲線を通る限界の冷却速度である。
終了曲線を通らない場合(この冷却速度より速い場合)、共析変態が終了せず、残ったオーステナイトがマルテンサイト変態することになる。
すなわち原理的にパーライト+マルテンサイト組織が得られる。
鋼が亜共析鋼であれば初析フェライト相もの析出もあり、合金鋼ではベイナイト組織も絡んでくる。




