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2017/09/02

作者:

 洗面台から換気扇へ吸い込まれる紫煙をぼんやり眺めていた。ユニットバスの湯槽に身を屈め手首を押しピンで引っ掻く女もついでに眺めたらなんだか満足してしまって煙草の火を消した。

それを見た押しピン女が「アークロイヤル吸ってるヤツはキモオタらしいよ。」と私に投げかけた。あんたみたいなドブスに言われても悲しくともなんともないね、なんて言えないから、そう、とだけ言ってからユニットバスから出た。カビと排水溝の腐った匂いが消えないワンルームには物があふれて鬱蒼としている。何か踏んづけたな、と足元を見るとブランドもののリップだった。よく見ると高価であろう化粧品がいくつも床に散らばって落ちている。可哀そうに。

 「それ、使わないからあげるよ。」と後ろから言葉が飛んできたので、ありがとうと礼を言ってからその私に足蹴にされたリップとその横に落ちてたアイシャドウをこっそり手に取った。

紙パックのコーヒーを飲もうと冷蔵庫を開けると、中は賞味期限が切れたものがほとんどのようで色が淀んだ食べ物で埋まっていた。私のコーヒーを救い出して飲んでいると、押しピン女が急にカバンを持って「しばらく出るから。」と家を出て行った。

 束の間の休息だ、とまた煙草に火を付けてぼんやり携帯を見ていると、女から「新宿駅にいる。夕飯は要らない。」と連絡が来た。分かった、と返信をして読みかけの単行本を開いた。今度は母親から「あんたどこに居るのよ。誰のお金で東京に行かせてあげたと思ってるの。」とメールが来た。はて、この間の新幹線は実費だった気がするなあ、しかしそんなことを言うと逆上されるしな、と思い、母からのメールは見なかったことにした。

 ため息をついてSNSを眺めていると、出て行った女がネットを駆使して自分を買ってくれる男を全世界へ発信して探していた。そういうのは出会い系アプリや掲示板ではないのだろうか、と疑問に思ったけれど。ああ、この女はきっと幾つになっても死なないな、と感じて愉快な気分でスマホをベットに放った。

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