リコピン
男の手には真っ赤に熟れたトマトがあった。
表面に水滴のついた水々しいトマトは、夏の日差しをテラテラと反射していた。
男はもう片方の手でズボンのポケットを弄り食塩の小瓶を取り出すと、ぱっぱとトマトに振りかけた。
一口も囓られていないまんまるなトマトは、降り注ぐ雪を容赦なく滑り落としていった。
すると男はその申し訳程度に結晶のついたトマトにムシャぶりついた。
口と手を汁でビショビショにしながらも、お構いなしに食らいついた。
男「はぐ!はぐはぐ!ごっくん・・・はぁ!おめぇのことが好きだ。付き合って」
男の目の前には突然の告白に困惑する女の姿があった。
女「そ、そんな・・・トマト食べながら告る人とは付き合えないよ!」
女は戸惑いながらも力強く言い放った。
男「え・・・」
男は暫く呆然と立ち尽くした。
そしてなにか言わなければいけないと口を開いた瞬間、激しい胸の痛みに襲われた。
男「う、うううううぅぅぅ・・・」
男は胸を抑えながら女の胸元に倒れこんだ。
女「え!?ちょ、ちょっと・・!!」
女はとっさに男を受け止めるが成人男性の全体重を受け止めきれるわけもなく、そのまま押し倒されてしまった。
何が起きているのか理解が追いつかなかったが、とにかくこの苦しんでいる男をどうにかしなければいけないということだけはわかった女は、男をゆっくりと横にさせ、しっかりと手で抱きかかえた。
心配そうに男を見つめていると、突然男は口から血を吹き出した。
男「ごぶふぅぅぅううう!!!!」
女「どうしたの!!??大丈夫!?!?」
女は叫ぶように言った。男の口から出た血が自分の手にかかっていることに気がつかないほど、女は動揺していた。
すると男は今にも消え入りそうな声で言った。
男「はぁ・・・はぁ・・・実は俺・・・トマトアレルギーなんだ・・・」
女「意味分かんない!!!!なんでそんなことっ・・・!!!!!」
女はもう叫んでいた。
男は泣き出しそうな女の顔を見ると、ゆっくりと右手を伸ばし、女の頬に添えた。
そして優しく微笑んだ。
女は自分の頬に添えられた手を一瞥し、次に男の顔をじっと見つめ、静かに語りかけた。
女「でも・・」
女「闘う君は、美しい」
fin