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 ――彼女の話の内容は、俺イコール地球破壊爆弾であるというもので。

 つまりはこの世の終わりの原因になりうるのは俺のイデオロギーによるものなんぞではなく、物理的に爆発する故だったみたい、と。

 どっちかといえば、余計に望ましくない方の解答だった。


 いまだに四つん這いで痙攣しているこの女、さて、こちとらこの不思議ストーリーを信じこそしたが、流石にコイツもこんな嫌な話を伝えるだけで終わるでもないだろう。

 できれば穏当な内容であって欲しい。

 ……ていうか。


「……魔法だなんだ、そんな愉快なことを言い出したのは、俺の人生ではお前が初めてだ。この世界に魔力とやらがもともと少ないんなら、俺なんか放っておいても問題なかったんじゃないか。俺が万が一にも爆発するってなるんなら、むしろお前らがその原因になりそうだが」


「……そうね。状況が今までのままだったら放置していたかもしれない。だけどアナタは、これから嫌でも魔法に関わることになる」


「何故」


「ゲートが開いたから」


「何の」


「隣接次元……別世界との出入り口が、よ」


 ……よく分からん。分からんが、この言いぶりだと、敢えて俺に接触する必要があったらしい。

 つまりは、それが……この女が性急に俺を殺そうとした理由の一つでもあるのだろう。


「詳しく話せ。なんか、今まで以上に嫌な話になりそうだけど」


「勿論よ。貴方は知る権利がある。こうなった以上、きっと義務も。だけど、その前に……」


 M子ちゃんは、勝手知ったる我が家とでも言わんばかりにテレビのリモコンをポチっと。


 するとテレビの画面では、よく見かけるキャスターが真面目腐った顔で今日のニュースを伝えてくる。


 ――どこぞの動物園で可愛いパンダが生まれました。

 ――未だに続く円高傾向により、輸出産業低迷。頭を抱える経営陣。

 ――都心部の電車内で暴力行為。覚醒剤所持、余罪があるとみて追及。

 ――またも出た行方不明者。今年に入ってから、過去に例をみないほどの件数。


 テレビの方を向いていたM子ちゃんは、最後まで見届けた後にこちらに顔を戻した。


「これ、最後のニュース。知っているとは思うけど、最近この国では行方不明者が多いでしょう」

「そりゃ知ってるさ。近所でも最近一人、中学生がいなくなったって」


 M子ちゃんは、改めて息を一つ。まるで、これから話すことが一番重要だとでも言うように。


 果たして、彼女は口を開いた。


「今起きている行方不明事件の殆どは、人間の仕業じゃないの。アルコン……分かりやすく言えば、いわゆる魔法生物によるものよ」


「……は、あ?」


「つまりね。現在地球は、さっき言ったゲートからの侵入者によって、侵略を受けているのよ。行動自体は小規模だけどね」



 ――魔法生物が地球に攻めて来ている。



「なんだい、そりゃあ……」


 順を追って話すわ、と。M子ちゃんは言葉を続けた。


「この世界の人間たちだって、今まで全く魔法と無関係だったわけじゃない。神隠しとか、怪談とか、聞いたことあるでしょう? それらの殆どは作り話だったり、勘違いだったりするけど……稀に、高い魔力を持った人間や動物、あるいは魔力が滞った場が発生したりするのね。こういった伝承とかには、それらを原因としたものがあるの」


「うん、確かに……科学で証明できない事件とかは聞いたことがある」


「つまり、アナタたちの世界にとっても魔法的な影響が皆無ってわけじゃない。少ないとはいえ、この世界にも魔力があることだし」


 はあ。なんだかいきなり世界の裏側を覗き見たようで、なんというのか、いたたまれないというか。

 阿呆のように頷くことしか出来ない俺に向かって、更に彼女は話し続ける。


「……原因不明だけれど、アナタという危険な存在の発生。そして、見計らったように現れ始めたアルコン達。因果関係は不明だけれど、危険な状況であることに変わりはない。アナタとアルコンの接触による私たちの世界へのリスクを排除するのが、私がここに来た目的よ」


「……言葉もねえよ」


 あんまりにも突飛な話だと、思考ってのは停止する。そんな事を生まれてはじめて知ったわけだが、そんな経験したくはなかった。


「とはいえ、アルコン自体は今の地球の技術でも撃退可能なんだけど。奴らも魔力を扱うけれど、この世界にとってはそこまで致命的な事にならないでしょうね」


「そうなのか?」


「それでもほら、この世界は科学信仰が強いから。余計な情報を流した所為で民衆の混乱が起きるのは望ましくないでしょう? 多分この国の政府も、奴らの情報を規制しているんでしょうね。上の人間は把握しているんじゃない?」


 ……こんな戯けた陰謀論が、実際に存在するなどと。

 全然実感がわかないが、まあ、ある程度理解はできる。


「けど、アナタの存在までは知らないでしょうね。魔力を測定する技術もないだろうし」


「まあ……そういう事なら……分からないでもない、けど」



 ……とりあえず、これまでの彼女の言葉をまとめてみよう。


 ――俺は危険な……とても危険な爆弾である。彼女としては、爆発させたくはない。

 ――俺は、魔力の加護とやらでなんか死に辛くなっている。

 ――なんかよく分からない魔法生物が迫ってきている。

 ――アルコンとかいう不思議生物たちは、地球で神隠しじみた事を起こしている。迷惑極まる。


 ……きっと、単純にアルコンが攻めてきただけという話なら、彼女らの世界は俺たちの世界を放置していたことだろう。

 しかし、俺という危険因子が存在しているからこそ、俺自身を排除対象とすることで彼女らは自らの世界を守ろうとした。



 ――しかし、それは失敗した。


 不思議な世界からの鉄砲玉のM子ちゃん。当然、俺を殺すのに失敗したときの算段ぐらいはあるんだろう?


 であるならば。



「成程、つまり正義の魔法戦士になれと。アルコンとやらをばったばったなぎ倒してほしいと。いや参ったな。しかしまあいいだろう、M子ちゃんに殴られようが殺されかけようが、手伝ってやらんでもない。心が広いなー俺って奴は。報酬は弾んでくれよ?」


「逆よ逆。奴らに一切近寄らないでほしいの」



 ……成程、納得できる。そもそも魔力的な何がしかの攻撃を受けなければ、それで済む話だったわけだし。

 我らが母なる宇宙船、地球号に上等かましてきたアルコンとやらも、いざとなれば軍隊だの現代兵器でどうにかできるような輩らしいし。

 俺の非日常はここまでという訳だ。できればこれまでどおりの平和的な日常が永遠に続きますように。

 ……ちょっとしたヒーロー願望なんざ、ああそうさ、どっかいっちまったね。クソめ。あーよかったよかった。さっきは嫌でも魔法にかかわることになる、なんて言ってたくせに。ヘン、だ。畜生め。

 どっとはらい。とっぴんぱらりのぷう!



「……で、話が済めばよかったんだけど。そうは行かないのよね」


 そう言って、彼女は心底迷惑そうな顔をこちらに向けてくる。


 そして、少なくとも俺にとっては全くありがたくない情報であり、これまでで最も喜ばしくない新知識を与えてくれた。


支配者アルコン。そう呼ばれている怪物達は、向こうからアンタを食らいにやってくるわ。アンタの魔力を求めてね。奴らは、高純度の魔力を好むから」

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